Mr.夏男
それはひどく暑い、真夏のある日−。
は、レイヤードしたタンクトップとハンパ丈のパンツというダラダラした格好で、あてもなくブラついていた。
仕事もなけりゃ、一緒にいてくれる人もいない。といって別に寂しいわけじゃないけど、でも暇、ただ暇。
青すぎる空が目にしみる。なんて暴力的な太陽だ。
顔をしかめ、細めた目が、ハッと丸くなった。
街角の自販機にもたれて、缶ビールをあおっている男−。
短髪、どう鍛えているのか立派な体格。
その見目良さに、一瞬で心奪われてしまった。
(カッコいー人)
まさに夏男、金の髪に太陽が宿ってる。
遠慮ない視線を受け、彼もまたを一べつした。缶ビールを自販機の上に置くと、コインを入れる。
そんな動作からも、目を離せない。
ゴトン、と出てきた缶を取り出すと、男はそれを何とに差し伸べた。
「飲むか?」
いい声と、爽やかな笑みも一緒に。
暑さでボーッとしているせいで思考が働かず、惰性で頷くと、350mlの缶がぽいと放られる。前に出した両手に、ちょうどおさまった。
冷たい。目が覚めるようだ。
「どーも」
何となく彼の隣に立って缶を開けると、プシュッと快い音がした。
アスファルトから熱が上がって、もやもやと夢の中みたい。
道端にこうして立って飲み物を飲むという行為は、にノスタルジイを運ぶけれど(例えばプール帰りの子供のような)、喉を通る液体は冷たくて苦くて、刺激的だった。
「名前、何ていうの? 俺はアイオリア」
「」
近くで見ても、やっぱりカッコいい。
アイオリアもタンクトップ姿だけれど、この二の腕や胸の筋肉、触らせてもらいたい。
「、それオゴってやるかわりに、俺に付き合ってくれないか」
ガラン。空き缶をダストボックスに放り投げる。
ナンパか・・・。でもこの人なら、乗ってもいいかも。暇だし。
はまた頷いた。
「ここ、どこ?」
目をつぶってて、と言われたのでその通りにしたら、いきなり抱きかかえられた。息もつけない疾走感・・・ジェットコースターよりもすごかった・・・がして、次に目を開けたら、もう、どこかの部屋の中にいた。
「俺の宮・・・じゃなくて、家。面倒は嫌いだから単刀直入に言うけど」
床には下ろされたものの、まだ腕の中にいる。
アイオリアはどこかやんちゃな子供を思わせる表情をしていて、それがまたとてつもなく魅力的なのだった。
だから次の言葉にも、は何も考えず頷いてしまった。
「、今君を抱きたい」
「あたしって、隙ありすぎた?」
「いや、単に俺の好みだから」
「いつもこんなことしてるの?」
「初めてだよ。ホント。だって今日暑いから・・・暑くて暑くて、何て言うか・・・もうどうでもいいや、しゃべるのやめよう」
ざっとシャワーを浴びた身体をぶつけ合うみたいに、ベッドの中へ。
「キス、してよ」
「ああ」
即、体に触れようとする彼の唇を、自分の唇に求めた。
とろかされるようなキスが欲しかったのだけれど、意外にアイオリアはキスが下手で、結局が積極的にならざるを得なかった。
でも、攻めればその分返してくれようとするから、その応酬がゲームみたいでけっこう楽しい。
それにこのキスは、「こんなことをするのは今日が初めて」という彼の言葉の裏付けでもあった。
(かわいいかも、この人)
笑いたい気分で腕をからめる。
巧くはないけれど激しさを失わない口づけも、いい感じだと思えるし、体の奥に熱を注ぐ役目だって十分に果たしてくれている。
だってもういっぱい満ちて、欲しくなってしまっているから。
「俺、気に入ってもらえた?」
「・・・うん、いいよ、すごく」
こんなタイミングでこんな質問も変だと思いながら、律儀に答えていたりして。
キスを軽いものに変えて、何度もいたずらに交わしては、二人笑い合う。
明るい中暑い中、じゃれる遊びみたいになって面白い。
アイオリアの筋肉に触れて、キスしてみたときにはちょっとドキドキした。体の古傷について、ちょっと問うてもみた。
「傭兵?」
「そんなとこ」
「ふうん」
嘘でも冗談でも、どうでもいい。全部が蜃気楼に溶けそうな、そんな温湿度だから。
「して、いい?」
「あはは、いいよ」
真面目に聞くものだから、つい笑ってしまった。
片腕で強く抱きかかえられ、そのまま迎え入れる。
思ってもみない圧迫感に、はしたないほど大声を上げてしまい唇を噛んだ。
「・・・っっ」
「構わないよ、声上げて。誰も来ないし、聞こえやしない・・・だから」
背骨に添って指を滑らすと、一気にぐっと突き上げる。
「や、あー・・・、やっ苦し・・・っ」
髪を乱し抗議すると、アイオリアは動きをようやく止めてくれた。
「まさか初めて・・・じゃないよね」
「ちっちがう・・・けど、そんなにしたら、ツライ・・・」
あんまり強すぎて。
「そう? でも俺ね・・・」
もう一度、貫く。
「ちょっと・・・加減したくないんだ」
アイオリアは、それをやめてはくれなかった。
「やだってば・・・あ・・・あ」
胸を越えて喉元までせり上がってくるような苦しさの中に、痛みすら覚え始めていたけれど、果てもない荒々しさの中で別のものが引き出されるのを、は感じ取っていた。
「・・・あ・・・」
声にも甘さが増してくる。
「そんなに辛いなら、やめようか」
意外な言葉に目を開けると、アイオリアは笑っていた。
「意地悪」
やだよやめないで、もっとして。もっとメチャクチャに扱ったっていいから。
欲望が、解放され・・・。
「・・・もっと」
その力強さで、今まで到達したことのないようなところまで、引きずり込んで。
「・・・いい・・・」
アイオリアの額や頬には汗が光っていて、きらりきれい。触れ合っている素肌もじとり汗ばんで、本当に夏だな、この人って夏男だな、と思わせられた。
もちろんゆっくり考えている暇なんかなくて全ては断片で。その刹那感を、やはり夏らしいと感じるのだった。
「ハイ」
「サンキュ」
差し出されたペットボトルも、よく冷えていた。は裸のまま、それを飲み下す。
「あんな激しくされたの、はじめて」
けだるく告げると、アイオリアは照れていた。
「じゃあもう一回、いい?」
もう押し倒そうとしてくるので、慌てて止める。
「ちょっと休もうよ。すっごいタフねあんた」
「まあ、体力には自信があるけど」
確かに、見るからに体力有り余っていそう。
でもこっちはついて行けない。
ぐったりして再びスポーツドリンクを流し込んだそのとき、
「おーいアイオリア、呼んでるのに聞こえないのか」
ドアが開いた。
「−!」
あまりのことに悲鳴も出ない。はとっさに、そこにあったバスタオルで体を覆った。
「あれっ」
戸口で男はを見つけると、遠慮するどころか嬉しそうに入ってくるではないか。
「いやっちょっと・・・」
「何だよ入ってくるな兄貴」
兄貴!?
「だっておまえが女の子といるなんて、珍しくて」
よく見れば確かに似ている。いや、そっくりだ。
「ゴメンな邪魔して。俺はコイツの兄でアイオロス。君、弟の彼女かい?」
「いやべつに・・・」
「そうだよ」
「え?」
お兄さんの方に固定していた顔を動かすと、ムッとした顔のアイオリアが目に入った。
アイオリアはの肩を抱き寄せる。
「俺の彼女だよ。もう出てってくれよ」
「そっか、とうとうおまえにも彼女ができたかー」
弟の仏頂面とは対照的の、心から嬉しそうなこの顔。
「君、可愛いね。アイオリアをよろしく。じゃあ、また」
に手を振ると、スキップでもしそうな勢いで去っていった。
ドアが閉じられてから、はアイオリアを見上げる。
「・・・なんで、彼女だなんて」
「迷惑だったらゴメン」
と言う口調も、尖っている。戸惑うをもっと強く抱き寄せ、キスをした。
アイオリアは、揺れる自分自身の心への対処に、困っていた。
アイオロスをじっと見つめていた・・・自分よりも兄の方に惹かれるんじゃないかって危機感が、あんな言動を取らせた。
負けるのが悔しいとかではなくて、単純にそれは独占欲だった。
夏の暑さの中で出会っただけのなのに。
「・・・アイオリア」
体に巻きつけていたバスタオルを剥ぎ取った。
「させてくれよ」
抱いての好きなキスを浴びせる。
もう、体も心も離したくない、なんて・・・。
「またあの道、通る?」
「ビールおごってくれるなら」
小さく笑っているの、耳元に囁いた。
「じゃあ、ビールのうまい季節のうちに」
暑い夏が、終わらないうちに。
・あとがき・
突発です。なぜか浮かんだこんなネタ。
夏だからねー、アイオリア書きたいのよね。最近アイオリアやアイオロスばっかり書いている気がするんだけど。今回はちょっといつもとは違うアイオリアを目指してみました。
そのため、最初は「誰ですかアンタは」と違和感あったんですが、最初のキスの辺りから、「あ、アイオリアだ」という感じになってきました。
ちょっと強引に誘えたとしても、やっぱりちょっと不器用で、細かいこと気にせず荒っぽくガンガン攻めるのがアイオリアだなって。
それから、アイオロスに対してちょっとぞんざいな態度のアイオリアっていうのも珍しい。いつもは「兄さん」って呼ばせているんだけど、あえて「兄貴」にしました。
アイオロスは相変わらずだけどね(笑)。文体もラフにルーズに。整えず思ったまま書いてみました。夏だから。暑いからね。
H17.8.11
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