うそつくのに慣れないで



 11月30日、アイオロスのバースディはアイオロス本人の発案で、大々的にパーティを開くこととなった。
「クリスマスパーティの予行練習だ」というアイオロスの言葉を「さすがは兄さん」と納得しているのは弟のアイオリアだけで、皆「自分からパーティ開くってどういうことだ」「ブレゼントはやらんぞ」などとブツブツ言っている。
 しかし、始まってみればいつものように楽しくドンチャン騒ぎが繰り広げられるのだった。

、俺、酔っ払っちゃったみたいだ・・・」
 ガタイのいいアイオロスに肩にもたれかかられ、は「重い!」と悲鳴を上げる。
 宴もピークを過ぎ、段々にグダグダになってきたころのことだ。
 顔を赤くしてよろよろしながら、アイオロスはに「人馬宮まで送っていってくれないか」と持ちかける。
 パーティ会場はなぜか弟の獅子宮なのだった。
「じゃあアイオリアに頼んであげるから・・・」
「いやいやいやいや!」
 あっさり去っていこうとするのを、抱きつかんほどの勢いで引きとめる。
「何よ、もー」
がいいんだよ、に連れていってもらいたいんだよ〜」
 アルコールのせいで、ダダっ子になっている。やっかいなことこの上ない・・・なんて表面上困った顔をしながらも、本当は、ドキドキしていた。

「ああ、いい気分だ」
「寒・・・」
 アイオロスは浮かれた足取りで、は軽く震えながら、階段を上ってゆく。
 勢いに引きずられるように出てきてしまったけど、ここから人馬宮までなんて、遠すぎる。
 げんなりしていたら、いきなり肩に手を置かれた。
 アイオロスの、温かい大きな手・・・。
「?」
 見上げると、きらびやかな星たちをバックに、アイオロスは笑っていた。
 いつもの開放的な笑顔とは違う。夜のせいだろうか、ひそやかに秘密を内包した笑みに、の心はさざめく。
「面倒だからショートカット」
「え?」
 聞き返すいとまもない。ぎゅっと抱き寄せられ、その感触に心臓がとくんと音を立てた瞬間に、もう身体は9番目の宮にいた。
「飲み直さないか? いいのがあるんだ」
 キッチンに向かう足取りは、さっきとは打って変わってしっかりとしている。
「ちょっとー、どういうことよ。歩けるんじゃない、光速移動で一人で帰れるんじゃない!」
「高かったんだー、コレ」
 シャンペンの瓶とグラスをふたつ持って、戻ってくる。その口調も普段と変わらない。
「・・・うそついたのね、酔っ払ったなんて!」
 ズルいことなんてひとつもしませんって顔しておきながら!
「俺だって嘘の一つや二つ、つくよ」
 しれっとして、の肩に手を添え座らせる。
「・・・どうしても欲しいものがあるときとか」
 聞こえるか聞こえないくらいの声で囁かれた。
 いつものように冗談にしてしまえばいいのか、それとも・・・。
 反応に惑っているうち、ひとつ軽く肩を叩かれる。
 アイオロスは淡いピンクで満たされた瓶を手に取り、口の針金を取り去った。ぽん! 小気味いい音が鳴り、栓が抜ける。
「せっかくの誕生日だから、と二人で過ごしたいって思ったんだ」
 グラスに注ぎ分けて、ちょっと目を上げる。
 の顔が見る間に赤くなるのを見て取って、アイオロスも少し照れたように笑った。
「・・・そーゆーコト」
 一つをの前に置いて、自分も向かいに座った。
「それにしても、あんなのに引っかかるなよ。危なっかしいな」
 引っかけた者の言うセリフではない。
 は口を尖らせた。
「アイオロスだからだよ。他の人にあんなこと言われたって、送ってなんか行くわけないでしょ」
 さっきの仕草を真似るように、上目を使う。
「・・・そーゆーコトよ」
 口もとで笑ってみせたつもりだけど・・・引きつっちゃったかも。
 でもアイオロスも、ニコッとしてくれた。
「誕生日に、一番欲しいものがもらえたみたいだな」
 親しくはあったけれど、友達のようだった存在を、自分のものにしたかった。
「乾杯しようか」
 ピンクの中に小さいしゅわしゅわ。
 持ち上げたグラスの向こうに、偽りのない笑顔が見えた。

「あ〜・・・今度は本当に酔っ払った。寝室まで連れて行ってくれよ、〜」
「同じ手に乗るわけないでしょ!」
 そう言うもほろ酔い気分だけれど、横から伸びてきた手は容赦なく払い落とす。
 二人はもはや向かい合わせではなく、ソファに隣同士で座り込んでいた。
 幸せな時間はまったり過ぎて、気が付けば瓶も空になりかけている。
「私の前で、もう嘘は禁止だからね」
 うそつくのに慣れないで。
 アイオロスはおとなしく、酔ったふりをやめ、の目を覗き込むようにした。
「・・・嘘つかせないで」
 少年のままの瞳はけがれを知らず、きっとうそにも慣れないままで。
 両腕に閉じ込められて、目を伏せる。
とこうしていられるなんて・・・生きてて良かった」
「死んでたクセに」
 照れ隠しにちゃかすのも、そこまでで。
 優しく、口をふさがれる。
 シャンペンの味が濃くなって、本当に酔っ払ってしまいそう。
・・・」
 確かな手応えと体温が、両腕と唇から全身に広がる。
 大切にしたいと・・・心から思った。

「お誕生日おめでとう、アイオロス」
「ありがとう」
 こんな嬉しいバースディを迎えることができるなんて。
 数年間の空白は、アイオロス自身にとっては底のない闇、深い孤独だった。
 だが、それらを思い出し、感傷に浸ってはいられない。
 今の幸福をいっぱいに受け止めなきゃ、もったいないから。
 もっと強く抱いて、もう一度、キスを。
 いつまでも離れないくらいに。
「ずっとそばにいてくれる?」
「・・・うん・・・」
 胸がいっぱいで、小さな声しか出せなくて。
 補うように、は手を伸ばししがみついた。
 離さないように。
「今日は予行だから・・・本番はクリスマスな」
「・・・何の本番よっ」
 そんなやりとりも、今までの友達関係よりずっとウエットで、近い位置で目が合うと、どちらともなく微笑んでいた。

 ハッピーバースディ、アイオロス!







                                                           END



       ・あとがき・

「すこやか射手祭れ!」参加作品です。
どれだけ時が経っても、やはりアイオロスへの愛は変わらず、今年も参加させてもらいました。

私の中でアイオロスはいたずら好きでやんちゃですが、卑怯なことはしなさそうなんですよね。
そんな彼に、あえて嘘を言わせてみました。
本当は、とっくにお互い想い合っていたんですね。

寒い時期のバースディだけど、温かくて幸せで、良かったねxxx

タイトルはcharaですー。





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