ボクにうつして


ー、外に罠作ろうぜ、罠!」
「わー面白そう! 落とし穴?」
「それもいいけど、飛杖を仕掛けるとかさー」
「行く行く!」
 バタバタと出掛けてゆくと項羽を、小龍はじっとにらんでいる。
「・・・まったく、いつまでもガキだな」
「とか言って、嫉妬してんだろ、兄貴に」
 目の前にぬっと顔を出してニヤニヤしている小次郎の頭を、思い切りはたく。
「いってー。本当のこと言っただけなのに」
「小龍さんの気持ちは、バレバレですよね」
 麗羅にまで言われ、面白くない気持ちでそっぽを向いた。
 おマセな弟分たちには、その反応すらも格好のからかいのタネになるのだが。

 ・・・いつもだ。
 いつもいつも、は項羽の方に行ってしまう。
 俺の方が、才能あるのに。
 俺の方が、ちゃんとしているのに。
 俺の方が・・・、のことを、よく見ている。
 いつだって、見ているのに・・・。

「項羽?」
 パッと見で見間違えたことに即気付き、は悪びれず訂正した。
「小龍。・・・台所に来るのはいつも項羽だから、つい間違えちゃったわ」
 夕げの仕度中で、台所にはいい匂いが充満している。
 フラフラ誘われてやってくるのは、項羽か小次郎で、つまみ食いを阻止すべく立ちはだかるとの攻防戦になるのがいつものパターンだった。
 だが、一人でやってきた小龍は、ムッとした顔をして立ち尽くしている。
「・・・どうして・・・、項羽の方ばっかり・・・。まで・・・」
 怒りの中に哀しみの色が滲み、徐々に濃くなってゆく。
 ついに本当に寂しそうな顔になって見つめてくるから、は戸惑った。
 分かっている。小龍は、項羽に強い嫉妬心を抱いていること。
 そっくりの双子でありながら、間違われることを極端に嫌っていること−。
「・・・ゴメンね。いつもは絶対間違えたりしないんだけど、場所が場所だからっていうか、時間が時間だからっていうか・・・」
 要領を得ない言い訳には最後まで耳を貸さず、小龍はに詰め寄った。
 勢いに驚いたがおたまを取り落とす。
 ガシャン、という音が響くのも、小龍は意に介さない。

 右手首を掴み上げ、目を覗き込む。
「俺を見てくれよ。・・・項羽じゃなくて、俺の方を・・・」
 のこげ茶色の瞳に、自分の顔が映っている。それでも、小龍の焦りが消されることはない。
 なぜならそれは、兄とそっくりの顔だから。
「小龍・・・」
 呼ばれてハッとする。
 は、微笑んでいた。
 小龍は思わず、力を緩めた。腕を下ろし、それでも手首は離さない。
「どうして、分からないの・・・?」
 優しい声。はいちずに、見上げている。
「私はずっと、小龍のことばっかり、見ていたよ」
 いつのころからだったか。
 小龍が、特別になった。
 他の兄弟とはこだわらず話をしたり一緒に行動したり出来たのに、小龍を前にすると意識してしまって、自然にふるまえない気がして。
 ただ、目で追いかけることしか、出来なくなっていた。
「だっては、いつも項羽と・・・」
「それは、項羽がよく話し掛けてくれるから」
 は左手で、小龍の手の甲を包み込むようにした。
 お互いの体温と台所の熱気で、ますます熱くなってくる。
 ぽうっと上気した顔で、は柔らかに笑った。
「私は、項羽と小龍を同じようには見てないわ」
 こだわっているのは、小龍自身。それはどうやっても無視出来やしない存在だからこそだろう。
 生まれる前から一緒にいた、双子の兄弟なのだから。
「小龍にしかない、いいところを、私いっぱい知ってるよ」
「本当か?」
「うん。・・・例えば、一度決めたらテコでも動かない頑固なとことか」
「・・・ほめられてる気がしないな」
 口を尖らせる小龍が何だか可愛くて、また笑ってしまう。
「私は、そういう小龍が好きなの」
 技のセンスはきっと風魔随一。器用で、でも仲間たちに対してはちょっとぶっきらぼうで。
 何より真面目でしっかり者の小龍を−。
「ずっと・・・、想ってたの」
・・・。俺てっきりまた項羽が選ばれるのかと思ってたから・・・」
 小龍は、呟くように言った。
「・・・嬉しいよ・・・。俺も前から好きだった」
 目を上げて、ぎこちなく、微笑み返す。
 手を握ったままで、どちらからともなく顔を近付け、ほんの軽く触れる、口づけをした。
 やっぱり、熱い−。
 熱を、うつし合って。
 ようやく通じた二人の、大切な想いを、胸に留める。
 それはゆるやかにだけど、一生続く、愛情となる。

「なんで煮物が焦げてんの?」
 真っ黒い、芋らしき物体を前に、腹ペコの兄弟たちは呆然としている。
「ちょっと失敗しちゃってー。黒いとこ取れば、中は食べられるよ。捨てるのもったいないもんね」
「ま、そりゃいいけど・・・それにしても、らしくないな」
 早速、黒コゲの部分をこそげ落としながら、劉鵬はちらっとを見る。
「考え事でもしてたな?」
「え・・・」
 僅かな動揺を見て取ったのか、霧風は軽くため息をついた。
もお年頃か・・・」
「何よそれー」
「ムリムリ。木刀振り回してる女が、いくらお年頃だってモテるわきゃないって」
 琳彪のからかいを、すぐに小次郎が否定した。
「ところが、そーでもないんだよなー」
「ですよねっ」
 弟二人の意味ありげな視線の先で、小龍は黙々とご飯を食べている。
「そーそー。今日も俺たち二人っきりだったしなー」
 項羽が言い出してくれたので、内心ホッとしていた。このときばかりは、兄に感謝だ。
「イタズラしてただけだろ」
「あんな仕掛けに引っかかるのは、小次郎くらいだよな」
 兜丸が笑う。小次郎は額のバンソーコーを押さえてムッとしてみせた。
 項羽があれほど大声で罠を作るって言っていたのにもかかわらず、しっかり引っかかってしまったのだ。
「さすが小次郎、作った甲斐があったってもんだ」
「ハハハハ・・・」
 食卓が、笑い声に包まれる。
 賑やかな中で、こっそりと、と小龍は目と目を合わせた。
 二人にだけ分かるサインで、ときめきを共有する。
 うつし合って。





                                                           END




 ・あとがき・

本編ではあまり小龍を書いていないな、ということで、考えてみました。
昔はよく羽兄弟の小説を書いていたけど、二人とっても仲良しだったんだよね。
ドラマ設定は少しビックリしたけど、でもそれもアリかなと。嫉妬したり、色々複雑な気持ちを抱えていたのでしょう。
ドラマの二人は、そっくり同じ顔でもないのが不思議。一卵性のハズなのに・・・。
小龍の方が、幼い感じの顔立ちかな。
そういえば、せっかくの小道具なのに、羽を活かすことが出来なかった。次回は使いたいですね。

タイトルはCHARAの歌から。あまり合ってないかな(笑)。





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