愛をください
ガチャガチャッ。
鍵を開ける音に喜色を浮かべ、出迎えるために立ちあがる。小さなアパートだから、簡単なキッチンの隣がすぐ玄関だ。
何より先に鼻をついたのは、ドアの隙間から流れ込む、濃い、濃い血のにおい・・・。
「」
うしろ手で施錠すると、マジックは靴を脱ぐより先に腕を伸ばした。強く引かれて、次の瞬間大きな胸の中に抱きしめられている。
血のにおいにくるまれる。
彼自身はシャワーを浴びて、すっかり洗い流してきたつもりなのかもしれない。
だが、は知っていた。時々こうして血のにおいをプンプンさせてやって来ることに、気付いていた。
そんなとき、決まってマジックの眼は不思議で強い青の光を帯びている。
まるで獲物を屠ってきたばかりの獣のような、奇妙な高揚感を残したまま、彼はを抱く。
血にまみれたマジックに、いつもより激しく求められれば、体も濡れてゆく。深く溺れてく。
玄関先で二人は貪るような口づけを交わし合った。どこまで吸い上げても足りないのか、舌技を尽くして責めてくる。
もう、体に力が入らない。
「ここでしよう」
いつもらしくなく性急なのも、こんな日だから。
奪うことで満ち足りたいのだ。ついさっきまで、返り血を浴びながら笑っていたように。
普段は感じない恐怖に射抜かれ、は一瞬身をすくめる。すぐにそれは官能へとすりかわり、しんから痺れさせた。
後ろを向き、その場に両手両膝をつく。下着などとっくにはぎ取られていた。指一本触れられてはいないのに、スカートの中で蜜は熱くあふれ、内股までをも濡らしている。
そのままで、マジックを何の抵抗もなく受けいれた。
「・・・あ!!」
背をのけぞらす。大きくて熱い・・・! 体内の壁をこすられ、突かれるたびに、喉の奥まで苦しさに似た快感が駆け巡る。
圧迫される感覚の中から、嬌声がほとばしる。
「あああ・・・」
たまらず頭を振ると、髪が舞い乱れ、汗で額にはりついた。
「・・・もっとだ」
「は・・・っ」
その髪を後ろから乱暴に引っ掴まれる。
「もっと、声を上げるんだ・・・」
もう、隣に聞こえるかも・・・なんて、考えていられない。
「ああああーーーっ!」
獣のように叫ぶ。共に血のにおいにまみれる。
狂気に最も近い快楽に、身も心も委ね支配される−。
「済まなかったね。あんなことをさせて」
「ううん、いいの」
両手で抱き上げベッドに運んで、優しく寄り添ってくれる。瞳も穏やかな青をたたえて。
いつものマジックに戻ったことは、にとって嬉しいのと同時にちょっぴり残念でもあった。
血しぶきを浴びるイメージも好きなんて、とても言えないけれど。
「あなたのしたいようにして・・・」
手を差し出して、金の髪や逞しい体に触れてみる。父娘ほど年は離れているけれど、体のどこにも衰えは感じられない。鍛え抜かれた、鋼の肉体だ。いくら優しくしてくれても、この体に抱かれると、どうしても襲われているような気分になってしまう。それだからこそ。そこが好きなのだと、最近知った。
「は、何もねだらないんだね」
最初は高級マンションを買ってやろう、と言った。仕事も辞めてゆっくり暮らすことを提案したのだ。
だが彼女はやんわりと拒否をし、未だに狭いアパートと職場を往復する毎日に甘んじている。
「だって・・・欲しいのは、マジック・・・貴方だけだもの」
「欲がないな」
キスをしてやる。
「・・・貪欲よ、私は」
愛が欲しい。
「だから、ちょうだい」
もっとたくさんのキスを求め、首に抱きつく。受けたキスを深く導く。ベッドで二人の体がもつれからみ合う。
「ああ・・・」
身をよじり、たまらず声をあげる。
「・・・」
愛しさに愛撫はますます激しいものとなる。体の隅々までを、指や唇、舌を使って攻めてゆく。
とっくに知り尽くしているのに、倦むことなどない。いつも夢中にさせてくれるこの身体、決して放したくない。
ひとつになったら、離れたくない・・・。
「、愛してるよ」
「マジック・・・」
もっと、もっと。
愛をください−。
「今日は遅くなってごめんよ。今度は一緒に食事でもしよう」
「ええ。そうね、カレーがいいわ」
「カレー?」
「うん。マジックのカレー」
「ははは。そんなものでいいのかい」
どんな高級レストランにだって連れていってあげるのに。
「だって、おいしいもの」
「分かったよ。じゃ今度ね」
「やったー」
裸のまま甘える。頬を寄せるようにすれば、厚い胸板にまたときめく。
いつでも一緒にいたい、なんて、ワガママは言わない。こうして時々来てくれる優しい愛人に、それ以上は求めない。
普段何をしていようと、関係ない。
ただそのときに、愛してくれれば。
「私が眠るまで、帰らないで」
「分かってるよ」
ぽんぽん、軽く背を叩いてくれる。
包まれて目を閉じた。眠りに落ちたら、もう目覚めたくない。
「・・・心配しないで、おやすみ」
「うん・・・」
もっと強く、抱きしめる。
まぶたの裏には、血飛沫が赤く浮かび上がっていた。浴びて笑っているマジックと。
(・・・それでもいいわ・・・)
自らの血のイメージが、いつしか月となる。赤い、赤い満月に。
愛が欲しいと貪欲に求めている。
愛をくださいと叫んでいる−。
・あとがき・
これはかづなが生まれて初めて書いたドリームです。H13年ころに書いたものだと思います。
懐かしいですね。ドリームというものを知って、なんて斬新な小説なんだと感激し、私もやってみようと、ワクワクしながら書いたことを覚えていますよ。
お友達に差し上げたものですが、最近パプワのドリームにハマったので、掘り出してみました。文章はほぼ当時のままですが、2、3箇所ちょっとだけ手直し入れました。
以下、当時のあとがきを抜粋します。
今回はマジックのH話を書こう! と張りきったのですが、「愛」をテーマにしようと決めたらあんまりHじゃなくなりました。しかも短い。
でもとにかく愛は溢れています。
さんは欲がないですが、私だったら迷わずマンション買ってもらいますね(笑)。
マジックの愛人なんて、おいしすぎますー。
また続編が書ければいいなと思っています。
マジックも大好きなんですよ。ほんと、またマジックのドリームを書きたいですね。
H17.10.27
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