Docchi?
「「なあ、どっちがいい?」」
いつものように双児宮を訪れたとたん、同じ顔の彼氏たちに尋ねかけられた。
「何が?」
は目をまんまるにして二人を見上げる。
その守護星通り、サガとカノンは双子同士だ。見た目はそっくり、中身はそれぞれ個性的な兄弟のことを、は同時に好きになり、その想いは自然な形で受け入れられた。
サガもカノンも、の彼氏。
は、サガとカノンの彼女。
常識なんてどうでも、当人たちがいいからそれでいい。
掟破りの恋人たちは、独自のルールのもと、無理せず仲良く愛を育んできていた。
「答えてくれ、」
「俺とサガ、どっちがいいんだ?」
そんな折にこう、何やら切実に詰め寄られては、面食らわずにいられない。
「もちろん、どっちも好きよ。同じように好き」
今さらの答えを繰り返すと、サガはふう、とため息をつき、カノンはうなだれ首を左右に振った。
「どうしたの、何かあった? いつもの犬も食わない兄弟ゲンカ?」
冗談にしてしまっていいのか、それとも深刻な話なのか。は反応を決めあぐねていた。
弟と一度目を合わせ、戸惑いながらもサガが口を開く。
「いや、そろそろ、私たちも恋人として次のステップを、と・・・」
「?」
「あーまどろっこしいんだよ兄貴は!」
サガを押しのけ、カノンがに迫ってきた。
「要するに、お前がどっちに抱かれたいのかってコトだ」
「は!?」
直球で来られて、言葉をなくす。
「お前には慎みというものがないのか。がびっくりしているだろう」
「今さら善人ヅラすんじゃねーよ。兄貴だってとやりたいって言ってただろ」
「そうは言ってない、そろそろの全てを欲しいと言っただけだ」
「同じこったろ」
「ち、ちょっと」
そっちのけで、本当にケンカが始まってしまった。
たちはこうして三人で会うことも多いが、サガと、カノンとといったふうに、単独デートを楽しむこともある。
そのときに、それぞれとキスはしていた。
だけど、その最後の砦だけは未だ守られたままで・・・。
世間の大多数のカップルのように、一対一の付き合いならば、あとはタイミングというところだろうが、変則的な恋人たちだけにそう簡単にはいかない。
ヘタなことをすると後々までわだかまりが残りそうで、だけどそろそろガマンも限界で。
今日、双子たちはそのことについて腹を割って話し合い、「俺が先だ」「いや私が」と醜い言い争いもあったのだが、結局本人に選んでもらおうということで、まとまったところだったのである。
「そ、そうだったの」
ことの次第をありていに伝えられ、は赤い顔でお茶をすすった。
確かにも、この二人ほど激しくないにしろ、思ってはいたことだ。
無論、大好きな人たちだから、泊まっていくにやぶさかではない。けど、その対象は複数。どうなるんだろう?と。
「で、」
「どっちがいい?」
また同じことを聞かれる。心なしか焦っているように見える。・・・まったく、男って。
「正直に言ってくれていいからな」
「ああ。恨みっこナシだからな」
と言いつつも、牽制し合っているのは見え見えだ。どちらを指名したとして、爽やかに済みそうにない。
「困ったわね」
「、俺にしろよ。サガだときっと痛い目見るぜ。何たって、30年生きていて童貞だからな!」
「勝手に四捨五入をするな。第一お前も同い年だ」
「あ、童貞は否定しないのね・・・」
鋭い、。
「いやそうではないが、アノ時もコノ時も、もうひとりの私だったし・・・」
サガはぶつぶつ言っていたが、ハッとして、
「お前こそ、海に潜りっぱなしでそんな機会もなかっただろう!」
とやり返した。
「何だと、誰のせいだ。それに海底にだって女はいたぞ」
「ほう、そうか。人魚とかだろうどうせ」
「うっせー!」
あやしい探り合いを目の当たりにして、は再びお茶をすする。
本当に、困ったものだ。
「やっぱり、ここは何かで勝負したら?」
言い出したのは当ので、兄弟たちは急に色めき立った。
「よし、そうしよう」
「勝負の方法はが決めてくれ」
立ち上がって対峙し、やる気満々だ。
「そうねえ、やっぱり黄金聖闘士らしく、必殺技をぶつけ合って・・・」
そぐわないほどのんびりとしたの言葉に、瞬時に殺気をみなぎらせる。サガは両手を高く挙げ、カノンは片手で三角形を作り始めた。
「ギャラクシアン・・・」
「ゴールデン・・・」
「−なんてコトしちゃったら、双児宮大破しちゃって大変だから、できないし」
ズドドドド・・・!
すごい地響きと盛大に上がった煙に驚いて見ると、必殺技の発動をすんでで止めた衝撃により、サガは向こうの柱に、カノンは床に、それぞれめりこんでしまっていた。
「あら、どうしたの二人とも」
「イヤ・・・危うく星々と共に砕けかけただけだ」
「俺も異次元に行きかけたよ、ハハハ・・・」
柱と床が破損しても、本人たちは無傷なのはお約束である。
埃を払って、仕切り直しだ。
「そうねやっぱり今の時代、家事の出来る男の人じゃなくちゃね。まずは部屋をきれいにする競争ってどう?」
が言い終わるか終わらないかのうち、双子たちはかっぽう着に三角巾というフル装備で、せっせと掃除を始めた。
掃除機はもちろん、クイックルワイパーにマジックリンなど、グッズや洗剤も次々出てくる。
「このベッドの下もやるぞ。カノン、そっち持て」
「よしきた」
いつの間にか協力までして、みるみる家の中がきれいになってゆく。
は自分もハタキでパタパタやりながら、恋人たちの働きっぷりをほれぼれと見つめていた。
「どうだ!」
「きれいになったぞ!」
隅々まで、ぴっかぴか。
「すごいわ。さすが双児宮の住人は掃除が上手ね。二人ともゴミゼロの日の生まれだしね!」
上機嫌のにつられ、にこにこ頷く二人だったが、重要なことを思い出した。
「それで」
「どっちが良かった?」
かっぽう着の男二人にずいと迫られて、ちょっと笑いたくなりながら、は咳払いをして言った。
「やっぱり総合的に見なくちゃ。今度は料理対決よ!」
「よっしゃ!」
「任せろ!」
サガとカノンは先を争ってキッチンへ殺到する。
「むっ、冷蔵庫には大したものがないか」
「買い出しが必要だな」
「買い物は禁止よ。ありあわせのもので見栄えのするものを作るのが、主夫の知恵でしょ」
いつの間にか主夫にされている。だが男たちはなぜか納得して、普段あまりしない台所仕事に悪戦苦闘しつつも、何とかおいしいものを作ろうと腕を振るい始めた。
「ちょっとどけよ。ジャマなんだよそのデカいガタイが」
「体格なら私もお前も変わりはない。そんなことより、早く野菜を洗え」
「命令すんな」
口をとがらせなからも、蛇口をひねる。サガは鍋を火にかけた。
「仲がいいのね、二人とも」
本人たちはかなり本気のケンカなのだが、ビジョンではうるわしい兄弟愛に見えるらしい。
尚も言い合いながら作業を進めてゆく、そのそっくりの背中を眺め、頬を緩めた。
(サガもカノンも、あんなに一生懸命になって・・・。私の、ために)
のためではなく、の体のため、が正解である、所詮。
「あっ沸騰したぞ」
「早く材料を入れろ」
はもうニコニコして、見守っているのだった。
がセッティングしたテーブルに、野菜スープや炒め物など、主夫たちの工夫で生まれた料理が並べば、それはもう立派なディナーだ。
「ほら、サガもカノンも座って座って。お部屋もきれいになったし、ご飯も出来たし。みんなで食べよう」
「・・・」
かっぽう着と三角巾を外しながら、双子たちはふと気がついた。
掃除に料理・・・もしかして、うまいことノセられて働かされただけ・・・?
でもが嬉しそうだから、とりあえず食卓に着く。
「いただきます」
最初の一口を味わうを、サガとカノンはじっと見守っていた。
「・・・おいしい!」
「ホントか!?」
「やったー」
咲いた笑顔に、もろ手を挙げ喜ぶ。
「それは俺が切ったんだからな」
「味付けは私だ」
しっかり自分を売り込むことも忘れない二人に、微笑んでみせた。
「とってもおいしかったね」
食後のコーヒーを前に、はおいしさの余韻に浸っていた。
お腹も心も満たされて、本当に、幸せ。
の表情につられてなごみかけた双子だったが、これが最後とばかりに上半身を乗り出す。
「もういいだろう」
「時間も時間だしな」
時間も時間って、まさかこれからコトを始めるつもり!?
ちょっぴり身の危険も感じつつ、は口ごもっていた。
「どうした、遠慮することはないぞ」
「何度も言うように、恨みっこナシだからな」
表情と口調はいかにも優しげだけれど、どちらかを指名したとたん、テーブルの下で足の踏み合いかつねり合いが始まるのだろう。
それを懸念したためでもないが、は心を決め顔を上げた。
「正直に言うけど、怒らないでね」
「怒るわけないだろう」
「そうだ」
いよいよか!? と固唾を飲む二人に、はちょっぴり申し訳なさそうにこう言った。
「やっぱり、どちらとも決められないわ」
「・・・えっ」
カノンは脱力しテーブルに突っ伏した。
「、ここまできてそれはないだろう」
幾分当惑しているサガに、目でゴメンネ、と伝える。
「でもね、さっきご飯を食べているときに、思ったの」
三人で食事をするのは無論初めてのことではなかったけれど、こんなにも「未来」を思わせる夕げは今までなかった。
食卓を囲むという日常が、これから先、いつもこんな風景であったなら。
サガとカノンが揃って、三人で笑い合って。
競争なんて持ち出したのは、単なる時間稼ぎだったけれど、そのおかげでには一つの明確な答えが見えてきたのだった。
「三人じゃなくちゃ。どっち、じゃなくて、どっちも、じゃなきゃダメなんだって・・・。そう、思ったの」
欲張りだと言われるかも知れないけれど。気持ちは偽れない。
「・・・」
自分の手元を見るようにしていたが、顔を上げた。
少しうるんだ瞳と、微笑みをたたえた口もとを見ているうち、双子の胸に温かいものがあふれてくる。
「よし分かった。三人で暮らそう」
「えっ」
いきなりの飛躍に、目をぱちくりさせる。そこまで言った覚えはないのに。
サガの提案に、カノンも少ししおらしく頷く。
「俺たち、悪いことばっかりやってきたけどよ。これからはと幸せに暮らしていきたいからさ・・・」
「愚弟も心を入れ替えるそうだ」
「テメーも入れ替えろ」
ひとしきり、いつものやり取りをしてから、二人は同時に立ち上がり、を両側から抱え上げた。
「キャッ!」
そのままベッドへと運ばれてゆく。
「や、やっぱり、こういう展開になっちゃうの?」
「当〜然」
「三人でならいいのだろう? これ以上じらされたくはないからな」
「でっでも、あの・・・」
ベッドの上で、サガとカノンに挟まれて。
にもはや逃げ場はない。
(・・・ま、いいか)
元々、普通の付き合い方ではなかったのだし。
幸せも喜びも、二倍になるなら。
「大好きよ、サガ、カノン・・・」
「俺も好きだ」
「愛してるよ・・・」
キスも愛撫も、二人分の愛で。
体にいっぱい、浴びよう−。
・あとがき・
ダブルキャラドリームリクで、投票のあった「サガとカノン」。
この双子の人気はさすがですね。
サガとカノンのダブルキャラでは、今までも二本書いていましたので、投票があったときには内心複雑だったのですが・・・「もっと読みたい」というコメントに心がグラリ。
もっと読みたいのね、そうか、じゃ書いてみよう! ということで。
ちょっとコメディ風味にしたかったので、パプワくんにあったネタ(ウミギシくんとシンタローの戦い(?))から膨らまして作ってみました。
この二人と恋人同士として付き合っているなんて、ちゃんスゴイ。
一応、「三人がいい」ということで一件落着ですが、この後はどうなるんでしょうね。どちらにせよ、順番決めなきゃいけないし、ベッドの上でまたモメそうですよね。さあてさんなら、サガとカノン、どっちですか?
H17.11.4
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