セイント・シンドローム
「特にイタリア語が好きで、よく習いました」
「へえ、俺もイタリア出身」
「あら、そうなの?」
身を乗り出しすぎのデスマスクを、沙織が後ろから引っ張り戻そうとするが、の反応が良いのを見てますます調子に乗っている。全然懲りる様子もなく、
「これも何かの縁ってやつだよな、この後一緒に飲まねぇ? オゴるからよ」
さっきは自分の食事代も出ししぶっていたクセに。あきれ返る沙織とシュラを尻目に、嬉々として誘いを重ねるデスマスクだった。
ねばった甲斐があり、その後とワンショットバーで二人きりになることができた。
アテナとシュラは、また余計なことを言うんじゃないかといい顔をしなかったが、大人のプライベートをとやかく言われる筋合いはない。
大人といえば、が実は自分よりも8歳ほども年上だと知って驚いた。本当に日本人って、幼く見える。
だが年の差なんてどうでもいい。
今夜、落とすと決めていた。
「星がきれい」
店を出たころには、もう日付も変わろうとしていた。
「本当にご馳走になっちゃっていいの?」
「ああ」
それくらい、これからのことを考えれば全然惜しくない。
「じゃ、ごちそうさま。私タクシーで帰るわ」
ひらひらと振るその手を、つかまえた。
「まだ、いいだろ」
相手もこれくらいでは動じない。フフッと笑うと、何気もなく振りほどき、
「ごめんね、明日も仕事だから」
・・・誘われ慣れ、している。
この余裕、そして少しの隙が、デスマスクの気に入っていた。
「それじゃあね、楽しかったわ」
「−セイント」
背を向けかけたとき、その声が聞こえ、反射的に向き直る。
デスマスクは少し斜に立ってこちらを見下ろしていた。どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべた口もとから、の心を一番揺さぶる単語がこぼれる。
「黄金聖闘士のこと、知りてえんだろ」
「あなたが、知っているっていうの?」
派手なネオンを受け、彼の髪が赤や青に染まる。
夜の街が似合う男だな、とぼんやり思っていた。
「よ〜っく、知ってるぜ」
もったいぶりながらも、デスマスクはさっき止められたことを、きっぱりと口にした。
「なぜなら、この俺が黄金聖闘士なんだからな」
単純に、気を引きたくて。
子供じみてはいるけれど、アルコールとを求める気持ちでぐらついた心ではそれが精一杯、後のことなど考えられやしない。
アテナのお叱りなんざ怖くない。今夜、を手に入れられなくてどうするというのか。
さて、彼女の反応は?
「ふ・・・ふふふふふっ」
じっと見守る先、は笑った。
「何言ってるのよ。聖闘士は神話の時代からの、選ばれた希望の闘士・・・中でも黄金聖闘士は高貴といってもいい存在だわ。アナタみたいな、いかにも俗っぽい人が、聖闘士のハズないじゃない」
ずい分な言われように、さすがにムッとした。
「高貴だぁ? テメエのこと拝めなんて強要したり、バラくわえてたり、脱皮したりって奴らの集まりだぞゴールドなんて」
自分の死人仮面コレクションのことは棚に上げている。
「なにソレ」
「黄金聖闘士なんていっても、所詮は生身の人間に過ぎないってことさ」
不夜城を遊び歩いたり、一人の女性を好きになったり・・・。
もう一度、手を掴む。今度は拒否されなかった。
「面白い人ね」
苦し紛れにも見える妄言だ、黄金聖闘士だなんて、信じられるわけはもちろんない。ただ、自分を求めんがためにここまで必死なデスマスクを、かわいいと感じた。
手を握られたまま、見上げ微笑む。
いつもなら絶対に乗らないような誘いに、応じてみてもいいかな、という気になっていた。
肩を抱かれれば、あとは無言で寄り添って。
ふたり夜の光の海へと、紛れてゆく。
「来いよ。黄金聖闘士のカラダ、たっぷり味わわせてやる」
「まだ言ってる。もういいのに」
少し呆れたように、それでも言われるまま近付く。
抱き寄せられると、ボディソープのいい匂いがした。
狭いホテルの一室に特有の圧迫感も、今夜はいとわない。今やも、彼を求めているのだから。
「確かにいい体してるよね」
バスローブのあわせから、鍛え上げられた胸の筋肉が見える。がちょっとドキドキしながら手を添えると、デスマスクはそれを脱ぎ捨ててしまい、その自慢の体にを押し付けるように強く抱いた。
「も、見せろよ」
「そんな見せるほどのものじゃ・・・」
と言っている間に脱がされている。明かりは落としてあるけれど、やっぱり恥ずかしい。
「ん、俺ごのみ」
ほんの軽いキスをひとつ。そしてベッドへなだれ込む。
「もう朝か・・・」
「ん・・・」
カーテン越しの陽光に、あられのない姿を暴かれると、しらじらと照れくさい気になってくる。
だけれど余韻を求めるように抱きしめられ、は素直にデスマスクの胸に額をくっつけた。
こんな朝は、久しぶりだ。
「あー、腹減った」
「朝食を頼みましょうか」
受話器を取ってオーダーすると、ほどなくおいしそうな食事が運ばれてくる。はデスマスクとソファに並んで座り、それらを平らげた。
こんなに、心躍る、楽しい朝は・・・。
この人を好きになったのだろうか、と自問して、は自分で可笑しくなった。
聖闘士なんて手の届かない存在に心とらわれているうち、現実の恋から遠ざかるはめになって。要するにアンテナが鈍っている状態なのだから。
隣にいる人を好きだなんて、早計すぎる。
「」
ぼんやりと、そんな色々を考えていたら、眼をとらえられた。
上半身裸ですぐそこに座っているその姿に、ドキドキする。改めて見ると、顔立ちも男前だし・・・。
「また、会えねえか」
「えっでも、普段は日本にいないんでしょう」
昨夜、料亭ではそういう話だった。
「に会うためにだったらすぐ来るさ。何たって黄金聖闘士は、光速で動けるんだからな」
「・・・もう本当にいいってば、それは」
「何だその目は、おめえまだ疑ってんのか!? 俺様が黄金聖闘士だって言ってんだろ」
「ハイハイ、分かりました」
完全に、バカにしている。
今度会うときには、黄金聖衣を着てきてやる! と決意するデスマスクを、
「黄金聖闘士じゃなくても・・・」
優しい目をして、は見上げた。
「私、貴方のこと、けっこういいなって思ってるのよ」
デスマスクの表情が緩む。やんちゃな子供を思わせる無防備さに、またときめいてしまう。
「じゃあ、また次もあるってことだよな」
「かもね」
曖昧にしか答えられなかったのは、大人の余裕だとかそんなのじゃなくて・・・、溺れるかもしれないと、臆病になっているから。
それを知ってか知らずか、デスマスクはためらいなくを抱きしめた。
強く強く、逃がさないかのように。
「絶対−」
そのままその場に組み敷いて。
「ちょっと、もう行かなくちゃ・・・」
軽く抵抗しながらも、徐々に強まる刺激に、も流されてしまう。
・・・流されるのも、いいかも。
自称ゴールドセイントを抱きしめ返して、は微笑んでいた。
全てキッチリしなくても、こんなふうでも、いいのかも。
「絶対、な・・・」
キスをした。
約束を刻み込むように、深く長く、キスをした。
・あとがき・
カウンタ43210ゲットの迦葉さんリクエスト、デスマスクドリームです。
年上ヒロインというご希望だったのですが、なかなかアイディアがひらめかず、お待たせしてしまいました。
普段はヒロインの年齢をハッキリさせないで書いているし、年下ヒロインの方が好きなので、悩んでしまったのです。
でも、あるときぽっと生まれてきた。
より身近な感じに、と考え、日本人ヒロインにし、いつもお仕事頑張ってらっしゃる迦葉さんを思い浮かべ、キャリアのある女性にしてみました。
仕事バリバリできるけれど、思いやりがあり物腰の柔らかい雰囲気・・・というふうにイメージして書きました。デスマスクはちょっと可愛くなっちゃったかな? 年上ヒロインだという設定がハッキリしていると、必然的に年下を意識せざるを得なくて、こんな感じに。でもこんなのもいいかも。
自分が黄金聖闘士だと激白し、しつこく言うんだけど、ちゃんには全然信じてもらえないって辺りが面白い。
ホテルは最初は安っぽいラブホテルにしようかと思ったんだけど、ちゃんのイメージに合わないので、シティホテル風に変えてました。ルームサービスで朝食なんて、ちょっと素敵だなって。
大人になるほど、恋には臆病になるんだけど、ここはちゃん、是非飛び込んで行って欲しいですね!かづな初のマルチエンディングドリームです。
シュラ編もお楽しみくださいね。
H17.7.12
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||