不機嫌 1




 初夏とはいえ、夕方になると心地よい風が吹き抜ける。公園のベンチでお喋りに花を咲かせる二人も、涼しげに目を細めた。
「・・・どした、ちゃん」
 ふと気付くと、可愛い後輩は、しきりに時計を気にしている。
「俺といるの、つまんない?」
 ようやく誘えたと思っていたのに・・・。
「あっ、そうじゃないんです先輩。でも、そろそろ帰らないと・・・」
「ってまだ6時だよ」
 冬ならともかく、日は長くまだまだ明るい。小学生ですら、そこここで遊んでいた。
「もう少し、いいだろ。ちゃんと話していると、楽しいし」
「先輩・・・」
 優しい微笑みにぽっと頬を染め、は頷いた。
「私も・・・」
 ガサガサッ!
 背後の茂みが激しくかき分けられる音に、先輩はビクッとする。振り向いたすぐ目の前に、真っ黒いボサボサ髪の、大きな目の下に濃いクマのある異様にひょろっとした色白の男。
「ギャーッ!」
 思いがけない出来事に、ものすごい悲鳴が迸った。
「でっ出たーー!」
 そんなことには構わず、男は茂みの中から出てくると、
「迎えに来ましたよ」
 うやうやしく、の手を取った。
「迎え・・・?」
「・・・もうっ」
 は、困惑しきった目を、猫背で痩せた背の高い、奇妙な男に向けている。
「・・・ったら・・・」
ーーっ!?)
 この可愛らしいと、なんだかアウトサイダーなこの男が!?
(兄妹・・・っ・・・!?)
 ショックのあまり金縛りにあってしまった先輩を気遣ってあげたかったのに、兄に肩を抱くようにされて公園を連れ出されてしまっただった。

 次の日。
 いかにも不機嫌にムクれているに、クラスメートが駆け寄ってきた。
ー、聞いたよ。先輩を振ったんだって?」
「・・・粧裕」
 夜神粧裕は、小学校時代からの親友だ。
「振ったわけじゃないのよおっ!」
 わっと机に泣き伏す。何があったのかだいたい予想のついている粧裕は、よしよし、と慰めてあげた。
「またお兄さんの邪魔が入ったんでしょ」
「ううっ・・・もうヤダ・・・」
 ちょっといいなと思っていた先輩だったのに。
 昨日に始まったことではない。いつだって兄は、男の人と二人きりでいるのを許さないのだ。
 ホントにどこでどう見張っているのか、いつの間にかやってきて、相手を追っ払ってしまう。
「粧裕〜、交換しようよ。ライト兄ちゃんがいいよう」
 粧裕ん家の月は、見た目もいいし優しいし、パーフェクトの兄さんだ。は、小学校のときから憧れていた。
「そんなこと言っても〜」
 粧裕が半ば本気で困っているところに、今度は男子たちがやってきた。
「よー、何落ち込んでんだ!」
「いたいっ」
 バシッと背中叩かれて、起き上がる。
 叩いてきたのはメロで、その隣にマット、一歩後ろにニアが立っていた。
「おまえら今度の土曜日ヒマ?」
 マットがの前の椅子に後ろ向きに座りながら聞いてくる。
「うん」
「ヒマヒマ〜」
「やっぱり、聞くまでもなかったな。万年ヒマなんだから」
 メロのいつもの物言いに、女の子たち同時に口を尖らせる。
「メロに言われたくないっ」
「どうせあんたたちもでしょ」
 五人とも同じ小学校の出身で、連れ立っていることも多く、クラスでも割と目立つグループを形成していた。といっても、としては、本当に気のおけない友達と一緒に行動しているというだけだが。
 体を丸めて、の机にほっぺをくっつけるような格好をしたニアが、ぴらっと紙切れを取り出した。
「スペースランド、行きませんか」
「タダ券だぜ、タダ券っ」
 メロがニアの上に重なるようにすると、ニアはちょっとイヤそうに顔を歪めた。
「えーっ、タダ!?」
「行く行く〜!」
 も粧裕も大喜び。タダなんて、こんなおいしい話はない。
「じゃ、10時にバス停集合。遅れんなよ」
 マットがまとめると、ちょうどよくチャイムが鳴った。

「スペースランド?」
「今度の土曜日ね、行ってくる」
 キッチンで簡単な夕食を作りながら、軽く切り出すと、パソコンに向いたままの兄は少し沈黙した。
「・・・誰と?」
 この問いは当然のものだ。は、魚をひっくり返しながら答える。
「粧裕とメロとニアとマット。いつものメンバーだよ」
 何しろ、腐れ縁で、互いの家も行き来している仲だ。もちろん、兄だって彼らのことは知っている。
 二人きりというわけでもないし、粧裕もいるし、反対される要素はどこにもない。事実は、すんなり許しをくれると信じて疑っていなかった。
「ニアがタダ券もらったんだって」
 冷蔵庫からお浸しや漬物を取り出し、テーブルに運ぶ。
は? 晩ご飯、どうするの?」
「さっきケーキを食べたから、いいです」
「・・・またァ?」
 大学に通いながら探偵をしている兄は、甘い物で食事に代えることが少なくない。
 そのクセには「簡単でもいいから、手作りの体にいいものを食べなさい」と口やかましいんだから。
「心配しなくても、の分も残してあります。後で一緒に食べましょう」
「太っちゃうよー」
 しかしこの物言いからすると、兄はもう一個食べる気らしい(いつものことだが)。

 太っちゃう、というのも乙女心なら、甘い誘惑に勝てないのもまた乙女心。
 夕食をきれいに平らげた後、はテーブルをはさんで兄と向かい合い、フランボワーズタルトをおいしくいただいていた。
「・・・、単刀直入に聞きますが」
 相変わらずの座り方をして、フォークを口元に当てたまま、兄はぎょろんとまんまるい瞳をに向けた。
「なに?」
 気にもとめず口の中に広がる甘味を堪能していただったが、
「土曜日一緒に行く友達の中に、恋愛関係に発展しそうな相手はいるんですか」
 とんでもない発言に、紅茶のカップを取り落としそうになった。
「なっ何言ってんのっ」
 兄は・・・Lは、そんな妹の一挙一動をじっと観察しているかのようだった。そこから何かを読み取ろうとでもいうように。
「メロとニアとマットだよ?」
「さっき聞きました」
 もう一口、ケーキを運ぶ。
 淡々と変なことばかり言うから、も頭を悩ますことしばしばだ。
「今更、そんな気持ちになるわけないって」
「・・・そうですか」
 がそうでも、向こうはどうか。
 Lは尚も考えを巡らすが、それ以上口にはしなかった。さすがに妹の機嫌を損ねたくはない。
「気をつけて行ってくるんですよ」
「はぁい」
 はしゃぐ妹を見ていると、胸がもやもやしてくる。
 いくら小学校時代からの知り合いとはいえ・・・いや、だからこそ。
 油断できたものではない。
 に自覚があろうとなかろうと、また望もうと望むまいと・・・、心身共に成長し、花開こうとするものだし、それを周りの男が放っておくはずもないからだ。
(そんな考えで近づく者は、許さない・・・)
 甘いものを頬張る口元を見つめながら、ぎり・・・自然と爪を噛んでいた。
 に近づく男は許さない。
 「兄として」なんて大義名分、とっくの昔に捨てていた。
 胸にあるのはただ一つ。
 本人には決して伝えられやしない・・・悟られることすら、あってはならない。
 そんな、禁忌の想いだけ。

(もう、ったら。いつまであんななのかなー)
 宿題を解きながら、は軽くため息をついた。
 このままでは、彼氏なんてできる日は遠い未来になりそうだ。
 呟きつつその顔は、しかし、微笑を浮かべている。
 度を越えてはいるけれど、兄にそこまで心配されているのは、にとって本当は嬉しいことだった。
 何だかんだ言って、優秀で何でもできる兄は自慢の種で、心から慕ってもいたのだから。
 今はああだけれど、いずれ本当に大切な人に巡り合ったなら。
 そのときには兄も、祝福してくれるはず。
 はそう、信じていた。
(土曜日、楽しみだな)
 心はもう、スペースランドだ。








                                                             つづく



       ・あとがき・

妹ドリームって大好きなんですよ。
昔からやっていたんですけど。好きなキャラには妹を作りたくなる。
やっぱりデスノートでもやりたくなって、Lの妹ドリームを考えてみました。
月の妹、粧裕と同級生だったら面白いかな、それならニアやメロやマットも入れて、もうパラレルにしちゃえ! ということで。
異常なほど心配性なのは妹ドリームのお約束ですね。どうやらLは本気でちゃんを想っているようで・・・!?

ちなみにちゃんのフルネーム「竜崎 」です。チョットいいですねー。

長くすればいつものように一話で終われたかも知れませんが、今回は短く切っていこうと思います。続きます。





 不機嫌 2





この小説が気に入ってもらえたなら、是非拍手や投票をお願いします! 何より励みになります。
  ↓

web拍手を送る ひとこと感想いただけたら嬉しいです。


お好きなドリーム小説ランキング コメントなどいただけたら励みになります!





戻る

「DEATH NOTEドリーム小説」へ


H18.6.23
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送