近頃、カレシの様子がおかしい。
 決して短くはなく、且つ浅いと言えない付き合いだ、の女のカンが告げている。
 彼−ナオトは、何か隠し事をしている、と。


 SHOW ME


 一緒にいてもグッタリしていたり、心ここにあらずといった感じだったり。どうしたの? と聞くと、仕事で疲れてて、とか何とか言って無理に笑ってみせるけれど、そんなの嘘だって、にはすぐ分かる。
 この週末も、明日の日曜日は一緒に過ごせるが、今日は残念ながら休日出勤なのだと言っていた。
 だが、今現在、ナオトは自分の勤めている会社には向かっていない。
(怪しいわ・・・)
 帽子を目深に被って、だてメガネをかけたは、こっそりと後をつけていた。
 長く付き合っている彼女たる自分に対し、隠し事なんて、何かよほどのことに違いない。優しいナオトのこと、一人で何かを抱えているのかも知れなかった。
 女の影というのも・・・ないだろうけれど・・・一応、考えには入れて、今日こそは何かを掴むつもりだった。
 だからナオトが会社ではないどこかに向かうのを目の当たりにして、は自分の予感が当たっていたことに半分喜びを覚え、半分不安になっていた。
 ナオトの、黒いダウンの後ろ姿が、閑静な住宅街に入り込んでゆく。は、ドキドキしながら尾行を続けた。

「はーァ」
 思わずついたため息が、アスファルトの舗道に落ちる。
 今日も部長に呼びつけられた・・・休日だというのに。
 まったく五味部長一家と付き合い出してから、ロクなことが起こらない。
 疲れた心をいたわってくれるのは、大好きなしかいないのに、そのと過ごす時間すらこうやって削られてしまうなんて。
 何だかんだ言いながら断れないナオトは、五味邸の前まで来ていた。
「あ、ちィース、ナオトさん」
「・・・ども」
 向こうからやってきたチャラチャラした若者に声をかけられ、軽く頭を下げる。ライバル社リアールのアルバイターなのに、なぜか五味部長の家に入り浸っている黒岩アキラだ。
「君も呼ばれたの?」
「あー、ナンか今度こそネットを教育し直すとか何とかって。まームダだろうけど、ヒマだし行くとこもないから」
「フーン・・・」
 僕はヒマじゃないし、一緒にいたい人がいるんだけど。と思いつつ、ナオトは、不良学生と共に五味部長の家に入っていった。

(むむむっ・・・あの男、ホモ!?)
 電柱の陰から覗き見ていたビジョンでは、ナオトがなかなかカッコ良い年下の男と親しげに言葉を交わし、建物の中に入って行ったように見えていた。
 どう考えても、二人はここで待ち合わせていたのだろう。
 しかも、の知らない男なんて・・・ナオトの友達なら、ほとんど紹介してもらったり一緒に飲みや遊びに行ったりして、顔見知りになっているはずなのに。
(ますます、怪しいッ)
 男に走るのも浮気と呼ぶのだろうか。悔しいやら情けないやら。
 ともかくもは、二人が揃って姿を消した建物の前に回った。
 巨大で変てこりんな建造物は、悪趣味なラブホテルに見えなくもない。
 だが表札が出ており、それを読んだは再び首をひねった。
(五味・・・って確か、ナオトんとこの部長さん・・・)
 ゲームプロデューサーとして世間でも有名な、五味ヒデハル・・・?
 確かにそれほどの人なら、こんな豪勢な邸宅(外観はどうあれ)を構えていても不思議ではないけれど。
(・・・・・)
 休日に、上司の家へ遊びに行く。それ自体は、不自然ではない。
 解せないのは、それをありていに伝えず、休日出勤だなどと偽っていることだ。この自分に対して・・・長い付き合いの中で、何でも見せ合ってきた彼女サマに対して。
 お城のような三角錐の屋根の、旗が風にはためいている。見れば見るほど奇妙な五味さん宅を、仰いだ。
 この家の中に、何らかの秘密があるのに違いない。
 ナオトが自分に対して秘密にしているほどの、何かが。
(・・・よしッ)
 は意を決した。だてメガネを外してバッグにしまい、帽子も浅めに被り直す。
 そして、呼び鈴のボタンに人さし指を伸ばした。
 ピンポラーン。
 能天気な音が鳴り響き、
「はいはーい」
 男の声がしてガチャッとドアが開く。
 メガネをかけた、この家の主が、顔を出した。

 呼び出しをかけたメンツは揃ったというのに、一体誰だろう。と不審がりながらドアを開けたヒデハルは、ちょっと可愛い女の子が立っていたので、面食らった。
(セールスか、それとも宗教か!?)
 女の子の来訪に慣れていないヒデハルが身構える先で、彼女は、どこか思いつめた風情で口を開いた。
「あのっ、突然すみません。ここにナオト・・・あの、大嶋ナオトが・・・」
「へっ? 君、ナオトの知り合い?」
 そこにこの家の天才ベビー、ネットとメディアがしゃしゃり出てくる。ヒデハルが止める間もなかった。
「ナオトなら中にいるぞ!」
「ウェルカムでちゅわ〜」
「え・・・っ」
 喋った・・・!? 赤ん坊が!
「ウ〜サた〜ん」
「ク〜マた〜ん」
 へんな生物が、歩き回っている!
 ナオトが以前気を失った同じ光景を、しかしは意外と冷静に受け止めていた。
 ナオトが自分に何も言わなかった・・・いや、言えなかったその理由が、一瞬にして解明できたから・・・。

「ヘエーッ、ナオトさんって彼女持ちだったんだー」
「我々には今まで一言も言わなかったじゃないか、この照れ屋さんめ」
 両側からアキラとヒデハルに突っつかれ、ナオトは下を向いていた。
「喋ったりしたら、アンタら何しでかすか分かんないでしょ・・・」
 呟きは、以外の誰にも拾われはしない。
 無茶を言いつける上司に、ライバル社のバイト、大人顔負けの赤ちゃん×2、それに謎のバーチャルペット・・・。ナオトの苦悩は、よーっく分かった。
「あんまりナオトをいじめないでくださいね」
 毅然と言ってはみたものの、即メディアに笑い飛ばされた。
「イヤでちゅわーちん、イジメるだなんて!」
「今日だって食事に招待しただけだぞ」
「・・・さっき君たち、僕を人間ツリーにしようなんて言ってたよね」
 お星様やらサンタさんやらのオーナメントが散らばっている床を、アンニュイに見やる。
 やっぱり、そんなところか・・・。は哀れみの目を、彼氏に向けるのだった。

 結局、ツリーは普通に飾り付けることになって、子供たちはもちろん、アキラもナオトも結構楽しそうにその作業に参加していた。
 も仲間に入って、お喋りをしながらきらめくボールや可愛らしいプレゼントの箱などをぶら下げてゆく。
「イヴにはみんなでパーティをしまちぇんこと?」
 メディアの提案に、ナオトははっきり困惑顔をした。
 それはそうだ、二人の間で、もうすでにイヴの約束は交わされているのだから。
 しかし、そんな恋人同士に気を遣ってくれるような大人は、この場に存在しなかった。
「それはいい。ちゃんも来るよね。何しろ我が家の秘密を知ってしまったからには、もう君も仲間だよ!」
 何の仲間か知らないが、勝手に数に入れられている。
 こんなスーパー赤ちゃんが二人もいるなんて、知れてはマズイ。ヒデハルはいつも必死なのである。
「いや、でも僕たちは・・・」
「・・・ま、いいじゃない、ナオト」
 はそっと目配せをした。
「決定でちゅわね」
「ヤッター、友達と過ごすクリスマスなんて初めてだー。スプラッタ映画の鑑賞会も兼ねようぜ!!」
「一人で見とれ、猟奇ホモ男」
「えっやっぱりホモなの・・・?」
「やっぱりって何だー!?」
 ・・・かくして。
 リビングには大きな大きなクリスマスツリーがきらびやかに飾られ、イヴの楽しい計画も立てられた。
 それからみんなは、一緒にご飯を食べたり、ドリームスの最新ゲームやネットたちが作ったゲームをプレイしたりして、外が暗くなるまで遊んだ。

「黙ってて、ゴメン。でもを巻き込みたくはなかったんだ」
 自慢のフェラーリで送って行くという五味部長の厚意は丁重に断り、ナオトはと二人でメトロを使って帰ることにした。
 一番に謝りの言葉を口にする彼氏に、は笑いかける。
「分かるよ。でも、何でも言って欲しいな。ナオトは優しすぎて、一人で抱え込んじゃうから・・・、心配なの」
 そっと、手を繋ぐ。二人とも手袋はしていない。ナオトはの冷たい小さな手を、きゅっと握ってくれた。
「力になってあげたいって、いつも思ってるんだから」
「・・・ありがと」
 繋いだ手を軽く揺らしながら、一緒に階段を下りてゆく。
「でも、いい人たちじゃない。ネットくんたちにはホントびっくりしたけど・・・。ナオトも楽しそうだったよ」
「・・・うん」
 何だかんだ言っても、居心地が良いこと、今はナオトも認めていた。
 気持ちが楽になったせいだと思う。が仲間になってくれたから。秘密を共有してくれたから。
「そーいえば、イヴは・・・」
 あの連中と過ごすことにして本当に良かったんだろうか。絶対、ただのクリスマスパーティでおさまらないだろうに。
「ネットくんたちとパーティするの、楽しそうじゃない」
 お気楽なは、まだあの人たちの本当の恐ろしさを知らない・・・。
「パーティの後は、二人っきりで過ごそうよ」
 一人青ざめていたナオトだったが、ぴったりと寄り添われれば、それもいいかな、二人なら大丈夫かな・・・という気になってくる。
 不思議な力をもらったように。

「今日、泊まっちゃお」
 ナオトのマンションに寄ったはそう言いながら、冷蔵庫を覗き込んだ。
「どうせ明日は一緒にいるんだしね」
「うん、いいよ」
 勝手知ったるナオトの部屋だ、は適当に材料を見繕い、簡単な夕食作りに取りかかる。
 その間ナオトは、仕事であり趣味でもある、絵を描いていた。
 あまり、言葉は交わされなくても、二人の間の空気は、温かだった。

 髪を拭きながらバスルームを出ると、先にシャワーを浴び終わっていたがパジャマ姿で髪を乾かしていた。
 パジャマもドライヤーも、彼女が持ち込んだ物たちだ。今ではこの部屋に、の物がずいぶん増えた。
 一緒に暮らしてみたいな、とナオトは思う。朝に弱いため自分の会社のすぐそばに住んでいるは、引っ越ししたがらないかも知れないけど・・・。
 そんなことを考えているうち、のきれいな髪は乾いたらしく、ドライヤーをしまい出したので、ナオトは近寄ると背後からそっと抱きしめた。
 いやがるそぶりがないのを見て取って、腕を引きベッドに連れていく。
 キスをしながら服を脱がそうとしたところで、初めて拒まれた。
「電気消してよ」
 白熱灯が煌々と部屋を照らしている。自分の下で、は軽く顔をしかめていた。
「・・・消さなきゃダメ?」
 本当はよく見たい。のこと、全部見せて欲しい。
 好きなもの、興味の向くものに関しては、よくよく観察したいたちなのだ。
 だけど。
「ダメッ!」
 当然ながら、思い切り拒否されてしまう。
 嫌なものをあえてとは決して言わないナオトは、黙って明かりを落とした。
 今度はも安心して、身を委ねる。
「ナオト・・・」
、大好きだよ」
 二人の間に隠し事のなくなった今、お互いがますます愛しいものに思えてたまらなくて、たくさん、キスを重ねた。
 それから強く、抱き合って。
 とろとろ更けてゆく夜を、二人愛し合いながら過ごせる喜びに、小さく震えながら溺れ込んでいった。







                                                             END



       ・あとがき・

熱烈リクエストのありましたナオトくんドリームです。
今回はヒデハルやアキラ、ネットたちも出してみました。
やっぱりナオトくんは優しくていいなぁ。こんな人が彼氏だったら幸せだねっ。





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