ガンマ団女子寮の、ここは
の部屋である。シャワールームを出てタオルドライしながら、
はテレビのリモコンを手にした。
コンコン。
「はい、どーぞ」
ノックに、気軽な返事で応える。いつものように同僚たちが遊びに来たのだろう、今さら繕うこともない。
しかし、堂々とドアを開けて入ってきた女子を見て、首をかしげる。こんな人、いただろうか。
長い金髪、背中に背負った巨大な・・・筆?
そのいでたちには見覚えがある。だけど。
思わず胸もとに目をやり、タンクトップに書かれた文字に気がついた。
『女』
と、大きく書き殴られている。
「あの・・・」
がかけるべき言葉を探すうち、彼女・・・といっていいのか・・・は、
「オラだべ、
」
といきなりタンクトップ(いやランニングシャツ?)を脱ぎ捨ててしまった。
とたん体つきが変わり、見慣れた男がそこに立っていた。
「ミヤギ!?」
の開いた口が、ふさがらない。
「な、何やってんの、あんた」
「ここは男子禁制の女子寮だべ。女になれば入れると思って、トットリに書いてもらってきた」
脱ぎ捨てたシャツを指さす。ミヤギ自慢の「生き字引の筆」を使い、女になって入り込んだというのだ。
「そんなことまでして、何しに来たのよ」
「ちょっくら、聞いてもらいたい話があってな」
勝手に椅子に座り込んでいる。
も仕方なく、ベッドに腰をかけた。
ミヤギとは、ただの同僚という間柄に過ぎない。だからこそ夜の訪問は不可解だ。しかし、裸の上半身にドキドキしてしまうのも、また事実なのだった。
が目のやり場に困っているのには頓着もせず、ミヤギは自分の話を始める。
「オラ、ある指令を受けただ。明日、出かけることになってる」
ガンマ団は世界最強の殺し屋軍団だ。ミヤギへの指令も、血なまぐさいものなのだろう。だがそれはいつものことで、わざわざ忍んできてするような話とは思えない。
は「頑張ってきてね」と通り一遍に励ますくらいしか反応を思いつかなかった。
「
」
「なに?」
こちらにぐっと身を乗り出してきたミヤギは、何やら思いつめた表情をしている。
常に勝気で自信家の彼なのに。こんなに切羽詰っているのを初めて見た。ここで
は、もしかしてミヤギはとんでもない任務を負わされたのではないかと、感づいたのだった。
「あのな」
「うん」
少し、神妙な気持ちになって、
は耳を傾けた。ミヤギのなかなかカッコいい顔の、強い光を帯びた目を見つめる。
「オラ、おめのこと、ずっと好いとった。今ここでオラのものさなってけろ」
「・・・は?」
訛りのせいで内容をすんなりとは理解できない。
は少し考えて、ようやく、これが夜這いなのだと思い至った。
「ち、ちょっと待って、いきなりそんな」
勝手にきて、勝手にそんなこと。
「オラ、本気だべ」
とうとうミヤギは立ち上がり、
の手首を掴んだ。細くて折れそうだ・・・今度は手をそっと握る。
勝手なのは分かっている。迷惑なことも。だけど、明日のことを思うといてもたってもいられなかった。
仕事の内容については、いくら内部の人間であっても簡単に話すわけにはいかない。だからミヤギは黙っていたけれど、実のところ、彼に下されのはこんな命令だったのだ。
−南海の孤島に逃げ込んだ裏切り者シンタローを、征討せよ−
シンタローはガンマ団総帥の一人息子であり、ナンバーワンの実力を持った男。いくらミヤギでも、まともにやり合って無事ではいられないだろう。
最悪の事態を想定したとき、もう
のことしか考えられなくなった。
想い続け、見つめ続けていたただ一人の女性と、通じ合ってから行きたい、と。
「
もオラを好きなんだろうと思ってたけど、どうだべ」
何て図々しい。でもその強引さが彼らしく、そんなところに確かに惹かれていた。
「・・・あんたの言う通りよ」
自分から身を寄せると、強く抱き止めてくれる。刺客として鍛えられた身体にじかに触れたとき、おのずと彼の求めに協調し、初めての恋情が心身にズキリ甘く響いた。
「じゃいいんだべな、
」
微笑みを浮かべるミヤギに、口づけられた。
初めてのキスに、震えた。
こうして、ミヤギと
の恋は、寮の手狭なベッドで結実した。
「声が大きい・・・隣に聞こえるべ」
うめく
の口もとに、自分の唇を押し付けるようにしてせき止める。
苦痛を与えているのは自分自身だと分かっていながら、ミヤギには抑制ができなかった。
男としてどうしようもない欲望を止められない。それだけではない、
の中に、強烈な思い出として残りたかった。一生のものとなるくらいの。それが肉体的な辛苦に結びつくことによって可能なのだとしたら、酷なようだけれど、もっともっと与えてやろう。
痛みとしてでもいい。自分という存在を、想いを、この小さく柔らかな体の奥深くに、刻み込んでおきたかった。
「ミヤギ・・・」
呻吟のはざまで名を呼ぶ、その一途さに真理を知る余裕も、ミヤギにはなかった。
辛くても、
は嬉しかったのに。
愛の思い出は、痛みなんかではなく、幸福感によって彩られるものなのに。
「死ぬ気なの?」
「・・・死ぬわけにはいかねえべ。せっかくこんなめんこい彼女ができたってのに」
本心なのか嘘なのか、
には分からない。
ミヤギは優しく髪を撫でてくれ、最後にキスをひとつくれた。
そして、元のように服を着てしまうと、女になって、行ってしまった。
「勝手、なんだから」
布団にもぐり、自分で自分を抱きしめるように丸くなりながら、ひとりごちる。
勝手に人の心に入り込んできて、勝手に部屋にきて、勝手に帰って。
「勝手に死んだりしたら、許さないからね」
目を閉じ、恋人のぬくもりを逃すまいと、
はますます体を小さくした。
・あとがき・
久しぶりですね、パプワくん。もう二度と書くことはないだろうと思っていたけれど、ホント、何がどう転がるか分からないものです。
パプワのドリームを書いてらっしゃる方から感想いただいたので、その方のサイトにお邪魔し、パプワドリームを読んだその直後にネタが浮かびました。
相方もパプワくん知っているというし、これはもう書くしかないでしょう!
でも、結構苦労しましたね。やっぱり久しぶりに書くからでしょうね、時間かかったし、スラスラとは書けなかった。
オリキャラ小説を書いていたとき、ミヤギにもアマンちゃんという可愛い彼女がいましたが、何とミヤギとトットリは「結婚するまでは清い交際で」という主義だったため、そういうシーンは書いたことがなかったのですよ! コージなんかはかなりエロエロな話書いてましたけど(笑)。
ちょっとシリアスというか、小難しくなっちゃったな。
でも、こういう、決戦前夜というかそんなのは、星矢で昔オリキャラ小説を書いていたころ、さかんに扱っていました。懐かしいのです。
ミヤギはマンガではかなり余裕の表情での初登場でしたが、やっぱり相手はガンマ団ナンバーワンのシンタローだし、死を覚悟もしたんじゃないかなって。
ちなみに、一番最初に浮かんだセリフは「オラ、本気だべ」です。是非入れたかった。今度はミヤギと甘々ラブラブな話を書きたいですね。
H17.10.22
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||