ケーキと紅茶





 表通りの、外観も愛らしいスィーツショップは、その名も甘い「スィート・シュガー」。イートインもできるため、連日、主に若い女性たちで賑わっていた。
 女の子の夢のお城のようなこのお店に、水曜日の昼下がり、一人の男性客がのっそりとやってきた。
 この時間、男の人が一人でというのは珍しい。しかも、痩せでひどい猫背、素足にスニーカーといった、およそお店の雰囲気とは対極にあるような風貌だ。ケーキと紅茶を前にした他のお客たちが、お喋りを中断して何事か囁き合ったのも、無理らしからぬことだろう。
「いらっしゃいませー」
 キュートな制服(女子中高生たちの憧れの的だ)に身を包んだ売り子たちは明るく声をかけるが、これまた仲間内で意味ありげな目配せを交わし合う。
 実は彼は「常連さん」で、週に一度くらいのペースでやって来ては、いくつかのケーキとときには紅茶のリーフなどを購入していくのだった。
 背を向けて別の作業に没頭しているスタッフを、同僚のひとりがつつく。彼女−−は振り向くとお客に気付き、押しのけるような勢いで前に出た。
「いらっしゃいませ! お決まりでしたら、どうぞ」
 満面の笑顔は、営業用のそれではない。
 人差し指をくわえてスィーツを見比べているお客の姿を、ニコニコと見つめる。顔が心なしか紅潮している。
 はこのお客の熱烈なファンだった。
 同僚たちからすると、青白いような顔をしておまけに濃い隈のあるこんな人の、どこがいいの? というところなのだが、蓼食う虫も好き好き、彼が来たときにはに応対を一任し、その直後に興奮気味に繰り広げられる「彼っていいわよね!」というトークも、黙って聞いてあげることにしていた。
「・・・新作があるんですね」
 ぼそり、呟くような声にすら、心臓が跳ね上がる。
「ハイッ、ただ、こちらの「ベリーベリータルト」はベリーの風味を活かすために甘さ控えめになっていますから、甘い方が好きなお客様にはこちら、「お菓子の家のスィートテーブル」がおすすめです」
 相当の甘党であることは、商品のチョイスから分析済みだ。が自信を持って勧めた「お菓子の家のスィートテーブル」をしげしげと見つめると、小さくだが、「おいしそうですね」と言ってくれた。
「はっはい、おいしいですよ。・・・実は私がアイディアを出したケーキなんです」
 あなたのことを思いながら・・・とまではさすがに言えないけれど。
 でも、この人に合いそうなお菓子を・・・と考えて提出した案が採用された嬉しさといったら、なかった。
「では、それをください」
 顔を上げて・・・笑って、くれたのではないか・・・?
 ドキリとする。心臓が止まりそう。
「あ、ありがとうございます」
 身を屈めて、トレイに載せる。買ってもらえた。
 この人は、自分のために買って行き、自分で食べているんだろうということも、今までの言動から予想できていた。
 このケーキも、食べてくれるだろうか。喜んでくれるだろうか・・・。
「あとはイチゴショートとクレームブリュレを」
「はい」
 その辺は彼の定番だ。
 が可愛いスィーツたちを丁寧にトレイに取っている間、彼は身を返し、入り口近くの棚から紅茶の小さな缶をつまみ上げるような仕草で持ってきた。
 いつものイングリッシュ・ブレックファースト。そうでなければ彼はアッサムを買って行く。
「お客様、あの・・・」
 は思い切ってショーケースの前に出た。
 仲間のが、心得て、ケーキの箱詰めを引き受けてくれる。
「ミルクティーがお好きでしたら、イングリッシュ・ブレックファーストももちろんいいんですが、こちら、ルフナも合いますよ、はちみつのような甘い風味がいいんです。フレーバーティーのキャラメルも、キャラメルミルクティーになっておいしいですし。それから今の季節ですと、アイスティー用にディンブラもおすすめです。アイスティーというとアールグレイが有名ですが、ディンブラはバラのような香りがするんです・・・」
 じっ、と見られていることに気付いて、ハッと口を閉ざす。
 将来は自分で紅茶のお店を持ちたいと考えているは、その夢のため、紅茶の勉強を欠かしたことはない。
 しかし、つい調子に乗って、喋りすぎてしまっただろうか。
「す、すみません、でしゃばって・・・」
「・・・いいえ」
 もう一度棚に向き直ると、すっと手を伸ばし、今が言ったルフナの缶を取る。
 その細長く綺麗な指に、は見とれた。
「とても詳しいんですね。よく勉強されています」
「そ・・・そんな」
 キャラメル、そしてディンブラも。次々に缶を取り、差し出した。
「ではこれを全部いただきましょう」
「えっ全部・・・はいっ、ありがとうございます!」
 は、深々と頭を下げた。

「今日は思い切っていっぱい話しちゃった・・・ね、私ヘンじゃなかった?」
「いや・・・十分ヘンだよ」
「声、上ずってなかった?」
 こっちの言うことは聞こえていない、いつものことながら。は呆れとも諦めともつかないため息をつく。
「声も素敵・・・笑顔も素敵・・・もう、大好き〜っ」
 ラブラブモードが止まらない。お客に聞こえてはいないかとは振り向くが、幸いと誰もこちらに注意を払ってはいなかった。
「でも、あの人の隈、すごいよね」
 無駄とは思いながら、そう振ってみる。
「きっと夢中になれる何かを持っている人なのよ」
 両手を胸の前に組んで、キラキラする・・・少女マンガだ。
「・・・猫背だよね」
「背が高いから自然にああなっちゃったんじゃない?」
「痩せすぎ」
「あんなにケーキ食べているのに太らない、得な体質なんだわ」
「指くわえたりしてるよね、大の大人が」
「誰だって癖のひとつやふたつ、あるものよ」
 彼が店内で食べて行ったことはないため、その常人離れした座り方までは未だ知らないだった。
「・・・いつも同じ服だし」
「お気に入りなんでしょ。同じでも、きれいなの着てるよ」
「曜日も来る時間もバラバラだから、きっと働いてないよ。引きこもりだよ」
「引きこもりがケーキ買いに来るわけないでしょ」
「じゃニートだ」
「ケーキと紅茶が好きな人に、悪い人はいないのっ」
 ・・・もはやに、言うべき言葉は残されていない。
 アバタもエクボ、恋は魔法。
さんって、可愛いですよねー。私もあんな恋をしたいっ」
 後輩にまでこんなことを言われている。
 確かに一途というかあの猪突猛進的恋は、羨ましい側面もあるけれど・・・。
 はまたあのため息をつきながら、の止まらない話を聞き流していた。

 ソファの上に両膝を立てて座り、パソコンをチェックしながら、買ってきたばかりのケーキを口に運ぶ。「お菓子の家のスィートテーブル」名前も面白いが、マシュマロを使ったチョコレートがけのケーキは、Lの口に合った。
 スィート・シュガーのケーキは確かにおいしい。
 だけど、ケーキが好みだからというだけで特定の店に足繁く買い物に出るなんて・・・我ながら珍しい行動パターンだ。
 ふとそう思ったとき、いつも明るく応対してくれる、女の子の姿が目に浮かんだ。
 他の店員たちは相手をしたくないから、仕事熱心かあるいは八方美人タイプのあの娘が矢面に立たされているといったところだろうが。
 しかし、ただのアルバイトかと思いきや、商品について・・・とりわけ紅茶についてしっかりとした知識を持っていることを今日知り、素直に感心していた。
 濃い目に入れたミルクティーを口に含む。ルフナ、確かに良い風味だ。
 続いてケーキをもう一口。このケーキも、彼女のアイディアだという。
 一生懸命に説明をしてくれた、声までも思い出される。
(名前は何と言うんだろうか・・・年齢は・・・恋人、くらいはいるんだろう・・・)
 一般市民のことだ、その気になれば瞬時に調べはつく。
 だけれどこれほどまで私的な理由・・・興味本位で個人情報を覗き見るということに対しては、さすがに躊躇した。
 それに、別に彼女とは何でもないのに、調べてどうなるというんだろう。
(埒もないことだ)
 フォークを置き、捜査に集中し始めたLだが、彼自身、気付いていないことがあった。
 女の子に対して、名前を知りたいなんて思った・・・つまり関心を持つなんて、初めてだということ。


(気持ちを伝えたら、迷惑かな・・・)
 一人暮らしのアパート、棚にズラリと並んだキャニスターを眺めながら、は名も知らぬあの人に、思いをはせる。
 小ぶりのキャニスターは陶器製で、一つ一つ違う色柄で瀟洒な花などが描かれていた。
 中身は全て、紅茶のリーフだ。日替わりで味わったり、飲み比べたり、ブレンドして新しい味を作り出したり、楽しみ方は無限大で、そんな魅力がを捕らえて離さない。
 今日は、ダージリンのファーストフラッシュを立てた。ちょうどよくさめたところを口に含み、ストレートの香りを堪能する。
(それとなく、さりげなく、伝えられないかな・・・)
 顔見知りにしか過ぎない相手に、いきなり直球勝負をかけられるほどの豪胆さは、にはない。
 それに、勘の鋭そうな人だから、遠まわしでもうまくいけば分かってもらえるかも知れない。
 例えばあのケーキも、「あなたを思って考えました」と明かせば、それだけで伝わったのかも・・・。
 ・・・!
「そうだ!」
 ぱっと顔を輝かせ、扉を開ける。キャニスターを次々にテーブル上に出した。


、今日辺り、彼が来るかも・・・」
「ん? そうねまぁ、来てもおかしくない頃かもね」
 にとっては別にどちらでもいいことだった。
 だがにとっては大ごとである。何しろ胸に、ひとつの決意があるのだから。
「来たら教えてよね。私が出るから」
「言われなくても、いつもそうしてるじゃないの」
 のソワソワは、にも伝わっていたけれど、あえて突っ込まず、自分の仕事に戻るのだった。

(・・・来たっ)
 に教えてもらうまでもなかった。
 同僚たちにちらちら視線を送られながら、はいらっしゃいませ、と声をかける。
 彼はショーケースの前に立った。猫背。隈。・・・こっち見てる。
(・・・)
 こ、こっち見てる。
 いつもはじっとケースの中を覗き込んで、何を買うか一心に考えているのに。
「・・・この間のケーキと紅茶、おいしかったです」
「あっ・・・そ、そうですか、良かったです!」
 ・・・話しかけてくれた!
 それだけで破裂しそうな胸、どうしよう。
 後ろでさりげなくが支えてくれていなければ、本当に倒れてしまっていたかもしれない。
 普段通りに注文し、お金を取り出している彼に一度背を向け、は箱にケーキを詰めた。わざと大き目の箱を出したため、少しスペースが空いている。
 周りを気にしながら、制服のポケットに手を入れる。取り出した小さなものを、こっそりと、ケーキの隣に入れた。
「こちら、商品でございます。お気をつけてお持ちください」
 決まり文句を口にして、ケース越しに手渡す。
 少しでも手が触れたら嬉しいな、と思っていたのに、残念ながらそれはなかった。
「ありがとうございました」
 深々と頭を下げ、ドアを出て行く丸い背中を見送る。指先が痺れ、足がすくむ心地だ。
 ・・・気付いてくれるだろうか。伝わるだろうか・・・。
「・・・あんた何細工してたの」
 いきなり接近されて飛び上がる。がすぐ隣にいた。
 はカーッと顔を赤くする。肘でつつかれて、下を向いた。


 箱を開けてすぐに気付いた。注文した覚えのないものが入っている。
 保冷剤でもない。ペーパーナプキンに包まれたそれは、茶巾絞りにされたラッピングの頭の部分、可愛らしく結ばれた赤いリボンが見えていた。
 Lはケーキより先にそれを箱から取り上げた。紙を取り去り、目の前にぶら下げるような形でじっと観察する。
 小さな、透明の袋に詰められた、それは紅茶の葉だった。
 銘柄は何も記されておらず、袋には、大小、色もとりどりのハートのシールがたくさん貼ってある。
 こんなものがサービスにつくとは、店内のどこにも表示されていなかったはず。
 Lは手作りらしいパッケージに、特別の意味を読み取った。
 紅茶のリーフ・・・紅茶に詳しいあの店員・・・自分が行くと必ず応対してくれる・・・笑顔・・・明るい声。わずか赤らんだ頬・・・ハートのシール・・・。
(・・・・・・)
 不意に拍を打った心臓に戸惑いながら、うずくまるような格好で小さなプレゼントを胸に抱く。
 そこに熱を感じたとき、ひとつ形を持った感情があった。
 息を吐くと、もう一度袋を掲げ上げ、空いた手でキーを叩いた。
「ワタリ、ひとつ調べて欲しい」

「・・・はい」
 多数の端末に囲まれた部屋で、Lの命を受けるや、ワタリは即その女性を当たった。
「スィート・シュガーといえば竜崎御用達の店ですね・・・現在手がけている事件には関連がなさそうですが?」
 軽いからかいを含むと、
『余計なことはいい』
 即、叱られた。が、その声にもいつもの迫力はない。
 人間離れした能力を有する世紀の名探偵も、普通の青年らしい想いに目覚めたのだろうか。
 そう考えるとまるで自分のことのように嬉しく、ディスプレイ上に表示された娘の顔写真に、優しく微笑みかけるワタリだった。


 ケーキと一緒に、飲んでくれたろうか。
 不審に思われていなきゃいいけど・・・。
 ドキドキ、ソワソワ、落ち着かない。
 そんな気もそぞろなはいかにも危なっかしく、とても接客など任せられない状態のため、は自分が前に出、には中の仕事を頼むことにした。
 包装紙を決められた大きさに切る作業をしながら、は彼のことばかり考えている。
 あの紅茶は、彼のために作った、特製のロイヤルブレンドだ。
 ここ一週間ばかり、試行錯誤を重ね、あの人に喜んでもらえるようなオリジナルのブレンドを作り上げたのだ。
 ティーブレンダーの気分で、恋心に浸かりながら、それは楽しい時間だった。
 もちろん、どれだけの時間と労力を費やし作ったものかなんて、相手に伝わるわけはないのだけれど。
 気持ちのかけらでも届けばいいと・・・そう、願って、そっとしのばせた。
 あの人は、今頃、何をしているのだろう。


 たっぷり作ったミルクティーは、早速あのリーフを使ったもので、なるべくそのままの香りを感じたいと、砂糖をぐんと控えめにした。こんなに砂糖の消費量が少ないのは、Lにとって初めてだ。
 まずはケーキを一口、そして紅茶を。
(・・・・)
 おいしい。
 今までのものとは違う香りと風味から、何というか、温かな気持ちを感じる。
 自分が意識しているせいかも知れないが・・・。
 パソコン上の、ワタリが送ってくれたデータをじーっと見つめる。
 その視線は固定したまま、角砂糖を無造作に掴み取ると、ポチャポチャポチャと連続投入した。
 スプーンでかき混ぜてもう一口含む。やはり、砂糖を入れてもおいしいお茶だ。
「・・・・・・」
 画面に表示されている名を口に乗せる。
 その新鮮な響きと、ケーキと紅茶の甘くやわらかな香りとが相まって、Lの気持ちをますます高めてゆく。
 今やその感情を、はっきり自覚できるほどに。

 一日の仕事を終え、裏口から外に出る。もう外は暗くなっていた。
、何か食べて行かない?」
「うん」
 を相手に色々話すのも良さそうだ。
 そう思って頷いたのに、当のはいきなり立ち止まってしまった。
 不審に思って隣を見ると、は目をまん丸にして・・・意外なものを目にしたといったように・・・、前を凝視している。
 その視線をたどると、はもっとすごい驚きに見舞われた。
 お店の駐車場に、人影があった。
 細い身体、丸まった背中と洗いざらしのような髪のシルエット。
 見間違えようもない、あれは・・・。
「・・・・!」
 心臓が止まる心地とは、こういうことをいうのだろう。
 ドン! 気付けのように背中を叩かれた。小さな合図と笑顔をくれて、は先に行ってしまう。
 二人きりに、なってしまった。
「あ・・・あの・・・」
「おいしい紅茶をありがとうございます」
 まったく落ち着いている・・・落ち着いているどころか感情がないような声だった。
 動揺しているのは自分だけなのかと思うと、恥ずかしい。
 それにしても、どうしてここに。偶然? それとも・・・。
「あなたを待っていたんです、さん」
 今度こそ仰天した。心臓が飛び出るかと思った。
「なっ何で名前・・・」
「竜崎と呼んでください」
「はっはいっ」
 それはあなたの名前・・・とも言えずにこくこくと頷く。
 足に根が生えたかのように動けないへ、Lは少し歩み寄った。
 照明もない場所で、互いの表情が見分けられるくらいまで。
「あの紅茶の名前を知りたいと思いまして」
「あっあれは名前なんて・・・ええと」
 少しだけ、落ち着いた。
 息を深く吸って、吐く。
「私が、色んな紅茶の葉を混ぜて、作ったんです・・・あのっ、竜崎・・・さんに、飲んでもらいたくて」
 聞いたばかりの名を口にすると、不思議な感じがした。
 りゅうざきさん、っていうんだ、憧れの人・・・。
「・・・そうですか」
 嬉しいのか迷惑なのか、口調からも表情からも全然分からない。
 だから、次の言葉を聞くまで、は不安で仕方なかった。
「お礼をさせてください。あなたの休みの日にでも、予定がなければ」
「えっ・・・」
「もちろん、無理にとは言いません」
「むっ無理じゃないです、次の火曜日が休みなんですけど、暇ですから、思い切り暇ですから!」
 Lは笑った。表情には出なかったが。
 ・・・知っている。休日が火曜日であることも、彼女に予定がないことも。
 ワタリに頼んで知りたかったのは、名前や住所などではない。そんなことは、本人から聞けば済むのだから。
「では・・・一緒にお茶でもどうですか。紅茶のおいしい店を知っていますから、よければそこで」
 火曜日の午後を空けるために、仕事の調整は済んでいる。
「う・・・嬉しいです・・・」
 真っ赤になって下を向く仕草も可愛いに、携帯電話を差し出した。つまむような持ち方で、目の前にぶら下げるように。
「詳しいことはメールで。私との連絡以外には使わないでください。それでは」
 なかなか受け取らないので手を取って握らせ、身を返す。
 別に格好つけているわけではない、今日はこれ以上時間を取れないのだ。
「竜崎・・・さん・・・」
 携帯電話を渡されたことよりも、手が触れたことが一大事だった。
 ひょろっとした後ろ姿が視界から消えてしまっても、ぼんやりと、立ち尽くしていた。


 待ちに待ったお休みの日。
 思いっきりおめかしして緊張気味に座るの正面には、ずっと好きだった竜崎さんがいる。
 いつもと全く同じ服装、椅子の上なのになぜか体育座りという変わった体勢も、ハマっているし素敵。普通の座り方のほうが似合わないんじゃないかと思えるほどだ。
「あの、竜崎さん」
「はい何でしょうさん」
「・・・いつもそれくらいお砂糖を?」
 ロイヤルミルクティーに甘味を次々と追加するさまを目の当たりに、尋ねずにはいられなかった。
 Lは目を伏せたま、グラニュー糖を更にサラサラ足している。
「だいたいこんなものです、コーヒーでも紅茶でも」
「そうですか・・・。じゃあ、今度はお砂糖たっぷりのミルクティーにぴったりのブレンドを考えてみます」
 Lは思わず手を止めた。彼にしては珍しいことに。
 この格好にこの砂糖の量だ、普通なら引くところだろう。それをウキウキと弾んだ声を出すなんて。
 奇行をものともしないとは変わった娘だ・・・いや、それほどまでに色濃い恋のフィルターか・・・?
「この間いただいたものでも十分おいしかったですよ」
「でもあれは、そんなに甘くすることを想定してはいなかったから」
 誰も想定できやしないだろう。そう思うと笑えてくる。
「竜崎さんは、イチゴは最後に残す派ですか?」
「当然です。さんのイチゴもください」
「何言ってんですか、あげません」
 自然に、言葉と笑顔が溢れてくる。
 こんなに楽しい。

 並んで歩くと、本当に背の高い人だなと思う。
「ご馳走になってしまって・・・」
「お礼ですから」
 お礼・・・そうだ、ただのお礼・・・。
 表情もほとんど変えない相手に、盛り上がっているのは自分ひとり・・・か。
「あの、これ・・・」
 携帯を控えめに示す。
 ちらと目をくれ、Lはまた正面を向いた。
「よければ持っていてください。ただこの間も言いましたが、私とのメール以外に使ってはいけません」
「でも・・・」
「・・・困るというなら、返してもらっても・・・」
 Lだって自信があるわけでも何でもない。
 相手の反応から気持ちを探りながら、少しずつ、押したり引いたりしているのに過ぎなかった。
「だって・・・」
「何ですか」
「つ・・・つ・・・次がある、って・・・、思っちゃいますよ・・・っ」
 どもった。しかも声が一部裏返った。
 顔が真っ赤。携帯電話を握った手に汗が滲む。
「・・・いいですよ」
 思いがけない柔らかなトーンに、パッと顔を上げる。
 目の前で竜崎さんは、少し、笑っていた。
 ・・・やっぱり猫背でいいんだ、顔が近いから。心からはそう思った。
 そして手を差し出されていることに気がつく。
 握手かと、こちらも手を出すと、そっと包み込むように握られた。
 そのまま、歩いていく。
 大きな手・・・少し体温が低めで、気持ちがいい。
 落ち着くどころか、ドキドキして大変だけれど。
 このまま、手を繋いでずっと歩いていきたい・・・。

 彼と一緒にケーキと紅茶を。
 そんな時間をこれからも持てたら、幸せ。
 そしていずれは、ホームメイドのケーキと、ゴールデンルールで丁寧に入れた紅茶を、ご馳走したいと・・・そう、夢を見る。

 とLの恋は、まだ始まったばかり。







                                                             END





       ・あとがき・

恋人設定じゃないL夢をもう一つ、と思って考えたおはなしです。
女の子のアピールから、Lにとっても気になる存在に。
今「NANA」を少しずつ読んでいるところなので、ちょっと少女漫画のように書いてみました。
恋のトキメキは、いくつになっても忘れられないし楽しいものです。

ケーキ屋さんはもっとすごいフランス語みたいな名前をつけて、ケーキの名前もそれらしいものじゃなきゃいけないのかな・・・と困っていたんですが、もっと可愛らしくカジュアルなお店にしてみたらいいんじゃないかと。
最初は以前ドラマであった「アンティーク」のイメージで考えていたんですが、女子中高生が気軽に立ち寄るお菓子の家みたいな明るくポップな感じに。
そこで「スィート・シュガー」登場。知る人ぞ知る、ガンマ団と縁の深い、グンマ博士御用達のお店です(笑)。
紅茶は私も好きですが、そんなに知識は深くなかったので、ネットで調べました。
それで、本場イギリスではミルクティーが一般的だとか、ロシアンティーはジャムを入れるのではなくジャムを添えて飲む方がいいとか色々知りました。

Lとヒロインの馴れ初めって、どちらかというとLがヒロインに熱烈に惚れたというイメージが強いんですが、こんなのもいいんじゃないかな。

 





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