ごはん
が最近付き合い始めた彼氏は、竜崎さん(仮名)というちょっと変わった人だ。
職業が探偵だと聞いたときには、名探偵コナンを連想して喜んでいただが、実際はマンション一室に缶詰めになってパソコンに向かい何日も過ごす、ということの方が多いらしい。
しかも変な座り方で、時々指を口に持っていったりしながら。
「竜崎さん」
丸まった背から集中モードをひしひし感じるから、かける声も遠慮がちになる。
「はい」
きちんと返事はくれるけれど、やはり机にはりついたまま動きもしない。
こんな感じには、まだまだ慣れないだった。
「どうかしましたか、さん」
Lも気を遣い、区切りをつけてようやく恋人の方を向いた。両膝を立てて座ったまま、椅子を半回転させて。
全部をいっぺんに見すかすような瞳、肌色とのハッとするような対比に、はどぎまぎしてしまう。
「あっあの、もうすぐお昼、ですよ」
相手がそうだから、つられて敬語になってしまう。
Lはひとさし指を軽く口元に持っていきながら、時計を見上げた。
「ああ、そうですね。でも今手が離せなくて・・・私はケーキがあるからいいのですが」
テーブルの上にはきれいな箱が置かれている。ワタリさんが買ってきたのだろうか。
「ケーキがあるからって・・・まさか竜崎さん、ケーキをごはんがわりに?」
「まあ、いつもそんな感じです。ですから私に構わず、さんは何かデリバリーするなり外で食べるなり・・・」
「そっそんな、私だけってわけには」
Lは膝に手を置き、かくんと首をかしげた。
「さん、この際はっきり言っておいた方がいいんでしょうが」
ちょっぴり寄り目がちで、途方に暮れているようにも見える。何を言われるのかと、は身構えた。
「本当に申し訳ないんですが、私、一般的なお付き合いのし方はできないと思うんです。仕事もこの通りですし・・・ですから」
顔を真っ直ぐにして、心もち居ずまいを正す。
「あなたも私に遠慮などせず、自由にふるまってください。その方が私も落ち着きますから」
少し突き放されたように感じて、寂しい気分になる。
そんなに、少しだけ、笑顔を見せて。
「その上で、もしそばにいてくれるなら・・・、是非、そうしてください」
率直な潔さは、の心にもストレートに伝わった。
温かいものが満ちてくるようで、自然に微笑み、頷いた。
「分かりました竜崎さん。でも、ごはんをケーキで済ましてしまうというのは、誰がどう考えても体に悪いから・・・私、作ります!」
料理がそれほど得意ではないの、それは思い切った提案だった。
「さん」
「気にしないで、私がやりたいようにするだけだから。キッチン借りるね」
手を振って姿を消す。
デスクに向き直ったLの口元が、微笑んでいた。
それからしばし、キッチンから色んな物音が聞こえていたが、時計の針がお昼から少しずれたころに、お盆を手にしたが戻ってきた。
「竜崎さん、ができたよ。良かったら一緒に食べよう」
数少ないレパートリーの中で頑張ってみた力作を、テーブルに並べる。
ケーキの箱がそっくりそのまま置いてあるのに気付いて、食べずに待っていてくれたのかな、と嬉しくなった。
その割にはなかなかこっちに来てくれないけど・・・。
「・・・食べない?」
少し不安に問いかけた背中が、くるり反転した。
「いえ、いただきます」
椅子から下りソファに移るが、やっぱり独特のポーズは変わらない。
真向かいにも腰かけて、最初に一口を食べるのを、じっと見守っていた。
が、Lの口の中に入る。
もぐもぐと、斜め上に視線を外しながら味わって・・・。
「おいしいです、さん」
シンプルなひとことが、輝くような笑顔を呼ぶ。
「ホント!?」
はソファの上で飛び上がった。
Lの、表情は変わらないものの、続けて黙々と食べる様子に、幸せをかみしめる。
そう、彼の喜ぶことが、自分のしたいこと・・・。
「もっと手早くおいしく作れるようになりたいな。修行しなくちゃ。・・・なんだか奥さんみたい」
ついそんなことを口走ってしまうが、次の瞬間には口に手を当て、舞い上がりすぎた自分を恥じた。
「奥さん、ですか」
手を止めて、Lは、あの瞳を彼女に向ける。
「それもいいですね」
真面目なのになぜかいたずらっぽく聞こえて、かえっては頬を染めた。
やりたいことをやって、言いたいことを言って。それでも好ましいと思い、そばにいたいなら。
(それも、いいかもね)
同じ言葉を心の内で、繰り返す。
「ケーキはデザートに食べましょう」
「3時のおやつがなくなっちゃうよ」
「心配無用です。ちゃんと用意してあります」
この人の恋人でいると、太ってしまいそう。
もぐもぐとを食べる口元を見つめて、デザートのときにキスももらおう・・・と、うっとり考えるだった。
END
・あとがき・
Lがごはんを食べるシーンって、ありませんよね・・・。彼にはごはんを食べるというイメージがまるでない!
それなら食べていただこうということで、こんな短編を。
実は同人アンソロジーで読んだ松田さんとLの話をパクったんだけどね(笑)。
その話の中ではオムライスでしたが、今回はちゃんお得意ので。
Lはホントにごはん代わりにケーキ食べてそうですけど、ちゃんの気持ちが嬉しくて、きっとおいしくいただいたのだろうと思います。
恋人になりたての二人というのは珍しいパータンかも。
この人の彼女って、慣れるまで時間が必要かもしれません。
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