White Summer Heaven



「ただいまー」
「帰ったぞー」
 先を争うように中に上がりこんできたメロとマットを、それぞれキスで迎える。
「いい子してた? 
「寂しかっただろ・・・後でゆっくり可愛がってやるからな」
「や〜んくすぐったい!」
 二人に挟まれてのスキンシップに、は身をよじらせ笑い声を上げた。
「ごはん、できてるよ」
 メロとマットとは、三人で同棲中。はメロの恋人でもあり、マットの恋人でもある。
 仕事も遊びも夜の楽しみも、いつだって三人いっしょ。
 常識から逸脱していようと、仲良く愛にあふれた生活を営んでいるから、当人たちは満足だった。
「メシより先に、これ見ろよ」
 メロは手にしていたショップの袋をゴソゴソと開き始める。
 また洋服でも買ってきてくれたのかな、と期待を込めて見ていると、マットも手伝って、中から布切れを取り出した。
「ほら! 絶対、に似合う!」
 布切れは、メロが持っているのはブラ、マットが手にしているショーツ・・・・いや、水着? ビキニの。
、いいだろ」
「早速試着な」
「えっ・・・?」
 ついていけなくて、まごまごしているうちにも、二人がかりで服を脱がされ、あっという間に着替えさせられていた。
「やだ、こんなの恥ずかしいよ」
 姿見の前に引き出されて、体をかばおうとする両手も強引に下ろされる。
「なんで? 思った通り、すげぇイケてるよ」
 隣に立って肩を抱き寄せる、マット。
「ああ、サイコー。さすが
 後ろから腰に手を回してくる、メロ。
 露出度高すぎる格好で、二人にからまれれば、顔だけではなく全身が火照ってくる。
「何で急に水着なんて・・・しかもビキニ」
 鏡の中で、目が合うと、男たちはニッと笑った。
「「海に行こうぜ、!」」

 は、メロとマットと共に探偵として働いている。
 あの偉大な「L」に追いつけ追い越せというのを最大の目標に、かなりの難事件にも三人力を合わせて挑んでいた。
 今日は男性陣が外に出、は書類整理や家事をしながら留守番を務めていたのだが。
 この二人、仕事終えてから街のショーウィンドゥを見て、突然、海水浴に出掛けることを思い立ったそうで、水着売り場で小一時間ほどに似合う水着を探すために費やしたのだそうだ。
 こんないい男が二人、女性の水着売り場で話し合ったりケンカしたりしながらビキニを選んでいたと思うと、なんだか笑えてくる。
「海・・・いいけどこれ着るなら、ダイエットしなきゃ」
「そんなヒマねえよ、明日行くんだからな」
 と言ってメロは、の肩や二の腕に、ちゅっちゅっと唇をつけ始めた。どこもむき出し、キスし放題。本当はチョコを食べたいけど、夕飯前はダメだとがうるさいから、口寂しいのだ。
「えー明日!?」
「そう。思い立ったが吉日。パラソルもチェアも全部買ってきたから」
「・・・道理で帰りが遅いと思ったら・・・ってあんたたち、何してんのよ」
 と言う口も、マットの唇で塞がれる。
「やっべー、ヤリたくなってきた」
 耳元に、熱い吐息。
「俺も。こんな格好されてちゃ、たまんね・・・」
 四つの手が伸びてきて、体中を這い回り始める。
 鏡の中の自分が、今やあからさまに犯されようとしている・・・。
「こんな格好に、誰がさせたのよ・・・っ」
 視覚に突きつけられる淫らさはいつも強烈すぎて・・・(だからわざとこの大きな姿見の前で、エッチなことをされるのも度々なのだけれど)、の理性ははじけ飛ぶ寸前だ。
「・・・ごはん、どーするのよ・・・っ」
「後で」
を先に食う」
「もう・・・っ」
 既に溺れてしまっている自分を認め、身を委ねる。そのまま床に倒れこむと、のビキニはあっという間に取られてしまった。
「や・・・だ、やっ」
「嫌でもないクセに嫌だなんて言うな。ほら咥えろよ」
「んっ、くっ・・・」
「脚開いて。してやるから」
「ん・・・んんっ・・・」
 体が求めているのに逆らえないし、逆らう必要もない。
 愛情を持って絡み合う男女の姿を、大きな鏡が写し込んでいた。
 真新しい水着が、床にうち置かれているさまも、一緒に。

 約束通りのぴかぴかお天気、空は青く、海はもっと青い。
 賑わうビーチ、波の音。
 まさに海水浴日和といえよう。
 パラソルを広げた下に、はTシャツ姿でぺたんと座っていた。中にちゃんと水着は着ているけれど、ビキニでチェアに横たわるような勇気はとても出ない。
「ねーキミ、友達と一緒?」
「よかったらさあ、俺たちと遊ばない?」
 見知らぬ男が、三人も寄ってきて取り囲まれた。
「いえ私は・・・」
「カワイー」
「どっから来たの?」
 図々しくも隣に座り込んでくる。
 ちょっと困っていると、
「おい」
 ようやく王子様たちのお出ましだ。
 それぞれ両手にビールやらジュースやら食べ物やら、山ほどかかえたメロとマットが、男たちの前に立ちはだかる。
「お前ら何?」
 鋭い眼光に、相手は怯んでいる。そりゃメロににらまれたら恐いだろう。
「俺らの女に用かよ」
 俺らの女。人前で言われると、くすぐったくも嬉しくて、つい頬が緩んでしまう。
 ナンパ男たちは、バツ悪そうに去っていってしまった。
「何、俺とかメロより、あんな野郎どもがいいわけ?」
「そんなわけないでしょ」
 悪いが、レベルが違いすぎる。
「やっぱりを一人にしておけねえな」
 口を尖らせながら、売店で買ってきた物をビニールシートにドサドサと置いた。
「こんなに食べ切れないでしょ」
「だってよ、すげぇ色んなもん、いっぱい売ってたんだぜ。迷ったからとりあえず買ってきた」
「とりあえずって」
 焼きそばたこ焼き、タコスにフランクフルト・・・その他もろもろ。ホントに店のもの全種類といった様相だ。
「でもチョコは売ってなかったんだよな」
「当たり前でしょ」
 真夏のアウトドアなんて、チョコに最もふさわしくないシチュエーションだ。
 メロは呆れるの隣に腰を下ろすと、クーラーボックスを引き寄せふたを開けた。
「まあ、持ってきたからいいけど」
 中にはいつもの板チョコが、ギッシリ。
「・・・飲み物じゃなかったのね、ソレ」
 早速銀紙をはがしながら、メロは買ってきたものたちをあごで示した。
「だから買ってきただろ。好きなの飲めよ」
 マットが先に手を出し、缶ビールを取る。はジンジャーエールにした。
 じりじりの太陽をパラソルで避けながら、喉を潤し適当に腹ごしらえもすると、メロは早速立ち上がった。
「何して遊ぶ?」
「その前にホラ、こんなに余ったよ」
 どんなに頑張っても、食べ切れる量じゃない。
「じゃ俺がその辺の女の子たちに配ってくる」
 手付かずの食べ物を両手に抱えると、マットは本当に別の女の子のグループに行ってしまった。
「何で女の子限定なのよ」
 いつものことだから、今更嫉妬もないけれど。
 メロは再び座ると、の肩に手を回した。
「俺は他の女なんて絶対見ないぜ」
 はクスッと笑う。
「分かってるよ。それはマットだって・・・」
 続く言葉は、飲み込まれた。
 一瞬のキスは、海に似合わぬ甘い味がした。
「・・・こんな場所で・・・いっぱい人がいるのに」
「別に隠す関係でもないだろ」
 照れながらそのまま寄り添っていたら、少しして、空手になってマットが戻ってきた。
「完売。・・・ズルいなお前ら、見てたぞ」
「お前がよその女のケツを追っかけ回してるからだ」
「いつそんなことしたよ。配ってきてやったのに」
 特に気分を害したふうでもないが、マットはの隣、メロの反対側に腰を下ろすと、
「俺にもくれよ」
 素早く、キスを奪った。
「・・・もうっ、少しは人目を気にしてよ、二人とも」
「誰も見てねーよ」
 ちらちら回りに視線を送ると、メロの言うとおり、自分たちを注目している人なんていないようだった。
 皆、友人や家族や恋人など大切な人と、真夏の海を楽しんでいる。
「行こうぜ」
「ち、ちょっと待って、日焼け止めを」
「どれ」
 SPF50、PA+++の強力サンスクリーンを取り上げ、メロは自分の手のひらにたっぷり出す。
「いつまでこんなの着てんの」
 マットはのTシャツを引っ張って、有無を言わさず脱がせてしまった。
「ちょっと、それ着たまま行こうと思ってたのに」
「冗談だろ、せっかく買ってやった水着、お披露目しなくてどうするんだ」
 言いながらマットも、メロから日焼け止めを受け取る。
「ほら塗ってやるよ」
「ほらほら」
「キャ〜〜ッ、いやっくすぐったいーー!」
 二人の手でべたべた全身に塗りたくられ、もだえ転がる。
 おかげで全身ムラなく塗れたけれど、すっかり髪が乱れてしまった。

!」
「行くぞ!」
 右手をマットと、左手をメロと。繋いで飛び出す、太陽の下、砂浜へ。
 強烈な自然光に、はくっきり映え、のボディを輝くほど魅力的に見せてくれていた。
 その眩しさに、二人の恋人は目を細める。
「超セクシー。やっぱそれ選んで正解」
「最終的にそれに決めたの、俺だけどな」
「何言ってんだ、俺がコレいいって言ったんだろ」
「あーもうケンカしないで」
 波打ち際に足が触れた。男たちに手を引かれ、ずんずん海に入ってゆく。
「気持ちいー」
「やーっぱ夏は海だよな!」
「うん!」
 大きな、大きな海に、三人手を繋いでぷかり浮かんで。
 波にゆらゆらたゆとえば、ほんとにほんとにいい気分。
 このまま流されたって、怖くはない。この手を離しさえしなければ。

 太陽が回る、熱いしぶき。
 明るさの中元気が弾けているのに、どこかけだるいようで。
 笑い声も、白く溶け合うようで・・・。
 塩辛いキスを交わす。交互に、何度も。
 海に抱かれて、最高のパラダイス。

 ビーチバレーにスイカ割り、砂に体を埋めてみたり、棒倒しをしたり。
 海の遊びを一通り三人でやり尽くせば、はや人もまばらな時間帯。
 着替えと片付けを済ませて車に乗り込む。
「さすがに疲れたよなー」
 運転席に身を沈め、タバコをくわえたマットは投げやりに言った。
「運転、たりィ〜。その辺に泊まらね?」
「さんせー」
 後ろのシートを丸々占領してチョコかじってるメロも、片手を上げる。
 助手席でやっぱりクタクタのにも、反対する理由などもちろんない。
 三人の車は、最寄のホテルに向かった。

「申し訳ありません、ただいま、ダブルのお部屋をおひとつしかご用意できないのですが」
 さすがにシーズンでは、ホテルも満室に近いらしい。
「いいよそれで。どうせ最初からダブルにしようと思ってたし」
「よ、よろしいんですか。三名様ですよね・・・?」
 しかも男二人に女一人。
「いいって。三人でダブルひと部屋、それでOK」
 フロント係はまだ納得できないふうだったが、それ以上言及するわけにもいかず、若い三人の客をダブルの部屋へ案内せざるを得なかった。

 マットがシャワーを浴びて戻ると、ダブルベッドの上で、先にシャワーを浴び終わった二人はやはり始めてしまっていた。
「・・・やっぱラブホにすりゃ良かった」
 広い風呂だったら三人で入れたのに。
 ひとりごちながら、タバコに火をつけ、窓の外を眺める。
 前戯の段階なら割って入れるが、もう二人絡まってがいい声出しまくっている状態なので、待っているしかない。
「あ・・・あんっメロ、いい・・・っ」
・・・」
 割といいベッドなのか、そんなにきしまない。
「・・・早く出しちまえメロ」
 呟いたところで聞こえやしないだろう。
 夢中の二人には。

「次俺っ」
 メロが離れたとたんにマットに組み敷かれ、は荒い息のまま軽くいやいやする。
「疲れちゃった、もう寝たいよ」
「不公平だろ、俺だってしたいのに」
 キスをいくつも降らせてくる。タバコのにおいに、ゾクゾクする。
「・・・車の運転はしたくなくても、こーゆー元気はあるのね・・・」
 半ば諦めて、マットの体に腕を回す。
「それとこれとは別。女の子の別腹みたいなもの」
「何ソレ」
 指で触れて唇で吸って、もう一度、女の芽を呼び起こす。
「赤くなってる・・・やっぱり焼けたか、あれだけ塗ってやったのに」
「メロと同じこと言ってる」
「ここ・・・ヒリヒリしない?」
「ん・・・ちょっと」
 肌に優しく舌で触れ、すぐに離す。
 ちょっとずつ盛り上がってきた二人を何となく眺めつつ、メロは椅子に座りチョコをかじった。
 先にを独占したから、今度はマットにも同じように。
 暗黙のルールだった。
 は、二人のものだから。
 思えば不思議な関係だ。
 最初から三人で、それが当然だから、出し抜きたいなんて・・・自分だけのものにしたいなんて、全く思わない。
 三人のうち、誰が欠けてもダメだ。この恋は、もマットもいなくては成立しないのだ。
「早く・・・来て、マット・・・」
「何だかんだ言って、欲しいんだ・・・。そーゆーエッチなとこ、大好き・・・」
 キスを浴びせ、の中に入る。
 激しく動作しては声を上げる二人をぼんやり眺めていると、メロもまた疼いてくるのだった。
「・・・眠れねえな、こりゃ」
 明日は明日で仕事があるけれど。
 三人だけのヘヴン、堪能しておこう。

 短い夏が、終わらないうちに。




                                                             END










       ・あとがき・

久々ダブルキャラドリーム。
今回もメロとマットですが、前書いたのとはまた設定が違い、今回は「二人の恋人」です。
三人で探偵やってて、Lは大きな目標。本編とも離れたパラレル設定ですね。ここではLもちゃんと生きてます。
私、ダブルキャラでは、二人の男がヒロインを取り合うとかそういうのよりも、こういう三人で仲良しパターンが一番好き。
女の子に都合の良いドリームですから、現実的にそんなこと不可能だろとか、そんなこと考えてはいけません。
メロとマットはマンガでも仲良さそうだったし、こんな感じもあまり違和感ないと思うんですが。
ちゃん、二人に挟まれて、まさに天国ですね。

夏も終わりですが、急に「三人で海へ」というネタが降ってきてしまったので、慌てて書きました。
ビキニ・・・大胆ですね。

タイトルはポケビの歌。
昔からこの曲の雰囲気でよく小説を書いていましたが、タイトルそのものを使ったことはなかったハズだと思いまして。

 





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