さんさんと降り注ぐ太陽と、真っ青な空、入道雲のコントラスト。
絵に描いたような夏の海に、たちはやってきていた。
「わあ、砂が熱い!」
北欧生まれの北欧育ち、生粋のアスガルドっ子のには、もちろん海水浴なんて生まれて初めての経験だ。同じ海でも、アスガルドの荒々しく冷たい凍海とは全く違う光景に、はしゃいで駆けた。
ヒルダ様やフレア様と買い物に行き、あれこれ楽しく悩みながら選んだ水着はしかし、大きめサイズのTシャツにより隠されている。
「そんな格好で男たちの前を歩くなんて、言語道断!」
と兄が自分のTシャツを頭からかぶせてくれたのだが、確かに水着のままでは恥ずかしいと思っていたので、素直に袖を通したのだった。
「、ボートに乗らないか?」
そっくりの顔をした二人が、海に大きなゴムボートを浮かべて手を振っている。シドとバドの双子だった。
「すごい、面白そう!」
一応気にして振り返ってみると、はヒルダ様の方ばかりかまけて、こちらのことに全く気付いていないようだった。
は安心して、水をばしゃばしゃやりながらボートに近付く。
二人の笑顔に迎えられ、も顔いっぱいで笑う。手を借りて乗り込むと、三人だけのボートは沖のほうへと漕ぎ出した。
浜辺の皆が、点のように見える。もう、こんなに遠くまで来てしまった。
「ここまで来れば、ジークフリートの目も届かないだろ」
バドはいたずらっ子のように笑っている。
ジークフリートとは親友同士のシドは、賛同し切っていいものか迷い、苦笑を浮かべていたけれど。
でもは、心から楽しんでいた。見渡す限りの大海原に、ぽっかり浮かんでいる・・・なんて非日常的な冒険、わくわくを止められない。
きらきら輝くしぶきも、照りつける太陽も。何もかもが強烈なほど鮮やかで美しい。
そんな原色の中に、三人きりでいる、ということが、何よりもの気持ちを高めてくれるのだった。
「もっと遠くまで行こう」
行動的で闊達な兄、バド。
「は怖くないか?」
いつも気遣ってくれる弟、シド。
外見は同じだけれど、タイプが正反対の二人のことを、は同じくらいの強さで慕っていた。それは、他の神闘士や、兄に対するものとも違う、特別な想いだった。
「・・・いいよ。ずーっと遠くに行っても」
海の雫が、頬を明るく彩っている。
「バドとシドと一緒だったら、無人島に流れ着いたって平気だもの」
普段からは信じられないほど大胆になれるのも、夏海ならではの魔法だと、三人ともがもうとっくに気付いている。
解放しようなんて思う前に、その想いは溢れて流れる。太陽の熱に溶かされて。
とろり甘く、蠱惑的に。
「」
ふざけ半分、手を出して、バドはのTシャツの裾を引いた。
「これ、脱いじゃえよ」
「兄さん」
流され切れないあと一歩は、やはり育ちのせいなのか、戸惑うシドをバドは制した。
「せっかくの新しい水着だろ。シドだって見たいクセに」
引き上げると、が素直にバンザイをしてくれたので、白いシャツはあっけなく脱げてしまい、の水着姿があらわになる。
スカートもセットになったタンキニで、露出度はそれほど高くないものの、北国で寒さをしのぐための服装しか見たことのなかった男たちにとっては、十分に眩しい姿だった。
「そんなに見ないで、恥ずかしい」
体をかばおうとするの細い手首が、シドにやんわり掴まれた。
「可愛いよ、とっても」
「うん。かわいい」
弟に先を越されたことが悔しいバドも、賛辞を重ねる。
「ありがとう」
は顔を上げて笑った。
いつもの、はにかむような笑い方とは違う。太陽のようにきらきらしい笑顔に射抜かれて、二人が二人とも胸を高鳴らせた。
「」
バドが背後から手を伸ばし、を閉じ込める。
びっくりしたのは一瞬だけで、はおとなしく身を委ねた。
触れる素肌が熱い。
「ずるいな、兄さん」
言葉の割には余裕の表情で、シドも正面から手を伸ばし、の頬を包み込んだ。
「・・・好きだよ」
「お前こそずるいぞ、俺が先に言おうと思っていたのに。、俺も好きだ!」
双子からの告白も、海の音と二人分の体温に包まれればどこか遠いようで、は穏やかに頷くのだった。
「私も、好きよ・・・」
「「どっちを!?」」
ぴったり重なった声に、くすり、笑みをこぼす。
「もちろん、どっちも」
目の前のシドの表情を見れば、その答えでは不十分なのだと分かる。多分、背中で、バドも同じ顔をしている。
「・・・ダメ?」
「・・・いいよ」
「まあ、いいか」
ぎゅっと抱きしめられる。前からも、後ろからも。
はさまれてその匂いや体温を感じ、けだるいけれど幸福だった。
何もかもが白くぬりこめられそうな、広い世界の真ん中で、ただ揺られている。
熱を持った唇を触れ合い、痺れる甘さの中、大好きな人たちを感じた。
無人島に私をもっていって・・・。
・あとがき・
本編をしばらく書いていなくて申し訳ないんですが、今回は番外編です。
サイドストーリィも一本ありますけれど、番外編はまったく別もので、今回シド&バドと仲良しだったように、その時々で相手が変わります。
長編と短編のあいのこだと思っていただければ。夏が終ろうとしているのが名残惜しく、もう一本夏の話を書きたいと思ってこんな短編を考えました。
夏の真っ白でけだるい感じが好きなんです。
久しぶりにダブルキャラも書きたかった。二人にはさまれてぎゅっと抱きしめられたかったのです(笑)。サンドイッチ状態。「バドとシド」というよりは「シドとバド」というほうが言いなれていますので、そのように表記しています。バドの方が兄なのに。
タイトルはCHARAです。
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