タンドゥルプワゾン


 が事務担当として零武隊に配属されてから、はや数か月が過ぎた。
 仕事の能率が格段に上がったと、日明大佐はご満悦。一方、若い隊員の間では、争奪戦が水面下で繰り広げられていた。
 は渦中の人であることも知らず、日々自らに課せられた職務を誠心誠意遂行している。
 今日も今日とて、備品のチェックと整理のために、ひとり倉庫へ向かっていた。
「さて、と」
 薄暗い倉庫は埃っぽく、棚や床に雑多な物が置かれてある。
 は、備品一覧表と鉛筆を手に、どこから手をつけたものかと進み入った。
 コッ・・・。
 足に何かが当たった感覚に、目線を下向ける。
 小さなそれは、ころころと床を転がり、側面の壁に当たって少し戻ってきた。
 小瓶なのだと気付き、近寄るとそっと拾い上げる。
 何も書かれていない透明な瓶は、何やら水のような液体で満たされている。何の気なしにふたを開けてみると、中身が一滴、こぼれ落ちた。
「あらら」
 書類を汚してしまう。は元のようにふたをした小瓶を、ポケットにしまっておいた。
 仕事にかからなくてはならない。
 再び鉛筆を持ち、その先を舐める。
 鉛筆を舐めるのはやめた方がいいと、大佐に再三注意を受けているのだが、一人きりだったのでつい癖が出てしまったのだ。
 鉛筆の先が、の舌に少し触れた、その瞬間。
「・・・うっ!」
 短く呻くと、胸を押さえるようにして、はその場にバッタリと倒れてしまった。

「やっべーどこ落としたかな・・・」
 零武隊一のやんちゃ者で借金王の毒丸は、捜し物をしていた。
 新しく手に入れたばかりの毒の小瓶を、どこかに落としてしまったらしいのだ。早く見つけないと・・・、もし誰かが間違えて飲んだりしたら大変だ。
 午前中、物を取りに行った倉庫かも知れない。そう思って、急ぎ駆けつける。
「−!?」
 扉を開けた毒丸の目に飛び込んできたのは、書類を投げ出して倒れこんでいる、の姿だった。
っ!」
 一も二もなく駆け寄って、抱き起こす。ころん、とポケットから転がり出た小瓶を見て、毒丸は色を失った。
 それこそが、彼の捜し物の、毒だったのだから。
「飲んだのか・・・!?」
 しかし中身は減っているように見えない。口にしたとしても、ほんのわずか・・・もしも早いうちなら、まだ助かるかも知れない。
 頭の中いっぱいに考えを巡らせながらも、行動は迅速に。懐から解毒剤を取り出すと自分であおり、口をの青ざめた唇に押しつけた。
「しっかりしろ」
 口移しで飲ませ終わると、膝に抱いたまま呼吸や脈を確かめる。
 そうしているうちに、はゆっくりと、目を開いた。
 口にした毒は、偶然鉛筆の先に落ちたただ一滴。そして毒丸が来たのも、が倒れた直後だったため、幸いにも大事に至ることはなかったのだ。
「・・・良かった」
 思わずぎゅっと抱きしめる。
 腕の中でが身をくねらせるので、毒丸は慌てて体を離した。
「おい、大丈夫か」
 先ほどの血の気のない様子から一転、の顔は赤く上気し、荒い吐息が半開きの唇からしきり迸っている。
 とろりと潤んだ瞳は、焦点定まらず、それでも毒丸の方に向けられていた。
 あられのない姿に、毒丸の欲情は直撃されたが、持てる理性と思慮を残らず発動させそれを抑え込む。それでなくても先ほどの口づけ(薬を飲ますためだったが)を思い出すと、浮かれ疼いてしまう毒丸にとって、大変に困難なことではあったが。
、俺が分かるか?」
「・・・どくまる・・・っ、体が・・・変・・・熱っ・・・」
 胸元に手をやり、服を緩めたい仕草を見せる。
 毒丸は確信した。
 体にわずか回ってしまった毒が作用して、の体に熱を持たせている。それだけではない、触覚を鋭敏にして、性的な興奮を引き出す・・・そう、媚薬と同じ効果をもたらしているのだ。
・・・すまねぇ、俺の不注意で・・・。けど、その毒は少しすれば抜けるから。俺がいちゃ都合悪ィだろ、すぐ出て行くよ」
「・・・まって、いかないで・・・」
 疼く・・・体が。気が狂いそうだ。
 立ち去ろうとする毒丸を、あえぎながらは必死に止めた。
「ここにいてよ・・・」
 服の裾を引かれて、毒丸はたじろぐ。
「ま・・・まじいよっ・・・分かるだろ、俺ギリギリだよッ」
「わ、私もギリギリよ・・・お願い、私を楽にしてちょうだい・・・」
 ただ喋るだけの声も、鼻にかかって色っぽい。
 は自分で服に手をかけ、上着を脱いだ。肌に布が触れるのすらわずらわしいとばかりに、ブラウスも脱ぎ捨ててしまう。
 白い下着が眩しくて、毒丸は顔を逸らした。その首ったまに、は抱きつく。
「ねっ、毒丸・・・私、あなたのこと好きだから・・・どんなことされても、いいの・・・」
 熱に浮かされ、自分の声なのに他人のもののように遠く聞こえる。
 だが言葉に偽りはなかった。
 あまたの男性に囲まれながら、の想いは毒丸にだけ向いていた。
 こんなところでこんなふうに気持ちを伝えるつもりなんてなかったから、自分でハッとしてしまったけれど、目の前には毒丸の満面の笑顔があった。
「マジ、やった! 俺もお前のこと好き・・・って、ここのヤローども皆、お前狙ってっけどさ・・・」
「んん・・・毒丸早く・・・もう我慢できない・・・。後で責任取れなんて言わないから、お願い・・・」
 毒が言わせる大胆で淫らな懇願は、を遅れて羞恥させ、毒丸を狂喜させる。
「いや責任でも何でも取る! むしろ取らせて! 嫁にもらう覚悟ならいつでもあるから!!」
 いそいそと服を脱ぎ出して、床に広げた隊服の上にを寝かせると、性急にのしかかり口づけた。
 先ほどは味わういとまもなかったの柔らかな唇を、思う存分むさぼりながら、下着越しに胸を揉む。
「−嫌ッ・・・そんなだとかえって苦しい・・・直接・・・早く・・・」
「そうかァ・・・淫乱なんだァちゃん・・・」
 ニヤニヤしている毒丸を、精一杯にらみつける。
「毒のせいよ、分かってんでしょ・・・!」
「ヘヘッ・・・」
 毒薬使いで良かったなァ、などと浮かれながら、下着を取り去り、小ぶりの双丘をもてあそび口に含む。
「柔らかい・・・すっげー可愛い」
「ああ・・・」
 色めいた声を出して、よじらす身体から、全ての衣服を脱がせると、の中で一番敏感な場所へ指を潜らせた。
「すげ・・・下に敷いてる服に零れてる」
 意地の悪い言葉に、体をずらそうとするを押さえ込み、熱くたっぷりと潤った蜜壷をかき回した。
 顔を寄せ、耳に直に囁きこむ。
「いいよ、俺の隊服、汚してよ・・・のイヤラシイ液でさ・・・」
「・・・っ、だからそれは・・・ッ」
「でも俺思うんだけどさ、もう切れてんじゃねぇ?」
 赤くなった肌はそのまま、荒い息はますます激しくなるばかりだけれど、の目は正常なものに戻っている。
 自身は、言われて初めて気がついた。
「え・・・っ」
 倦怠感は引きずっているが、感覚を変に増幅させられているような不快感は、きれいになくなっている。
 自分が自分に戻っていた。
「やだ・・・」
 執務時間中に、倉庫の中で、隊の男と情事の真っ最中。
 現状をいやに客観的に認識して、若干、うろたえてしまう。
 たが。
「じゃあ・・・もうやめっか」
 やんちゃ坊主の顔で言われて、頷くわけにもいかない。
 今や自分自身が求めている・・・毒丸の全てを。
 認めぬわけにはいかなかった。
「・・・やめられないクセに」
 それでもシャクで、憎まれ口で返すと、毒丸はにへらっと笑ってズボンを脱ぎ始めた。
「うん、やめられない」
 の脚を開かせ、入り口にあてがう。
 きっと、本当の媚薬は、ここにある。
「・・・好きだよ、。俺とひとつに、なろ・・・」
 もう一度、優しく、接吻を落とした。
「・・・あ・・・」
 は正真正銘、嫁入り前の娘だったけれど、小さな体に毒丸をいともたやすく受け入れた。
 あるいは、まだ毒の名残りが働いていたのかも知れず、苦痛よりも初めての性の悦びが、ぞくぞくとの全身を駆け巡る。
「・・・毒丸っ・・・」
「俺・・・っ、とこんなコトしたいって・・・思ってた、ずっと・・・」
「ひぁ・・・あ・・・っ」
 夢だった行為は夢よりももっと鮮やかで強烈な快感となって、毒丸に更なる高まりをもたらす。
 のよがり声を聞きながら、ただただ、突いた。
 そのまま果てるまで。

「すげぇ、幸せ・・・」
 思わぬ事故で、恋が実ったばかりか、究極の関係にまで発展してしまった。
 ぐったりしているを抱いて、毒丸は何度も口づけた。
は俺の嫁さんなっ。うまくいけば、赤ん坊もできるかも・・・」
 本物の家族が出来る。それは毒丸にとって、何より嬉しいことだった。
 子供みたいな素直さが心に染みたから、は黙って、されるがままになっていた。

 それから、数日後。
「あーあ、あれから、何もさせてくれねェんだもんな・・・今更貞操も何もあったもんじゃねーだろーに」
 恋人同士にはなれたけれど、体の交渉に持ち込もうとすると、にべもなく拒まれてしまう。
 嫁入り前の潔癖さが、煩悩だらけの若い男には正直疎ましい。
 残念なことに、子供も出来なかったようだし・・・。
「もう一回アレ飲ませちゃおっかなー、でもヘタすりゃ命の危険が・・・。ちょうどいい媚薬に出来ないかな」
「オヤ毒丸くん、何をブツブツ言ってんですかね」
「いやちょっと媚薬を・・・」
 口走ってから振り返る。
 丸木戸教授は、若者の呟きを聞き逃さず、ククッと笑って接近してきた。
「媚薬なら、いいのを持ってますよ。分けてあげましょうか」
「えっ、えっホント!?」
 この人の言うことだから、胡散臭い。だが劣情に勝てず、毒丸は乗ってしまった。

「なッ、今夜二人きりで出かけようぜ・・・何もしないからさっ」
 毒丸が誘いかけると、はいいよ、と頷いた。
「今夜が楽しみだな〜〜」
 あやしげな下心を笑顔に隠し、スキップで去ってゆく。
 毒丸のポケットには、小瓶が忍ばせてあった。

 その夜は、きっと眠れない。
 甘い毒に身も心も沈め、二人行き着くところまで・・・。
 





                                                             END



       ・あとがき・

毒丸、というリクエスト二票いただきました。
当初は違う話を考えていたのですが、「微エロ」というのと「裏」というリクだったので、間を取って(笑)、普通のエロにしてみました。
微エロという匙加減が、私よく分からない・・・。

毒丸の毒が媚薬になってしまう。と考えて、どうやって毒を口にするのか、というのと、場所はどこで、というので色々考えました。
この時代だと女の子一人暮らししてないだろうし、零武隊に女の子を引っ張り込むわけにはいかないだろうし、ラブホもないだろうし。
それなら零武隊所属の子にしてしまえばいいか。ということで、事務員になりました。

タイトルは香水の名前からもらいました。英語で言うとテンダーポイズン、優しい毒。
ポイズンよりプワゾンという響きが好きで、プワゾンって小説のタイトルに使ったのは三度目です。




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