光に満ちたキャンパスのお昼時間は、賑やかで楽しげで、何となく身の置き場がない。
そういうわけで、植え込みの陰になっている芝生に一人さ迷い込んだLだった。
両膝を立てて座り、背を丸め箱の菓子を食べ続ける。
ボリボリ、ボリボリ。
「流河くん」
上から声が降ってきた。
見上げると、知った顔・・・知った顔どころか、ちょっといいなと思っていた子だったので、自然に顔がほころんでしまう。
「
さん」
「それ、お昼?」
チョコレート菓子を覗き込まれると、ちょっと気恥ずかしい。
は笑いながら、後ろ手に隠していた包みを出した。
「お弁当、作りすぎちゃったんだけど。良かったら一緒に食べない?」
Lは思わず辺りを見回してしまった。他に人影はない。いつもは口にくわえている親指で自分を指すと、
は心もち赤い頬で、こっくり頷いた。
信じられない、嘘みたいだ。
女の子(しかも好みの)と隣同士座って、手作りお弁当を一緒に食べているなんて。
こんなのは、ライトみたいな見目良い男にしか起こり得ないことだと思っていたのに。
「おいしい?」
「はい、とっても」
実は味など分からなくなっていたので、口で答えてから意識してみると、本当に美味だった。
「
さんは、料理が上手ですね」
「えへへ。口に合って良かった」
かわいいなぁ、と思う。ちょっといいな、くらいだったのが、もう好きになってしまいそうだ。
気が付くと、あらかたお弁当箱は空になっていた。もっとゆっくり食べれば良かったと、ちょっぴり後悔していると、手提げ袋をさぐって
が小さな紙袋を取り出した。
「デザートもあるよ」
現れたのは紙カップの茶色い焼き菓子・・・カップケーキかマフィンか。手渡されたそれを両手に持ち、Lは幸せそうに匂いを堪能していた。
甘い甘い、チョコレートケーキの香り・・・。
「これも私が作ったの」
手作りだなんて、手作りのお菓子だなんて!
ほとんど捧げる仕草で「いただきます」を言い、紙もはがさずいきなりかぶりつく。
決して行儀がいいとはいえないけれど、大事そうに持ってのその食べ方は、
にとって不快ではなかった。
「やっぱり甘いものが一番みたいね」
微笑んで、見守っていた。
お弁当にデザート、全部が二人の胃におさまってしまった後でも、
は立ち上がりはしなかった。
流河と並んで芝生に座り、言葉も少なに空や流れゆく雲などを見上げていた。
Lは自分の膝に顔を埋めるようにして、親指の爪をかじっている。そうしながら横をちょっと盗み見ては、ほのかだけれどいい気持ちに浸っていた。
キラのことや事件のこと、入り組んだ色々も、確かに今、忘れていた。そのことに気付いた瞬間、軽い驚きに見舞われる。
四六時中頭から離れず、またそれが日常だったはずなのに。
ごく普通、というのは、こういったことなのだし、それを運んでくれた
という女性を、本当に好ましく、愛しい存在だと感じていた。
「流河くん」
目が合った。見過ぎていたかな、とドキリ。
はその不思議なほど黒く深い瞳から、逃げようとはしなかった。そしてやわらかく微笑み、こう言った。
「また、一緒に食べたいんだけどいい? 作ってくるから。デザートももちろん・・・」
「
さん」
たまらず逸らしてしまったのはLの方だった。足元の短い草を見つめながら、ガリガリ爪をかむ。
「そんなことを言われると、期待するし、うぬぼれてしまいます」
いつもより早口になっている。彼女の視線を、まだ感じていた。
はずっと隣を見ていた。ほんの少しだけ身じろぐ。
「いいと、思います」
彼の口調がうつってしまったのが自分で可笑しくて、軽い笑い声を添える。
それに誘われるように、Lはもう一度顔を上げた。
思いのほか近くにあった
の笑顔に吸い寄せられ、もっと近付く。
自覚はなくて、気が付いたら触れていた。
さっきまで爪をかんでいた口で、彼女の唇に、触れていた。
「・・・・」
「−すみません・・・でも」
口もとに手を当てて言葉をなくしている
の、まん丸の瞳が可愛い。もう、逸らせやしなかった。
「
さんのことを、好きになってしまったみたいです」
「そっそれはちょっと、急というか、早すぎるんじゃ・・・」
としては、嬉しいけれど戸惑わずにいられない。
「・・・だめですか」
こんなに、寂しそうな顔をして見られては、たまらなくて。
は急いで首を左右に振った。
「だめってわけでは・・・。私も流河くんのことが気になっているから、こうしてるくらいだし」
「ではお友達から、というやつですか」
「う〜ん、いや、そういうつもりでも」
流河は真剣だけれど、その言葉に弄されている自分に気付いたとき、
は笑いたい気分になった。
そんなにハッキリ定義しておくべきものでもあるまいに。
「ゆっくりで、いいんじゃない?」
再び親指をくわえ始めた流河に、それこそゆっくり話しかける。
「またお弁当とデザート作ってくるから、こうしてお話しよう」
「
さん」
見上げていると涙が出そうに澄んだ空やみずみずしい芝生なんてもの、自分に似合わない気がする。
命をかけた捜査のただ中にいる今、「ゆっくり」なんてしていられないのかも知れない。
だけど、Lは、頷いていた。
のまとっている空気−ゆったりとして、あたたかい−に包まれるのは、こんなにも快いことだから。
「さっき言ったことと、したことは、忘れてください」
「それはムリです」
また言葉がうつってしまった。
は笑う。流河も、ぎこちなく笑った。
ゆっくりと・・・ゆっくりと。
・あとがき・
Lのドリームとして最初に浮かんだネタです。
大学のシーンって、Lが外にいるという稀少なシーンなんですよね。
大学なら普通の女性と普通のほのぼのした恋が生まれるんじゃないかと。Lはミサちゃんのファンだったり、「好きになりますよ?」と言ったり、普通に女の子に興味があって割と積極的なのだと思います。
そういうシーンからのインスピレーションでこんな話ができました。
何気ない感じ。不意打ちのキス。
Lは自分のところに女の子が来てくれたことにビックリしてますが、コンプレックスというよりは自分がまわりにどんなふうに映っているのか分かっている、といったところではないかと。
それにしても ちゃん、お目が高い! そして天才の流河くんに堂々と近付いてしっかりアピールするなんて、なかなかものですね(笑)。
H17.11.18
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