傷
「竜崎、寝ているんですか?」
何の気もなくパシッと手を触れた背が、びくっと伸びたので、丸い背中しか見たことのなかった松田は目を見開いた。
「・・・松田さん」
次の瞬間、ちゃんと元の猫背に戻って、Lは肩越しにじとっと目線を送る。
「気をつけてもらえますか。背中の傷が、痛むんです」
ことさら「背中の傷」を強調して−いつもは声に抑揚などつけないクセに−、松田さんを鋭い目つきでにらむLに、は内心ハラハラしていた。
「えっ傷? 竜崎、背中ケガしたんですか? いつの間に・・・」
松田は心配そうに手を伸ばし、Lの長袖Tシャツを裾からまくり上げようとしている(ちらっとパンツが見えた)。
「まっ松田さん」
は慌て、その手首を掴んで止めた。Lと目が合い、すぐに離す。
「何、どうしたのちゃん」
一瞬とはいえ手首を握られて、松田はちょっと嬉しそう。
は口をパクパクさせる。
「あっあの・・・そうだちょっとこっち、手伝ってもらえます?」
「いいよいいよ、ちゃんの頼みなら」
嬉々としての後をついてゆく松田を、Lは相変わらずのあの目で、追っていた。
その夜・・・深夜に、ようやく二人きりになって。
「松田さんの前で、あんなことを言って・・・」
Lの膝に抱かれながら、は軽く口を尖らせる。
Lは片手での体を撫で、もう片方の手に持ったリーフパイをかじっていた。
ぽろぽろこぼれるパイのかけらを、がいやがるのも、気付かぬふりで。
「松田・・・松田さんは、のことを狙っているようだから、クギを刺すつもりだったんです」
「松田さんが私を? 考えすぎでしょ」
「天然だけに、まるで通じませんでしたが」
の言葉はすっかり黙殺して、ぱりぱりパイをかじっている。
ふに落ちないが、それも想ってくれているがゆえか。意外なほど独占欲が強いことも、とっくに知っている。
スカートに散らばったお菓子のくずを払おうとしたら、手を掴み上げられた。
そのままキスされ・・・きっと食べ終わったからだろう・・・、砂糖の味とバター風味を、送り込まれる。
目を閉じると、両手での愛撫はどんどん激しいものとなっていった。
「・・・やあっ・・・竜崎」
一人がけのソファだと、狭い。
「・・・」
小さくちぢこまるように、きゅっと抱きしめる。
「は私だけのものです」
「竜崎、私、爪切るよ」
シャツを脱がせてあげてから、Lの背中に刻まれた傷をそっとなぞる。
細い筋のように、左右数本ずつついたそれは、との情事の跡に他ならない。
「いいんです、切る必要ありません」
たおやかな手をすくうように持ち上げ、キスをする。きれいに伸ばしてマニキュアや時にはネイルアートを楽しむ、自慢の爪にも、口づけた。
「あなたがつけてくれる傷なら、むしろ嬉しいくらいなんです。・・・だから、今夜も、つけてください」
そのままベッドに横たえ、唇に頬に耳元に、キスを降らす。
「竜崎・・・」
「つけてください。私がのものだという、その証に代えて」
次には首筋に唇を当てる。そのまま、強く強く、吸った。あまりに執拗にそうしているから、さすがにもいやいやをする。
「・・・っやだそんなにしたら・・・跡が・・・」
「はい跡になりました」
ようやく離すと、赤く残った印に満足げに指を滑らす。
「私も、は私のものだという証を残したまでです」
「・・・もうっ」
も手を触れるが、こすっても当然消えるものではない。
「こんな見えるところに・・・どういうつもり・・・っ、あ!」
抗議の声は、かき消された。
「・・・ひぁ・・・っ!」
いきなり最奥を突かれ、激しく動きを加えられて。
前戯こそ短かったけれど、の内部は十分に潤っており、凶暴な欲望も快楽として受け入れることが可能となっていた。
「・・・あああっ・・・」
「・・・」
もう一度の手を取り、自分の背中へ導く。
「爪を、立てて・・・私に、傷を」
「竜崎・・・っ」
「傷を、つけてください・・・」
「ん・・・んっ」
夢中で、両手をLの背に回す。細くてゴツゴツ骨っぽい体格を、手の指に感じていた。
「はやく・・・傷・・・」
激しく突くリズムに合わせ、ベッドがギシギシきしむ。
何度も短いストロークで繰り返されるそれは、の胸に苦しいほどせり上がり、指先まで痺れるように広がってゆく。
「・・・ふっうぁ・・・っあ」
熱い喉から絶え絶えの声が押し出される。
Lを傷つけようとも、傷つけたくないとも、もはや考えられはしなかった。
「・・・あ、や・・・あぁあ・・・!」
指先に自然に力はこもり、男の背中に、しがみつかずにおられなかっただけ・・・。
「・・・血・・・滲んでる・・・」
「なら舐めてください」
反対側を向いて、丸まるように横になっているLの背中を、もう一度覗き込む。
古傷の上に、生傷が重なっていた。
ぺろ、と舌を這わすと、やけに淫靡な気分になって。
気がつくと一本一本の赤い筋を、丁寧に舌でなぞっていた。
「痛い・・・?」
少し顔を上げると、Lが親指を口にくわえているのが見えた。
「・・・痛くても、しみても・・・」
もぞり身じろぎをして、体を反転させる。
「この傷が絶えなければいいと、思います」
「・・・竜崎」
すっぽりと抱かれれば、ちょっとだけ、泣きたい気分になる。
「そんなことしなくたって・・・私は、あなたのもの、なのに」
「・・・・・・・」
胎児みたいなポーズで、抱き合っていた。
次の日、がケーキと紅茶を持って行くと、またLのそばに松田さんがいた。
「竜崎、背中大丈夫ですか?」
本気の心配顔だから、下手に割って入れない。
「いいえ大丈夫じゃないです。何しろ昨夜また新しく・・・」
「竜崎っ」
やはり黙っていられなくなり、強引に割り込むとお盆をテーブルに置く。
「はいっどーぞ、生クリームたっぷりよ、おいしそうでしょ!」
の目配せには気付かぬフリをしつつも、生クリームの誘惑には勝てず、Lは口を閉ざしフォークを持った。
「あれっちゃん」
Lの前であまり親しげにしないで欲しい、というの願いむなしく、松田は身を起こして近づいてくる。
「この季節にハイネック? 暑くない?」
ぱっと目を上げたLに、小さく首を振ってみせ、は自分の首元に手を添えた。
「う、うん。この服がお気に入りなの」
「へーそっかー。着心地いい服なんだね。竜崎もそうなのかな」
能天気に一人で喋っている松田さんを見て、ホントこの人が天然で良かった・・・と息を吐くだった。
END
・あとがき・
昔は、小説やらマンガの描写に「背中の傷」というのをよく見かけたような気がするんです。女の人が爪を立てるから、男の人の背中には傷が・・・という。
だから私、中高生の時代には、「恋人がいる男の人の背中には、傷があるんだ」と思い込んでいました(笑)。
しかし実際には背中にそんな傷がある男の人を見たことがないし(いや、男の人の背中なんてそんな見る機会もないですが)、そんな描写自体も見かけなくなって久しいですね。
何だったんだろう、背中の傷って。
ともかく、映画を見たら浮かんだネタです。松ケンLの声でセリフが浮かんでいました。
実写だと更に現実味があっていいですね・・・すみません松山くん、こんな妄想してしまって。でもLの格好してる松山くん限定ですから。
私としてはかなりいいと思ったの、松ケンL。またもう一回、映画見たくてしょうがないくらい。
この小説が気に入ってもらえたなら、是非拍手や投票をお願いします! 何より励みになります。
↓
web拍手を送る ひとこと感想いただけたら嬉しいです。
お好きなドリーム小説ランキング コメントなどいただけたら励みになります!
戻る
「DEATH NOTEドリーム小説」へ
H18.6.24
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||