ツェルブワールド6番目の国、ロックは、日が落ちるまで賑やかな音楽とダンスが絶えることを知らない。
 この国は毎日がお祭りだから、ロックの男の子と付き合っているもまた、お祭り大好きになっていた。




 のっとおんりぃ★ばっとおるそう



「ライブー! バズー!」
 待ち合わせはいつもの場所、ビートタウンからもそう遠くはない、小高い丘の上。
 先に来て待っている彼氏たちのところへ、は息を弾ませ駆け寄った。
 隣国セーブンに住むの普段着は町娘風だけれど、ロックに遊びに来るときには、国のカラーに合わせミニスカートなどを好んで身につけている。その裾が、ひらひら踊った。
ー!!」
 大きく手を振り応えてくれるライブの、弾ける笑顔が大好きだから、ももっと笑顔になれる。
「早くおいでよ!!」
 手を握って丘に引き上げてくれるライブの肩には、ピンク色した丸いナマモノが乗っかっている。モヒカンヘアも決まっている、聖霊のバズだ。
 は、バズにも笑いかけ、ライブと並んで腰かける。地響きのように体に響くリズム、見下ろすカラフルな街は人だらけ。
 バズはひょいとライブの肩から飛び降りた。
 GCと聖霊は一心同体だから、必然的にデートもいつも三人で、ということになる。だがはお茶目なバズのことを、ライブ同様大好きだったから、そんな関係もむしろ楽しんでいた。
 バズを交えてひとしきりお喋りをした後には、きっとはライブに歌をねだる。
 ライブは早速ギターを構えると、可愛い恋人のリクエストに喜んで、元気良く演奏を始めるのだった。
 バズも、さまざまなパーカッションを使い分け、エネルギッシュなステージを更に盛り上げる。
 ライブの明るい歌声は、いつもを幸せにしてくれる。手拍子を添えるだけで、エネルギーが満ちてくる気がした。
 そして、心から楽しそうなライブの顔を眺めていると、この人のことをとってもとっても好きだな、という気持ちがふつふつ止められなくなる。
 それは胸の高鳴りとなって、いつしかライブの刻むビートに同期してゆくのだった。
 歌うライブと目が合う。にっこり笑いかけられ、胸が満たされる。
 降り注ぐ太陽の下、音楽も恋も、全てがきらきらしていた。

 手を繋いで散歩がてら街へと下りてゆき、祭りの喧騒に紛れてみる。
 のステップも今ではとても上手で、冷やかされたり冷やかしたりしながら、ライブと一緒に踊っているうちに、周りを巻き込んで一つの大きな渦を作り出す。
 そんなふうにして、とても楽しく一日を遊んだ。
 太陽が沈む気配を見せる、その直前まで。

「じゃ、気をつけて帰ってね」
「うん」
 ロックからは、必ず夕暮れまでに出なくてはならない。それは決まりだった。
 昼の賑やかさはかりそめ、ロックは呪いのかけられた国なのだと−。
 それならば夜になるとこの国は、ライブたち国民はどうなるのか。は知らない。また知る必要もないと、ライブも皆も言う。
「明日はボクがセーブンに行くよ。いつもの場所で待っててね」
「分かった。甘味屋さんに行こうね」
「いいよー」
 ライブの表情には何のかげりもない。これから呪いの時間を迎えるのだとは、とても思えない・・・。
 本当は辛いかな? それでもこうして、笑っているのかな・・・? には、分からなかった。
「じゃあね」
 握手の後に軽くハグするのが、いつもの別れの合図。
 ドキドキしながら、ちょっぴり切ない。
 は名残惜しくライブから離れると、バズにも手を振って、背を向けた。
 ライブは知らなかったけれど、このときは、ひとつの決心を固めていた。

「日が沈む・・・」
 空を仰ぎ、肩先の聖霊に微笑みかける。
「ボクたちも行こう、バズ」
 ヂッ。短い返事を合図にして、帰途についた。
(ライブ・・・)
 その後ろ姿を、木の陰に潜んだが見守っていた。
 この国の呪いを・・・夜の姿を、見届ける覚悟で、家には友達の家に泊まると言っておいた。
 言いつけを破るのは怖い。呪いはもっと怖い。でも。
(好きな人のことなら、全てを知っていたいのよ・・・)
 好奇心・・・もとい、けなげな乙女心が、恐怖を凌駕したといったところか。
 太陽光の最後の一筋が、地平線の向こうに消えてゆき、いよいよ夜がやってくる。

 おかしな、感覚だった。
 ふわっと体が浮くような、周りの空気が歪むような。
 がかつて経験したことのない、それはしかしほんの瞬きほどの時間。
 ・・・その間に、辺りの風景は一変していた。
 音楽の国ロック独特の華やかさは、かけらも残されていない。
 そこは、真の闇が支配する、静寂の世界だった。
 の慣れない目が、ようやくぼうっと浮かぶ光をとらえる。揺れて動く・・・一つだけではない。見る間にぽっ、ぽっと出現してはおのおの浮遊している。
(・・・蛍・・・?)
 ではなくて。
(人魂っ!?)
「ギャーーーッ!!」
 素っ頓狂な叫び声を上げるに、ますます人魂が集まってくる。おかげでそれなりに明るくはなったが、ちっとも安心できない。
 何しろ見えるものといえば、寂しげに枝を伸ばす奇怪にねじれた枯れ木くらいの、荒涼とした大地だけなのだから。
「イヤーッお化け屋敷、イヤーーッ!!」
「・・・だから、帰りなさいと言ったのに・・・」
 低く静かな声に、ビクッとして振り返る。
 ピンク色の人魂、そして人影。
「あ・・・あ・・・」
 腰が抜けて声も出せないに、ゆっくり、歩み寄ってくる。
「そう・・・大声を出さずに、静かにしていることです。この国で騒がしくすることはご法度ですから」
 年格好はライブと同じくらい、丈長の黒い服に身を包んだ、髪も黒の、青白い顔をした男の子。
 傍らに浮かぶピンクの光は、人魂かと思いきや、よく見ると見慣れた目鼻がついている。
「・・・聖霊・・・?」
「これが、ロックの呪いですよ。・・・
 名を呼ばれ目を見開く。
 初対面、ではない?
 意識にのぼるより先に、唇が勝手に紡いだ。
「ライブ・・・? バズ・・・?」

 遠い祖先がドンチャン騒ぎをしたがために、針の塔から受けた報いなのだ、と彼は語った。
「夜になるとロックは9の国ナイナイになり、人々は皆、魂に変えられてしまいます。生身でいられるのはGCである私と、聖霊のバズだけ・・・ただし姿も名前も、変えられて」
 表情も変えず淡々と語られる内容に、はただあっけに取られていた。
「私はデッド。そして、ジュバク」
「デッド・・・」
 おうむ返しにしたその単語が表すのは、死。・・・呪われた名と姿・・・。
「とうとう知られてしまいましたね」
 伏せられた目に、の胸がえぐられる。
「あのっごめんね」
 あれだけ皆に注意されていたのに、勝手なことをしてしまった。そのせいで、ライブ・・・いやデッドはこんなにふさいでいるのだ。
 にはごめん、と重ねて謝ることしか出来なかった。
 それでもデッドは顔をうつむけたまま、
「あなたは元気で明るいライブが好きで付き合っているのに・・・それなのに・・・。こんな私を、見られたくなかった・・・にだけは・・・!」
「−!」
 重い固まりを飲み込んだように、胸にズシンと響いた。
 こんなに落ち込んでいる理由は、そういうこと・・・?
「デッド・・・」
 闇で満たされた空気を吸って吐いて、ようやく、は口を開いた。
「私・・・、確かにライブの元気なところが大好きだけど、でも、それだけじゃないよ」
 デッドは少し、目を上げた。はどんな言葉を使えばうまく伝わるのかな、と考えながら、続けた。
「言われたことを守らなくて、本当にごめんね。でも私、ライブのことを何でも知りたかったから・・・。あの、デッドに変身しちゃうとしても、それはそれで・・・元はライブなんだし・・・」
 何だかとりとめがない。
「・・・デッドもステキだと思うよ」
 本心だった。ライブとは全く反対のタイプだけれど、何というか、大人っぽくてカッコいい。
 これって浮気かな? でも、ライブが姿を変えられたのがデッドなんだし、別に浮気じゃないよね。
 自己完結をしていると、正面で、デッドはようやく顔を上げてくれた。
 背後に広がる夜。静寂と孤独に包まれた、たったひとりのGC。
「・・・デッド、私、時々夜にもいてあげるよ。だって寂しいでしょ、こんな・・・」
「し・・・っ」
 唇の前に人さし指をそっと立てられ、は思いのまま迸らせていた言葉を飲み込んだ。
 デッドは手を下ろし、もう一歩歩み寄る。とっても、近い。そしての両肩に手を置くと、
「この国では、静かに・・・」
 息遣いだけで囁いて、のお喋りな口を塞いだ・・・自分の唇で。
(・・・!?)
 軽く触れただけですぐに離されたけれど、にとってそれは正真正銘のファーストキス(ライブともまだだった)、声はおろか全身から力を奪いポーッとさせるには十分の威力を持っていた。
 これも呪い? いや・・・呪いなんかじゃなくて。
 これが、恋。

 それからのは、昼間は今までと変わらずライブと遊び、ときに夜、デッドとの時間を持つようになった。
 どちらもライブだから、とは言ったものの、全くタイプが違う二人と付き合うなんて、なかなか出来ないお得な恋愛だろうから、ラッキーだと思ったりしている。・・・もちろんそんなこと、本人たちには口にしないけれど。
 底抜けに明るくてギターと歌が上手なライブも、物静かで大人っぽいデッドも、それぞれが魅力的だった。
 太陽の恵みを浴びながらお喋りをし、楽しい曲を聴かせてもらった後、呪いの闇に身を寄せ合って、音を立てずに口づけだけを交わす。
 そうしていると、は、どちらのことも大好きだという気持ちが何ら矛盾をはらまないことに、気付かされるのだった。

 昼と夜。
 ロックとナイナイ。
 ライブとデッド。
 光あれば必ず闇があるという摂理に触れたとき。
 少女は、少しずつ大人に近付いてゆく。







                                                             END



       ・あとがき・

そういえばジバクくんのキャラがカミヨミにも零部隊として出ているんだよね。ということで、久しぶりにジバクくんを読み返してみました。
6巻でまたボロボロ泣いた。
ジバクくんの当時は、私かなりライブが好きで、そのときやっていたゲーム「どこでもいっしょ」で、トロに「ライブ」と名付け可愛がるほどでした。
ライブとデッドの小説も二本書いたんですが、オリキャラ小説ばっかり書いていた私にとって、オリキャラなしの小説はとっても珍しかったのです。
最初は「光と私」そしてネットで知り合った友達に「今度ライブの本を作りたいから、マンガの原作を作って欲しい。「光と私」のような感じで」と依頼され、大喜びで書いたのが「水夢」です。
水夢は原作ということですが、普通の小説としても読めるように書きました。
自分の書いたものをマンガにしてもらえたときは本当に嬉しかった。今でももちろん、その同人誌、大事に取ってあります。
思い出語りが長くなりましたね。
そういうの懐かしいな、ということで、このドリームを考えました。ジバクくん読み返し記念といったところでしょうか。
書きたいもの、テーマは、当時と変わりないですね。
デッドはまるでLのよう・・・(笑)。
デッドとライブって記憶は共有してるんでしょうね。でも姿も名も性格も変わってしまっては、もはや別人・・・なのでちゃん、一粒で二度オトクです。

タイトルはうしろゆびさされ組の中でも私のお気に入りのひとつ。
これで私はnot only A but also B(AだけではなくBもまた)をバッチリ覚えたものです。
かなり前から小説に使いたくてしょうがなかった曲タイトルでした。





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