Wonderin' Destiny



「たまには一緒にどこかへ出かけたいな」
 おやつを食べながら恋人によりかかり、甘えついでには口にした。
「週末だし、遊園地にでも行こうよ」
 Lは串ダンゴを頬張りつつ、
「無理です」
 モゴモゴと、でも容赦なく返した。
「今、人前に姿を出すわけにはいきません・・・遊園地なんて人の多いところ、もってのほかです」
 直接手を下さずとも殺人ができる凶悪犯を相手にしているのだ。にも分かっている。
 ・・・分かっては、いるけれど。
「なんだつまんないのー。じゃ他の人と行っちゃおうかなー」
 少しくらいの意地悪を、したくもなる。遊びたいお年頃。
 Lはつまむように持っていた串を、カランとお皿に落とした。
 横顔、その一見変わらぬ無表情がこわばっているのをは読み取り、
「やだ冗談だよ」
 つとめて明るく、片腕にしがみついた。
「竜崎は世界一有能で、世界一忙しい探偵さんなんだもんね」
 顔を覗き込むようにすると、Lは少しだけうつむいた。
 まずかったかな、と思いつつ、は自分の串ダンゴにぱくつく。
 しょうゆ味が、しょっぱかった。

 次の週末、珍しく夜に呼び出され、車から降りたはとりどりの電球が作り出す光を見上げていた。
「遊園地・・・」
 今年はまだ夜間営業の時期ではないと記憶していたけれど。
 昼間とはまるで様相の違う園内に、おずおず足を踏み入れた。
 その華やかさとは対照的に、不気味なほど誰もいない。
 ただメリーゴーランドの前にひょろりとした人影を認め、急ぎ駆け寄った。
「・・・さん」
 果たしてそれはLで、ジーンズのポケットに両手を入れた格好のまま、へ向き直る。
「こんな時間に、すみません」
「ううんそれは構わないけど・・・」
 は思わず辺りを見回す。
「でもこれって・・・」
「夜、誰もいないときなら大丈夫だと判断して、貸し切ったんです」
 Lは何でもないことのように言うけれど、この広大な遊園地を貸し切りだなんて。
「あなたの望みはこんなことではないと、分かってはいます・・・が」
 明るい陽射しの降り注ぐ中、カップルや家族連れで賑わう遊園地に出かけ、思い切り遊びたい。
 そんなささやかとも言わないほど当たり前の付き合いすらも、してあげられない自分の立場を、Lは今、少しだけ疎んでいた。
 眼前では、言葉を失っている。
 ああやはりこんなことではダメなのだ。
 点滅する光に横から照らされているの姿が、他人のように遠く見えた。
(何が世界一の探偵だ・・・。ひとりを満足させることもできない・・・私は・・・)
 こんなにも自分が無力な存在であると感じたことはなかった。
 気がつけば口にくわえた親指の爪を、ギリギリと噛んでいた。
「竜崎・・・」
 震えているような声に顔を上げる。同時に飛び込んでいた身体を、かろうじて抱きとめた。
さん」
「私・・・嬉しくて」
 こんな大きな遊園地を借り切るという発想と財力、やはり並の男じゃない。こんな恋人、そうそういないだろう。・・・だがそんな優越感などではなく。
 気まぐれと少しの邪僻からこぼれただけの言葉を、これほど真摯に受け止めてくれたこと。
 決して傲慢にはならず、こちらの反応を気にかけていてくれること。
 それらが愛されている実感となって、の心を熱く満たしていた。
「ありがとう・・・」
 しっかりと抱き合う二人を、遊具を彩る明かりが断続的に照らし、夢のような夜の風景に引き込んでいった。

 早速メリーゴーランドに乗ろうと促すと、Lは馬車に(やっぱりあの座り方で)乗り込もうとしたので、慌てて腕を引っ張り、一番外側の白い馬に連れて行った。
「せっかくメリーゴーランドに乗るなら、やっぱり馬じゃなきゃ」
 長身のLが足を乗せると、窮屈そうに膝が曲がって、結局、いつもの座り方に近い格好になっている。
 でも、Lは、白馬の王子様なんだ。
 だけの、王子様・・・。
 が隣の馬にまたがると、まもなく音楽と共に回転し始める。
 ゆっくり上下し、回る馬の上で、苦しいような甘酸っぱい気持ちになり、は一つ、息をついた。
 彼と一緒にいることの喜びや、彼への愛しさ、そこに回転木馬のノスタルジーと夢を見ているときの息苦しさが加わって、にわかには処理できないほど膨らんでくる。
 現実味のないまま隣を向くと、神妙に棒につかまって乗っているLも、こちらを向いた。
 光が滲むように流れ、ふわりくるくる回る中で、動かないLの髪と瞳がくっきりとした黒さで映えていた。
 それはそれは、うっとりとするような、ひとときだった。

 ジェットコースター、お化け屋敷、観覧車と、二人きりの夜の遊園地を満喫し、そんな夢の時間も終わるころ、とLはもう一度、最初の場所にたたずんでいた。
「・・・L」
 普段は呼べない名を、口にする。
 Lは驚かなかったけれど、面映いのか、足をずりずり動かした。
「今日は本当にありがとう。それに、ごめんね。あんなことを言って。・・・私の言うことなんて、流してくれていいのに」
 こんなおおごとになってしまうと、不用意にものを言えなくなってしまうようで。
「・・・流せません」
 Lの真っ直ぐな瞳には、たくさんの明かりが映りこんでいた。
「生半可な気持ちじゃないんです。あなたを喜ばしたい・・・あなたを失いたくない」
 何でもする、どんな手でも使う。
 こんなことで喜んでくれるなら、それを利用もしよう。
「・・・L」
 うるむ瞳の少女を、抱き寄せた。
 どす黒く渦巻くような想い、この一途さの前で見せられはしない。
さん」
 柔らかな体の手ごたえを感じていた。
 もう後戻りはできない。手放すわけにはいかない。
 ファンタジックな光の渦が、に魔法をかけるから。きっと彼女には、忘れられない夜になる。
 キスでそれを決定的にすればいい。
 縛り付けて、離れられなくなるように。

 広大なアミューズメントパークの中心に、ぽつり二人きり。
「L・・・」
 腕の中で甘く、彼を感じて、そっと唇を重ねた。
 おとぎ話のような美しさと、疑いようもない恋心を体中に浴び、そのまま、とろけてしまう。
 不思議な運命を、信じられる気がした。
「・・・大好き」
「・・・大好きです」
 もう一度、キスを交わす。
 がんじがらめの魔法に、自ら身を投じるように。






                                                             END



       ・あとがき・

コンセプトは「自分の限界を感じるL」だったんです、当初。
世界一の探偵なのに好きな人を満足させられない・・・歯がゆい・・・ってとこを、書きたかった。
はずなのに。
気がつけば、黒いLになっていました(笑)。
前半が台無しじゃないか! 整合性が・・・などと色々考えたのですが、まぁそれもLらしいかなと。
ちゃんも、分かっていて捕らえられるのですよ、きっと。
 





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