南海に浮かぶ孤島−パプワ島。
さまざまな生物(一般からすればかなり変わっているナマモノ)が仲良く暮らすこの島も、最近になって人間の人口割合が少々上がってきた。
元々はパプワしかいなかったところに、数ヶ月前シンタローが流れ着き、それを追ってきたミヤギとトットリも、結果的に島に住み着いてしまっている。
それから、もう一人−。
「今日もいい天気どすなぁ」
黒髪に右目を隠した京都弁の男が、上機嫌で散歩をしている。
「おお、あんさんもそう思わはりますか、スズキくん」
誰かに話しかけているが、隣には・・・いや少なくとも半径数十メートルのうちには、人っこひとりいない。
「わてら気が合いますなあ、サトウくん」
よく見れば、彼の右手には石コロが、左手にはサボテンが、ちょこんと乗っかっているではないか。
「この辺で一休みしまひょか」
石とサボテンをていねいに地面に置き、自分もゴロリと横になった。
「スズキくん、サトウくん。わてらずーっと、友達どすえ・・・」
石や植物に名前をつけ語りかけている。孤独も極めれば変態だ。
(ふふっ。相変わらずじゃないの、アラシヤマ)
そんな変態を、そばの木の上から覗き見ている影があった。
(ミヤギやトットリもいるし、喋る動物たちもいっぱいいるってのに、石やサボテンとしか話が出来ないなんて・・・笑える)
くひひ。笑い声は少々大きかったらしい。
「誰どす!?」
アラシヤマがバッと立ち上がった。
スズキくんやサトウくんをちゃんとかばっている辺り、いっそ尊敬モノである。
「アラシヤマ、覚悟おーッ!」
木からいっきに飛び降りる。間髪置かず振りかざした手から鋭い風が巻き起こり、アラシヤマの視界を奪った。
「あんさんどすか」
身に覚えのある風だ。アラシヤマは慌てず騒がず、その勢いを片手だけで払い落とした。
にわかに空気は澄み、相手の姿をつまびらかにする。
さらさらの髪、ドレープやリボンがひらひらしている薄手の服−それらは全て、風になびくことを計算に入れた意匠だ−、瞳は好戦的に輝き、体つきはスレンダーな、女。
「
はん」
名を呼ばれると、ニッと笑みで返すが、構えはいまだ解かれていない。
「久しぶりアラシヤマ。ここでも一人ぼっちでかわいそうね」
口調はちっとも哀れんでおらず、むしろ小バカにしている。
「一人ぼっちと違います! 見とみやす、わての新しい友達どす」
石とサボテンを示してみせる。あまりに大真面目なので、とうとう
は吹き出した。
「面白すぎー」
「何どす、あんさん何しに来ましたのん?」
「何、って」
目に剣呑な光が宿る。
「ガンマ団の人間がここに来る理由なんて、決まりきっているでしょ」
そう、
はガンマ団の刺客。つまりはアラシヤマの同僚なのだった。
その同僚に、いきなり攻撃を受けるのは、今に始まったことではない。ガンマ団にいたころから、彼女はしょっちゅうアラシヤマに戦いを挑んでいた。「私の相手になるのは、アラシヤマくらいしかいないんだもの」そう言って。
確かに
は強い。女性といえどシンタロー討伐にかり出されて不思議はなかった。
「そやったら相手が違うでっしゃろ。早う仕事しなはれ」
「分かってるわよ。腕ならしよ腕ならし」
とその腕を無造作に上げ、再び風を巻き起こす。
今度はとらえたか、と思いきや、ゴオッと炎が立ち上がり阻まれた。
土をジャリ、と言わせて後ろにさがり、その鮮やかな彩を見上げると、
は満足そうに表情をほころばせた。
「さっすがアラシヤマ。こんなのん気そうな島にたった一人ぼっちでいても、腕は落ちていないようね」
「一人ぼっちは余計どす。あんさんこそ、相変わらず切れ味の鋭い風どすな」
「やっぱり師匠がいいからね」
ふわり髪と服を揺らし笑う。
は特戦部隊のロッドの弟子である。アラシヤマも同じく特戦部隊マーカーを師としているので、そういう意味でも良きライバルだと思っていた。あくまで
が一方的に、だけれど。
「さあ、
vsアラシヤマ、第5824戦目、いっきまーす!」
楽しそうだ。顔が生き生きしている。
「よう数えてはりますなあ」
何だかんだ言いつつ、いつも律儀に応戦している自分も自分だけれど。
炎が燃え盛る。風が刃に変化する。
のどかだった島の一角が、にわかに小さな戦場と化した。
「フー、今日もいっぱい動いたわ。おやすみ〜」
「っておめ、何ちゃっかり人の寝床で寝てるべ」
「スイカも食べ過ぎだっちゃ」
ミヤギは不機嫌そうだし、トットリは山と積まれたスイカの皮を半ば呆れて見やっている。
「だって今日はこの島に着いたばかりで、疲れちゃったしお腹も空いたんだもの」
「そったこと、自分で何とかしろ」
「まあまあ。ぼくら同じ立場の仲間やし。女の子ひとりきりの夜は危ないっちゃ」
「トットリは甘すぎるべな」
ベストフレンズがこんなやりとりをしている間にも、すでに
は眠りに入っていた。
「見るべ、この図太さ。これのどこが女だべ」
「まあ、ぼくらも寝るっちゃ」
夜でも暖かなパプワ島だ、ほとんど野宿のようなものだけれど、一応簡単な寝床をしつらえてある。
自分のは
に乗っ取られてしまったので、ミヤギはトットリの隣にもぐり込んだ。
も刺客をやっているくらいだから、熟睡しているようでも異変にはすぐに気付く。
薄く目を開けつつ、尋ねかけた。
「何やってんの、ミヤギ」
「宿代だべ」
トットリと寝ていたミヤギが、なぜかこっちに来ていた。
「うっとーしい、あっち行ってよ」
は眠かったので、ゴロンと背を向けてしまう。だがそれで引き下がるミヤギではない。
「隣におめえみてえなのがいると思うと、眠れねえ」
「不健全な男ねえ」
「んだか? まったく健全だと思うどもな」
囁きほどの静けさで言って、肩に手をかけてくる。
はちょっと笑いたい気分で、ふいと顔を上げた。ミヤギが暗闇の中でやけにまじめな顔をしているので、とうとう笑い声を立ててしまう。
「何笑ってる・・・」
「だって」
やっぱり止められない。むくっと起き上がり、ミヤギをまっすぐとらえた。
「あたしと戦う?」
しんとした夜に似合わぬことを言い出されて、目をパチクリさせる。
は自ら軽い風を起こし、指先で弄んでいた。
「私、自分より強い人じゃなきゃイヤだからね」
「・・・」
別に、
より弱いと認めるわけじゃないけど。
さすがにこんな真夜中、バトルを繰り広げる気にはなれない。
「ったく、おめみてえなおなごを嫁コにもらう奴ぁ大変だべ」
「フフン、安心しなさいよ。少なくともミヤギじゃないからさ」
憎まれ口の応酬の末、ミヤギは結局諦めた。
「う〜ん、ミヤギくん・・・」
「暑いべトットリ、抱きついてくんな」
寝言を言っているトットリと、絡みつかれているらしいミヤギに笑いをこぼし、
は再び目を閉じる。
眠気も消えかけた頭に浮かんでくるのは、さっき自分で言った言葉。
−自分より、強い人じゃなきゃ−
続いて自動的に、京都弁の根暗人間の顔が出てきたが、
はそれを否定しなかった。
(アラシヤマ・・・)
薄い布団の端を、きゅっと掴む。
ハッキリ自覚したのは、アラシヤマがこのパプワ島に刺客として派遣されてからのことだ。
それまで毎日のように彼に戦いをふっかけていたのが急に出来なくなり、それが
の本当の気持ちを浮き彫りにする結果となったのだ。
アラシヤマがいないと、寂しい。つまりはこんなにも想っている・・・ということ。
それが分かって、じっとしていられる
ではない。早速上司に申し出て、シンタローの刺客をかって出たのである。
でも、ハッキリいってシンタローのことは二の次、三の次。単にアラシヤマに会いたかった。いつものように力のぶつけ合いをしたかったのだ。
(明日も行くからね〜)
ふふっと笑いながら、もう一度眠気が降りてくるのを待つ。
夢の中でも
は、アラシヤマと楽しく戦っていた。
それから数日後には、
もパプワ島の一員としてすっかり馴染んでいた。
ミヤギに追い出されてしまったので、夜はナマモノのお友達のところを泊まり歩いた。特にタンノくんのお家はお金持ちで広いので、お気に入りだ。食糧は自分で得ていたが、ときには友達になったパプワくんに呼ばれてシンタローの手料理をご馳走になることもあった。この時点で、もはや任務など忘却の彼方である。
そんな中で、アラシヤマへの挑戦は、途切れることのない日課だった。
ヒマなときには一日に数回出向くこともある。小さなキズは絶えないが充実している毎日に、
はキラキラとしていた。
そして、今日も今日とて−。
「さあいくわよ、5855戦目!!」
カマイタチのような切っ先鋭い風が放たれる。
「5856でっしゃろ」
挨拶がわりの一撃は、当然ながら軽くはじかれた。
は薄布の袖をひらりなびかせ、アラシヤマの正面に立つ。
「いざ勝負」
「あんさんも懲りないお人でんなあ」
の、ひとつひとつに風を伴った攻撃をかわしつつ、アラシヤマも反撃を始めた。
はたからはバチバチ火花が飛んでいるように見える戦いは、今やパプワ島の日常のひとつと化していた。
「まぁたやってるべ、あの二人」
「そげだらぁね」
通りすがりの島民(?)も、のどかな調子で語り合うくらいのものだ。
「仲がいいっちゃねぇ」
「やっぱりアイツら、そーゆー関係なんだべか」
最初の夜を思い出してしまい、ミヤギは少々苦い顔をしている。
反対にトットリはあっけらかんと「ぼかぁ絶対そうだと思うっちゃ」と言い切った。
「だってミヤギくん、あのアラシヤマがあげにマメに相手してるんだっちゃよ」
「っつーか、売られたケンカを買ってるだけだべ」
「
ちゃんも嬉しそうだっちゃ」
「戦うのが好きなんだべ」
憮然とした様子に、つい可笑しくなってしまう。
「ミヤギくん、嫉妬してるっちゃ」
「ちっ違うべ! ただオラは、あの友達いねえ特異体質のおたべヤローと、男勝りな
とのカップルなんてありえねえって言ってんだべ」
なぜか真っ赤になって言いつのる親友に笑いながら頷いて、トットリは広場に目を転じる。
風と炎のぶつかり合う派手な戦闘は、まだ続いていた。
「もらったわ!」
大技でラストにしようとした瞬間、アラシヤマがふところに飛び込んできた。
「甘うおす!」
強い眼の光にドキリとしたのは一瞬だけれど、もう、地面に倒されている。
「・・・ったたた・・・」
勝負ありだ。
「大丈夫どすか?」
差し出してくれた手を素直に握る。
の目がきらんと光った。
ぐいっ! わざと強く引いてやったらさすがのアラシヤマも虚をつかれ、バランスを崩してしまう。ドサリ、
に重なるように倒れこんできた。
(やった、いい雰囲気に持ち込めたわ!)
やや・・・いやかなり強引な持ち込み方である。
とにもかくにも少女マンガのような「偶然彼が私の上に・・・」の体勢になっている。これはチャンスだ。
これまでで、自分の想いは十分伝わっているハズ。戦闘を通じて、という多少バイオレンスな伝え方だけれど、「ご職業は?」「殺し屋です」という二人の間だ。きっと・・・いや多分。とにかく伝わっていてもらわなきゃ困る。
「あっ・・・と、重いでっしゃろ
はん。すぐにどきますさかいに」
「いっいいのよアラシヤマ!」
力一杯彼の腕を掴む。そのすごい気迫にアラシヤマはちょっと引いた。
「そっそれより、何か私に言いたいことはない? あるでしょ、きっとあるハズ!」
「
はん・・・」
ムリヤリ促すと、アラシヤマはふと何かを思いつめているような表情を見せた。
やった、いよいよ告白だ。
はじっと、アラシヤマの口が開かれるのを待つ。
「ずっと・・・思っとったことどす」
「うん」
こんなにも近い。好きな人の顔が。
体温も伝わり合って。
「今、思い切って言ってもええどすか?」
「うん、言って」
ドキドキは最高潮だ。
「
はん、わてと・・・」
来た。
「わてと、友達になっておくれやす!」
ドカバキッ!!
風を呼ぶまでもない。ストレートで殴られ、アラシヤマは鼻血を流して吹っ飛んだ。
「なっなっ、何しはるんどす、
はん」
ようやく起き上がると、
もまたその場に棒立ちになっていた。
表情は硬くこわばり、握ったこぶしが震えている。
「
はん」
尋常ではない様子に、アラシヤマは痛みも忘れて立ち尽くした。
確かに今まで、このことを申し出て快く受け入れてくれた人間は皆無だ。
だけれどこんな反応は初めてで・・・、何がどうなっているのか、分からない。
「こ・・・ここまできて「友達」!? フザケんじゃないわよッ!!」
こちらを強くにらみ上げている瞳がうるみ、顔が歪む。泣きそうに。
「
はん」
「アラシヤマの大バカー! おまえなんか一生友達捜してろー!」
罵声を浴びせ、疾風のように駆けていってしまった。
「まっ待っておくれやす」
が残した風のかけらが、手を伸ばしたアラシヤマの全身に吹きつける。
それは、切なく震えているようだった。
「・・・修羅場だべ」
「見なかったことにしておこうっちゃ」
覗き見るつもりではなかったが、草むらに身をひそめ一部始終を目撃してしまったミヤギとトットリは、すさまじい展開に言葉も失ってしまった。
「まったくまったく・・・何が友達よ」
バクバク、バリバリ。涙目でドンブリをかきこんでいる。
「あたしを女として見ていないってことじゃないの・・・バカにしてっ・・・おかわりッ!」
勢いよく突き出された空ドンブリを、シンタローはため息をつきつつ、それでも受け取った。
「ヤケ食いならよそでやってくれよ、
」
「だってシンタローさんのごはん、おいしいんだもの!」
味なんか分かるのか、こんなムチャ食いで。
がガンマ団からの刺客だというのは分かっているけれど、これまで攻撃らしい攻撃もしてこないし、何よりパプワやチャッピーと大の仲良しさんになっているから、訪問を断るに断れないシンタローだった。
「シンタロー、ぼくにもおかわり!」
「わう!」
「ハーイハイハイ」
何が哀しくて俺がこんなことを、と思いつつも、三人分のドンブリを満たしてやる。
「シンタローさん」
「私たちにも」
「わいて出るなナマモノっ!!」
タメなし眼魔砲がぶっ放たれ、イトウくんとタンノくんはMyドンブリを手にしたまま、お空の遠くへ飛んでいった。
それにも気付かないのか、気付いていながら見ないフリか、
は大盛りのおかわりをかきこみつつ器用にため息をつく。
「もうあんな鈍感野郎のとこなんか行かないわ。そうするとヒマになっちゃうから、今度はシンタローさんを攻撃することにしようかな」
「俺ヒマつぶしかよ」
むしろそちらが本来の任務だ。
「オトナの世界は殺伐としているな」
「わうー」
その翌日から、旋風娘は全く姿を見せなくなった。
洞窟の中かがみ込んで、アラシヤマは普段以上の暗さで日々を過ごすことを余儀なくされている。
スズキくんたち動かないお友達は、今まったく心のなぐさめにはならない。
が、自分にとってどんな存在なのか、はからずも知らしめられようとしていた。
思えば、毎日顔を合わせていた人間は
だけだったし、自分を否定しなかった人間もまた
だけだった。
何だかんだ言っても、楽しかった。パプワ島に
が来たときも、嬉しかったのに。
これまで他人との関わりが極端に薄かったせいで、それを伝えるどころか、自覚すら満足に出来なかったけれど。今思えば、あのときようやく少し表出することができたのだ。それが「友達になっておくれやす」という言葉だった。
ところが
は、その一言に激怒し、以来顔も見せてくれない。
(何が悪かったんどすか・・・?)
鬱々と考えてみても埒が開かない。
こないなときこそ師匠の教えや、と思い出してもみるが、記憶の中でマーカーは相変わらず冷たい目をしていて、アドバイスといえば「無能な奴は死ね!」「己以外は屑だと思え!!」くらいしか思い浮かばない。
絶望的だった。今ほど師匠の極端なコミュニケーション下手を恨んだことはない。
膝を抱えて、アラシヤマはそのまま苔むしてしまいそうだった。
「ああっもおムシャクシャするッ!」
腹立ちと意地っぱりと少しの後悔・・・そして奥底にくすぶり続けている恋心・・・そんな心のもやもやに、これまで毎日戦闘で発散していた体のもやもやが加わって、どうしようもなくもやもやもやもやしている。
こんなときに師匠がいたら、軽く笑い飛ばしてギリギリのジョークで気持ちを和ませてくれようとするだろうし(和まない可能性の方が高いけれど)、望むなら手合わせもしてくれるだろうに。
でも今、師のロッドは特戦部隊の飛行船でどこか遠い空の上だ。
シンタローに戦いを挑んでも軽くあしらわれるし、パプワたちと踊ってみても乗り切れないし、ミヤギやトットリに仕掛けてみても期待するほどスカッとしないし。
つまらないので、スイカの一気食いに挑戦中の
だった。
「よく食べるっちゃね〜」
「オラたちの分がなくなるべ」
顔を出したトットリとミヤギをにらみつける。
「うっさいわね、いつもベッタリで気持ち悪いわよあんたらホモ?」
「機嫌悪ィべな」
「ホモじゃなくてベストフレンドだっちゃ」
座り込んで、
が切っておいたスイカを断りもなく食べ始める。
はムッとしたけれど、少しは気晴らしになるかと思い直し黙っていた。
「さっさと食べて相手してよ」
「八つ当たりの相手なんて嫌だっちゃ」
「んだんだ」
「何よそれ」
とげとげしい声を出す
のほっぺに、スイカの種が一粒ついている。
トットリが手を伸ばして、それを取ってあげた。
「
ちゃんは、笑ってた方が可愛いわいや」
「・・・・」
不覚にも、言葉を失ってしまう。
真向かいに座っているミヤギが、スイカから顔を上げた。
「片方が引きこもりで片方が意固地になってちゃいつまでたってもダメだべな。ちっとは素直になればいいべ」
「−余計なお世話よッ!」
ビュウウッ・・・! 風が巻き起こる。嵐並みの暴風に、ミヤギとトットリはこれはマズいと逃げ出した。
激しく吹き荒れる風の中心に、
は立ち尽くし叫ぶ。
「そんなこと分かってるわよ! もうみんなバカ! 特にアラシヤマの、バカー!!」
「ハッ、誰かわてを呼びましたやろか」
ふっと外を見ると、台風が起こっているではないか。
「・・・
はん」
その暴風は、アラシヤマの心の中にも吹き込み、かき乱した。
胸を押さえるようにして見上げる。
「何でっしゃろ、この気持ち・・・」
心臓が圧迫されて、苦しいような切ないような、でもちょっと甘くて・・・。
「ラブよ、それがラブなのよ!」
「そうよアラシヤマさん!」
不意にナマモノがわいて出て、ぬめぬめ寄り添ってくる。
「よっく分かるわ」
脚の生えた鯛のタンノくんと
「私たちがシンタローさんを想うのと同じですものね!」
雌雄同体カタツムリのイトウくんである。
「私たちは仲間よォーッ!」
「そ、そうどすか、仲間どすか」
ナマモノの仲間・・・それでいいのかアラシヤマ。
三人(?)スクラム組んで絆を確かめ合う。一応満足してから大切なことを思い出し、アラシヤマはひとり風に向かって歩き出した。
ようやく気付いた気持ちを、伝えるために。
「
はん」
大きな声ではなかったけれど、風の向こうからちゃんと届いた。
は信じられない気持ちで、とりあえず強い風はおさめる。
「アラシヤマ」
残った微風が体の周りにまとわりつき、髪をさらさら、服をひらひらなびかせている。
それは風使いの
が最も美しく見える瞬間でもあった。
胸を衝かれたように、アラシヤマは息をのむ。
色濃く鮮やかな想いが、多少の戸惑いと共に広がっていくのをはっきりと感じながら一歩踏み出すと、アラシヤマの漆黒の髪も風になぶられる。
両の目でしっかり彼女の姿を捉え、何と言えばいいのかも決められぬまま口を開いた。
「
はん」
表情も口調も、今までにない緊張がみなぎっていて、その一生懸命さに、
の心は逆にゆるんだ。
自分からも歩み寄り、手を伸ばせば届くほどの位置に立つ。
「アラシヤマ、この間はごめん。でも・・・」
ミヤギの言葉を思い出す間でもなく、素直になれそうな気がしていた。
「私、友達なんてイヤだったんだもの」
「・・・そうどしたか」
今、ようやく分かった。あのときの
の気持ち。
友達もいない自分ですら、思うから。
となら、友達とは違う関係になりたい、と。
友達よりももっと仲良く・・・親密に・・・。
そんなことを頭の中グルグル考えていると、体が熱くなってくる。
感情が昂ぶると炎を発するアラシヤマの特異体質。それを知っている
は、感づいていた。
アラシヤマが発火寸前であることを。
「
はん・・・わて・・・わて・・・」
ボッ! とうとう火がついた。アラシヤマを中心に、みるみる燃え上がる。
「バーニング・ラブどす〜〜!!」
文字通り燃えている。
並の人間なら、この光景に平静ではいられないだろう。だが幸い、相手も普通ではなかった。何しろ特戦部隊ロッドの愛弟子でガンマ団屈指の刺客、
である。
「嬉しい、アラシヤマ!」
燃え盛る炎の中、一歩も退かないどころか逆に笑顔で飛び込んだ。
「キャ〜、ラブが熱いっ!」
熱いに決まっている。
だがここまで感情を昂ぶらせたのが他ならぬ自分への気持ちなのだと思うと、
は純粋に嬉しくて、発火源なのにも構わず、アラシヤマに思い切り抱きついた。
慌てたのはアラシヤマの方だ。
「
はん、離れなはれ。黒コゲになってしまいますえ!」
「・・・黒コゲ? 私を誰だと思ってんのよ」
顔を上げ、ニッと笑う。
恐る恐るその背に手を触れ、アラシヤマは初めて理解した。
風だ。薄い風のバリアで、体全体をガードしている。
「ねっ分かる? あなたとこんなこと出来るのは、私しかいないのよ」
「確かに、そうどすな」
もう少し、腕に力をこめてみる。
広場の中央で、何かに燃え移る心配もない。ただ二人の周りだけがごうごう激しく燃え盛っていた。
炎に照らされ、風をまとった
は、大人っぽく艶めいていた。まるで誘っているように。
じっと、アラシヤマはピンク色の唇を見つめている。
気付いているのかいないのか、
はその唇を軽く舐め、上目遣いでこう言った。
「それから、私に付き合える男も、あなたしかいないんだから」
「−
はんっ」
突然強く抱き寄せると、唇を奪った。
文字通り燃えるようなキスだった。
止まらない感情の奔流が、炎となって二人を取り巻いている。
そんな中で、長いこと、アラシヤマと
は抱擁し合っていた。
そして何度も、キスをした。
「恋人が出来たんは嬉しいんやけど、やっぱり友達も欲しいどすなァ・・・」
「まだそんなこと言ってんの?」
キナ臭く、まだそこかしこがブスブスくすぶっている広場に並んで座り、二人は戦い以外でほとんど初めて会話を交わしていた。
「ムリよアンタ友達なんてできっこないわよ」
容赦ないが、そんな一生友達ゼロ確定の男を恋人に選んだのも
である。
「いいじゃないの。私がいるんだから」
「・・・一生離しまへんで?」
「すっごい。いきなりプロポーズ?」
むしろストーカー、憑く気満々なだけである。
「とりあえず、今夜から厄介になるから」
「えっ」
「私もそろそろ定住の地が欲しかったしね。ついでに殺し屋なんてやめちゃおーかなあ」
ついでで辞められる組織か、世界最強の殺し屋軍団。
(こ、今夜から、一つ屋根の下・・・どすか・・・)
ドギマギしているアラシヤマは、重要なことに気付いた。
「無理どす
はん」
「なんで」
「いちいち火事を起こしとっては、おちおち眠られまへんで」
夜に二人きりなんて、感情が暴走する事態に陥るに決まっている。
「だからこそ、よ」
不敵に笑って、いきなり横から抱きついた。
「ホラ抱きついただけじゃもう平気でしょ。慣れが肝心なのよ。毎日一緒にいて、早く慣れてもらわなきゃ、恋人としての付き合いが出来ないでしょ」
「恋人としての・・・付き合い・・・」
「そう。あんなコトや、こんなコト、したり」
半ばふざけて言ったのに、アラシヤマの脳内では色々なことが展開し始めていた。
「あ・・・あんなコトや、こんな・・・コト・・・
はんとわてが・・・?」
ドクドク、心音が速くなる。
「あ、アカンどす
はん。わてらまだ付き合い始めたばっかりどすのに、あんなコトや、そんなコトまでやなんて・・・!」
メーター振り切れ!
ゴオオオー!! 盛大な鼻血と炎で、辺りはまたたく間に真っ赤に染まった。
「あーあ。こりゃまだまだだわ」
は苦笑いで炎を見上げ、目を細める。
私にはあなたしかいなくて。
あなたには、私しかいない。
もはやこれは決定だから。
あとはゆっくりと、生まれたての愛を、育んでいこう。
・あとがき・
アラシヤマドリーム、お待たせしました。
アラシヤマは友達いないけど人気が高いキャラですからね!
友達いなくても恋人できたね!
ネタは相方にもらったのですが、当初もらったもののとおりに書けたのかどうかよく分かりません。パプワ島でのドリームは初ですね。せっかく島での話を書くのなら、と思い、色々キャラを出していたら長くなってしまいました。
ミヤギやトットリが意外に出ばっていた。
ちゃんがいつもアラシヤマを攻撃しているというところから、必然でロッドの弟子となりました。昔、オリキャラ小説書いているときに、ロッドの弟子といえば葵ちゃんがいましたね。忍者娘。懐かしい。
しかし ちゃんとロッド、結構仲良さそうですが、どんな修行を行ったんでしょうね。師弟ドリームで一本書けそうですね。
強い女性への憧れってあると思うので、ガンマ団の刺客というヒロインもなかなかいいと思います。タイトルは相方がカラオケで歌っていた「あなたしかいないでしょ」からもらいました。「私にはあなたしかいない、あなたには私しかいない」の略です。
H17.11.11
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