は某商社に勤めていて、本人としてはいっぱいいっぱいの毎日だけれど、周りから見るとバリバリ働いているように見える、らしい。
 そんなに、彼氏ができた。
 自称マンガ家の「金の」タマゴ。なんて。
 大言壮語、自信過剰。
 だけど真っ直ぐで、意外に優しいところもある。
 福田真太、というのが、彼の名前だ。


 
クールとタマゴ


 アシスタントとコンビニのバイトをかけもちしながら、自分のマンガを描いている真太と、残業は当たり前、ときには休日出勤まで求められる忙しさのとは、なかなか休みも合わず、デートの時間すら容易には作り出せない毎日だった。
 短いメールだけが、やり取りの全て。
 そんな日が続いていたが、ようやく今日の日曜日に、の部屋で会えることになり、あからさまには出さないものの、内心嬉しさでいっぱいの真太だった。

「・・・なー・・・」
 お茶を出してくれたきり、雑誌を読みふけっているの、伏せたまつ毛の長さを観察するにも倦むと、真太は何となく居心地の悪い思いになっていた。
「・・・俺たち、付き合ってんだよな?」
 はちらっと目を上げた。やっぱりまつ毛が長くて、可愛い。
「付き合ってもいない男は部屋に入れない主義よ、私は」
 にこりともせず、そしてまた、雑誌に戻ってしまう。
 どれほどの面白さだっていうんだ、そんな雑誌が。
 はいつもこんなふうだ。一言で言えばクールだというのか、メールもそっけないし、会いたいとも言わない。
 寂しい。もっと連絡が欲しい。
 こっちからそんなことを言うのも、女々しいし・・・。
(クソ・・・)
 だんだんイライラしてきた。大体、あの雑誌が邪魔でしょうがない。
「・・・!?」
 彼が視界の端からいきなりすごい勢いで近付いてきたと思ったら、読むふりだけの雑誌を取り上げられた。
 ぶつかってくるようなキスを受け止めきれずに、そのまま床に倒れこむ。
「ちょっと、何・・・」
 目の前の強い瞳に、少し、怯えた。
「付き合ってんだから、いいだろ」
「まぁそうだけど・・・、でもそんなに焦らなくたっていいんじゃない」
 二人の休日は、まだ始まったばかりなのに。
「・・・たまってんだよ」
 ニット帽の下の二つの目が、血走らんばかりにらんらんとしている。
 それを率直さと受け取り、は彼の下でふふっと笑った。
「仕方ないなぁ」
「・・・・」
 押さえつけられているのは、どっちだろう。
 強く強く抱きしめて、夢中でキスを浴びせながら、真太は小さくぼんやりと、そんなことを思っていた。

「やべ・・・俺やっぱりお前が好きだ・・・離したくねぇ」
 睦言というよりついこぼれてしまった独言のような言葉に、は少し笑った。
「じゃあ、ちゃんとマンガ家になってね。私も仕事頑張るから」
 そうして、だるさの残る身体を起こし、彼氏のTシャツを頭からかぶって着た。
 奔放な仕草はかえってセクシーで、真太の心音はまた速くなる。
「お、おう・・・デビューなんて当然のことだし・・・」
 ちょっと、しどろもどろになっている自分がカッコ悪いなと思ったり。
「うん。信じてるから。・・・コーヒー入れるね」
 ぶかぶかのTシャツ一枚でキッチンに向かうを、いつまでも見つめて、明日にはまたすごいネームを描いてやろう。と改めて心に誓う真太なのだった。




                                                             END



       ・あとがき・

バクマン。のドリームというのも、あまり数はないようで・・・あ、またマイナージャンルに足を踏み入れちゃったかなと思いつつ。
よそ様を覗かせていただくと、福田さんドリーム多かったですね。平丸さんか福田さんかってとこですね、一番人気。
で、私も福田さん書いてみようと。
福田さんデビュー前のお話です。
ちょっと甘いの書きたかった。
俺様なとこのある真太くんは、ちょっと強引に襲ってみたりもするんだけど、やっぱりちゃんにはかなわないのね。
こういうラブラブで短い恋人ドリームは、大好きです。





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