世界
宇宙船にて炎が旅立つことになったとき、現郎は、当然といえば当然ながら、主と共に行くことを選んだ。
もついて行くことを即断し、彼氏の手を掴んで共々船に乗り込んだ。
古くから天姫の付き人を務めていたと、炎に付き従っていた現郎の仲は、長いこと続いている。
故郷や友を失う瞬間に、共々心を痛め、また0の世界で気の遠くなるような月日を越えても、互いの想いは変わらず、穏やかに心を交わしていた二人だった。
7年ののち、久し振りに揃ってツェルーを訪れた現郎とは、12の世界のあまりの変容に、目を見張った。
「これは・・・」
かの地に降り立ったとたん、視界がピンク一色に染まる。
肌を撫でる風が、温かい。
「桜・・・」
ツェルーに、春が来ていた。
雪と氷に、故郷の想い出が閉ざされ、命あるものは何者も存在しない・・・。誰もいない。何もない。
ツェルーの風景は、長いことそんなふうだった。
心の奥底を映し出す、鏡のような世界は、今、春爛漫。桜はにぎにぎしく咲き、大地は若い草に覆われ、淡い空がどこまでも続いている。
「昼寝にもってこいの陽気だよな」
間髪置かずに横になる現郎に、いっつもこうなんだから、とは苦笑い。
そして、桜の下、現郎のそばに腰を下ろした。
ふわと風に乗り、花がひとひら、現郎の腕に舞い落ちる。その模様を、は夢心地で眺めていた。
針の塔に身を置いていた当時、本当はずっと、炎の野望ややり方に疑問を持っていた。
だけど、一途に炎についてゆく現郎に強くは言えず、止まった時の中でただそばにいることしか出来なかった。
そんな葛藤や疑問やしがらみの全てから解放された今、この美しい国に大好きな人と一緒にいられるのは、にとって本当に本当に幸福なことだった。
甘く瑞々しい大気の薫りを胸一杯吸い込みながら、現郎の隣にころんと寝転がる。
いつもは膝枕をしたり、髪をいじったりして、彼の眠りを見守っているだけれど、春にくるまれて休むのはどんなに心地良いだろうと思ったからだ。
そうしたら、現郎はつぶっていた目を半分開けた。
すぐ近くで見つめ合うことになって、は微笑む。
「現郎・・・、世界って、素晴らしいわ」
「んー・・・そりゃ・・・」
早くも意識は夢の中か、寝ぼけ声で現郎は答える。
「オレといる世界だから、だろ・・・」
「・・・ふふ」
小さく笑って、手を現郎の手に重ねた。
芽吹いた草の上で、互いの指を絡め合い、しっかりと繋ぐ。
「そうね」
大地と空と太陽と、風に舞う桜。植物の息吹と匂い。
愛を中心に広く果てなく広がる世界の美しさを、体いっぱいに感じていた。
「ここで一緒に暮らすかぁ」
相変わらず、本気か冗談か分からない物言いに、はそれもいいね、と答える。
現郎が顔を近付けてきたから、そっと目を閉じた。
桜に包まれて交わすキスは、優しくて、甘い味がした。
END
・あとがき・
現朗へのリクエストの中に、ジバクくんの現郎への想いも語られていましたので、短い話を書いてみました。
最初はもっと暗い話を考えていたんだけど、今は甘いのを書きたい気分だったので、ガラッと変えちゃった。
ジバクくんで現郎が登場したとき、ネーミングセンスに感心したものです。
元々、夢現(ゆめうつつ)という言葉が好きだったし、うつろうという響きが移ろう、みたいで、なんかいい感じだなぁと。
彼は寝てばっかりなのに強いね。
カミヨミの現朗はエリートで優等生っぽくて、現郎の飄々としたところがなくなってますね。どっちもカッコイイけど。
タイトルは一応CHARAの歌にあったもの。
「世界」という言葉が好きです。
美しい世界であるようにと。
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