ドリームトラップ!
熱帯夜になるかもしれない。
そんな暑さだったから、窓を開けたまま寝ることにした。
寝苦しさにかなわず、何度も寝返りを打つ。当然ながら眠りは浅く、夢の入り口と覚醒とのあいまいな境目を、ふわふわ、ふらふら・・・。
ふいに不自然な圧迫を受け、無意識に避けようとする。が、動けない。
体が動かない・・・?
ぼんやりとした違和感が、やがて危機感となって迫り、を目覚めさせる。
(・・・!?)
目を開いた、そのすぐそばに人の顔!?
にわかに信じられず、声も出ない。ただ口をぽかんと開けたままのに、彼は笑いかけてきた・・・毎日見慣れた、あの笑顔で。
どうして? いわば同僚である黄金聖闘士の彼が、今時分こんなところに?
「なに、アイオロス」
自分の声なのに、おかしなエコー。
「」
アイオロスの声も、同じように響く。
身動きが取れないのは、彼がのしかかっているからということに、初めて気付いた。
「どいて・・・暑いし、重い」
もがくと、アイオロスは今度は声をたてて笑った。楽しそうに。
「暑いし重い、か。そんな場合じゃないんじゃない? この状況って」
「え・・・」
「分からない?」
髪や頬を撫でてくる。いつもの冗談混じりのスキンシップとはまるで違う手つきに、戸惑わずにはいられない。
「じゃハッキリ教えてやろうか」
目を軽く伏せ、ぐんと顔を近付けて。唇に触れる・・・キス?
「ア、アイオロスっ」
苦しくて、荒く息をする。再び顔に触れてくる熱い手が、煩わしくて仕方ない。
もうやめて、暑いから。
なぜか声にはならず、せめても目で訴えようとするが、そこにからんできたのはやっぱり熱いアイオロスの視線。
こんなのは、見たことがない。
こんなにも野性に満ちた「男」そのものの彼の眼は。
「夜這いだよ。君を襲いに来たんだ」
その言葉を聞いても、もはや驚けなかった。
「なんで?」
「そんなの決まってる。を好きだからさ」
彼らしい明朗さで、もう何か始めている。
いつの間にか裸になっていることに気付いた。アイオロスも、自分も。
にも関わらず、さっきより更に暑苦しくて、はあえいだ。
「もう、したくなっちゃったよ」
抱きかかえられて、進入される。
前戯などほとんどなくて、感じているつもりもなかったのに、の体はアイオロスをたやすく許した。
「・・・はあッ・・・」
吐息でもふわり浮かぶ感覚で、思わずしがみつく。
熱のかたまりを体内にねじこまれたような不快感は、すぐにかき消された。
大きな波に、飲み込まれる。
背をそらし、声をあげて。きつく抱きしめられたまま。
「・・・!!」
(・・・・)
うっすら目を開ける。寝乱れた姿に、我ながらひどく恥ずかしい気になった。
(夢−)
首をめぐらすが、当然誰もおらず、開け放たれた窓のカーテンがほんの少し揺れているだけだった。そこからすでに明るい光が差し込んでいる。
(へ、変な夢みちゃった、私ったら)
アイオロスと、あんなコトやそんなコトを・・・。
思い起こすとカッと赤くなってしまう。
(私って、欲求不満?)
でも、いいか。頬を緩ませる。
アイオロスのことを前から密かに好きなのだから。好きな人との夢なんて健全なものだし、むしろラッキーだ。
体は熱いままのような気がして、まだ余韻に浸っていたかったけれど、残念ながら今日は休日ではない。
は思い切って起き上がった。
「おはよう、」
「おはようございます」
彼の顔を見ると、ドキドキしてしまう。
いつも心ときめかせている相手だけれど、今朝は特に・・・あんな夢を見てしまったせいだ。
表情に出てしまいそうで、顔をそらす。
「寝不足の顔してるぞ」
仕事の準備を始めたに、アイオロスは何気なく近寄った。
「あのっ、変な夢見ちゃって」
おざなりな笑顔を向ける。すると彼はニヤリとした・・・ような気がした。
「夢、ね。どんな夢?」
「ひ、秘密よ秘密」
とても言えない、言えるわけはない。
アイオロスは挙動不審のを面白そうに見下ろすと、デスクに手をつき、声を落とした。
「夢だと思う?」
「ゆっ夢じゃなけりゃ何?」
思わず受け答えてしまい、彼の顔が思いのほか近くにあったものだから、余計に取り乱してしまう。
反対にアイオロスはまったく落ち着いていた。
「−罠、とか」
「わっワナ?」
「そ、罠」
余裕で笑っている。いつものアイオロスらしくない。こんなハッキリしない物言いは。試すような、ずるい曖昧さは。
・・・それが罠か。おぼろげにだが、分かりかけてきたような。
それなら、乗ってみるのも悪くない。
そう決めたとたん、気持ちが解放された気がした。ちょっと大胆になれそう。
まっすぐ彼を見て、口元で笑う。
「意味が分からない。ちゃんと教えて」
「いいよ」
ぽん、と肩を叩かれた。
「今夜、迎えに行くから」
夢の罠を、現実にするために。
・あとがき・
B'tXの冥夢というキャラで「現実虚無」というドリームを以前書いたんだけど、そんな感じのものを星矢で書きたくなってふっと思いついたおはなしです。
アイオロスをそろそろ書きたいな〜と思っていたので、ちょうど良かった。
今の季節にもぴったりですね。寝苦しい夜にこんな暑苦しくてセクシーな夢、いかがでしょう?「罠」って言葉は好きですね。今まででも作品中に何度か使っていますが、恋に関する「罠」にはドキドキさせられます。
アイオロスに罠ってあまり似合わない気もするけど、たまにはこんな兄さんもいいでしょう。これがミロだったりするとハマりすぎて(笑)。アイオロス独特のいい感じで出来たと思います。タイトルは「ドリームトラップ」にするか「トラップドリーム」にするかかなり悩んで、書き上げてからも悩んでいたんだけど、「!」を付けたかったので「ドリームトラップ!」の方が勢いあるかなと思って決定しました。
文法上どうだとかツッコまないでください。
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