秘密ですよ?




 キラ捜査本部内での監視生活も、火口の逮捕をきっかけとして一応の決着を見、ミサも晴れて自由の身となった。
 いよいよ本部を出て行くことになり、荷物をまとめている最中のこと。コンコン、ノックの音がした
「ライト?」
 自由には開けられないドアを振り仰ぐ。
 カードキーを通す分の間があって、ドアを開き入ってきた男を見て、ミサの顔にはあからさまな落胆の色が浮かんだ。
「何だ、竜崎さんか」
「何だ、は挨拶ですね」
 いつもの猫背で、ぺたぺた歩いてくる。
「悪かったですね、月くんじゃなくて」
「全くです」
 遠慮なく言い放つミサの正面に立つと、竜崎はいきなり手錠を取り出した。
「アレ? もうそれやめたんじゃ・・・」
 目の前にぶら下がっているのは、月と竜崎、男同士が繋がっていた長い鎖のものではなく、ごく普通の手錠だ。
「?」の顔で覗き込んでくるミサの右手首に、それは素早くかけられた。
「ひゃっ!」
 冷たさに、飛び上がる。
「なっ何竜崎さん・・・ミサもう自由なんでしょ?」
「ええ、そうです」
 押し殺したような声が、何の感情も読み取れない血行の悪い顔が、ぐるんとした瞳が。
(こわいっ)
 個性的な人だとは思っていたけれど、こうなるともう変な人だ。
「こうしてミサさんと二人きりになれる機会は、この先ないでしょうから」
 ミサの手首には、片方しか手錠がかけられていない。
 もう片方を、竜崎がつまむような持ち方で掲げると、じゃらり鎖が鳴った。
 銀色のこまかな光越しにミサを見据え、変わらぬ調子で言を継ぐ。
「貴女を抱きに来ました」
「・・・はあっ?」
 曲解する余地もない、あまりにストレートな言葉に、さすがのミサもリアクションを定めかねてしまう。
 その隙に、竜崎が顔を寄せてきた。
「言いましたよね、好きになりますと」
「ミサも「お友達ということで」って言いました」
 そっぽを向こうとする頬に指を添え、瞳で楔を打つ。逸らさないように、逃げないように。
「お友達でもいいです」
「いっいや、いいって言われても、ねぇ」
 冗談にしてしまいたいのに、うまく流せない。黒い円い両の眼に、吸い込まれそうで。
 もう、捕まってしまった。
 その事実をミサ自身が自覚する前に、急に強い力を加えられ、バランスを崩した。
 床に倒れこむ。竜崎と一緒に。
「痛・・・」
 背に走った衝撃に気をとられていると、ガチャリ、再び金属の音が響きハッとする。
 首をめぐらすと、右手にかけられている手錠の先が、ベッドの脚に繋がれてしまっているではないか。
「ちょっと何よコレ! やっぱり竜崎さんって、変態!」
「何とでも言ってください。私は狂言でこんなことをしているわけではないんです」
 のしかかってくる、体。ゾクリとする。
 この人と、こんなふうに触れることがあるなんて、想像すらしていなかったのに。
「月くんの代わりでも構いません。私のことなど、思ってくれなくてもいい」
 息が、かかる。
 こんな距離で。
「私に、あなたの思い出をください」
 囁きの、甘美なこと、魅惑的なこと。
「竜崎さん・・・」
 髪、額、頬・・・彼に触れられる場所が順に熱を帯び、ミサをとろかしてゆく。
「嫌じゃなければ、キスを受けてください」
 低い声に、ダメ押しされて。
 こんなのはズルイ。これで断れる人なんて、いやしない。
 ミサは黙って、深い闇に似た瞳を見つめていた。
 近づいてくると目を閉じて、初めてこの人と交わすキスに、心から、酔った。

「秘密、ですよ」

 そう言って、服を乱してくる。
 試すように指を滑らし、徐々に大胆になって。
 ミサが素直に反応する分、ガチャガチャ無粋な音を立て動きを制限する拘束が、煩わしい。
「竜崎さん、抵抗しないから、コレ外してよ」
 率直に申し出るも、
「ダメです」
 即座に却下され、頬をふくらます。
「なんでー」
 竜崎は生真面目な顔をして、自分の下にいるミサを見た。
「あなたは、一生月くんを愛するのでしょう。つまり私の想いは報われません」
 頬に頬をくっつけるようにして、目を伏せる。
 以前ミサにキスをされた頬。あのときから、嬉しくて苦しくて持て余してどうしようもなかった。
「叶わぬ想いを、こうして一度だけ許してくれる。それなら・・・どうせなら、強烈な記憶としてあなたの中に残りたいんです」
 切ないほど告げ、目を上げる。ミサが半ば泣きそうにしているのが辛く、ふいと笑みをこぼした。
「・・・いえ、本当は、ミサさんの言うとおり、私は変態なのかも知れませんね」
「げっ・・・じゃやっぱりライトと繋がっていたアレは、竜崎さんのシュミだったのね」
 ミサも汲んで、わざと大げさな渋面を作ってみせる。
「アレは違います。したくてしているわけではないと言ったでしょう」
 竜崎の右手首に目を走らすと、不健康な肌の上にうっすら赤黒い跡が浮かび上がっていて、不気味だった。
「ミサさん」
 その右手でミサの左手を押さえつけ、指に指をからめる。
 耳朶を舐め、そのまま囁きを吹き込んだ。
「変態に抱かれる気分って、どうです?」
「−−−っ!」
 脳天からつま先まで、電流が走ったようだった。
 こんな言葉で痺れさせられるなんて!
(まるでミサまで変態みたいじゃないの・・・ッ)
 それでも反応してしまっているのは確かで。気持ちイイってことを認めないわけにはいかない。
 竜崎の細くて長い指が、唇が、舌が。体中を這い回り、溶かされて、こぼれているのだから。
「こんなに、感じてくれているんですね」
 脚を押さえつけ、そこを覗き込むと、熱い息を吹きかけた。
「あなたと月くんの間に何もないのは分かっているんです。今、私だけを見て感じてくれているのなら、私は・・・」
 潤った部分に、そっと口づける。ビクンと反射的に閉じようとする細い脚を力ずくで広げ、舌を使い始めた。
「や・・・やあんっ、そこは・・・」
「・・・美味しいですよ、ミサさん」
 音を立ててすすると、小さな上半身がのけぞり、手錠がガチャガチャ鳴った。
 ミサの白く美しい肌を硬質の金属が繋ぎ止めている・・・そのさまは竜崎の興奮を異様に煽った。耳に響く鎖の音を快く感じながら、ますます激しく舐め、吸い上げてゆく。
「りゅ・・・竜崎さん・・・」
 残された左手で、必死にしがみつこうとする仕草も愛しい。
 応えるように身を起こし、体を繋いだ。
 渇望していたものをようやく手に入れた喜びに、しばらくは動けもせず、大切に味わうようにじっと見つめる。
 明るくカラーリングされたストレートヘアをすくっては愛撫し、サラサラとこぼした。
 小づくりの顔に可愛らしく配置されたパーツ、とりわけ唇が。
 月とキスをしたという話を聞いたときには、密かに激しく嫉妬した、愛らしい唇を吸った。奥深くまで入り込み、心ゆくまで乱した。
「ふ・・・ぁ」
 離したとたんにこぼれる、ため息とも喘ぎともつかない声に満足し、両手を床につくと動作を始める。
 本能のまま増してゆく激しさを、ミサは小さな体で受け止めてくれた。
 情けであっても、欲に流されたのでも、何でも良かった。想いを告げ、腕に抱くことができたのだから。
「ミサさん・・・」
 愛しています。
 その言葉だけは、秘密のままで。

「・・・すみませんでした」
 自由になった手首を、そうっとさすってくれる。
 竜崎は心底申し訳なさそうに反応を伺っていたけれど、当のミサは、手首の跡が彼とお揃いのようで、ちょっと嬉しがっているのだった。
 衣服を整え終わると、はや立ち去ろうとしている竜崎に正面から抱きつく。
「−ミサさん」
 驚きながらも受け止めた。胸に押し付けた顔は、どんな表情をしているのか、竜崎には想像もつかない。
「・・・あなたを好きになんて、なれない。絶対、ならない」
 月を愛している、心から。
 関係してしまったから・・・しかもこんな形で・・・といって、この人を好きになるなんて、あるわけはない。
 それなのに。
 どうして、こんな気持ちになるのだろう。
 どうしてこんなに、離れがたいのだろう。
「ミサさん」
 丸い背をますます丸め、髪に鼻をうずめる。シャンプーのいい香りがした。
「秘密ですよ?」
 ここであったことも。
 互いの気持ちも。
 二人だけの秘密だと釘刺して、最後にもう一度だけ、キスをした。



 

 
END


 
 

・あとがき・

とうとう書いてしまいました、Lミサ。
ドリーム以外の小説を書くのがとっても久しぶりです。年単位で久しぶりです。
男女カップルにハマるのがまず珍しい。しかも正統のカップリングじゃないなんて!
Lミサの魔力よ・・・。

Lミサでマンガなど描かれている私の好きなサイトさんがありまして、いつも読んでいるうちに、自分でも書きたくなりました。
Lミサはちょっぴりマイナーらしいので、Lミサを書けばサーチでも目立って、お客さん増えるかも! という薄汚い計算も正直、あるんですけど(暴露)。
私は基本的に、ヒロインが嫌がっているような話は、ドリームでも普通の小説でも書きたくないんです。だから強姦のようにはしたくなかった。多少強引でも、ミサもちょっとLに好意を持つように書いてみました。この先、ミサの中でLの存在がぐんぐん大きくなっていけばいいな・・・と希望を残しつつ。

L21題の第一作です。マイペースで制覇したいと思っています。
またLミサも書きたいですね。ミサLでもいいですね。体だけの割り切った関係もいいし、本編無視してラブラブカップルでもいいな。

 

DEATH NOTEのページへ戻る



      

H18.1.15
 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送