もう食事は終えた、というメールが来ていたから、お茶の準備をして待っていた。
 彼の好きなコーヒーに、昨日焼いてみたハートのチョコレートケーキ。
 ピンポーン。
 呼び鈴と同時に玄関へダッシュ。髪をなでつけてから、ドアを開ける。 
 最高の笑顔を見せたい、なんて意識せずとも、こぼれ落ちた。
 目の前に立つ、大好きな人に向けて。
「おかえりなさい、シンタロー!」


 女の子の部屋


 は、シンタローが第一のパプワ島から帰ってきたのちに知り合った、いわゆるカタギのお嬢さんだ。
 シンタローの秘密の恋人(何しろガンマ団総帥と浅からぬ関係だと知れたら、命がいくつあっても足りないだろうから)として、一般企業に勤め、小さなアパートに一人暮らしをしている。
 彼とのメールは専用のケータイで。電話は、忙しい総帥のことを慮り、こちらからは極力遠慮していた。
 時折、まさにお忍びで訪ねてきてくれるシンタローに、思い切り甘えてくっついて。
−コタローを連れ戻しに行ってくる−
 そんな短いメールを最後に、音信不通になっても、ただひたすら待っていた。
 決して短いとはいえない時間、心細かったけれど・・・、信じて待ち続けていた。
 そして今、彼の腕の中、安堵と幸福に身を委ねている。
 知らず涙が頬を濡らしていた。
「中に入ろう」
 ぽん、と肩を叩かれて、ようやく少し離れる。
 そうしては、改めて、シンタローの全身を眺めた。
 長くしている黒髪に、長身の堂々とした体躯。しばらく見ない間に、更に男らしくなったみたい。
 だけど慈しむような優しいまなざしは以前と変わらず、の心をほっとさせるのだった。
「どうぞ」
 中に招じ入れ、用意していたコーヒーを彼専用のカップに注ぐ。その間にシンタローは、勝手知ったるふうに座り込み、クッションにもたれた。
 の小ぢんまりとした部屋は、少し模様替えがされて、パステルカラーのこまごました物たちが整頓されて並んでいる。
 女の子らしい部屋に、いつ来ても、またずい分と久し振りであっても、頬の緩むシンタローだった。
「本当に良かったね、コタローくんが起きて、戻ってきて」
 ことの顛末は、メールで簡単に伝えてもらっていた。
 は二つのカップと小さなケーキをテーブルに並べ、クッションを持ってきてシンタローに寄り添うようにぺたんと座る。
「ああ・・・。コタローのことだけじゃなくて、本当に色んなことがあったんだ。・・・夜通し話したいな」
 微笑んでみせる小さな合図に、は笑い返しながらも、ちょっと戸惑ってしまう。
「私は明日休みだから、いいけど・・・」
 普段でも休みなく働いているシンタロー、特に今は、ガンマ団に帰ってまだ日も浅く、色々とやらなければならないことがあるのでは・・・。
 心配するに、シンタローはコーヒーを一口啜ると、ふう、と息を吐き言った。
と、いたいんだ」
 確かに、暇はない。だが当面の責務をどうにかこなし終えた今、何よりもとの時間を優先させたかった。
 忙しい、時間がない、なんて、ただの言い訳なのだから。
「・・・嬉しい〜」
 も心得て、素直に受け止めた。
 ことん、と首を傾ける。
「俺も嬉しい」
 目の前に来た頭をよしよし、と撫でるが、撫でているだけでは満足できず、頭を上げさせて唇にキスをする。
 ドキドキさせる甘いキスは、止められなくて、徐々に火をつけられ、とめどなく激しくなってゆく。
「んっ・・・」
 支え切れず、とうとうはクッションの上に倒れこんだ。
・・・」
 その上に来て、シンタローはの髪をすくい取る。
「俺ごめんな、どーしようもなくて・・・」
「ん・・・?」
 後ろめたいような顔をしているシンタローに、も手を伸ばした。
 黒髪に触れる前に、ばふっと倒れこんできたから、顔が見えなくなった。
「話すより先に、と、したい・・・」
 耳のそばでの囁きは、何より甘い誘いの言葉となる。
 求めているものは同じ。じかに抱き合い、触れ合いたい。
「・・・ベッドに行こ」
 にっこりして、ガンマ団総帥の頭をぽんぽん、してあげた。

「やだシンタロー、もっと、ゆっくり・・・」
 渇望の激しさについてゆけず、は小さく抗議をする。
 聞こえていないはずはあるまいに、シンタローの勢いは止まらない。手荒といっていい愛撫に、それでもの身体は反応してゆく。
「まさか、他の男としたりしてないだろーな・・・」
 長すぎたブランクは、猜疑を生む。
 女々しいと思いつつも、シンタローは口にせずにはおられなかった。
 のこの体に、知らない誰かが触れるなんて。想像しただけで気が狂いそうになる・・・!
 自分がこんなに嫉妬深いとは思わなかった。
「そんなこと、あるわけないでしょ」
 仕事や友達との付き合いの中で、素敵な男性と知り合ったり、あからさまに言い寄られることも確かにあった。
 だけど。
「シンタロー以上の人が、いると思うの?」
 悪いけれど、相手にもならない。
 シンタローは汗ばむ身体で強く抱きしめ、キスを散らす。
「−俺だけのものだ、・・・」
 胸もとを強く吸い、跡を残した。
「シンタロー・・・」
 久し振りの感覚は強すぎる刺激となる。あえぎながら、彼を迎え入れた。
 嫉妬も独占欲も、それだけ求められていると思えば嬉しくて、全身が歓喜に震えた。

 深く愛し合った後、とっくに冷めてしまったコーヒーを入れ直して、改めてはシンタローの話を聞かせてもらった。
 第二のパプワ島、不思議な世界で遭遇したさまざまな出来事、出会い。
 赤と青の秘石、番人、パプワの秘密、黒い太陽・・・。
 は、シンタローが見たもの聞いたこと全てを、自分が体験したもののように心に受け止めた。
 笑ったり、じんとしたり。
 一部始終を聞き終えたころには、コーヒーも三杯目、時計の針は真夜中を指していた。
 それでも、寄り添ったり身を乗り出したりして熱心に聞いていたはちっとも眠くはない。
「パプワくんが起きたら・・・、私も、会いに行きたいな」
 目尻の涙をぬぐって、微笑んだ。
「ああ。俺も、パプワとを会わせたいよ」
 大切な友達と、恋人を、互いに知ってもらえたら、どんなに素晴らしいだろう。
「早く、そんな日が来るといいね」
「必ず来るさ」
 いつとは知れずとも、絶対にまた会える。
 大人に特有の曖昧さや狡さのない、それは約束と同等の希望だった。
 シンタローの、精悍でいて優しい顔つき、真っ直ぐな黒の瞳を見つめ、は小さく息をつく。
 今聞かせてくれた長い冒険と経験が、シンタローに更なる強さと優しさを与えたのだろう。
 だけど、ずっとが好ましく思っていた部分や根本の大切なところはそのままで。
 変わらぬものと変化するものが、シンタローをますます素敵な男性にしたのだと感じた。
「家族と暮らせるようになって、本当に、良かったね」
「ああ。休み取れるようになったら、コタローを遊びに連れて行ったり、色々したいと思ってる」
 そう言うシンタローは、本当に、嬉しそうだった。
 重い宿命を乗り越えた今、止まっていた時間が動き出した。これから、家族の楽しい思い出をたくさんたくさん作れるだろう。
 心を交わし合い、愛を注いで、満ち足りた日々を過ごせるだろう。
「・・・あのさ」
 シンタローは心もち居ずまいを正し、の顔を正面から見つめた。
 うるみを残した瞳はぐんと魅力的で、吸い込まれそうになる。
「・・・も、家族になってくれないか」
 我ながら欲張りだ。でも、この部屋ごとがそばにいてくれたら・・・と、ずっと思っていた。
 安らぎや癒し、それに明日へのパワーをくれる、女の子の部屋とそこにいる
 宝物のような存在を、単純に、手元に置いておきたい。もう他の男に取られやしないかとやきもきすることのないように。
「・・・シンタロー・・・」
 いつも見慣れている自分の部屋が、一瞬で変貌したようだった。
 望みは同じで、夢のようで、周りが全てピンク一色になってしまったから。
「−喜んで!」
 手放しで、彼の胸に飛び込んだ。
「・・・ありがとう、
 彼がいない間の孤独、不満を抱いてしまうことに対する自己嫌悪・・・そんなものも、シンタローの腕の中、きれいに溶けてなくなってゆく。
 強く抱き合い、幸福に酔った。

 全ての終わりが、新しい始まりに繋がる。
 愛に満ちた、温かい未来に向かって。





                                                             END



       ・あとがき・


PAPUWA完結記念です。
大団円の最終回を見たら、何だか落ち着かなくて、原作沿いを書きたいなんて無謀なことまで考えたりして。
とりあえず、その後のシンタローを書くことで気を鎮めようと思いました。
ちょうどシンタローってリクエストもありましたのでね。
何となく、マジックの「愛をください」を思い出しながら・・・親子だからねー。
これからちゃん、一族に混じって楽しい日々が(笑)。
そんな続編を書くのもいいかも。

タイトルはcharaの歌からー。




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