小鳥



 合鍵でドアを開け上がりこむ。
 その物音に、胸が躍り上がったのは事実だけれど、喜んでいるように思われるのはシャクだから。はとっさに無関心を装った。
 彼の姿、顔を見ても。
 引き寄せられても。

 名を呼ばれてすら・・・。
 腕の中でとろかすのは、たやすい。そう確信している男の表情から、余裕が消え去ることはない。
「愛しているよ」
 臆面もなく囁きと口付けを落とし、抱きしめる。
 の、憮然とした中に隠し切れない恍惚の表情を読み取った。
 口元に笑みを浮かべると、ベッドルームへと運んでゆく。

 カゴの中の小鳥みたい。
 本当の名前も知らない。住んでいるところも、普段どこで何をしているのかも。何も、知らない。
 与えられた高級マンションの一室で、気まぐれにやってくる彼に抱かれ、忙しいからと早々に去ってゆく背中を見送り・・・。
 それでも、待ってしまう。
 羽を切られたわけでもないのに、飛び立てない。

・・・」
 頭を押さえられ、求められるままかしずき奉仕する。
 全て、彼に教え込まれた。どうすれば喜ぶのか、気持ちがいいのか。
 こんなことをしているうちに、の体がうずいてしまうのも、また彼に慣らされたからで・・・。
「・・・ください」
 自ら請うて、繋がりを求める。
 強いくせのある髪・・・長い前髪の下から、ふたつの黒い瞳が。

 声と合わせて、の中心を甘くくすぐる。
 また、溢れてくる。
 泣きたい気持ちに似ていた。
 体の興奮に追いつかないようで、目を閉じ必死にシーツを掴んだ。
 熱くなって溶けてしまって、何が何やら。
 だけど。
 最後に意識が飛んでしまう、このときが、好きだった。
 余計なものみんな忘れて、ただ彼を、彼だけを、感じることができるから。

「ゆっくりしていきたいんだけどね・・・」
「仕事、なんでしょ」
 いつものこと。
 はすねたようにベッドにもぐりこみ、動かない。
「ごめん。でも・・・」
 かがみこんで大きな手をかざし、髪をやさしく撫でてあげた。
がいつもここにいてくれるからこそ、安心して仕事もできる。・・・ありがとう」
「・・・」
 心に響く言葉ほど、残酷なものはない。優しくからみつく、鎖だから。
「出て行ってやる・・・」
「それは哀しいな」
「・・・貴方のことなんて、好きじゃない」
「私はを愛しているよ」
「・・・ばかっ!」
 思わず顔を上げる。しまったと思う間もなく、唇をさらわれた。
「これで次会えるときまで頑張れる」
 くすり笑って、軽く手を振り。
 ジーンズ姿の長身は、カゴの外へと消えていった。
「・・・・」
 唇に残ったぬくもりに、吐息を漏らす。
 もう一度ベッドに横たわり、素肌に触れるシーツにすら、彼の名残を捜してしまう。
 こんなにこんなに愛しい、なんて。
 とっくに知れているだろうに、見せたくないのはただの意地。

 かすかなタバコのにおいに頬をゆるめ、そのまま眠りに引き込まれてゆく。
 カゴの中の小鳥にだって、喜んでなろう。
 貴方に、愛されるためなら。






                                                             END



       ・あとがき・

男の名が一度も出てきませんが、初期L(兄L)ドリームです。
Lが出てこないのに兄Lと呼ぶのもおかしいので、いっそと思い文の中に出しませんでした。ちゃんも名前を知らないそうです(笑)。
マンション買ってもらって囲われているんですよ。いいじゃないですか、私なら喜んでカゴの鳥になりますよ!

兄Lはホントに忙しいらしいけど、ちゃんはちょっと寂しい。
お互いに好き合っているんですけどね。


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