initiative
「ここか、奴がいるのは」
呟きは、漆黒の中に吸い込まれる。
宿敵にケンカを売るためだけに、カノンはわざわざ冥界くんだりまで下りてきた。
大きく息を吸い込むと、バン! 思い切りドアを蹴り破り、中に踏み込む。
「オラぁラダマンティス、出てこいやーー!!」
これくらいハデにふっかけてやらねば。
が、返事はない。
部屋を見回すと、そこに男の姿はない。代わりに、腰を抜かして座り込んでいる少女が目に入った。
「な、何ですか、あなたは」
か細い声が震えている。
カノンはニヤリ、笑った。
「あの、どうぞ」
おずおずとお茶が差し出される。
「悪ィな」
脚を組みどっかと座ったカノンは、早速飲んだ。うまい。
ラダマンティスは留守だというので、ハウスキーパーをしているというこの娘に奴の知り合いだと告げ、半ば無理矢理上げてもらった。
無論、弱味でも握れれば・・・と企んでのことである。
「それでは、ごゆっくり」
「ちょっと待て」
一礼して去ろうとする少女を鋭く止め、指先で自分の正面を指す。座れ、というサインだ。
「でも」
「ただ待っててもヒマだから、相手しろってんだよ」
やや強く言うと、諦めたように、それでも遠慮がちに腰掛けた。
「名前は?」
「・・・です」
「ふーん」
顔立ちも体つきもまだ幼い。こんな小娘に身の回りの世話をさせているとは。
「ロリコンかよあいつ」
「えっ?」
「おまえ、ラダマンティスの女か?」
質問の意味を理解するまで数秒を要したが、ようやく飲み込むと、は真っ赤になってぶるぶる首を振った。
「ちっ違います違います! ラダマンティス様と・・・なんて、そんな、そんな!」
反応から丸わかりだ。二人の間に何もないにしろ、少なくともはラダマンティスを慕っている。
「フン・・・」
憎らしい相手が好かれているのを目の当たりにするのは、面白いものではない。
カノンはいきなり立ち上がり、を抱きすくめた。
「−!?」
こわばる身体を痛いくらいに拘束する。壊れそうだ・・・そうだいっそ壊してやろうか。単なる小間使いだとしても、ラダマンティスの奴にとって少しは痛手だろう。
凶暴な衝動を止めようともせず、背後の壁に押し付ける。
の澄んだ目に広がる怯えが、カノンの嗜虐心を刺激した。
「何をするんですか」
「俺はお前の主の客だ。言うことを聞け」
めちゃくちゃな論理なのに、主と聞いただけで戸惑いながらも抵抗を止めた。大した忠誠心だ、腹立たしいほどに。
いささかのためらいもない。カノンはの小さな口もとに、自分の唇を押し付けた。
がちがちに食いしばって、ほどけない。何も知らない小娘ならではの反応につまらなくなって、すぐに離してしまう。
改めて見ると、なかなか可愛らしい顔をしていることに気付いた。初めてのキスのショックと、これから何をされるのかという恐怖で、涙をこぼし震えているのが、またそそる。
「とか言ったな。お前、こんな家政婦なんかやめて、俺のところに来ないか」
気紛れな思いつきだったが、口に出すと本当にそれがいいような気になってくる。
「こんな陰気なとこより環境もいいし、可愛がってやるぜ。一人ウルサイのがいるけど、ラダマンティスなんかよりはマシだ」
再び顔を近づけるカノンは、気付いていなかったか・・・が、キッとにらみ上げていることを。
「色々教えてやるしな。・・・まずはキスからか?」
くっくっ、笑って、もう一度口づけようと・・・。
「やめてっ!」
は勇気をふりしぼり、押し返した。
虚をつかれたカノンに、語気を弱めず言い募る。
「ラダマンティス様や冥界のことをそんなふうに言うなんて、アナタ本当は、ラダマンティス様のお友達でも何でもないんでしょう!?」
「うるせえ、ガタガタ騒ぐな!」
奴のことをちょっと言っただけでこんなに強く出られるとは、またそれも苛立たしい。
腕を掴み上げ、そのまま引き倒す。泣き叫ぶのにも構わずのしかかり、服に手をかけた。
壊してやる、メチャクチャに。
その想いごとを。
「イヤ、やだ、助けて・・・ラダマンティス様・・・」
「黙れってんだよ、その名を呼ぶな!」
不愉快だ。の口から奴の名前が出るごとに、神経が逆撫でされる。
黙らせたくて、口をふさいだ。もちろん、自らの唇で。
「ん・・・んー・・・」
逃れようとしても許さない。の知らない深さまで探り、叫びを飲み込む。
「・・・俺が、可愛がってやるって言ってんだろ」
ようやく静かになった娘を抱きすくめる。
「そうだ、そうやっておとなしくしてりゃ乱暴にはしねえよ」
の期待を、カノンは感じ取っていた。
それは未知への好奇でもあり、女の目覚めでもあることも。そして、それらを呼び起こしたのは他でもない自分だと認識したとき、凶暴な衝動は自己満足にすりかわったのだった。
体を起こしてやり、膝の上に抱き上げる。恋人にするように。
「・・・カノン」
初めて名を呼び、は甘える仕草をする。
最初は恐ろしいだけだったけれど、身勝手な強さになぜか惹かれた。
今までラダマンティス様に抱いていたほのかな想いを凌駕するほど鮮やかな恋心が、火のようにの胸に燃え広がったのだった。
短い時間見つめあい、もう一度、ゆっくりキスを交わす。
カノンの手が、の体に伸びた、そのとき。
「・・・お前ら」
ハッとした。夢からさめた心地で見ると、主がこわばった表情で立ち尽くしている。
「ラ、ラダマンティス様!」
「よお」
ニヤニヤとして腕に力をこめるカノンから、は必死で逃れようとするも、力ではかなうはずもない。
「貴様、ここで何をしている」
カノンはラダマンティスの問いを無視した。
「コイツを俺にくれよ。お前なんかのところにいるより幸せにしてやる」
単なる対抗心なのか、それとも本当にを気に入ってしまったのか。カノン自身にもよく分からなかった。
ただ、今、欲しかった。
「やっやめて、離してっ」
こんな姿、ラダマンティス様に見られるなんて。
さきほどまでのとろけるような熱も霧散してしまった。は真っ赤になって、尚もじたばたしている。
ラダマンティスは憮然としてそんな二人を見下ろしていたが、のすがるような目に動かされ、カノンの腕から引きはがすように救い出した。
「、お前・・・」
「ごめんなさいラダマンティス様」
こんなに後悔したことはない。一時の感情に流されて、初めて会った人とあんなことを・・・!
「もう帰って!」
ラダマンティスも驚くほど高圧的に、はカノンに退出を求めた。
「やれやれ」
カノンは立ち上がり、飄々と歩き出す。
すれ違いざま、の方へ身を屈め、囁きを落とした。
「また来る。お前をもらいに」
ラダマンティスがにらみつけているのにも構わず、最後まで薄笑いを消さないカノンはようやく出ていった。
「一体、どういうことだ」
二人が抱き合っていたあの光景が離れない。頭痛がする気がして、ラダマンティスは額に手を添えた。
「・・・・」
は無言で、しがみつく。
呼び起こされた熱はまだ続いていて、ただそのベクトルだけが、今まで想い続けていた人に向かったようだった。
「?」
ラダマンティスは手の置き場に困り戸惑う。
「ラダマンティス様・・・」
思いつめたような声で、顔も上げずに・・・。
「私に、キスを教えてください」
ちょっとズルイけれど、確かめてみたかった。さっきのカノンへの突発的な恋情と、長い間あたためていた彼への思慕・・・そして、口づけや触れ合いがもたらす不可思議な効果を。
「・・・知らぬせいで、あんなことになったというのなら・・・」
迷いを捨て、背に腕を回す。
「いいだろう、教えてやる」
顔を上げさせ、無造作に口づけた。荒々しくなってしまったのは、の無防備さに腹を立てていたせいだけれど、ラダマンティスはそのまま乱してやった。
「ラダマンティス様」
一度離すが、まだの瞳は求めている。その貪欲さに、ラダマンティスも引き込まれる。
「キスだけでは終わらなくなるぞ?」
「構わないです、ラダマンティス様なら・・・」
甘い感情に目が潤む。
「」
前髪をかき上げるように撫でてやってから、ふわり抱き上げた。
「お前から言い出したことだ」
奥のベッドルームの扉が、開かれた。
・あとがき・
久しぶりにダブルキャラドリームを書きたかったんです。
反発している相手に仕えている少女を、留守の間に襲おうとする・・・ってネタを思いついたわけだけど、反発しあっている二人って、カノンとラダマンティスしか思いつかなかった(笑)。
「そんなバカな」という話になってしまいましたが、突っ込まないでください。
ドリームに冷静なツッコミは不要ですから!何も知らない少女に教えてやる、っていうの、好きなんですよ。ええ、ロリコンですから。
ラダマンティスもちゃんのことを好きだったのに違いない。でも、まだ早いから・・・と自制していたのですね。
ダブルキャラドリームといいつつ、最後はラダマンティスとくっついたような形かな。書き上げてからもタイトルが思いつかず、またそのまま英単語をつけてしまいました。
センスなくって。
H17.9.8
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