サンタ娘がやってきた
12月24日の夜は、たちにとって一年中で最も忙しい夜である。
赤い服を着込んでトナカイの引くソリに乗り、鈴を鳴らしながら星空の下を行く・・・そう、彼女たちはサンタクロースの一族だ。
くり子はの妹で、南の孤島でパプワという男の子に出会って以来、ずっとの158センチ以上ある身長を羨ましがっている。
自身は自分のトナカイも持っている一人前のサンタクロースで、こうして寒さにも負けず夜空を駆け巡っては、良い子たちへプレゼントを配って回っていた。
「さて次は・・・、あそこね」
まるで要塞のような、巨大でものものしい建物が見えてくる。
だけどはサンタクロース、どんな警備もものともしない。不法侵入なんて言っちゃいけない。
エントツなくても気にしない。堂々窓から入り込んだ。
(・・・アレッ)
ベッドですうすう眠りこけている金髪の坊ちゃんを覗き込んで、は目をパチクリさせた。
(なんだ、子供じゃないじゃないのよ)
カーテンの柄やテーブルに散らばっているお菓子などを見れば、まるっきり子供部屋といった雰囲気だけれど、ベッドにいるのは、どう見ても大人の男が一人だけだ。
(間違えちゃったみたいね)
それならここに用はない。即刻立ち去るべきところだが、はどういうわけか動けないでいた。
寝顔に見入ってしまっていて・・・。
ちょっと乱れた金の髪、長いまつげ。何かいい夢でも見ているのか、ほころんだ口もとがあどけなさを感じさせる。
じっと見ているうちに、自然と、の頬にも笑みがのぼってきた。
(結構、好みだわ)
そのとき、うーん、と小さくうめき、その好みの彼がゆっくり目を開けた。
まずい、大人に見られるなんて。わたわたするが、逃げ場はない。
彼はねぼけまなこでの姿をとらえたが、その目に驚きや警戒の色は一切表れなかった。ただ不思議そうに目を見開くと、一度手でこすり、改めて全身を眺める。
赤い服は白いフワフワのふちどりがされており、これまた赤い帽子、大きな白い袋を背負って。
「・・・サンタさん!」
白いひげこそ足りないけれど、ミニスカートという掟破りのサンタ服だけれど。疑いようはない。
グンマは喜色を浮かべ、急ぎベッドから抜け出した。
「ボクのところに来てくれたの?」
「・・・あなた、サンタクロースを信じているの?」
自分がこんなことを聞くのは変だけれど、目の前に立った男の立派な身の丈を見上げては、言わずにはいられなかっただった。
「信じるも信じないも、ここにいるじゃないか」
「・・・まあ、そうね」
が笑うと、彼も笑った。
「でもごめんなさい、私、間違えて来ちゃったの」
「そっか・・・そうだよね」
とたん、寂しそうな笑みになり、斜め下を見るようにすると、長い髪がさらり揺れた。
「分かってるよ。サンタクロースが来てくれるような年じゃない・・・ボクもう大人だから」
その声が、表情が、仕草が。
の胸をズキズキさせる。
熱い矢を打ち込まれたかのよう・・・。
「今年は皆でクリスマスを祝えなかったから、その代わりに特別に来てくれたのかな、なんて思っちゃったんだ」
「じゃあ、そういうことにするわ」
「え?」
は、背負っていた白い袋を床にドサリと下ろしてしまう。
「自己紹介、まだだったわね。私はサンタクロースをやっている、。あなたは?」
「ボクは、グンマ」
「グンマ。少しここで休んでいってもいい? 次の子供のところに行く前に、お茶でも飲みたいわ」
少し強引なくらいでちょうどいい。
「いいよ、喜んで!」
ほら、さっきの笑顔を取り戻してくれた。
「座って。今お茶を持ってきてあげる」
日記を書くためのデスクから椅子を引き出し、勧めると、グンマは照明を点けてから一度出て行った。
パッと明るくなった部屋にひとり残されて、とりあえず腰をかける。寝室だけれど、寝るためだけにしてはずい分広くて立派な部屋だった。ちゃんとツリーも飾ってあって、ぴかぴか光を放っている。
(いいトコの坊ちゃんなのね)
そういえば広大な家(?)だった。
は胸の前でグッと拳を握る。
(グンマを落として玉の輿!)
計算高いサンタである。
「お待たせ〜」
そこにお盆を持った御曹司が戻ってきたので、パッと手を下ろす。
「ハーブティだけどいい?」
「ええ、大好きハーブティ」
たくらみのかけらもないような笑顔を向けた。
グンマが机に置いてくれたカップも高級そうなもので、きれいな色のお茶から湯気と一緒にいい匂いが立ちのぼっている。
「いただきます」
両手で包み込むようにカップを持ち、ふうふう言いながらすする。
「あったかい」
心も体も温まる、それは魔法のようなお茶だった。
サンタ娘のほっこり顔を見守りながら、グンマはベッドに腰をかける。
「世界中の子供たちのところを一晩で回るなんて、忙しくて大変そうだね」
「そうね、確かに大変だけど、一年のうちたった一日だけだし、一族みんなで手分けをするから・・・」
言葉を途切れさせてしまったのは、グンマの真っ直ぐな視線に気付いたから。
まるで子供のように澄んだ瞳。それに、なんてきれいな青だろう。
「・・・あの、何よりも、子供たちに喜んで欲しいから・・・」
ハーブティを覗くフリをして、さりげなく目を逸らす。
強く惹かれている自覚が苦しくて仕方なかった。
「ところでグンマ、さっき、今年はクリスマスを祝えなかったって・・・」
「うん」
ほおづえをつく仕草で、グンマは部屋のツリーに視線を向けた。
「ちょっとね、今、みんな居場所がバラバラだったり大変なことになってたり、ボクたちはそれでレーダー開発しなきゃいけなかったりで」
「? ふうん?」
よく分からないけれど、上の空で彼は少し疲れているように見える。
「・・・でもね」
きれいに飾り付けられたクリスマスツリーを眺めたまま、ふっと、こぼした。
「来年はきっと、家族みんなでクリスマスを迎えられるよ。そのために今、ガマンして頑張らなきゃ」
夢見るように、だけど漠然とではなく。グンマは微笑んでいた。
希望の芯には意志を抱いて、それでも純粋さは失わず、きれいに微笑んでいた。
「そうね、きっと」
じんと熱くなった胸に手を添え、は顔を上げる。
「きっと、叶うわ」
「ありがとう。本物のサンタさんに言われると、絶対うまくいくような気がしてくるよ」
明日からも、頑張れる。
「・・・ごちそうさま」
温かいうちに飲み干してしまうと、は立ち上がり、プレゼント袋を手に持った。
「もう行くの?」
「子供たちのところに行かなくちゃ」
ずっといたい気持ちは山々だけれど、大切な務めを忘れてはいけない。
「ねえ、」
初めて名で呼ばれた。金の前髪の下の、青い瞳に胸を射抜かれる。その奥にひそむ、不思議な光・・・。
自覚がないのか、知った上で尚もそういられるのか、やはりグンマの笑顔に曇りはない。
「また、会えるかな」
も笑った。つられるように。
「あなたが望むなら」
信じていてくれる人、待っていてくれる人がいてくれてこそと言える、自分たちの存在とは。
「じゃあ・・・」
「待って!」
思わず立ち上がったものの、それから先が続かなくてグンマは固まってしまう。思考よりも行動が先走った感じは、自分としては珍しく、真っ白になってしまう。
「・・・あの、そうだ、プレゼント・・・」
「え?」
小首をかしげるの前で、一つ大きく息をつく。今度は落ち着いて声を出すことができそうだ。
「プレゼント、もらっていい?」
大きな袋にではなく、サンタ娘の両肩に軽く手を置いた。少し顔を接近させて、意志を示す。
「・・・いやじゃなかったら」
初めて主導権を握られ、ああこの人やっぱり男の人なんだ、と思うとそれも心地良い。
は再び袋を手放してしまい、グンマのパジャマの端を掴んだ。
「いやじゃないわ」
青の瞳を見つめていると、身も心も染まってしまいそうだった。
ゆっくり近付くにしたがい、まぶたを閉じる。
ほんの軽くだけれど、唇が触れたとき、闇の中にぱあっと星くずがはじけた。
「ありがとう。きっと、また・・・」
「うん」
トナカイの引くソリに飛び乗り、輝く笑顔で手を振る。さよならの代わりに「メリークリスマス!」
鐘を鳴らして走り出した。
リンリン、リンリン・・・。
空高くから振り返ると、寒いだろうに全開にした窓から身を乗り出して、グンマは大きく手を振っていた。にこにこ笑顔を絶やさずに。
「メリークリスマス!」
大きな声で叫び、いつまでも手を振ってくれていた。
ソリの軌跡が光になって降り注ぐ。いつしか純白の雪になり、街中をしんと包み込んでいった。
「なに、サンタクロースが来た?」
イトコの妄言に、キンタローは眉をひそめた。
「うん。昨日の夜中にね、間違えてボクの部屋に来ちゃったんだって」
「・・・・」
グンマが子供っぽさから抜け出せていないのは今に始まったことではないけれど。
「お前、疲れているんじゃないのか? 無理せず、今日は休んでいた方がいい」
気遣いを見せるうちにも、グンマは元気いっぱい作業に取りかかっている。
「可愛い女の子のサンタさんだったよ」
頬を赤らめていることには、キンタロー気付いていない。
「いいかグンマ、サンタクロースというのは、赤い外套を着た白いひげのおじいさんだ。もともとは4世紀にトルコに実在した、カトリック教会司教セント・ニコラウスのことで、貧しい娘たちの家に煙突から金貨を投げ入れてやっていたのがその由来なんだぞ。今は子供たちに夢を持たせるための存在といったところだろう」
本当にキンタローは物知りだ。グンマが信じ思っていることとは違うけれど、言い争いは本意ではないので、「そうだね」などと無難な返事をすると仕事に没頭し始める。
キンタローはその背中をちょっと見てから、自分も同じようにレーダーの開発に取りかかった。
きっとキンちゃんは、気にもとめていないだろうな・・・。手を休めずに、グンマはひとり小さく笑った。
大切な気持ちは、自分だけの心にしまっておけば、それでいい。
そして願えば、また会えるだろう。赤い服の、キュートなサンタクロースに。
そのころ、サンタの国では・・・。
「まあっおねえちゃん、どこ行くんですの」
こっそり抜け出そうとしたところ、めざとい妹に見つかってビクリとする。
「ちょっと、出かけようかと・・・」
「ダメっ、あとかたづけで、今日もいそがしいんだから!」
くり子に引っ張られ、ガックリしながら戻った。
(お休み取れたら、即会いに行っちゃうからね、グンマ)
子供みたいな優しい人の、青い瞳につかまるために。
・あとがき・
パプワでのクリスマス話です。
くり子の姉で一人前のサンタクロース、というヒロイン設定が先にできました。それならお相手はグンマかな?と。
グンマは大人になってもサンタクロースの存在を信じているのね、ナチュラルに。単に自分が大人になったから、もう来てくれなくなったんだと思っている。サンタクロースはいないって言い切れるのかな?
信じるなら存在するんだと思う。キスは、当初からの予定だったけれど、グンマが主導権を握ったっていいじゃないか、と思い直し、変えました。こんなのもいいんじゃないかと。
昔のオリキャラ小説では、グンマの彼女は雪女のパールちゃんでした。なんか普通の人間じゃない人に縁があるようで(笑)。
パールはグンマのために雪女をやめ、でもちょっとだけ雪女の能力を残し、その能力でもってガンマ団に入団するわけです。二人で交換日記をしていたな・・・。グンマは好きなキャラですよ。一番最初の登場時とはだいぶイメージ変わりましたが、私も甘い物好きだし。子供みたいで可愛くて、キンタローとのコンビも好きです。
考えてみれば初の「PAPUWA」舞台でのドリームです。
これから増えるかも?
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