バレンタインズ・エモーション



 リアール社のオフィスは個室のように仕切られてあり、アルバイトのアキラもいつも一人で作業に没頭している。
 今日が2月の14日だからといって、普段パサついている仕事場が急に華やぐなんてわけはない。
 ましてや、あの子がチョコをくれるなんてことは・・・。
 薄い期待を妄想にシフトしつつ、アキラはいつも以上に寂しく、プログラミングを続けていた。
『アキラー』
 ノックと一緒に聞こえたのは、まさに彼女の声。
「・・・どーぞ」
 驚きすぎてぶっきらぼうな返事になってしまった。ドアが開いて、チョコとおぼしき箱を持ったが、ぴょこっと姿を見せた。
 すっきりとまとめた髪、ひざ上のスカート、薄化粧・・・。今日も、可愛い。
「ハイ、女子社員一同より」
「・・・あ、ドモ」
 椅子に座ったまま、軽く頭を下げ受け取る。
 女子一同・・・そーだよな、そーだよな。
 は、男性社員一人ずつにチョコを配る役なのだろう。手に提げたペーパーバッグにはこれと同じチョコがごちゃごちゃと入っていて、みんなに同じ笑顔を振りまき、渡していっているんだ・・・。
 そう考えると、無性に悔しい。独り占めしたいのに。
「あんまり嬉しそうじゃないね」
 自分はそんなに怖い顔をしていただろうか。は、気を遣うときの笑顔で、少しだけ近付いてきた。
「チョコなんて山ほどもらうんだろうけど・・・、一応、みんなの気持ちだから」
「・・・別に・・・」
 ヤバイと焦りつつも止められない、ふてくされた顔と態度。
「邪魔してゴメンねー。それじゃ」
 は何も気にしていないふうに、明るく行ってしまったけれど・・・。
(印象サイアクだよな俺ッ)
 がしゃがしゃ、頭をかく。机の上につっぷして、四角い箱を手繰り寄せた。包装紙のニオイがする・・・。
 ダラけたポーズのままマウスを引っ掴み、社内のネットに繋ぐ。カチ、カチ。社員一覧を開き、の写真を表示させた。
 は、人事の部署に所属している、リアールの正社員だ。アルバイト関係を担当しているため、最初からアキラとの接点は多かった。
 ゲームクラッシャーと呼ばれていたころは、女なんて眼中にもなかった。ネットたちと付き合うようになってからも、生身の女の子に対しては苦手意識をぬぐえなかったけれど・・・。
 に対してだけは、違った。
 とは気負いなく話せたし、素直に、好意を認めることが出来た。
 チョコを抱いたまま、画面のを眺め、熱っぽい息を吐く。
 バレンタイデーという国民的な愛の日に、何かが起こらないかな、なんて。根拠もない望みを抱いてしまう。
 奇跡を、祈ってしまう。

 自分の席に戻ると、ペーパーバッグを覗き見る。
 全員のデスクを回ってきた後なのに、袋の底には、チョコレートが一つ残っていた。
 ただの残り物ではない。小ぢんまりとしているが温かみのある、手作りのスペシャルチョコレートだ。
 虫の居所でも悪かったのか、不機嫌そうな彼に、渡せずじまい・・・。がっかりしながら、袋の上部を折り曲げて、机の脇へ置いてしまう。
 アルバイトで入ってきた当初のアキラは、確かにカッコ良かったけど、触れれば傷つくナイフのようで、近寄りがたい存在だった。
 だが、雰囲気が柔らかくなったな、と感じる時期があり、そのころからよく話もするようになった。
 年も近く、気が合って、一緒にいると楽しい。
 モテそうな外見なのに、動物には異常なほどメロメロになったり、そのギャップにまた惹かれていた。
 せっかくのバレンタイデーだから、手作りチョコレートを準備してきたのはいいが、タイミングを逃したままで、もう終業時刻が近付いている。
「ど〜しよ〜・・・」
 小さく呟き、歯噛みした。
 2月14日は、今日だけ。バレンタインデーは女の子が動く日。
 つまり、今を逃したら、このチョコレートは行き場がなくなってしまう。
「・・・うしっ!」
 いきな気合い入れて力強く立ち上がったを、人事の同僚たちは不思議そうに注目していた。

「アキラー」
「あー?」
 緊張感のない返事に力が抜けつつ、アキラのテリトリーに進み入る。
「あのね、あの、コレ・・・」
 ガサガサと包みを取り出して、両手で差し出した。
「私から、個人的に」
 誤解を避けようとした結果、冗談にしてしまうことも出来なくて。
 ストレートすぎて引かれたかな・・・と心配しつつ目を上げると、
「・・・うそッやたッ! 現実の女の子から義理じゃないチョコもらうの、初めてだ!」
 飛び上がらんばかりの喜びようで、受け取ってくれた。
 今のセリフについて色々突っ込みたかったが、開けっぴろげな笑顔につい見とれて、言いそびれた。
「すっげー嬉しい。お礼にメシおごるよ、今日とかどう?」
「行く行く!」
 今までと変わらぬ気安さだけれど、互いに芽生えていたのは、明らかにそれまでの友達関係とは違うモノ。
「じゃっ終わったら」
「うん」
 は急いで自分の部署に戻っていった。
 とたん、力が抜け、アキラは椅子に倒れこむ。それでもチョコの包みだけは、離さず抱きしめた。
「マジ・・・俺すげぇ」
 あんなにすんなり誘えるなんて。半ば無意識というのか、勢いだけで口走ったのだが、我ながらよくやった。
 自分で自分をほめた直後、こんなことならもっといい服を着てくるんだった、この間のバイト代で買ったあのシャツが良かったのに・・・などといらぬ後悔が浮かび上がってくる。
 落ち着かない。落ち着いていられるはずがない。
 からチョコレートをもらえたばかりか、今夜デートできるなんて!

「・・・よく考えればチョコのお礼にご飯って、アキラの負担が大きくない?」
「いーからいーから。気にすんなよ」
 悪人顔だけど、笑うと結構可愛いんだ、この人。
 甘えることにして、も笑った。
 細い身体にジャケットを羽織り、マフラーで防寒したアキラと、白いファー付きのコートに手袋のは、並んで歩き出す。
 夜の街に溢れているカップルの、仲間入りをするために。

 甘くて楽しいバレンタインデーを過ごした二人の、その夜のことは、二人だけの秘密。




                                                             END



       ・あとがき・


時期的にそろそろバレンタインデー話を書きたいな、と思ったところで、投票もいただいていたアキラくん初登場です。
ドリームでは初書きだけど、オリキャラ小説は昔三本くらい書いたのよね・・・。あのころはドリPAではアキラくん以外眼中になかった。
オシャレでカッコいい若造(笑)。ルックスだけだとモテそうだけど、ゾンビギャルとしかまともに話せなかったり、ミケポンに夢中だったりで、女の子と付き合ったことなさそう。

大学での話にしようかとも思ったんだけど、リアリティが出せそうになかったので、リアール社内にしました。
お互い惹かれ合っていて、チョコ渡してデート、というだけの話なんだけど、こういうのもいいかなーと。





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