風に舞うのは、愛のかけら。
 手を伸ばしても、掴まえられない。散ってしまうのを、止められない。
−もう二度と、二人で浴びることのできない−


  春のかたみ


−何度目かな・・・、こうしてひとり、桜を見るのは−
 問わず語りに答えはない。
−貴方と初めて通じ合った、あの日のことを、思い出すよ−
 それも今は遠くなり。
 うつろな瞳が上向けば、降り注ぐ花びらたちを映し込む。
 際限なく舞い散る桜の花びらは、ただ静かに、の全身を包んでいった。
−ここにこのまま、埋もれてしまいたい−
 永遠に。

 ワンピースドレスの裾を柔らかに広げて座す乙女を、桜の花びらたちが彩っている。
 まるで絵のごとき風景の中へ、ニアはそっと進み入った。
 は、気付いていない。例え目の前に立ったところで、彼女の視界には入らない。
 そばにはいても、決してこちらを見てはくれない。
 あのときから、ずっと、そうだった。


 Lが亡くなったという報せを受けた後、初めて、Lの恋人だったというに会った。
 強く惹かれた気持ちを、そのときはただ、一番の目標だった人物に近しかった女性に対する興味に過ぎないと分析していたのだが。
 5年ほどの年月を、たったひとりでのキラ捜査に費やしている間にも、面影は薄れることなく。逆にニアの心の中で、の存在は日に日に大きくなっていった。
 その気持ちに恋という名を与えたころには、申し訳ないなんて気持ちも湧かないほど、Lの命日からは遠ざかっていた。
 を幸せにしてあげたい。
 心に強く誓った。

 SPKが結成された後、ニアはを自分のもとへ呼び寄せた。
 ワイミーズハウスへ身を寄せていたの様子は、ロジャーを通じて把握していたつもりだし、いずれこちらで引き取りたいという意向も伝えてきた。
 SPK本部の、オモチャだらけの部屋で、と初めて向かい合ったとき、ニアは胸をしめつけられた。
 恋のときめきよりも、それは刺すような、痛みだった。
・・・見ていてください。私がLの無念を晴らします。・・・Lの仇を、取ります・・・」
 ソファベッドへ腰かけたの、足元にうずくまるようにして、小さなブロックをつまみ上げる。
 L字形のパーツをしげしげ見つめるニアの頭に、今にも消えそうに細く弱いの声が降ってきた。
「・・・でもLは、戻ってこない・・・」
 ハッとして目を上げる、そのニアの視線と、今確かにピントの合っているの瞳とがぶつかった。
 は、微笑んでいた。
 儚げに、それゆえ美しく。
「私は、Lと一緒に、死んだの・・・」
「・・・何を言ってるんですか・・・」
 ふうっと、また遠いものとなったの視線の先を、もうとらえられはしない。
 歯がゆくて、ニアはブロックを投げ捨て、の右手を取った。
「ここで、生きてるじゃないですか・・・手だってこんなに温かいのに・・・」
 血の通ったぬくもり、たおやかな優しい手を、両手ではさんで握りしめる。
「・・・、あなたが好きです」
 声は届くだろうか。
 握り返されもしなければ、拒まれもしない。告白はまるで独白。
 それでもニアは、辛抱強く想いを語りかけるのだった。
「キラに勝ったら・・・、この気持ちを、受け入れてくれませんか」
「・・・・・・・・」
「このままで、いいはずはない・・・。違いますか」
 今すぐきつく抱きしめて、心臓の音を確かめたかった。キスをして唇の温度を感じたかった。
 初めての衝動と情熱に、気も遠くなりそうで、ただ必死に、の手に取りすがっていた。

 全てを失った、あの日以来、何ものも五感に訴えてはこない。
 ワイミーズハウスで子供たちの面倒を見ている自分も、自分ではないようで。風景も話し声も全てはヴェール越しだった。
 どこにいても、何をしていても、同じ。
 請われるままSPKとやらに移り住んだところで、心を動かされるものなどありはしない。
 ただ、ニアはどこかLに似ていた。
 そのことが、少し嬉しくて、同じくらい、辛かった。


「冷えてきました、戻りましょう」
 そっと肩に手を置くと、は人形のように子供のように、ゆるゆる首を振った。
「ずっと、ここに、こうしてたい・・・」
 Lを想いLに浸って。
 桜に埋もれてしまうまで。
「・・・・・・・・」
 見えぬものばかりを見つめている、瞳が切ない。
 いつもなら強引に手を引いているところだが、ニアは何も言わずその場に座り込んだ。
 と背中合わせの格好で、片膝を立て、髪をいじる。
 ちらちら踊る花びらたち、刹那だからこその、美しさ。
 キラを突き止めLを継いだ今でも、は心を開いてくれない。それでも、一途に想い続けている相手と二人きり包まれていれば、泣きそうな気分で限りない優しさが湧き起こってくるのだった。
「あなたは、Lと一緒に死んだと言いました」
 呟きほどでも届く近さ、ニアの声は、花の静寂を壊すことなくの耳にすっと入る。
「あのときは何を言っているのかと思っていましたが・・・、今なら少し、分かります」
 失ったものの重みと痛み。
「あなたは本当にLを愛していたから・・・Lはあなたの一部といっても良かった・・・」
「・・・・」 
 桜、狂ったように散ってゆく、花。
『私を愛してくれますか』
 不意に、耳によみがえったLの声に、目を見開く。
『生涯唯一の、恋です・・・』
 ざっと風の音を聞いたとき、風景と匂いがいっぺんに溢れた。
 薄紅、空の青、樹木の薫、そして背中の、ぬくもり。
 色と光に溢れたこの世界、至るところに、Lの気配、Lの息遣いを感じていた。
(L・・・・)
 自分の膝を抱くようにして、そっと目を閉じる。
(ぎゅって抱きしめてね・・・)
 独占欲の、人一倍強い男ではあった。けれど。
 少しずつでも、前に進んでゆくこと・・・、Lが許さないことがあるだろうか。

 空から降る春のかたみを身にまとえば、涙が止まらない。
 かなしくて、でも、幸福だった。




                                                                END




       あとがき

「愛のかけら」の続きのつもり。
元々、Lの名と共に恋人を引き継いだニア、というリクエストから考えた話だったのに、プロット段階であれこれ悩み、更に実際書き始めてからも時間がかかって、そのうちに当初の狙いからズレてきたような・・・。
これはこれで、いい雰囲気だとは思うのですが。

Lを亡くしてから自分を失っていたちゃんを目覚めさせたのは、ニアの一方的な愛情ではなく、メロのことで多少は同じ気持ちを味わったニアの共感だった・・・ということで。
もちろん、時間のおかげでもあるけれど。
ちゃんはこの後、ゆっくりとニアの気持ちを受け入れてくれると思います。
でもやっぱり、Lの死後の話って、辛いですね。

タイトルは元ちとせの歌から。





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