「高級ホテルの最上階でクリスマスケーキを食べるなんて、彼氏と過ごすイヴとしては最高のシチュエーションね」
「いつもと何も変わらないですけどね」
Lのあっさりしすぎているリアクションに、思わず
は吹き出してしまう。
確かにこのスィートルームは、Lが数週間前から使っている仕事場兼住居で、
も毎日のように来ているし、彼とケーキを食べるのもいつものことだ。
「でもホラっ、クリスマスケーキだし」
Lが気に入っているケーキ屋さんに予約して買ったのは、ベーシックなイチゴの生クリームケーキで、チョコでできた家やサンタさんなどがちゃんと乗っている。
テーブルの上には小さなクリスマスツリーもあるが、これは
がねだってLにUFOキャッチャーで取ってもらったものだ。
何よりクリスマスイヴを恋人同士で過ごすということに意義を見いだしているから、
はご機嫌だった。
「もう一切れ、食べてもいいですか」
フォークをくわえて、ケーキを指さしている。
「いいよいいよ、いっぱいあるから」
何しろ二人で1ホール、食べ放題だ。
上手に取り分けられたことに満足しつつ、お皿をLに手渡す。
「
さんも、どうぞ」
「私は遠慮するわ」
二切れ目に手をつけるなんて、女性としては勇気が要る行動だ。
「・・・あー、幸せ」
甘いクリームにとろけそうな笑顔を見て、なぜだか少し、Lは苦しかった。
「さてプレゼントでーす」
リボンのかかった袋から、Lが中身を取り出すのを、ちょっと緊張しながら見守っている。
の、毛糸で編まれたマフラーが広げられた。
「手編みなの。クリスマスプレゼントとしてはベタすぎるかとも思ったんだけど、頑張って初挑戦してみたのよ」
「
さんが編んでくれたんですか、私なんかのために・・・」
しげしげ見つめていたら、「あまり見ないで、初心者のアラが・・・」と恥ずかしそうに抗議されたので、腿と胸の間にはさむようにして、きゅっと抱きしめる。
「あたたかいです、ありがとう」
が、心に染みた。
「こんな気持ちのこもったプレゼントをもらっては、出しづらいんですけど」
言葉の通り遠慮がちに、小さな箱を差し伸べる。
「わ、何かしら」
早速開けてみると、小さな輝きがふたつ並んでいた。
「・・・ピアス」
雪の結晶をモチーフにしたピアスは、プラチナだろう、繊細な細工で、光を宿すダイヤモンドが一粒ずつあしらわれていた。
「すごい・・・」
が見ても、ひととおりの品ではないことが分かる。
彼は出しづらいなんて言ったけれど、まるきり逆だ。自分の下手な作品の方をよほど引っ込めたい。
ちょっとうらめしそうに見ると、Lはまだマフラーの感触を楽しんでいたので、力が抜けてしまった。
両膝立てて背を丸めて、スリスリしている姿はまるで猫みたいで、
の笑いを誘うのだった。
「これ、ありがとう。こんな高そうなもの、かえって悪い気がするけど」
「いいえ。気に入ってもらえたら私も嬉しいんです。・・・あなたを繋ぎ止めておけるなら・・・」
後半の言葉は、聞こえるか聞こえないかくらいの呟き。
「?」
ずっと感じてはいた。今日のLはおかしい。
こんなに素敵な夜なのに。
「どうしたの、竜崎」
隣にぴたり寄り添うようにして、肩口にもたれる。拒みはしないけれど、やっぱりどこかぎこちなさが伝わってきた。
「心配ごと? 気になるから言って」
「・・・いいですか」
「もちろん」
彼女である以上は、何でも分かち合いたいと、常々思っているのだから。
Lはことん、と首を傾けた。互いの頭が触れ合ったところが、ほんのり温かい。
「私は、こんな仕事で、いつも忙しいとばかり言っていて、あなたを満足させるようなことを何一つしていないんじゃないかって思うんです。これで恋人と言えるのかと・・・。いつ捨てられてもおかしくないと考えたら、怖くなってしまいました」
マフラーを手繰るようにして握る。ここから伝わるぬくもりを、疑うわけでは決してないけれど。
「ピアスではなくリングを贈ったなら、離れて行かないでしょうか」
「・・・・」
泣きたくなった。
誰もが抱くであろう不安を、正面から見据えて苦しむLを、痛々しくすら感じて。
「・・・満足かどうかは、私が決めることじゃない?」
声も詰まりそうな心地だけれど、ちょっと無理して声のトーンを上げてみた。
「強いて言えば、クリスマスイヴなんだから、もっと楽しそうにしてくれたら私は満足だけど」
ちょっと目を上げると、大きな窓から遠くまでの夜景を望める。寒気にさらされぴりりとした大気の中、それでもほんわか温かみを感じるのは、きっと今夜が特別な夜だから。
「景色はきれいだし、ケーキはおいしいし、すごいプレゼントもらったし・・・」
そっと、Lの手からマフラーを取る。彼の首に後ろからやさしくかけて、巻いてあげた。
「何もしてないなんて、嘘」
ゆるめに、もう一巻き。
「私のために、時間を空けてくれた。何よりこうして、そばにいてくれているじゃない」
に、手を添える。
こちらを向いた漆黒の瞳に、自分が映っているのを、見た。
「私はそれが、嬉しいの」
「・・・
」
呼び捨てにして抱きしめた。強く、苦しいほど。
キスをしたら、そのまま溺れかけてしまう。
「竜・・・崎っ」
「
・・・」
与えられるだけの快感を与え、繋がる、きつく、いつまでもと願いながら。
が離れていってしまったら、
に捨てられてしまったら。そのときどうなるか・・・何をしでかすか・・・分からない。
自らにひそむ狂気には、とっくに気付いていた。
本能に近い行為の中で、そのかけらが表出してしまうことも。
激しくぶつけるように、貪って奪って。それでも健気にしがみついてくる、たおやかな両手を掴み上げた。
(逃がさない・・・離さない。・・・
!)
「いつか、リングもくれるの?」
腕枕でのピロートーク、小さく呟くと、Lは耳の下にキスをくれた。
「
さんがよければ、すぐにでも」
約束を交わしたい。ずっとそばに置いて、不安なんてなくなるように。
「私のものになってください」
小指に小指をからめて、目と目を合わせて。
くすぐったいような上ずった気持ちで、
は微笑んだ。
「もうとっくに、そのつもりだったけど」
心も体も、全部。
でも、確かなものが欲しいというなら、形式であれ法に則すものであれ、望むようにしてもいい。
この両腕に閉じ込めたままにしておけばいい。
「雪が、降らないかな」
Lに抱かれたままベッドの中から眺めやると、曇りがちな窓の夜景が、幻想的に瞬いていた。
「そうそう都合よくホワイトクリスマスにはなりませんよ」
そんなことはどうでもいい、といったように、目を閉じ頬を寄せてくる。Lの髪が触れたので、
は笑った。
ぬくぬくとしたベッドで、時を忘れくっついてじゃれ合って。そうして聖なる夜を越える。
ただ二人きりで。
・あとがき・
クリスマスドリーム、L編です。
今回はちょっと不安ぎみ、自信なさげなLで。
世界の探偵も、人の心まではそうそう支配しきれないということで。
なんかLって、一人の女性に執着しそうなイメージがあります。
ストーカーの素質十分。Lがストーカーになったらすごそうだ・・・。Lはいつも甘い物食べているけど、ケーキを1ホール一人で完食なんて可能ですかね? ふとそんなことを考えてしまった。
H17.12.24
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