蜜味ノ断罪


「これ・・・どーゆーコト・・・?」
 が呆然とするのも無理はない。何しろ、彼氏のラボに行ったら、いきなり捕まってはりつけにされたのだ。
 突如出現した柱の、高い位置に縛り付けられ、文字通り手も足も出せない。
「ちょっとォー、クルル、これ何のマネ!?」
 叫んでも、曹長さんはコンソールから振り返りもしない。
 無機質な広い部屋の向こうに、黄色い丸として見えるだけだった。
「何のマネ、だァ? 自分の胸に聞いてみな」
 機械だらけのラボに、感情ない声が冷たく響く。
 の心も、凍りつくようだった。
「忘れたってなら思い出させてやるぜェ」
 黄色い腕が伸び、ポチッ、とボタンを押した。の目の前に、巨大なディスプレイが現れる。
 視点が合った瞬間、は息を呑んだ。
 街の中を男性と二人で歩いている・・・、そこに映し出されているのは、紛うことなき、自分自身。
 やがて、どう見てもカップルの二人の姿は、映画館の中へ消えた。
 の顔が青ざめる。実際、全身の血の気がさーっと音を立てて引いていくのを感じていた。
 対照的に浮き上がってくるのは、心臓が強く鼓動する音−。
 確かにこれは、先週日曜日の自分の姿。
 でもなぜ映像が・・・秘密にしていたハズなのに・・・。
 映画鑑賞を終えて、食事をする二人、更にその後、公園を散歩する二人と、画面は次々切り替わってゆく。さながら、その日のダイジェストのように。
 そして暮れなずむ公園のベンチ、男性に肩を抱かれ、二人の顔が近付き・・・。
 ブチッ。
 そこで突然映像は切れ、ディスプレイも消えた。
 クルルは相変わらず背を向けたまま、一言も発しない。
「・・・クルル・・・」
 声が、震える。
「いつの間に、撮影なんて・・・私のプライバシーは・・・」
「・・・俺のものになるって、言ったよなあー? プライバシーもクソもねえよ」
 いつもよりも数段低い声が、彼の本気を物語っている。
「・・・そうだ・・・俺のものになるって言っときながら、何でこんな・・・」
 彼らしくもない余裕のなさに、はハッとした。
 もしかして、嫉妬・・・?
 ちょっと嬉しくて、ついニヤけそうだったけれど、そんな状況でもない。
 は取り繕うように、声を柔らかくした。
「あの、本当のことを言うわ。だからこれ、ほどいて・・・ねっ」
「・・・ダメだな」
 ようやくイスをクルリと回し、クルルはの足元までチョコチョコと歩いてきた。
 下から見上げて、口元を陰険な笑みで歪める。
「いい眺めだぜェ」
 は顔を羞恥に染める。脚を開いた状態ではりつけにされているのだ、ひらミニの中身がクルルの位置からは丸見えだろう。
「言い訳があんなら早く言いな。もっとも頭ん中直接覗いてやってもいいんだぜェ・・・いい自白剤もあるしよォ・・・クックックッ・・・」
「・・・・・」
 やっぱり普通じゃない、この人。今更だけど。
 全身がぞくぞくとして、しかもそれが嫌悪ではないという自覚に、はますます疼いてしまうのだった。
「私・・・。怒らないでね、実は、あなたと付き合っていることが少し不安になってきて・・・」
 クルルがやや下を向いてしまったから、ますます表情が分からない。恐怖もあるけれど、ここで隠し立てをしても何もならないから、は勇気を出して言葉を続けた。
「・・・クルルと私は異星人同士・・・普通の付き合い方ができないでしょ。あなたはほとんどここにこもっているし・・・」
 それでも。
 それを承知の上での誓いではなかったのか・・・?
 ペコポン人はすぐに嘘をつく。気持ちも変わりやすい。
 知識として知ってはいたけれど、まさか、が・・・。
 ひとことも発せず、ただこぶしを強く握るクルルに、の無情な言葉が尚も降り注ぐ。
「そう思っていたときに、同僚に映画行こうって誘われて・・・」
「もう、いい。分かった」
 ぼそ、と呟き、クルルは元の席に戻っていってしまう。
「クルル・・・」
「もうそこから解放してやんね」
−そうだ、一生ここに閉じ込めておいてやる。俺のものとして−
 醜い気持ちだ。
 だが、当人の意思を無視してでも、独占しておきたい・・・それほどまでの強い執着を、自らの中に認めていた。
 嫌われ疎まれながらも支配下に置くことを思えば、歪んだ愉悦すら沸き起こってくるのだった。
「クルル・・・」
 泣いてすがればいい。憎悪をむき出しにして、怒号を張り上げろ。
 誰が、離すものか−!
「・・・分かった。いいよ・・・このままでも」
 予想とは正反対の静かな声音に、思わずクルルは柱を振り仰いだ。
 は、優しく、笑っていた。
 いっそ神々しいといえたほどの笑顔に、さしものクルルも混乱を覚える。
 動揺を看破されることを嫌い、再びコンソールに向かうフリをするクルルの耳に、の穏やかな声が紡ぐ「言い訳の続き」が入ってきた。
「同僚とデートのまねごとをして、ハッキリ分かったの。やっぱり私は、クルルが好き・・・」
 公園でキスを迫られたとき、驚くと同時に腹を立て、男を張り倒して帰った。
 その後色々と考え、そのシンプルな結論に、戻りついたのだった。
「私にはあなたしかいないって分かったから、これが罰なら気の済むように・・・っ!?」
 急に、手足の戒めが解かれた。
 それによって、の身体は落下する。
 硬い床に叩きつけられる恐怖に、目をつぶり全身をこわばらせたものの、
 ぽふっ。
 思いもしない柔らかな感触に、ぱちり目を開けた。
 いつの間にか出現していたベッドが、受け止めてくれたのだ。
「・・・ったくよォ・・・俺としたことが・・・」
 嫉妬と独占欲を丸出しの、みっともない姿を晒してしまった。
 舌打ちをしつつ、その元凶たる恋人に近付く。
 後ろについた両手で上半身を支えているの、すぐそばに立ち、瞳を見つめた。
「デートしたいならそう言え。二、三、方法がないわけじゃねェんだからよ」
「・・・・・」
 地球人スーツのクルルを頭に描き出しつつも、は手を伸ばし、いつものようにクルルを抱きしめた。
「うん・・・。今度からは、思ったことはちゃんと言うね・・・」
「・・・よし」
 と、いきなりクルルはをベッドの上に突き倒し、自分もその上に乗っかった。
「それはそれとして、俺様に誤解させた分はきっちり償ってもらうぜェ」
 衣服に手をかけ、耳元に丸い顔を寄せる。
「朝までせいぜい、イイ声聞かせろよ」
 キラーン。彼のぐるぐるメガネが怪しく光った。クーックックッ・・・いつもの笑い声が、の背筋に冷たいものを運び来る。
「え・・・っ、ちょっと、そんな・・・」
「つべこべ言うな」
 口をふさがれ(もちろんクルルの口によって)、は抵抗を諦めた。
「・・・クルル・・・」
 身を震わせたのは、恐れではなく喜びと期待のため。
 これから始まる、この上なく甘い断罪の−。






                                                             END



       ・あとがき・

クルルの嫉妬と拘束、というネタが浮かび、あれそういえば誰かに似ているなぁと・・・。
そう、デスノートのL。
天才で変人で引きこもり。
Lでよく拘束だとか閉じ込めるだとか独占欲だとか、そういった話を書いていたもので、まったく同じ感じでクルル夢を書いてみました。
クルルをLに置き換えても、そのままいけそうな感じです。
しかしホントにプライバシーゼロですね・・・ちょっと息苦しいかも・・・。




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