Raptuous Blue



 子供も大人も、気持ちが浮き立つ12月。
 どこもかしこも赤や緑や金色に彩られている中、新世界の神を目指す男の部屋は変わらず整然としている。
 ノートパソコンを置いた机に向かう月の背中を、リュークはいつものようにリンゴをかじりながら眺めていた。
 月は相変わらず、デスノートに犯罪者の名前を書き続けている。地味な作業だと当人も思うのか、時々すごいアクションを取り入れたりするので、リュークもびっくりだ。
 最初はこんなにもためらいなく人間の名をノートに書ける男に驚いたものだが、今やリュークもすっかり慣れて、次々に起こる警察や探偵との攻防を楽しんでいた。
 ・・・いや、近頃のリュークにとっての最大の楽しみは、実はそんなところではないらしい。
「なーライト、もうすぐクリスマスだな」
 月が黒表紙のノートをしまったところに、すかさず話しかける。
「ずい分、人間っぽいことを言うんだな」
 軽く応じるいつもの調子で、ライトは今度は普通のノートを出した。引き続き勉強を始めるらしい。
「クリスマスといえば、恋人同士のビックイベントだよな〜」
「またどこからそんなことを覚えてくるんだ」
 ため息をつきながら、椅子を回してリュークの方を向く。
「・・・24日の夜は出かけるっていうんだろ」
「さすがライト、言わなくても分かるとは・・・アレだな、ツーカーだな」
 赤くなってモジモジしている死神って、気持ち悪い。
 リュークが高校の教室でを見初めてから、はや一年ほどになるけれど、どういうわけか二人の仲はうまくいっているらしい。
 今でもちょくちょく夜などに出かけて行っているが、クリスマスイヴには是非彼女のもとで過ごしたい!と思っているのが、ツーカーじゃなくても手に取るように分かる。
「常にノートの所有者のそばにいなきゃいけないんじゃなかったっけ、死神って」
「それなんだけどさーライト」
 皮肉のつもりだったが、いきなりずずいと迫り寄られて、月は身を引く。
 間近でリュークは少し声を落とした。
「お前、所有権を他に移す気ない?」
「・・・・」
 リュークの思惑丸分かり。月は額を押さえた。
「・・・冗談じゃない、なんかにこのノートを渡してたまるか」
 を所有者にして毎日ベッタリ、なんてたくらんでいるんだろうが・・・。
 別に、この死神があのボンヤリしたとくっつこうと何しようと興味はない。が、デスノートを渡すとなると話は別だ。
「僕はこのノートを使って悪人のいない清らかな世界を作るんだ。そんなことは僕にしかできない。他の人間になんて・・・」
(おっ出たな・・・)
 いつもの神語りが始まったので、リュークは聞き流しつつ、イヴに思いを馳せるのだった。

 いよいよ12月24日、約束の時間にすーっと壁抜けして入っていくと、部屋で待っていたはにっこり笑顔で立ち上がり、迎えてくれた。
「メリークリスマス!」
「ウホッ!」
 赤地に白のふち飾りがふわふわとついたミニのワンピース、ウエストには幅広のベルトでマークして。足元は赤いブーツ、そしてもちろん、頭に赤の三角帽子。
 のキュートなサンタガール姿に、リュークの目はハートになる。
「かわいーなー、!」
「エヘヘ、お店で売ってたの見て、衝動買いしちゃった」
 リュークにこの姿を見せたくて。
「女のサンタって初めて見たけど、ヒゲ生やしたオッサンより断然いいっ!」
 ハートの目のまま部屋中をバサバサ飛び回る。こっちが嬉しくなるような喜びように、は着てみた甲斐があったと、ニコニコするのだった。
 人間ではない彼の姿を初めて目にした瞬間、腰を抜かしてしまったけれど。慣れればそれも愛嬌で、何よりを大事に思ってくれている死神に、今ではも夢中になっていた。
「クリスマスケーキ食べよう」
 小さなテーブルを挟んで、向かい合う。
 しかし、テーブルの上にケーキは一切れだけ。
「はい、リューク」
 目の前に、ぴかぴかに磨いたリンゴをたくさん並べてあげる。
 死神はリンゴしか食べないのだ。
「やったー、いただきまーす」
「いただきます」
 リュークは瑞々しいリンゴを、は甘いケーキを。それぞれの好物を一口ずつ食べて、微笑み交わす。
 いつもの優しいひとときが、今夜は一段ときらめき心に染み入るのは・・・、きっと、特別な夜だから。
 部屋の隅には小さなクリスマスツリー、小さな明かりの点滅が、幻想的な雰囲気を作り出している。オーナメントとして市販のリンゴ形のものがたくさんぶら下げられていたが、中に、手作りのリュークマスコットや、ハートをかたどったものも飾られていた。
 きらびやかな街中よりも、夜景の見えるレストランよりも、リュークとこうして過ごすクリスマスが一番素敵。
 心から、は思うのだった。

「・・・大丈夫かしらあの子・・・」
「うーん・・・元々、夢見がちな子ではあったけど・・・」
 の部屋をこっそり覗いて、父と母は心配そうな顔を付き合わせている。
 家族揃っての食事もそこそこに、自分の分のケーキだけ持って部屋にこもってしまったと思えば、ひとりサンタの格好をして、テーブルにリンゴを並べ、ニヤニヤしながらケーキを食べている。しかも時々独り言を言っては笑っているのだ。
 我が娘ながら、異様としか言いようがない。
「・・・きっと、彼氏が出来たらこうなんだろうなって妄想でもしてるんだよ」
 娘に今現在そういう存在がいないことが喜ばしいらしく、父は無理矢理ポジティブな結論をこじつけ、母を促して階段を下りていった。

「ほら、
 ひとしきり食べた後、リュークはじゃらと音を立てて、チェーンのついた何かをに差し出した。
「クリスマスプレゼントだ。俺とお揃い・・・ペア、ってやつ?」
「わあ・・・」
 じゃらじゃら、受け取ると、ごつい鎖に十字架とドクロのモチーフがついている。ネックレスかチェーンベルトかウォレットチェーンか何かよく分からないが、確かにリュークのノートホルダー(?)と同じデザインのアクセサリーだった。
「嬉しい!」
 普段のファッションには馴染まぬテイストだが、これを機に、ミサミサみたいなのにチャレンジしてみるのもいいかも。
 満面の笑みで喜ぶに、リュークも幸せな気分になり、人にプレゼントするっていいものだな、と思う。
 死神界には贈り物をするなんて習慣はないから、リュークにとっては初めての気持ちだった。
 ・・・いや、初めてだらけだ。
 と出会ってからは・・・。
「あ・・・あのね、リューク」
 はなぜか赤くなって、もじもじと鎖をいじっている。
「私も、リュークへのプレゼント、色々考えたんだけど・・・」
「いや俺はいつもよりたくさんリンゴもらえたから、それで十分だけど」
 それに、サンタ娘の格好や、楽しそうな顔や・・・これ以上何かもらうなんて悪いくらい、今夜はいい思いをさせてもらっている。
 だがは、小さく、こう言ったのだった。
「あの・・・私、を、あげる・・・」
 恥ずかしそうに、目を伏せて。

「・・・・・・」
 その一言で、リュークには伝わった。人間たちの恋に関する本を読み漁り勉強しているのは伊達ではない。
「いいのか・・・本当ーに、いいの!?」
 興奮のあまり、テーブルを通り抜けてに接近する。
 最初の日以来、リュークはにキス以上のことを迫ろうとはしなかった。
 欲望はあっても、あのときのの怯えようを思うと、とても無理強いなど出来なかったのだ。
 彼女が嫌がるからガマンしようなんて、死神らしからぬ思いやりの気持ちは、ちゃんとにも伝わっていた。
 大事にしてくれている、その想いに応えてあげたいとも。
 だから、聖なる鐘の鳴り響くこの夜に、サンタ娘の格好をして、覚悟の上で待っていた。
「いいよ・・・リュークなら・・・」
 真っ赤になりどもりながら答えたときには、もう、死神の腕の中すっぽり包まれて。
 いつものリンゴの匂いに、不安をとろけさせ目を閉じた。
「・・・でも、リュークはそのまんまだろうけど・・・私は、年取るよ。おばちゃんになって、おばあちゃんになっちゃうんだよ・・・」
 全て許すことを考えたとき、の心を苦しくさせたことを、率直に口にする。
 自分ひとりだけ年を取って、数十年後にはこの世からもいなくなる。それだって、死神にとってはまばたきほどの時間なのだろう。
 生に終わりのない死神の記憶に、自分という小さな存在が、どれほど残ってくれるというのか。
 いつかは忘れられてしまう・・・。それは、自分が死んでしまうことよりも、ずっと辛い想像だった。
「大丈夫だ、。おまえなら可愛いおばちゃんになって、可愛いおばあちゃんになる」
 何も気付かないフリをして、リュークはそう言った。
 いずれ失う悲しみに耐えなきゃいけないのは、リュークの方だ。退屈しのぎならまたノートを落とせばいいけど、恋はそう簡単にできないだろう。
 それよりも、今はこうして擦り寄ってくれているが、自分に飽きて嫌いになることを考えると、辛い。
 人間とはよく嘘をつくし、すぐに心変わりをする存在であると、リュークは認識していた。だからこそ面白いと感じてもいるのだが。
 少し震えているをベッドに運ぶ。怯えてはいるけれど、真っ直ぐな色をした瞳を覗き込んだ。
 素直なは、思ってもみないのだろう。いつか気持ちが離れるときが来るかもしれない・・・他の、人間の男を好きになるかもしれない。なんてことは。
 それでも。
(今、俺のことを思ってくれているなら、それでいいや)
 先のことをあれこれ考えるのは得手ではない。目の前のが、全身で求め受け入れようとしてくれている・・・それで十分だ。
 ゆっくりと、出来うる限りの優しさでもって、体中を撫でさする。
 こつこつ蓄えた知識を、今こそ実践するときだ・・・気持ちは高まって、キスをしながら服をさぐる。
 だが・・・。
(サンタの服ってどこからどう脱がせばいいんだ・・・。そんなのどの本にも載ってなかったぞ)
「あ・・・、じ、自分で・・・」
 リュークの困惑を悟り、は半身を起こした。お互いちょっぴり気まずくて、目をそらす。
 は赤いコスチュームをそっと脱ぐ。
「リ、リンゴー!」
 リュークの歓声に、恥ずかしそうに体をかばうが、それでも隠し切れないの下着は、白地に赤いリンゴ柄の紛れもない「勝負下着」なのだった。
「うまそ〜、!」
 ストレートな感想に、ますます照れて下を向いてしまう。
 そんな初々しいに、リュークは張り切って声をかけた。
見ろ、これなら大丈夫だろ!」
 リュークが指差す場所・・・は、彼の体の中心・・・。はカーッと赤くなる。
「みっ見せないでよ」
「何だよー、俺、人間の標準サイズを研究して、そうなるように特訓したんだぞ。ホラホラ」
 一体どんなふうに研究や特訓なんて・・・。気になるけれど、とても聞けない。
 確かに、初めてリュークに出会っていきなり襲われた日は、あまりに凶悪なそれに恐れをなしたものだけれど。
「・・・でも、私のために・・・」
 気遣って考えて、努力してくれたんだ。
 その気付きは、に最上の幸福感をもたらした。
 こんなにも想われているのだと。
「・・・ありがと」
 ずっと先のことを考えるより、今は委ねよう。
 リンゴの下着姿で寄り添って、自分からキスをあげる。
 見るからに怖そうな顔、カラーリングも人間とはあまりにかけ離れている死神が、こんなに優しくてリンゴのいい匂いをさせているなんて。自分以外、誰も知らない。
 そう思うと愛しくて、もう一度引き寄せ、キスをした。
「・・・なんか、たまんねー!」
 がばっ! と押し倒されて心臓はドキドキ。露出した肌が触れ合い、お互いを更に興奮させる。
ー!」
「リュ・・・リューク・・・」
 ベッドの上ドタバタと、絡み合う。

・・・
 今までにない心地よさ、体温のぬくもりに、リュークは我を失い、ただ、没頭した。
 も、目を閉じ精一杯受けるうち、不安も胸の苦しみも、忘れてしまった。
 たまたま・・・愛し合ったのが、人間と死神だったというだけ。
 熱狂的な青の中に二人溺れて、ずっとずっと深いところまで。
 そこから先は、何も考えられなくなる。
 繋がっている幸せに、とろけて自我もなくなって。
 ただ、象徴的で印象的な、青の色だけに、包まれていた。

「今更だけど・・・避妊・・・してくれた?」
「大丈夫だ、死神に生殖能力はないからな」
 あっけらかんと言って、抱き寄せてくる。リュークの大きな身体は、のベッドからすっかりはみ出ていた。
「・・・疲れちゃった」
 溶けてなんにもなくなった後の、抜け殻のような身体を丸め、リュークにもっと寄り添うようにする。
 今までよりもずっと愛しく、そして近しかった。
「眠ってもいい?」
「ああ。何なら朝までいてやってもいいぞ」
 そんなに長く所有者のそばを離れるのは初めてだが、何といってもクリスマスだ、特別の日なのだから、構わないだろう。
 もう目を閉じているの、可愛い頬とさらさらの髪を眺めながら、リュークはそっとため息をつく。
 死神界でのんべんだらりと過ごしていたころには感じることもなかった、切なさや苦しさ、同時にそれらを凌駕する喜びや楽しさ。
 こんなにも胸を圧迫する、さまざまな感情。
 全て、ここで寝ているとの恋から生まれたものたちだ。
 今までなら歯牙にもかけなかった、たった一人の人間・・・その命。
 部屋の隅で今もぴかぴかと光を放つツリーを眺めていたら、何だか眠くなってきて−死神に睡眠は必要ないはずだが−、リュークも目を閉じる。

 二人、夢の中で、あの色を見ていた。
 それはうっとりするような、青だった。






                                                                END




       あとがき


さて今度は何を書こうかなーとぼんやり考えていたら、ふと気付きました。
もうすぐクリスマスじゃあないですか!
ドリームの舞台としては外せないイベントです。これは是非、クリスマスドリームの一本も書かなくては。
去年はLで書きましたが、今年はリュークになりました。
唯一のリュークドリーム「DEATH LOVE」、ちょくちょく嬉しい感想をいただくんですが、リューク夢って今でも少ないのかな、そしてまたリュークファンで、ドリームを読みたいという方もたくさんいらっしゃるんだなと感じていました。
ということで、DEATH LOVEの続編として、二人クリスマスイヴに結ばれるという、ストーリィとしてはベタなものを書いてみました。
13巻の年表で確認してみると、Lが亡くなってすぐの12月ということになりますね・・・(哀)。
そしてまた、今回も下品でスミマセン。
だって前回通りのサイズ(←それが下品だって・・・)だったら、いつまでたってもちゃん受け入れられないだろうし・・・。

書いているうち、ちょっと悲しい感じになってしまって・・・どこかでこんな話を書いたな、何だったかなと記憶を辿っていました。
ギリシア神話でも神と人間の恋っていくつもありますが、私は小説として書いたことはないし・・・。
・・・思い出した。自由人HEROの龍人リュウと、オリキャラの花人モモカ。
龍人は、不死ではないけれど、ものすごい長寿。加えて他の種族と交わっちゃいけないって掟もあります。
この二人の恋も、先を考えると切なくて・・・結局「今、心から愛しているから」っていうふうにしか出来ませんでしたね。
私もリュークと同じで、あまり深く考えられないわ・・・。

タイトルは例のごとく思いつかなかったけれど、途中でポケビのこの歌がピッタリかと思い、つけてみました。
クリスマスらしくないよね(笑)。






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H18.12.21
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