探偵気分



 最近、彼が冷たい。
 今までも、仕事が入ったからと会う予定をキャンセルするのはまだいいとして、彼女の誕生日だろうが何だろうがジム通いは欠かさないし、キラ関係の番組収録があるといえばひとりで東京に行ってしまうし、決して「何よりも君が大事」という扱いではなかったが。
 それにしても、最近はひどすぎる。
 何しろお泊りがなくなった。のアパートに遊びに来ても、遅くなる前に必ず帰ってしまう。また、が彼のマンションに行っても、日付が変わる前には「送るよ」と言い出し、帰される。
 本人は「毎日こつこつ勉強をすることにしたんだ」などと言っているけれど。
(・・・怪しいっ)
 彼が・・・照が、浮気をしていないという確証がどこにあるというのだ。
 こうなると、毎週木曜と日曜に通い詰めているスポーツジムにも疑いが向いてしまう。
「どうした? 
「うっううん、何も」
 ふたり一緒に高めた熱も心地よくさめて、ベッドでじゃれ合っていたけれど、ふと照が時計を気にしてソワソワし始めたから。
 最近のことを思い起こし、疑心暗鬼の目を向けてしまっていたのだった。
「そろそろ帰るよ」
 果たして照は軽いキスをくれると、いそいそと身支度を始める。
「明日は木曜日だし、会えないんだよね?」
「うん、ゴメン。週末にはどこかに出かけよう」
 それだって、朝まで一緒にはいられないんでしょう?
 のどまで出かかった言葉を、ぐっと飲み込んで。
 眼鏡をかけて、コートを羽織る、照の動作を見守っていた。
 胸にひとつの決意を抱いて。

 次の日の、木曜日。

 ジェバンニは、いつものように魅上照の尾行をしていた。
 しかし、今日はどうにもやりにくい。
 自分の他に、魅上をつけている者がいるのだ。
 黒い服に身を包み、サングラスに帽子というあからさまな変装をしていても、ジェバンニには一目で分かる。
・・・魅上の恋人が、何のために、こんなことを)
 しかし恋とは謎だらけだということくらい、ジェバンニも知っていた。二人の間のことは誰にも分からない。の尾行はいかにも素人くさいけれど、鬼気迫るものがあった。
 かくして、尾行つきのターゲットを尾行するという、奇妙なはめに陥っているジェバンニだった。

(何かあるなら、それを突き止めてやるわ)
 仕事を休んでまで照に張り付いて、ちょっと探偵気分だが、それに浸ってもいられない。
 照は、職場を出ると、真っ直ぐホテルに向かってゆく。
 ホテル・・・一瞬ドキッとするだが、そういえばスポーツジムはホテルの中にあるのだと言っていたっけ。
 でも一応、も建物に入り、照が本当にジムに行くところは見届けた。ジムの中までは、会員でもない限り入れないだろう。
 照の後に入って行った男が、なかなかカッコ良かった。外国人のようだけど。・・・なんて、こんなチェックをしている余裕に、自分で笑ってしまう。

 ホテルのロビーで暇をつぶし、時間通り照が出てきたのを確認すると、はまた後をつけ始めた。
 考えてみれば、こうして離れたところから歩き姿を見るなんて、滅多にないことだ。いつもは隣にいる恋人なのだから。
 黒いコートの背筋を伸ばし、少し足早に歩いてゆく照の後ろ姿に、新鮮なときめきを覚えた。やっぱりこの人を大好きなんだ。改めて迫る自覚が、胸を締め付ける。
 浮気現場をおさえてやる! と意気込んではみたけれど、照は普通に仕事をして普通にジムに行っただけだし、この後も普通に家に帰って勉強をするだけなんじゃないだろうか。
 冷静になってみれば、あんなに優しくて、真面目な照が、裏切るなんて。浮気するはずなんてないのに。
 疑って、こんなことまでしている自分が恥ずかしい。は懺悔の気持ちにいたたまれず、いきなり回れ右をするとダッシュでその場を去った。
(ごめんね・・・照!)

 よけ切れなかった。
 そろそろ曲がってもいいだろうと覗き込んだ角から、唐突に人が飛び出してきたから。
「!?」
「しっ失礼、ケガは・・・」
 ジェバンニが腕を支えてあげると、彼女はこちらを見上げた。だということに気付き、マズイと思うも、先にあっ! と声を上げられてしまい顔も隠せない。
「さっきの・・・」
 ジムに入っていった人が、なぜここに。
(ん?)
 照の後に同じジムに行き、今またこんなところにいるということは。
「ストーカー? も、もしかして、浮気相手!?」
 男!? 男だったなんて!?
 しかもこんなにイイ男!
 下を向いたの、握ったこぶしがわなわな震えているのを、ジェバンニは呆然と見ていた。何か勘違いをしているようだ。けどあまりの迫力に、言葉もかけられない。
「そっそんな・・・男に負けてなるものですか・・・」
 宣戦布告をするべきか。勢い良く顔を上げたとき、もう相手はそこにいなかった。
「あれっ」
「何をしているんだ、
 反対の方から、なじみのある声。振り仰ぐと大好きな人が立っていた。
「−照!」
「探偵ゴッコはおしまいかい?」
「な、なんで知って・・・」
 言いかけて口をつぐむ。照はくすくす笑っている。
 の稚拙すぎる追尾は、照にもバレバレだったらしい。
「ごめん・・・」
 穴に入りそうに、小さくなってしまう。
「いいよそれでの気が済むなら。何もやましいことはないし」
 ここじゃ寒いから、と、促して歩き出す。
 いつものように隣につけば、なんともいえない安心感が生まれる。ほっと息をついてから、は照を見上げた。
「やましいことはないって・・・でも、さっきの男の人は・・・」
「男の人?」
「照と同じジムに入っていった人が、さっきここにもいたの。誰なのあの人」
「・・・さあね」
 どことなく上の空なのが気になって、じっと見ていると、照は天を見る目つきで一寸何かを思っているようだった。だがすぐに微笑みかける。
「誰であろうと気にすることはない。全ては予測済みのこと・・・」
 そう、神の考え通り、全てことは運ばれるのだ。
 が不思議そうな顔を向けている。半ばうっとりと独白していたことに思い至って、苦笑した。
「そんなことより、ちゃんとごはん食べた?」
「尾行といえばあんパンと牛乳でしょ。キッチリ電柱の陰で食べたわよ」
 結構、楽しんでいたらしい。
 ほどなく照のマンションに着いたので、鍵を開けて、二人で部屋に入った。

 こっそりと見守ると、ジェバンニは落ち着かない気持ちで踵を返した。
 尾行がバレたかも知れない。自分がヘマをしたというよりは、不可抗力のような気がするが、そんな言い訳はニアに通じはしないだろう。
「はあ・・・」
 大きすぎるため息が、舗道に落ちた。

「コーヒーでも飲もうか」
「コーヒーじゃなくて・・・ねぇ」
 しなだれかかって合図を送ると、コートを脱ぐより先に抱きしめてくれた。
「疑っちゃってゴメン」
 心地よくて目を閉じて、照の腕の中で素直になれる。
「いいよ・・・」
 包み込み、そのままの気持ちでキスをした。
「僕もそんなに器用じゃないから」
 好きなのはだけだよ。
 とろんと見上げる瞳が可愛い。もう一度、何度も、口づけた。
「照・・・」
 小さな声でしがみついてくるからたまらない。

 キスだけで離すわけにはいかなくなる。
「・・・でも、遅くまでいちゃダメなんでしょ?」
 少し意地悪く問うけれど、「明日も仕事だろう」とあっさりかわされた。それでいながらキスもやめないし手も伸ばしてくるんだから、どこが器用じゃないんだか。
「もう少しの我慢だよ。お互い」
 愛しいに、不満を抱かせているのは分かっているけれど。神が治める新しい世界を、二人で見るためだ。
「もうすぐ、一緒に暮らせる日が来るから」
(・・・なにそれ、同棲!? 結婚!?)
 今までそんな話をしたこともないのに。急に言われ、驚きすぎて声も出ない。
 だがベッドに横たえられれば、思考を続けることが困難になってゆく。
 今の話は後に大事に取っておこう。
 ただ幸福感は溢れそうで、こぼさないように目を閉じ、愛を受けた。





                                                             END



       ・あとがき・

もしも照に彼女がいたら、ライトに選ばれ忙しくなった照に、不満を持つかもしれない。
そんなドリーマービジョンでジャンプを立ち読みしているうちに出来た話です。
照ならノートにキッチリ名前を書くために、恋人も帰して一人になるんじゃないかな。そして時間を決めているから、自分が恋人のところにいてもサッと帰るんだろう。そうするとお泊りナシ!?
あるときから突然そんな態度を取り始めたら、恋人に浮気と疑われるかも知れない。尾行していてジェバンニとハチ合わせたら面白いな。
こんな流れで。

しかしジェバンニにとっては計算違いもいいとこだ。
照は、自分が調べられることくらい分かっているハズだから、何とも思わないだろうけど。

照って京都なんだよね。ということは京都弁なんですか?
本編を見る限り、京都弁で喋っているふうではないんですが・・・いや今さら照に京都弁で喋られても違和感が。
考えてみれば、本編では照あんまり喋ってませんね。
だから恋人に対してどんな言葉遣いなのか、よく分からないんですよ。「僕」って一人称とか、こんな感じでどうでしょうね?


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