あなたのそばに



「あっごめんニア、今ジェバンニに呼ばれてるから」
 ちらっと目をくれただけで通り過ぎ、行ってしまう。
 親しげに、時折笑みをこぼしながら何かを話し合っている二人・・・仕事のことだとは分かっているけれど・・・。
(・・・・・っ)
 手のひらが熱く脈打っているのに気付いて、ようやくに張り付けていた視線を下向ける。
 白い肌の上に、鮮やかな赤。
 ロボットのおもちゃを力一杯握り込んでいたせいだ。手から血が流れていた。

 ガシャーン、ガラガラ、ドサッ・・・!
「おもちゃ部屋」・・・飽きっぽいニアが見向きもしなくなったおもちゃをが拾って片付けているうちに、ひと部屋を占領するまでになった・・・。そこから、派手な音が立て続けに聞こえてくる。
「何があったのか、とにかく大変みたい。頼んだわよ
 ハルにぽんと背を押されて、は多少びくびくしながらもドアを開けてみる。
 床に散らばったおもちゃ−破損しているものも少なくない−と、部屋の奥で尚やまない物音に、気後れを感じてしまう。
 でも放ってはおけない。仮にも恋人なのだから。そう自分を励ましながら、足を踏み入れた。
 部屋の中にはいくつか棚を置き、物を片付けられるようにしていたのに、今や見る影もなく荒らされている。
 痛々しさに眉をひそめながら一番奥まで辿りつき、棚の陰を覗き込むと、ニアがこちらには背を向けて、乗り物のプラモデルを自分の足元に叩きつけているところだった。
 ガチャ、と音立てて転がったおもちゃを、座り込んで拾うと、更に目前の壁に投げつける。
 鬼気迫るというよりも、それはかんしゃくを起こした子供のような仕草だった。
「・・・ニア」
 ごちゃごちゃしたおもちゃ、壊れたものたちに囲まれて、尚も破壊し続ける姿は異様ではあるが、は躊躇なく声かけをした。ニアの白い背中に、どうしようもない苛立ち、不安定な心の大波を、見ていたから・・・。
「来ないでください」
 振り向くこともせず、ニアはとんがった声を出した。
のことも壊してしまいます」
 手の中でまっぷたつになったプラモに、彼女の姿を重ねる。
 痛みよりも愉悦を感じる自分は、狂ってる。
 そう、狂ってる・・・。
 理性や意思では御しきれない衝動を、ひとりでおもちゃ相手にぶつけるしか手立てもないほどに。
「どうして・・・」
「・・・他の男と話していました・・・」
 はすぐに思い至った。
 ニアに呼ばれたのを軽く受け流して、ジェバンニと笑いながら喋っていたこと。内容は仕事のことだったとはいえ、の心にも、ひっかかっていたから。
「頭では、全部、分かっているんです」
 心変わりなんてないことも、気軽に話せる関係の方が、仕事を円滑に進める上でも良いということだって。
「だけど感情を止められない・・・」
 自分で自分が分からない。自分で自分を止められない。
 どんなときでもパズルを解くような冷静さを失わず、Lの後継者として有力視されていたニアの、それは初めての戸惑いだった。
「・・・大丈夫だよ・・・」
 がちゃがちゃと、おもちゃをよけながら、ようやくたどり着く。ひざ立ちになって、ニアに抱きついた。
 男にしては小さく華奢な背中を包み込むようにすると、綿毛のような髪が頬にくすぐったい。
「止められないときって、誰にでもあると思う・・・。そうしていて気が済むなら、思う存分やればいいよ・・・」
「・・・を壊したくなったら?」
「それは困るなぁ」
 いいわよ好きにして。と言える潔さがないのが、我ながら情けない。
 だけど、ニアのこわばった身体から力が抜けてゆくのを、腕の中感じ取っていた。
「・・・私のことを、好きですか」
「好きよ」
 笑いも茶化しもせず、真摯に応え、背中に額をくっつける。
 無条件に愛されることに未だ慣れず戸惑うニアを、ただ抱きしめた。

「何でもします・・・のためなら・・・」
 荒い息の中、精一杯告げる声が、痛々しく胸に迫る。
 ベッドの上、素肌を触れ合わせながら、はニアの髪や背を何度も撫でた。
「大丈夫・・・私はいなくならないから・・・」
 信頼して。
「そばにいるから・・・」
 おそれないで。
・・・」
 柔らかな胸にすり寄るようにして、言葉をかみしめ、泣きそうな気分で頂に吸い付く。
 一番近くにいられる方法だと気付いてから、ニアは、とこうして夜を過ごすことをとても好むようになっていた。
 精神的に不安定な時期など、毎晩のように部屋に誘われることもある。それでもは、一度たりとも退けたことはない。
 近くに来て欲しい、そばにいて欲しい。その望みを満たしてあげられるのなら、喜んで全てを差し出そう。
「・・・いいですか」
「うん・・・」
 繋がる準備はとうに整っている。
「・・・・・・」
 小さく吐く息、ニアの熱い声が耳に触れ、びくり震える身体で、受け入れる。
 上がってくるぞくぞくに、もまた息を深く吐いた。
 技術も体の感覚も、未だおぼつかない二人の交わりではあったけれど、じかに触れ合っているという実感を、一番大事にしたいから。
「ニア・・・ニア」
 痛いくらいに抱きしめて。
・・・もっと」
 これ以上はどうやっても近くなれない。もどかしさは言葉にならず、ただやみくもに奥を探った。
・・・!」
 いっそ細胞までひとつになれたら。

 離れるのをいやがるニアのために、は添い寝をしてあげる。
 身には何もまとわず、寄り添う優しさは母のもの。
 深い愛情に包まれて、ようやくすやすや眠りについた、子供のような横顔を見つめていた。
 天才的な頭脳を持っていながら、こんなにも危なっかしい。その偏りはにとって切ないものだった。
(私も、何でもしてあげる。ニアのためなら・・・)
 毛布をずり上げてから、も目を閉じる。
 ニアの体の、ほの甘く清廉な匂いを感じながら、柔らかい夢の中へ共に落ちゆくことを望んだ。










                                                                END




       あとがき


「The Road to Nowhere」を書いたとき、ニアでもこういう話を・・・というリクエストをいただいたので、考えてみたお話です。
でもあまり乱暴とかクレイジーな感じにはなりませんでしたね。
ニアはLよりも子供で、不完全で、不安定だから、どうしても。

ラストの辺りは、ラルグラドで、ミオ先生が胸出してラルに添い寝してあげていたシーンから。
私は母親なので、子育ての本など読んだりしますが、子供の頃に与えられなかった人は、大人になってからも求めると書いてあった本がありました。
赤ちゃんのころの、「だっこ」「おんぶ」「おんも」なんかには、十分に応えてあげればいい。そうすると安心と安定を得て、健全に育つそうな。
そうじゃないと、大きくなってから歪んだ形で出てくることがあるって。
ここではニアもそんな感じで、頭がいいということでしか周りの人には評価されなくて。今、ちゃんという恋人を得たから、小さい頃得られなかったものを満たしてもらいたがっている・・・うーんうまく言い表せないけど、そんなふうに書いてみました。

「ニア」という名前の連想から、このタイトルでドリームを書きたいな・・・と実はかなり前から考えていたのを、今回ようやく書けました。







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