「キレーな夕焼けだァ。明日は晴れだな」
木刀をかつぐようなポーズで、小次郎は体ごと振り返った。
「、明日の朝、一緒に細氷を見ねぇか」
夕陽を背負ってしまったから、どんな顔をしているのか分からない。きっといつもの、子供のままのやんちゃな表情なのだろう。
は眩しさに、しかめっ面をした。
細氷
一族の中でも、特に小次郎と仲が良いのは、年が同じで一緒にいる時間が長かったせいだ。
いつもふざけ合っては竜魔や総帥ににらまれていたけれど、近頃はバカなことをする小次郎をがたしなめる場面が多くなった。
そんなわけで、小次郎から個人的に誘われるのは、何も奇異なことではない。
次の朝、早起きをし、は小次郎と二人で雪深い森に進み入っていった。
空気中の水蒸気が凍りつくことで、細かい氷となり空中を浮遊する。
細氷の発生は、ここ風魔本陣の冬においては特に珍しくない現象だった。
朝日を受けて金色に光るさまは、確かに美しいけれど。
「どうして、わざわざ?」
が疑問を口にすると、すぐ隣に立っていた小次郎は、
「と見たかったんだよ。二人で見たことなかったろ」
と、ごく軽い調子で答えた。
そうだったっけ? は首をひねる。小次郎と見たことはなかったっけ・・・。
記憶を辿るのに懸命だったから、小次郎が一歩近寄ってきて、そっと手を繋いできても、気に留めもしなかった。
寒いを通り越して痛いような冷気の中、握った手が温かい。
目の前にはキラキラ降る氷の粒、それはまるで金剛石のかけらのように凛と神々しい輝き。
「オレさぁ・・・、お前のこと、好き」
見とれていたから、聞きこぼすところだった。
「・・・はあっ!?」
たっぷりの間の後、振り仰ぐ。
小次郎がかなり真剣な顔つきだったので、なぜか恐ろしくなって、繋いでいた手も振りほどいてしまう。
「オレの嫁さんになってくれねぇ?」
「は・・・何言ってんの、半人前のクセに」
小次郎も自分もまだ修行中の身、それにバカだのお調子者だの総帥や他の兄弟にさんざん言われている小次郎が、嫁取りなんてどう考えても口にする資格はない。
「だってよー、早く言っとかないと、取られちまうだろッ」
小次郎にとっては、本気だった。結婚するなら以外考えられない。
口実は何でも良かったのだ。二人きりになれるなら。
「・・・逃げんなよ」
手を伸ばし、捕まえる。
凍りつきそうな寒さの中で、の顔は血の気を失い白く、対照的に黒々とした瞳と朱い唇が目の覚めるような美しさだった。
「いいか? 」
確認を取るようでいて、止めるつもりはない。
腕の中力を失ってゆくのを、感じていたから。
「小次郎・・・」
声も弱々しく、は怯えたような目をして見上げていた。空気のせいか覚悟のせいか、いつもとはまるで別人のような兄弟の顔を。
小次郎の黒髪を、金色の粒がきらら彩っているのに見とれ、大きな瞳に捕らえられると、の胸で甘苦い感覚がうごめき始める。
その感情は、風魔一族には不要のものだと分かってはいたけれど。
その不要の感情を、まっすぐにぶつけてきた小次郎と、しんとした冬の朝に二人きりなのだと認識したとたん、心がすっとしたようだった。
素直に手を伸ばし、ガクランを掴む。
「・・・いいよ」
大気から生まれた氷の粒が、朝日をまとって舞い踊る。
金色のかけらの中で、二人は約束を交わした・・・口付けという形にかえて。
寒さは全く感じなかった。
「また、一緒に見に来ような」
「・・・うん」
手を繋いだ二人だけの秘密は、細氷の中で、将来へ続く誓いとなる。
忍の一族にありながら生まれた、小さな愛であり、希望だった。
END
・あとがき・
突然、小次郎を書きたくなった。
風小次がドラマ化されたのは知っていたけど、結構評価がいいみたいで、思わずDVD予約しちゃった。
それで何だか、書きたくなっちゃって。
何だかんだ言って小次郎は可愛いし、真っ直ぐで、いい主人公だと思います。
ドラマ見たらまた書きたくなるかもね。
今冬は寒い冬なので、冬らしい話を書きたくて、ダイヤモンドダストをモチーフにしようと思いつきました。
風魔本陣は山奥だから、冬もさぞかし寒いだろう。ダイヤモンドダストもマイナス15度以下なら見られるそうだから、いけるだろうなということで。
辞書で調べ、忍らしく日本語で「細氷」としました。
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