「おい、見ろよ」
「スゲー車。誰の迎えだ?」
放課後の鐘が鳴った直後のこと、窓際で男子たちが騒ぎ始めた。
「リムジンだぜあれ」
の一言に
は立ち上がり、皆と一緒に外を覗き見る。
門のすぐそばにつけている車を見るや顔色を変え、カバンを引っつかむと教室を出て行った。
「おかえりなさい、
」
(おかえりじゃないわよー! また座り方、変だし!)
叫びをすんでで飲み込み、とりあえず急ぎ乗り込んでドアを閉める。運転席のワタリさんに、早く車を出してくださいとお願いした。
「不機嫌にさせてしまったようですね。迎えに来てはいけませんでしたか」
言葉はとてもきれい。リムジンの後部座席に、両膝を立てた体育座りのギャップがすごい。口に指なんかくわえているけれど、一応立派に社会人らしい。
一風変わったこの人、竜崎さん、が、
の彼氏。
学校から遠ざかったことを車窓から確認すると、
はようやく隣を向いた。
竜崎は、人差し指を口にくわえたまま、どこか物欲しそうにこちらを見ている。
何か言うのを待っているのだろうか・・・と思うと、ずっと年上であるはずの彼を、なんだか可愛らしく感じた。
「迎えに来るのが悪いんじゃないけど、校門のまん前にリムジンは目立ち過ぎで恥ずかしいよ」
「そうですか」
膝から下ろした手を、柔らかな手に重ねる。
「
に早く会いたかったんです」
こんなセリフを臆面もなく言うから、こっちが照れて下を向いてしまう。
きゅっと握ってくれる大きな手に、ドキドキした。
「目立つのは、いやなんですね」
「うん」
「私が恋人だと、知られたくない?」
「いやそういう問題じゃ・・・」
「・・・本当のことを言うと」
背を丸めたままこちらを覗き込むようにしてくるので、
もちょっと首を傾け、彼を見た。
あまり表情を変えることのない竜崎の、大きな瞳が好きだ。
「知らしめたいんです。
には私というものが在るということを・・・多くの人に」
「どうして?」
Lは、少しだけ笑った。
「私は独占欲の強い男ですから」
実際、
と付き合うようになって初めて知ったことだ。自分がこんなにも一人の女性に執着する人間だったなんて。
「・・・はあ」
意味が掴めないのだろう、きょとんとしている
は可愛い。もう少し手を強く握った。
「ケーキを買っていきましょう」
この近くに、おいしいケーキ屋さんがある。
もちろん自分が食べたいから買うのだけれど、甘いものはいつも
をも喜ばせた。
「やったー」
ほらこんなに嬉しそうに。
ケースに並ぶ愛らしいスィーツからひとつだけ選ぶのは、難しいけれどとても楽しい。
激甘党の彼とあれこれ見て悩み、一番甘くておいしそうなケーキを箱に入れてもらう。こんな放課後、とても幸せ。
もちろん、部屋で二人きりになって、買ってきた甘い物を食べる時間は、極上のもの。
ソファに隣同士座り、学校のことや友達のこと、とりとめなく話しながら時折甘える仕草をしてみる。
竜崎はいつもきちんと話を聞いてくれたし、頭を撫でたり肩を抱き寄せたり、優しいスキンシップで応えてくれた。
彼と付き合い始めてから、クラスの男子なんて子供っぽく思えて仕方がない。いつも心の中で比べては、ひそかに優越感に浸っているのだった。
だけど、ひとつだけ、不満というほどではないけれど気にかかっていることがある。
「そろそろ、送っていきます」
いつも彼は遅くなりすぎないうちにこう言って、最後にキスをしてくれる。
キスだけ、してくれる。
「・・・あのね、竜崎さん」
唇を離したとき、体まで離す前に袖をくいと引き留める。
真っ黒の瞳を真っ直ぐには見られず、下を向いた。自分の手を、竜崎の服のしわを、見つめるようにする。
「今日・・・、お母さんちょっと遅くなるから、もう少しいても大丈夫なんだけど・・・」
かなり思い切って、言ってみた。
目を上げられない
の、その気持ちも背景も全て汲んだ上で、Lは彼女のさらさら髪に手を触れた。
「
」
いつくしんで名を呼ぶ。
「もう暗くなりますから、帰りましょう」
髪を撫でながら、優しく、優しく。
「竜崎さん、あたし」
思わず顔を上げるも、変わらぬポーカーフェイスの前で言葉を失ってしまう。
竜崎さんは、何もしてくれない。キス以外は何も。オトナなのに。
友達の話やマンガから毎日のように仕入れる刺激的な知識に、好奇心を膨らましてしまうのも、高校生なら当たり前のことだろう。
「さあ、行きますよ」
なのにこんなに穏やかな態度を取られると、自分だけ必死になっているのが恥ずかしくなってくる。
手を握られて、それでもいやいや首を振った。
「竜崎さんはあたしのこと、子供だと思ってる」
「
」
「どうして遅くまでいちゃいけないの・・・どうして、キスだけ、なの・・・」
顔に血がかーっと集まる感じ。きっと真っ赤になっている。
立ち上がりかけたLだが、
の訴えを無視はできず、手を握ったまま座り直した。空いている方の手指を、自らの口もとに持ってゆく。
「あなたは、まだ高校生ですから」
変わらぬトーンで、諭すでもなく淡々と告げられては、もどかしさに胸が詰まる。
「もう高校生だよ。高校生にもなれば、彼氏がいる子はみんな・・・」
が思っている以上に、Lにはちゃんと伝わっている。周りにたやすく左右される幼さも、知りたい衝動そのままの言動も、決してないがしろにできない、相応のものなのだと、理解してもいた。
それでも。
片膝を下ろすと、
の手を引き、しっかりと抱き寄せる。
「
を、大切にしたいんです」
こんなに親密に、心を通じ合わせていながら、ボーダーラインを踏みとどまることは、実は
以上に辛いことだ。どんな思いでこらえているか、なんてことは、知ってもらわずともいいけれど。
誠実でありたいし、交渉を持つことが全てだとは思わない。
「あなたにも、自分を大切にしてもらいたい」
腕の中で
は、まだ納得しきれていないようだ。
Lはちょっとしたいたずら心を起こし、顔を上向かせると、もう一度キスをした。
ただし今度は大人のキス・・・とびきり濃厚で、技巧的なものを。
「・・・!?」
経験したことのない激しさから本能的に逃れようとする
を押さえつけるようにして、荒々しく口腔内に割り込み、乱し探って吸い上げる。
十分すぎるほど長い時間そうしてから、ようやく解放すると、
の濡れた唇から苦しげな息が漏れた。
「は・・・あっ・・・」
すっかり力の抜けてしまった身体を、ソファに預ける。
初めてのことに、頭の中は真っ白だった。
「・・・ほら」
Lが指を伸ばし、色づいた唇に軽く触れると、びくりと震えた。瞳に恐怖の色を見て取り、すみません、と謝る。
「ですがキスだけでこんなになってしまっては、この先なんてとてもできませんよ」
「−っ」
言い返したいけれど言葉も出ない。どうしようもなくて両腕を伸べ、彼氏に抱きついた。子供じみて。
Lは受け止めて、ぽんぽん、と背を軽く叩いてやる。
「明日は土曜日ですね。日中に時間を取れますから、どこかへ出かけましょうか」
フォローのつもりだろうか、何にしろ単純に嬉しい提案だったので、乗ってあげることにして
は頷いた。
「遊園地行きたい。天気良くなればいいな」
「遊園地、ですか」
苦笑の気分で、抱きしめ返す。そんな場所に遊びで行くのは、何年ぶりだろう。
「・・・そうですね、晴れればいいですね」
いい匂いの髪に、顔を埋めた。
・あとがき・
リムジンで迎えに来るLというのを書きたかったのです。
それなら高校くらいの方が、大騒ぎになって面白いかも。というところから、高校生ヒロインになりました。犯罪じゃないですかL・・・?
ちょうど「僕は妹に恋をする」という少女漫画を読んだところでもあったので。
私が高校生だったのはもう昔のことだし、高校生との付き合いもないので、ちょっとどんなものか分からないんですけど・・・現役高校生の方が読んだら笑われちゃうでしょうか。Lは独占欲が強いので、実は高校に通っている ちゃんにやきもきしているのかも。何しろ学校にはたくさんの男子がいますから。
高校卒業と同時に自分のところに置いておこうと狙っているのに違いない(決め付け)。
でもそれまでは手を出さないでおこうと心に誓っているのね。清い交際。地の文では「竜崎」だの「L」だのと落ち着かないのですが、 ちゃんにすれば疑いなく竜崎さんなんだけど、竜崎は仮の仮の名(Lは仮の名)という感覚があるので、どうしてもLって呼びたいんですよね。
H17.12.14
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