「今日はマフィンを焼いてみたの。もいかが?」
「いや、私はいい」
こう言われることは予想済みだったのだろう、は落胆するでもなく、手製の焼き菓子を一人分だけテーブルに置いた。
小さな型で焼かれたケーキは、それだけで十分甘そうなのに、さらに生クリームと削ったチョコレートがこれでもかというほど乗っかっている。見るだけで胸焼けを起こしそうなジークフリートだったが、妹は鼻歌混じりで席についた。
「太るぞ・・・」
ぼそっと呟きながら、甘ったるい匂いをかき消すようにコーヒーのカップを口もとに近づける。菓子類は苦手だけれど、の入れてくれるコーヒーは絶品だ。
「いただきま〜す」
はほくほく顔で、生クリームたっぷりのマフィンにナイフを入れる。口に運んだとたん、笑顔は更に深くなり、今にもとろけてしまいそうだ。
「・・・うまいか?」
何だか自分もとろけてしまいそうな自覚、妹のこんな顔を見ていると。
「うん。おいしい」
は少し顔を上げて、兄の優しいまなざしを受けまた改めて笑う。
「おいしくて、幸せ」
「・・・私も、幸せだ」
心からそう言うと、は不思議そうに首をかしげた。
ジークフリートは笑みを残したまま、ほろ苦い飲み物を含む。
楽しそうな顔、おいしそうな顔、笑った顔、「幸せ」と言う顔・・・。
そんなの顔を見るのが、幸せだ。
ゆったり時間が流れる。
互いにとって、幸せな時間。
・あとがき・
二歳の娘がお菓子を食べているとき、あまりに嬉しそうな顔をするので、「幸せ?」と聞いてみたら、「しあわせ」と更にニッコリ。
「幸せ」の意味が分かって言っているのかなあ? と思いつつも、私もすごく幸せな気分になりました。
それで思いついた短編です。
ちゃんがお菓子作り趣味と設定したので、結びつきました。
「長編のヒロインで短編を書く」作家さんたちの気持ちがはじめて分かった気がします(笑)。
このシリーズでサイドストーリィを書く予定は全くなかったんだけれど、これは嬉しい誤算ですね。
また、何か思いついたら書きたいと思います。
H17.3.21
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