永遠の恋人


 夜神月は、お気に入りの喫茶店で、友人とお茶していた。
 といっても、楽しく和やかな雰囲気には程遠い。
 呼び出しておきながら口もきかず、ばかに甘い紅茶を啜っている。そんな色白で猫背の男と、今のところただ向かい合っているだけだ。
「で、相談って何、竜崎」
 手早く終わらせようと切り出すと、竜崎はケーキにばかり向けていた目をようやく上げた。
 ここならその座り方も気にならない。そう言ったのは確かに自分だけれど、いつもいつも目の前で両膝立てて座られては、辟易してしまう。
「ライトくん・・・」
 濃いクマで縁取られた黒目がちの眼に、月は声を失う。
 今日の竜崎は、いつもと違うような・・・(一般人とかけ離れているのは最初からだが)。
「実は・・・」
 目線を固定したまま、Lは表情も変えずにこう言った。
「私、恋をしました」
 ズザッ・・・! 背もたれまで思い切り後ずさり、月は青ざめる。
「竜崎、気持ちは嬉しいが、僕たちは男同士・・・」
「誰がライトくんに、と言ったんですか」
 二人の間に、変な空気が流れた。

 それから一時間ほど後、月とLは連れ立ってショッピングに来ていた。
 という女の子を好きになってしまったが、どうしたらいいのか分からない。こんなことを相談できるのはライトくんだけだと言われては、いくら彼が変人であっても放ってはおけないだろう。
「まずはそのワンパターンすぎる服装をどうにかしないと」ということで、月がよく服を買うというショップにやってきたのだった。
「これなんかどうだ」
 体にぴったりと沿う素材のVネックシャツを手渡され、Lはそれをぴらっとつまみ持つと、首をかしげた。
「なんだか、新世界の神になりたがりな男が着そうな服ですね」
「意味不明な比喩はやめろ」
 実は自分が持っているものと全く同じ服であるため、いささか気分を害してしまう。
「いいから試着してみろよ。着てみないと分からないだろ」
 負けず嫌いに言葉も荒く促され、Lは気乗りはしないがフィッティングルームへ入った。
 ややあってカーテンが開くと、月は一、二歩離れて眺め回す。
 白無地長Tにジーンズという格好しか見たことのなかった月の目に、VネックピタT、すらっとしたパンツ姿は、違和感を超えれば新鮮に映らなくもない。
「背も高いし痩せているから、何でも似合うと思うけど・・・その猫背さえ何とかすれば・・・」
 どう考えても、だらしない姿勢がファッションを損ねている。
「無理です」
 即座に答えるLに、月は再びムッとする。努力くらいしろ。
「背筋伸ばしてみろよ、ちゃんのために」
 ぴんっ。
」という名前に条件反射を起こす身体が正直で面白い。だが、一瞬後には元のように丸くなってしまう。
 月はため息を吐き額を押さえた。
 そのときだ。
「パンクっぽいのがいいよ! リュークみたいに。ねっ」
「よーライト」
 いきなり出てきたミサとリュークに、月は飛び上がる。
 ミサは、月の押しかけ彼女。そしてリュークは、その辺を飛び回ってはあちこち首を突っ込む自称死神だ。
「お前たち、なんでここに」
「だって、竜崎さんに好きな子が出来たってときに、黙ってられないでしょ。協力しちゃうからねー」
「クククッ。俺も面白そうだから来てやったぜ」
 リュークの一言が本音だろう。
「大丈夫、みんな呼んできてあげたから」
「みんなって」
「服なら革だ! 小畑先生も言ってたぜ。革素材サイコー!」
「白いのがいいですよ。もちろん靴下もね」
「ボーダーがいいってボーダー」
 それぞれイチオシの服を持って、子供たちが騒いでいる。
「私はこっそり相談したかったのに・・・どうしてこんなことになってるんですか」
「僕に聞くな」

 ドクロ柄のジャラジャラした服、レザー、白い靴下、ボーダーと、あれこれ着せられ、すっかり疲れてしまったLは、「これでいいです」と最終的にを選んだ。
「えーっ絶対こっちの方がいいのに!」
 などと尚も言い張るミサ、リューク、メロ、ニア、マットは、「もっとLの着せ替えを見たい!」と思っているだけなのに違いない。

「今日は、ありがとうございました」
「いや・・・なんだか騒がしかったけど」
 もうすっかり暗くなっている。
 買ったばかりの服を早速着込んだLは、月と肩を並べて歩いていた。
「いえ・・・例え単なる好奇心でも、嬉しかったんです・・・。ライトくんも、今まで付き合ってくれて・・・ありがとうございました」
 軽く頭を下げられて、月も微笑んだ。
「・・・うまくいけばいいな」
「はい。これから早速、さんに見せてこようと思います」
「えっ今から?」
「せっかく新しいものを買って着ているわけですから」
 極端な奴だ。
「では」と手を上げ行ってしまった竜崎を止める言葉も持たず、月はただ、見慣れない後姿を見送るしかなかった。
(うまく・・・いくのかな)
 服装以前に教えるべきことがあったのかも。

「ミサミサかわいー」
 自分の部屋で雑誌を見ている、すっかりくつろぎ体勢だ。
 携帯が鳴っても反応は鈍く、のろのろと手を伸ばす。
(あ・・・竜崎さん)
 ディスプレイの名前を見て、速攻電話を開いた。大好きなミサミサの載った雑誌は脇に置き、ベッドの上体を起こす。
「はいっ」
 竜崎さんは、最近一番気になっている男の人。着信は素直に嬉しい。
さんですか、竜崎です』
「こんばんはー」
 竜崎さんの声が好き。意識せずとも、こっちのトーンも上がってしまう。
『こんばんは。・・・こんな時間に申し訳ないんですが、外に出てきてもらえませんか』
 目覚まし時計に目をやる。外は暗いが、遅いというほどの時刻でもない。
『時間は取らせません。見てもらいたいものがあるんです』
「分かりました、いいですよ」
 つられて敬語になってしまった。
『では・・・待ってます』
 電話越しの声には、安堵が滲んでいた。

 家の外に出ると、涼しい風に触れ息を吸って吐く。少し離れたところに、竜崎さんらしき人影を見つけた。
「すみません呼び出したりして」
 静かに言いながら、数歩近付いてくる。街灯の下に入ると、青白い光が細い身体を・・・真新しいを、浮かび上げた。
「この服・・・、今日買ったばかりなんです」
 頑張って背筋を伸ばしてみるが、どうしてもぴんと真っ直ぐにはならない。
 落ち着かない手をポケットに突っ込んで、Lはを探るように見ていた。
「・・・どうですか」
「えっ・・・あ、いいんじゃないですか。似合いますよ・・・」
 いつもの服装と違う。を着たLに、は素直な感想を伝えた。
「・・・ありがとう。では・・・」
 Lはそそくさと背を向ける。
 それだけ? 見てもらいたいものって、服?
 呆然とするだが、相手はもうザッザッと歩き始めていたので、消化不良ながらも自分も背を向けた。
 ザッザッザッ・・・ズシャーッ!!
 規則正しい足音の後に不自然な音。
 ビックリして振り向いたの目に、舗道にカエルみたいにベッタリ倒れこんでいるLの姿が飛び込んだ。すぐに駆け寄る。
「りゅっ竜崎さん大丈夫!?」
 差し出した手を拒むように、Lは急いで起き上がった。
「大丈夫です・・・でも・・・」
 とても顔を見せられず、背を向けたまま、新しい服についた汚れを両手でばたばた払い落とす。
「・・・さんにだけはこんな姿、見られたくなかった・・・」
 慣れない靴のせいで、つまづいて転んだなんて・・・。
 悔しそうな背中を見て、は逆に、とても優しい、嬉しい気持ちになっていた。
 自然に微笑んでしまうその感情は、彼に対する、いとしさに他ならなかった。


「・・・何を考えていたんですか」
 お菓子を食べながら、Lがのニヤけた顔を覗き込んでくる。が「そのままでいい」と言ったので、服も姿勢も座るポーズも何一つ変えてはいない。
「ん・・・竜崎が新しい服を見せに来てコケたときのこと」
 正直に言うと、Lは案の定、不快そうにそっぽを向いてしまった。
「・・・一生の恥です」
「いいじゃない。転ぶことくらい、誰にだってあるんだから」
 例え天才だろうと、名探偵だろうと。
「それに・・・」
 彼のすぐ隣に移動して、ぴったり寄り添う。骨ばった腕にぎゅっと腕をからめた。
「こんなにラブラブになれたのも、あのときのおかげなんだから」
 自分のために服を新調して、わざわざ見せに来てくれた、その気持ちがの心に響いたから。
 あの日以来、二人の仲は急速に近付いて・・・今や公認の恋人同士というわけだ。
「あの服、どこにやったの?」
「思い出してしまうので、封印しました」
「似合ってたのに」
 からかっていじめるつもりは微塵もない。
 Lもそれは分かったから、腕の中にを囲い、頬をくっつけた。
 Lの清潔な髪の匂いとTシャツの柔らかな肌触りを感じ、は目を閉じた。
「今度、あの服を着てデートしようよ」
「・・・がそうしたいなら」
「転びそうになったら、支えてあげるからね」
 いたずらっぽく言葉を紡ぐ口を、ふさいで黙らせた。
 徐々に深く乱しながら、強く愛しく。
 永遠の恋人を、抱きしめる。








                                                                END




       あとがき


実話を元にしたお話です。
許可なく使わせてもらいましたが・・・。
私なりに、彼を忘れぬようにと。
マンガみたいなことを地でやる人だったそうで。

転んじゃうなんて、Lには似合わないかとも思ったけど、こんな可愛いエピソードがあってもいいかなと。

パラレルのとき、リュークを出せないのがいつも気になっていたので、今回は堂々と登場させてみました。
何の説明も疑問もなく(笑)。





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