ニアのラブコン




 ワイミーズハウスでは、友達と呼べる存在はいなかったけれど、だけは何くれとなく親切に、近付いてきてくれた。
 いつしか、一緒にパズルやゲームで遊ぶようになっていたものだ。
 やがて成長し、施設を出ても、は変わらず訪ねて来てくれていた。
 彼女にとって自分は特別な存在なのだと・・・そう、ニアは思うようになっていた。
 ひょんなことから、Lとニアとの三人で出かけることになった、あの日までは。

 Lはワイミーズハウスの子供たちにとって最大の目標であり、当然皆に慕われている。
 ニアにしてもにしても同じで、この日二人ともはしゃいでいた。
 特には、Lにまとわりつき、あれやこれやと話しかけてはコロコロと笑っている。
 さすがのニアも、嫉妬めいた感情に胸を痛め始めたころ、
「Lって背も高くて、ステキ!」
 そう、が言ったのだった。
 Lを見上げ、にっこりして。
 憧れに満ちた眼差しは、一度も自分には向けられたことのないもの。
 Lに対する、いつもの憧憬だと、そう信じたいけれど−。
 このとき、はっきりと思い知らされた。
 と自分の、哀しい身長差・・・それはほとんどないに等しい・・・を。

「魔法の薬でグングン伸びる・・・論外ですね」
 独り言を呟きながら、左クリックでブラウザバックする。
 身長を伸ばす方法を紹介したサイトを片っ端から見て回っているところだが、バランス良く食べ睡眠と運動を、という正統派から、悪徳商法やあやしい宗教まがいのものまで、相変わらずネット上の情報は玉石混淆としている。
 とはいえ、ニアもバカではない・・・むしろ天才と呼ばれている男だ、取捨選択に誤りはない。
「ホルモン剤の注射・・・やはりこれに尽きますね」
 じきに成人するというのに155センチでは、低身長と診断されよう。・・・もっとも、病院に行くつもりなど毛頭ないが。
 ニアは、カチ、とマイクのスイッチを入れた。
「ジェバンニ、成長ホルモン剤と注射器を調達してください」

 薬液を吸い上げ、袖をまくった腕に針を近付ける。
 そのときだ、ノックもなしにドアが開いたのは。
「ニア、早まるなー!」
 わけの分からないことを怒鳴りながら乱入してきた男たちに、羽交い絞めにされたと思うと、注射器を取り上げられた。
 薬の瓶が倒れ、中身が床にこぼれてしまう。
「ああっ」
 大事な薬が・・・、背を伸ばしてくれるホルモン剤が!
「何するんですか!」
 ニアは目の前に立ったゴーグルの男をにらみ上げる。また、背後で体を押さえつけて離さない金髪の男にも、足をバタつかせ抗議の意を示した。
「何するんだ、ってのはこっちのセリフだ」
 マットは注射器をダストボックスに投げ入れる。
「全く、何のヤクか知らねーけど、ヒヤヒヤさせんなよ」
 そう言うメロにようやく解放され、瓶を拾い上げる。薬はほとんど残っていなかった。
「ああ・・・今月のオモチャ代を削って買ったのに・・・弁償してください!」
 ニアの珍しい大声に、メロとマットは気圧されつつも、チョコ代とゲーム代がそれぞれ惜しい二人は、弁償なんてまっぴらだと思っていた。
「ま・・・まあ怒んなよ、心配して来てやったんだぜ」
「・・・そんな怪しげな行動に走っているってことは・・・もう、知ってんのか?」
「・・・・」
『もう知っている』? ・・・何のことだ。
 ニアの表情を見て取り、メロとマットは顔を見合わせる。
 意を決したように、メロが口を開いた。
「Lとが・・・デキてるらしい」

 外出の嫌いなマットが、メロから頼まれた捜査で街を歩いていたときのこと。
 オープンカフェでお茶している男女の姿が目に入った。男の方が、特徴ある座り方をしているのだ、イヤでも目に付いてしまう。
 そう、それはLとだった。
 心なしか頬を染めて何かを一生懸命話している、ケーキを口に運びながら時折言葉を返すL。
「あれはどう見てもデート・・・」
「もういいです」
 マットの報告をきっぱり遮り、ニアは下を向いてブロックをいじり出した。
 やっぱり・・・。
 やっぱりは、Lを選んだ。
 身長のせいばかりにするつもりはない。それもやはり、人並みの体格に恵まれなかったことを悔やむほか、今は気持ちのやり場がないのだった。
「ニア・・・」
 一人住まいにしてはかなりの広さの部屋に、ガチャガチャという音だけが響き渡る。
 うずくまったニアの姿にやりきれなくなって、メロはその細い肩をがばっと抱いてやった。
「落ち込むなよそんなに。女はだけじゃねーって!」
「そうそう。何なら可愛いコ紹介してやるから。合コンでもやる?」
 携帯電話のメモリを開いて、早くもリストアップを始めるマットに、メロはぼそっと呟いた。
「でも、オモチャばっかいじってる引きこもりに、惚れる女いるかな・・・」
「メロおまえ、ニアを力づけてやるんじゃなかったのかよ」
 一番になりたいメロとしては、ニアに対して複雑な気持ちらしい。
 マットもため息をついて、タバコをくわえた。
 ・・・分かっている。ニアにはしかいない。
 が必要なのだ。・・・それなのに。
「なんでLに・・・」
 続く言葉はない。
 Lに行ったとして、おかしくはない。
 皆の憧れ、目標なのだから。

「・・・そうかコレは成長ホルモン剤だったのか」
「そりゃ悪いコトしたな」
 ぽりぽりと頭をかくメロだが、やはり弁償する気はない。
 ニアはブロックで大きな要塞を作りながら、自嘲じみた呟きをこぼした。
「・・・どうせ思春期を過ぎてしまっては、成長ホルモン剤も大した効果を望めません。・・・私は結局、Lに敵いはしないんです・・・何一つ」
「そう言うなって!」
 負けん気の強いメロは、床に膝をつきニアににじり寄った。
「一人じゃLを超えられなくても、二人なら大丈夫だ! 俺と二人でを落とそう!」
「オイオイそれじゃ3Pだろ。俺も混ぜろ」
 もはや何が何だか。
「・・・要するに背を伸ばしゃいーんだろ」
 ニアの後ろに回り、再び羽交い絞めにする。
「引っ張りゃ伸びるんじゃね? マット、足」
「そんなんで伸びるかよ」
 と言いつつも、マットはくわえタバコのまま、ニアの両足を持った。
「何するんですか、離してください」
 暴れるニアをがっちり押さえ、二人向かい合った格好で立ち上がる。
「「せーの!!」」
 ぐいーっ!
「いっ痛ったた・・・やっやめ・・・」
「ガマンしろ。をモノにしたいんだろ!」
「そうそう」
 メロは案外本気だけれど、マットは半ば面白がっている。
「・・・っこんなことしたって・・・いたたたた・・・!!」
「何してんのよーーー!!!」
 ゴキッ!!
 いきなり部屋に入り込んできたの飛び蹴りが炸裂し、メロは吹っ飛んだ。おかげでニアは自由になり、マットは「のパンツ見えた」と口笛吹いて喜んでいる。
 着地も決まったは、ニアに駆け寄り抱き起こした。
「大丈夫? ニア」
「・・・大丈夫じゃないです」
 ぐったりしている小柄な体を、腕にぎゅっと抱きしめる。
「何すんだよ
 起き上がってきたメロの首が、あらぬ方向に曲がっている。マットがゴキッ!とすごい音を立てて直してやった。
「あんたたちこそ、ニアに何するのよ」
 抱きしめた手に力をこめ、メロとマットを順ににらみつける。
 メロも負けじとにらみ返した。
「ふざけたことしてんじゃねーよ」
 マットも煙を吐きながら、壁に背をもたせる。
「Lと付き合ってんなら、ニアの部屋になんかノコノコ来んな」
「・・・ちょっと待ってよ、誰がLと付き合ってるって・・・」
「ニアはなー、お前のために背を伸ばしたくて、それであんなことしてたんだぞ」
「・・・別に、引っ張ってくれとは頼んでません・・・」
 ニアの小さな抗議は、誰にも届かない。
「ニアが・・・私のために・・・?」
 胸に溢れてくるものが苦しい。は大きく、息をついた。
「変に気を持たせるようなことすんなよ。メロ行こうぜ」
「・・・ああ」
 後ろ髪を引かれるように振り返るメロを、マットが引っ張って出て行く。
 ドアが閉じられてから、はニアを見下ろした。もう苦痛は過ぎたろうに、膝の上丸まって動こうとしない。
「ニア・・・」
 そっと髪に手を触れ、癖があって柔らかいそれを軽く何度も撫でてやる。
「・・・マットに聞きました・・・Lとデートしていたそうですね」
「デート・・・!?」
 は全てを悟った。誤解を解くためには、正直に言うしかないと腹をくくる。
「違うよ・・・あれはLに話を聞いてもらってたの。好きな人がいるんだけど・・・ずっと好きだったんだけど、言えなくて・・・ってことを」
 あったかくてやわらかくて、いとしい。
 ニアは身じろぎひとつせず、を感じていた。
「・・・私は、ばかですね。背が伸びれば、あなたに好かれるかもと思ったんです」
「・・・そんなこと最初から気にしてないのに・・・」
 は少し泣きたい気分で、声が詰まった。
「ニア、顔を上げてよ。Lに、「きっとうまくいく」って言われたの・・・」
 Lに憧れているのは事実で、恋の相談とはいえLと二人きりで話す機会にはときめきを感じた。
 でも、それは、この気持ちとはまるで種類の違う感情だ。
「ニアったら」
 優しい呼びかけに応え、ニアはの膝に埋めていた顔をもぞっと動かした。
 無表情な猫みたい。真っ直ぐに見つめてくる大きな瞳の前で、は微笑んだ。
「小さいころからずっと一緒だったから・・・今更って感じもするんだけどさ・・・」
「・・・なら言わなくていいです、
 あっさり切り、ニアはようやく起き上がる。膝上の重みが急になくなって、は少し寂しくなった。
「ちょっと、立ってみてくれますか」
 軽く袖を引かれ、共に立ち上がる。向かい合うと、顔が近くてドキドキする。
「やっぱり、の方が少し高いんですね」
 ニアは横を向き、窓ガラスに映る自分たちを見て軽くため息をついている。
「全然気にしてないってば。そんなことより、このオモチャの方をどうにかして欲しいんだけど」
「それは無理です」
 即答され、ガックリ。
 もうオモチャなんてとっくに卒業の年なのに、いつも何かしらが床に散らばっているんだから。
 それにしても、身長のことには健気な努力を払ったのに、オモチャに関してはスルーか。・・・まぁ、彼らしいといえば彼らしくて、そんなところもひっくるめて、好きなんだけど。
「そう・・・そのままが、いいのよ・・・」
 ゆっくりと、言ったら、ニアも窓ガラスから目線を外し、こちらを見た。
「確かに、この身長で、いいこともあるようです」
 パジャマのような服の、腕を伸ばし、正面からぎゅっと抱き寄せた・・・いや、しがみついたという方が正確だろうか。
 そのまま、の唇をついばみ、ちゅっ・・・と吸う。
「・・・ん・・・っ」
 体の奥にずしんと来た重みに、はふらつきそうになる。離してくれない両腕が、ますます胸を苦しくさせて。
「・・・キスをしやすいです」
 目に、吸い込まれそうになって・・・。
「・・・やだよ離して・・・」
 息も絶え絶えに、訴える。
 ニアの柔らかな体からは、どこか不思議な、でもいい匂いがしていた。
 溺れそうで、いっぱいで。解放して欲しいのに、ニアはしっかりとしがみついたまま。
「どうして・・・キスは嫌いですか」
「そうじゃないけど・・・立ってられなくなっちゃうから・・・」
「じゃ立ってるのはやめましょう」
 体を支えてやりながら、ゆるやかに床に倒れこむ。
 身長も何も関係ない状態になって、もう一度、キスをした。
 ごろごろ寝転がりながら、至近距離のに、少しだけ笑いかけてみせる。
「・・・好きでした、ずっと」
「・・・・ニア」
 泣きたい気分で、彼の胸に寄り添った。
「嬉しい・・・」
 それから、何度も、キスを。
 想っていた年月分の、キスを−。

 その後。
 再び訪れ来たメロとマットが、新婚さながらにベタベタくっついているニアとにあてられて、
「心配してソンした」
「ちくしょう・・・何だったんだよ、今までのは」
 と、嫉妬混じりの悪態をつきながらも、納まるところに納まった二人を喜んで、目配せし合ったことを付け加えておこう。
 



                                                             END










       ・あとがき・

ラブ☆コンってマンガがありましたね。映画にもなりましたが・・・ラブコンプレックス、大きい女子と小さい男子の恋というのしか知りませんが、ゴロがいいのでタイトルにもらいました。

そもそも13巻を読んで、ニアの小ささにショックを受け浮かんだ話なんですけどね。
私も小柄なので、ニアより小さい。・・・けど、155センチって。Lが亡くなった当時の身長だというなら納得だけど、そんな説明もないし(粧裕ちゃんのように二つあるとかなら分かるけど)。小さすぎですよ〜体重40キロは私より軽いよ〜(悲)。
ま、結局、ちゃんはまるで気にしてなかったですけどね。身長なんかより中身が大切ということで。
ちなみにちゃんは158センチくらいのつもりで書きました。

パラレルなので、メロやマットとは仲良し(悪友?)だし、Lのことも本名で呼んじゃってます(笑)。






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