サクラサク



 は中学三年生、高校受験の年だが、志望校にはあとひと頑張りが必要だということで、家庭教師を頼むことにした。
 親のツテで、あの東応大学に主席で現役合格した大天才に来てもらえることになったのだが、初日の今日、の表情は暗かった。
(東大にトップで入った天才なんて、きっとオタクっぽいタイプなんだろうな。分厚いメガネかけて、髪なんかボサボサで・・・フケたまってたらどーしよう!)
 架空の東大生を頭に思い浮かべ、はきゃーと奇声を上げつつじたばたし始める。
 高校合格のためとはいえ、この部屋で、そんな不潔そうな人と肩を並べて勉強なんて・・・!
ー、先生がいらしたわよ!』
 下で、母親が呼んでいる。は寒気を払えないまま、仕方なく階段を下りていった。

「こちら、夜神月さん。あなたの先生をしてくれる方よ」
 母の声が弾んでいる。顔もにっこにこ。
「夜神です。よろしくちゃん」
 爽やかな声、すらりと長身のヤガミライトさんが、軽くお辞儀をしてくれた。
 ぽうっとしたまま、も頭を下げる。
 もう一度顔を見たとき、体中がかーっと熱くなった。
(カ・・・カッコイイ・・・!!)
 これが、ライト先生との出会いだった。

 ライト先生は顔がカッコよくて頭がいいだけではなく、優しくて、教え方もとても上手だった。
 机に向かう時間は楽しく、休憩時間の雑談も盛り上がって。にとって、一週間のうち一番待ち遠しい日が出来た。
「よくできてるよ。間違えた問題だけもう一度やってみようか」
「はい」
 が一番苦手にしているも、先生と一緒ならスラスラやれそうな気がする。
 こうして隣にいると、ほのかなコロンの香りや声にドキドキして、時折目が合うともう倒れそうなくらい幸せで・・・。
 今はもう、寝ても覚めても心の中は先生のことでいっぱい。恋、なんて、名前をつけるのはちょっと照れくさいけど・・・。本当に、好きになった。
 だからは、決めていた。
 もしも志望校に無事受かったら、ライト先生に、この想いを伝えよう、と。
 先生の姿にボーッとしてばかりもいられない。合格して告白という、大きな目標に向かって精一杯努力しなければいけない時だし、ライト先生だって、頭の悪い子はキライなのに違いない。
 だからは、家庭教師のない日も、自発的に机に向かった。
 そんな娘の姿を見て、母も「家庭教師にして良かった」と微笑むのだった。
 月の教え方のうまさとの努力は、見事成績に反映し、苦手科目のも、じわじわ点数を上げていった。
 それに自信を得て、ますますは勉強に励み、月の指導にも熱が入る。
 春はもうそこまで、来ていた。

「合格おめでとう、ちゃん」
 真新しい制服に身を包み、満開の桜の下に立つ教え子に、月は微笑んで声をかける。
「ライト先生のおかげです」
「いや、君の頑張りがあったからだよ」
 まだ身体に馴染まない高校の制服が、初々しく可愛らしい。桜吹雪によく似合う姿だと、目を細めた。
 家庭教師のアルバイトなんて、最初は渋っていたけれど、可愛らしいの真面目さと一途さに触れたこの数か月は、月にとっても充実した日々だった。
 それらが今日のこの姿に収束しているのだと思うと、感慨深いものがある。大きく呼吸をすると、桜色に染まった空気が胸を満たした。
「ライト先生・・・」
 お別れだ、もう、今日で。
 今日しかないから、仕立てあがったばかりの制服を着て、桜の咲くこの場所に来てもらった。
 いつも室内でばかり見ていた先生なので、こうして外に立っているだけでも新鮮に映る。
 桜交じりの風になぶられる髪、穏やかな微笑み、立ち姿・・・。
 ああこんなに素敵な人を好きになったんだ。
 幸福感と切なさに、心臓も破裂しそうになる。
「・・・好きです」
 ようやく、押し出すように、声にした。
 大切にしまっておいた言葉、ただひとこと。

ちゃん・・・」
 彼女の好意を、気(け)取ってはいた。その想いを受験へのエネルギーに昇華したことこそ、月がを最も評価した点だったのだから。
「迷惑ですよね、ライト先生モテるだろうし・・・」
「そんなことはない、その気持ちは嬉しいよ。でも・・・」
 少女らしい純粋な憧れを、無下に踏みにじることなどできやしない。月はに微笑みかけ、嬉しいけれど今は誰とも付き合う気がないのだと、言葉を尽くした。
「ごめんね」
「いいえ・・・」
 結果はどうであろうと、伝えずにいられなかっただけ。胸いっぱいに膨らんだピンク色の温かさを、お別れの前に。
「この春から新しい学校で、新しい出会いがたくさんあるよ」
 月は教え子に近付いて手を伸ばし、軽く屈んだ。
「おめでとう」
 頬に、軽いキスをした。
「・・・先生」
 その頬も、桜色に染まる。

 合格のお祝いだと、ライト先生から渡された小さなプレゼントを胸に抱き、にっこり手を振った。
「それじゃ、頑張ってね」
「ありがとうございます」
 見送る大好きな後姿が、やがて霞む。
 桜吹雪のせいなのか、それとも目を潤ませる切なさのせいなのか、にはもう、分からなかった。




                                                             END



       ・あとがき・

ライトの単独ドリームは初ですが、今回はパラレルのような感じです。
本編どおりだと、とても家庭教師なんてしているような余裕はないでしょうから。
たまには淡い純愛を書きたかったんです。そういうのも大好きなんです!
・・・と言いながら、家庭教師裏バージョンのドリームも書いているところ。こちらはちょっと大変なことになりそう。

ライトは文句なくカッコいいし、頭もいいし、人当たりも柔らかいし、こんなお兄さんが家庭教師にやってきて、ときめかない女子中学生はいないでしょう!
ちゃんの偉いところは、そこでベタベタメロメロになってしまわず、「きちんと勉強することで認められよう」と頑張ったところです。だからこそライトも「ああ偉いな」と思ったわけですね。
ライトがくれた合格祝いは、ベーシックに腕時計かペンのセットかな?

相方に見せたら、「純愛すぎ! たまにエロなしを読むと、エロより気恥ずかしくなるね」と言われてしまいました(笑)。確かにそうかも。

ご要望があれば、他のキャラでも家庭教師ドリームを書いてみたいな、と思っています。






この小説が気に入ってもらえたなら、是非拍手や投票をお願いします! 何より励みになります。
  ↓

web拍手を送る ひとこと感想いただけたら嬉しいです。


お好きなドリーム小説ランキング コメントなどいただけたら励みになります!







「DEATH NOTEドリーム小説」へ戻る


H18.3.24
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送