春よ、来い。
あまりちゃんとは片付いていない部屋、小さなテーブルにはカップメンの空容器が転がっていて、音といえばゲームのピコピコ電子音。
「マット」
はコートを脱ぐとハンガーにかけて、彼の後ろ頭にいくつか文句を浴びせながら、ゴミを片付け始めた。
相変わらずの引きこもりっぷりに、呆れてしまう。
「外はいい天気よ。たまには出かけようよ」
「ヤダ」
即答。
それでもキリのいいところでゲームはやめて、くわえタバコも置くと、腕を伸ばし彼女の体をつかまえた。
「ずっと中にいても、つまんないでしょ」
「つまんなくなんてないよ。といれば飽きないし」
ジタバタするのを押さえつけ、有無も言わさずキスをする。
濃いタバコの味を、は嫌がるけれど、お構いなしで口の中を乱しまくった。
「んっん・・・」
においは不快だし、息も苦しい。
だけどいつしか自分からしがみつき、長くて濃いキスに溺れてしまう。
床の上もつれるように倒れこみ、絡み合って。
「・・・やっもぉ・・・」
ニットをたくし上げ侵入してきたマットの手を、止めようとする。だけど男の力は強くて、背中のホックを外すのを許してしまった。
「ちょっとっ・・・ゲームかコレしかやることないの!?」
強い抗議のつもりだったのに、相手は悪びれるということを知らないらしい。
「外じゃ出来ないことだろ。俺、となら、一日中しててもいいよ」
囁きながら、胸元に顔を埋めてくる。柔らかな膨らみを堪能するように。
「バカッエッチ・・・やあんっ!」
胸の硬くなったところを指先でいじられ、体が大きく跳ねる。
「だって・・・こんなHな体してるクセに・・・」
下の方にも手を入れられ、身をよじった。
「やめてってば・・・ああ・・・」
とろけそうな声は、我ながら拒むものには聞こえず。
「あぁん・・・」
流されてしまった方が楽かも・・・。
力を抜いて委ねてくれるに、マットは嬉しそうにキスをあげる。
滴る熱をかき回す手は休めず、たくさんのキスを浴びせた。
「大好きだよ・・・ずっとこうしてよう・・・」
「あ・・・んマット・・・」
少し涙目で、マットの顔が滲んで見えた。
「私も・・・大好き・・・」
細い身体を何度も撫でた。
体の中にマットを感じていると、我を忘れてしまいそうになる。
もっともっとと求めながら、いつも少し、怖くなる。
「マット・・・」
せめて、名を呼んだ。
応えてくれるつもりか、マットは更に激しく動いてきて・・・全部奪おうとするかのように・・・。恐怖は増幅するけれど、それを上回るエクスタシーに、とうとうは飲み込まれ、一瞬全てが弾けとんだ。
けだるい身体を寄せ合って、情熱の余韻に浸っている。
このときが、好き。
世界に二人だけ、なんて、少し寂しい妄想にも楽しく入り込めるから。
気持ちいいけど、何もかも失くしてしまいそうなあの最中よりも、ずっと静かで、優しい時間だった。
目と目が合うと、マットは微笑みをくれる。
も笑って、彼の軽く乱れた髪に触れた。
「ねぇもっと暖かくなったら・・・、春になったら、外でデートしよう」
「・・・ん・・・」
手を取って、指に指を絡ませる。
枕に顔半分を埋めるようにして、マットは目を閉じた。
繋いだ指先が、温かい。
「・・・考えとくよ・・・」
幸せそうに・・・。
もう確定したような浮き立つ気分で、も同じように目を閉じた。
まぶたの裏に、桜の小さな花びらが、あまた舞い踊る。
二人で、ピンク色の風に包まれていた。
春は、もうすぐ。
END
あとがき
久し振りのマット単独ドリームです。拍手お礼ネタをもとにして書きました。
マットが外出嫌いだなんて、13巻を読むまで知らなかったけれど、今回はその公式設定にのっとって。
何の変哲もないごく短い話ですが、恋人ドリームって、いいなぁ・・・。
私は春が大好きなので、今の時期はソワソワウキウキしてしまいます。
また、桜の話も書きたいですね。
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