桜の下で捕まって



 桜の季節だから、お花見に行こうと。
 彼を誘って、外に出てはみたけれど。
 大きな樹の下、うずくまって、ニアは相変わらずパズルに没頭している。
 こんなところだろうと思ってはいたから、もゆったり座して、持参した三色ダンゴを頬張りながら、彼の姿を見るともなしに眺めていた。
 陽光にとけてしまいそうなパステルの花びらたち、包まれているニアの髪も肌も服も、色素が薄くて・・・。
「桜、みたい」
 声に出しても、ニアは顔を上げもしない。同じペースでピースを運び続ける。
 これでもちゃんと聞いてくれていることは分かっているから、は言葉を繋いだ。
「ニアって、桜に似てるかも」
「そうですか?」
 やっと顔を上げてくれたと思えば、もうパズルが完成されているのだった。
 結構な大きさのジグソーパズルは、ほとんど全面がただ真っ白いだけだが、真ん中よりやや左寄りに、ひとつだけ小さなピンクのハートが斜めに配されているというデザインだ。
 ハートは、桜の花びらにも見える。
 は、にっこりした。手を出して、彼の髪に乗った花びらを、取ってやる。
「ニアは、色がふわんとしていて、優しげで。でも何ていうのかな、・・・残酷さが、あるの」
「残酷、と」
 その響きにすら、顔色一つ変えない。
「そう・・・綺麗な残酷さ」
 言葉にすると、正確に伝わらないような気がした。
 だけれど、ニアの顔はどことなく満足げだった。
「知っています。がそういったものを好むことも」
「・・・そうかな」
 どちらかというと、花よりダンゴかな、なんて思っていたけれど。
 串ダンゴを眺めてボーッとしていたら、ニアが近寄ってきていた。
 四つんばいになって、猫みたいに。
 真っ直ぐすぎる瞳から逃れられず、引き寄せられて、キスをした。
「・・・ん・・・」
 いつもとは違う、奥までさぐってくるようなキスに、驚き離れようとするも、許されない。しっかり抱きとめられ、ああやっぱり男なんだな、と思う。
 桜の樹の下で、捕まって。
 これからどうなってしまうの・・・?
 少しの不安と大きな期待が、胸のうちで膨らんでゆく。

 パズルにもダンゴにも桜が散らばめられたころ、ようやく解放されただったが、もはや力もなくニアの腕から離れられない。
「・・・ニア」
 濡れた瞳と唇が、どれほどニアを煽るかも知らずに。

 ぎゅっと抱き直すニアの、長めの袖口にも、花のかけらが舞い落ちた。
「貴女が、欲しい」
「えっ」
「今すぐにです」
 耳元に吹き込まれ、ゾクリ未知の感覚が肌を粟立たせる。
「そんな・・・」
 の頬も、桜に染まっている。
 いとしく思い、ニアはそこにもキスをした。
「今すぐにです。行きましょう」
 繰り返して立ち上がる。右にパズルを器用に抱え、左手を差し伸べた。
 躊躇しがちなの右手を掴み、とことこ歩き出す。
「い、今って、私・・・」
「いやですか」
 振り返らないニアの、くせの強い髪に、いくつもの花弁がくっついたままなのを、見ていた。
「いやじゃ・・・ないです」
 それきり黙ってしまったの小さな手は、また少し、熱が上がったようだった。
「・・・桜が悪いんです」
 彼女に聞こえるか聞こえないくらいに呟いて、桜の舞い散る中を、部屋へと急いだ。






                                                             END



       ・あとがき・

Lのに続いて桜の話。ニアドリーム、初です。
ニアは可愛くて不思議で好き。オモチャで遊ぶなんて子供っぽいことをしているのに、頭がいいというギャップが。
しかしこの人の仕草、ホントに子供か動物みたいです。

当初はキスだけの予定だったのに、こんな展開になってしまったのは・・・桜のせいです(笑)。
桜には魔がひそむとよく言いますからね。
ニアなら、何を言ってもどんな行動に出ても不思議はない、ような気がします。


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