この羽、小さな翼で、どこまで飛んで行けるんだろう。
 お気に入りの桜桃も、鳥人界で一番高い木も、鳥王のお城も、ずっと越えて全部見下ろして。
 目指すのは天上の虚空・・・もっともっと・・・誰も見たことのないような、高みまで。


 逢いたい


 鳥人のは、鳥王クジャクの実の娘である。
 今日は父とケンカをして、お城を飛び出してきた。
「お父ちゃんなんて、もう知らない!」
 背に翼を持った娘は、中空で、ぽんと音を立てのきれいな小鳥に変わる。
 そのまま垂直に、空を目指した。
 自己最高の高さまで飛んで行くことで、モヤモヤもイライラも振り払って、一人きりになりたかった。

「何だよ全く、兄貴たちはよォ!」
 グチを空にぶちまけながら、リキッドは急降下していた。
 リキッドは超人たちの三男坊で、二人の兄と共に天上界に住んでいるのだが、その兄たちにヤンキーだのかけ算が出来ないだのとからかわれ、面白くなくて浮遊島を飛び出して来たのだ。
「バカにしやがってぇ」
 三男という立場はどうにも弱い。
 本当は一番下の弟がいるのだが、末弟ヒーローは地上で育って地上で結婚したため、普段人間界に住んでいる。
 かくして、兄たちの暇つぶしとうっぷん晴らしは、常に身近な弟の自分に向かってくるのだった(とはいえ、ヒーローがいたとしてもきっと同じことだろうが)。
 プチ家出にあてなどない。ただ真っ直ぐ降りてゆく。

「もう、お父ちゃんったら」
「今日という今日はガマンできねえ」
 父とケンカして空の上を目指す鳥人と、兄たちとケンカして降下してゆく超人は、この直後運命的に出会うこととなる。
 こんなにも広い、空の中で。

 空色の中に、の点が、ぽつりと一つだけ・・・?
 気付いたときには、もう接触していた。
 こんなところに自分以外の何かがあるとは思ってもみなかったリキッドは、慌ててかえりみる。
 は、鳥だった。
 羽先がかすっただけとはいえ、小さな体には余る衝撃だったらしく、はばたきも忘れフラついたかと思うと、ヘロヘロと降下し出した。
「おいっ」
 フットワークも軽く追い越すと、両手を差し伸べる。
 キャッチした瞬間、小鳥はぽんと音を立て変身した。
「−!?」
 さしものリキッドも驚き、それでも取り落とすようなことはしなかった。
 見下ろす腕の中に、少女の姿。
 背にの翼を持った娘は、目を閉じグッタリとしている。どうやら気を失っているらしい。
(鳥人・・・か)
 どうしよう。
 腕の中に女の子、という、生まれて初めての事態に、うろたえるばかりのリキッドだった。

 さすがに疲れて空中に止まり見下ろすと、さっきまで自分のいたお城が豆粒のように見える。地上からずいぶん遠ざかったことに、は満足を覚えた。
 こんなに高いところに来たのは初めて。文字通り羽を伸ばせば、気も晴れて、父のもとへ帰ってあげようかな、と思う。
 どちらにせよ、もうこれ以上は上を目指せないようだ・・・体力的に。
 そんなことを考えながら下ばかりを見ていたは、全く気付かなかった。はるか天の上から勢い良く飛んできた者の存在に。
 ガッ・・・!!
 体全体が、頭の中も、揺さぶられ、瞬時に意識が飛んだ。

「おう、どうした忍」
 超人たちの長兄・乱世は、すぐ下の弟が廊下にじっとたたずんでいるのを見て、いつものように朗らかに近寄った。
「ヤンキーは帰って来たかー?」
 忍がいるのはリキッドの部屋前だった。どうやら、ドアを少し開けて、中を覗いているらしい。
 乱世も忍の頭越しに、ひょいと見てみる。部屋にはヤンキー三男坊がいたが、何かそわそわしているようだ。
 忍が指差す方向を見ると、そこはベッドで、一人の女の子が、横たわっているのだった。
「何だァリキッドの奴、女の子連れ込みやがったかー!?」
 乱世はがぜん色めき立って、忍の頭を押さえ込むように身を乗り出す。
「いいぞー頑張れリキッド、これを逃したらもう彼女なんてできねーぞ!!」
 何を根拠にそんな。
「うん・・・。何たって、かけ算ニガテだからね」
 忍も頷いた。

「うう・・・」
 小さくうめくが、まだ目を覚ます気配はない。
 地上よりはここ天上界の聖層圏の方が、回復は早いだろう。そう判断して自分の部屋へ運んだのだが。
 はぁ、はぁと苦しげな息をする鳥人を前に、リキッドは困っていた。
(苦しいのか・・・?)
 近付き、とりあえず服をゆるめてやろうと手を伸ばす。
(よっしゃ行けリキッド!)
 兄たちがガッツポーズを作っているのには気付かず、ブラウスのボタンを一つ外してやった。そのとき。
「う・・・ん・・・」
 鳥人の女の子は、重そうにまぶたを開けた。

 急に意識が浮上した。
 そう悪くはない気分の中で目を開けると、すぐそばに、見知らぬ男の顔・・・。
「−−−!?」
 単純にびっくりして、声も出せぬままガバッと起き上がる。その次には、胸のボタンが一つ外れていることに気が付いた。
「ギャーーーッ!!」
 悲鳴を上げ後ずさる。
「イヤーーーッ、痴漢ーーーッツッ!!」
 ものすごい声に耳をふさぐリキッドの目の前で、少女は小鳥に身を変え、少し開いていた窓からぱたぱたと外へ羽ばたいていった。
「待てよどこ行くんだよ!」
 窓をガラッと開け、どうにか自分も外へ飛び出す。
「しっかりなーリキッド」
「ちゃんと憑いて行くんだよ・・・」
 兄たちの応援など、無論耳には届いていない。

「ちょっと待てって!」
 やはり疲労は強いのか、小鳥は十分には飛べないようで、追いつくのはたやすいことだった。
 つかまえて、両手にそっと閉じ込める。
「離して! あたし帰るんだから!」
 精一杯ぱたぱた暴れるのを、落ち着かせるように撫でてやった。
「帰るっつっても、一人じゃ無理だ。ここは天上界なんだからな」
「え・・・」
 天上界と聞いて、にわかにおとなしくなった小鳥を持ったまま、リキッドは言葉を継ぐ。
「空でぶつかってしまって・・・お前は気を失っちまったから、休ませてたんだ」
「・・・・・・」
 ぽん。
 いきなり少女に変わる。
 リキッドは慌てて両手を離したが、腕の中に残った温かくて柔らかい感触に、ドキドキしてしまう。
「それじゃああなたは天上人なのね」
 見上げる瞳は、天の上に住む者に対する純粋な憧憬に満ちている。リキッドは悪い気はしなかった。
「ああ。オレ、リキッドってんだ」
「私は、見ての通り鳥人よ。・・・助けてもらったのに、失礼なことしてごめんなさい」
 軽く頭を下げると、柔らかそうな髪がさらり頬にかかった。
「いや・・・いいってコトよ」
 可愛いな、と思う。
 気絶していたときはそうとも思わなかったけれど、目を開けて動いて喋っているこの子・・・といった・・・、とても、可愛らしい。
 一目惚れ、なんていうものじゃない。そんなのとは違うと思うけれど。確かに惹かれている己の心を、リキッドは否定しなった。
「あのさ、良かったら茶でも飲んでいかねぇ? まだ疲れているだろうし、休んでいけばいいだろ」
 たどたどしくて、我ながらカッコ悪い誘い方だ。
 だけどは、にっこり頷いてくれたから。
 嬉しくて、彼女の小さな手を引いて、家に戻った。

「よく来てくれたなー。えーと、ちゃん? 可愛い名前だねェ。あ、オレは乱世。このヤンキーのにーちゃんだヨ」
「ヤンキーって言うな!」
 頼んでもいないのにお茶菓子を運んできた長兄から、お盆を奪い取る。
 その隙に、二番目の兄がに近付いていた。
「拙者は忍・・・よ・・・夜露死苦・・・」
 そこまで言うのが精一杯で、緊張のあまり手首を切ってしまう。ブシューと飛び散る血に、もあっけに取られた。
「切るなって忍にーちゃん!!」
 どうにか二人を追い出してドアを閉める。ゼーハー肩で息をしていた。
 初対面なのに、メチャクチャ悪印象じゃねーか!!
 兄たちを呪いながら振り向くと、は機嫌良さそうにニコニコしていたので、毒気が抜かれてしまう。
「私、お兄ちゃんみたいな人はいるけど、ホントのお兄ちゃんっていないから、羨ましいな」
「そうかァ? あんなんで良かったら、二人まとめてプレゼントしてやるよホントに」
 紅茶やケーキをテーブルに置いて、真向かいに腰かけるリキッドを、はじっと見ていた。
 血色良くて声も大きい乱世とも、青白くて消え入りそうな忍とも、似ていない。
 左頬にあるキズが、まだ少年のような顔立ちを更にやんちゃそうに見せている。お兄さんはヤンキーなんて言っていたけれど、親切にしてくれるし、優しい人なんだと感じていた。
「ここって、あたしが飛んでいたところより、ずっとずっと高いんでしょ」
「高いさ。高すぎるから、地上からは見えねぇんだよ」
 は、紅茶のカップを両手で包み込むようにしたまま、ほうっとため息をついた。
「すごいな・・・あたしはあそこまで飛ぶのが精一杯だったのに、リキッドたち、こんなところに住んでいるんだね」
 空の高みへのこだわりは、鳥人ならではの憧れだろうか。
「いや、あそこまでだって大したモンだぜ」
 何もいるわけはないと思っていたから、うっかりぶつかったのだ。
 は照れ笑いをして。
 それから、すっかり打ち解けた二人は、時間を忘れてお喋りに興じた。
 日が暮れてしまう、その直前まで。

 さすがに父が心配しているだろうから帰ると言うと、リキッドは地上まで送っていってくれた。
 の小鳥を、大事に懐に入れて、一気に降りてゆく。
 ここにいる鳥は、あのよく笑う可愛い女の子なんだ・・・そう思うと、心臓が必要以上に強く速く音を立てるから、に聞かれてしまうのではないかと心配してしまった。

 鳥人界にはじきに到着してしまい、もっとゆっくり飛んでくれば良かったと後悔しているリキッドの懐から羽ばたくと、は女の子に変身した。
「すっごいスリル! あっという間に着いちゃったね」
 さっすが超人! と、やっぱり上機嫌で着地する。
「あのさ
「ん?」
 リキッドは斜め下を見るようにして、口ごもっている。
「なあにリキッド」
「いや・・・良かったら、また・・・」
!!」
 ようやく口に出来た言葉は、別の声にかき消された。
 振り向いたの表情が、ぱっと明るくなる。
「バード!」
 鳥人界英雄のバードは、のイトコにあたる。
 きょうだいのいないはバードを兄のように慕い、また姉ばかり持つバードはを本当の妹以上に可愛がっていた。がいなくなったと聞けば、普段寄り付かない鳥人界にも進んで帰ってきて捜索するほどに。
「心配したぞ、こんな時間まで何して・・・」
 駆け寄ってきたバードは、の隣に立つ男に不審げな視線を向ける。
「・・・オメーは・・・確かヒーローの兄貴の・・・」
 バードの声に敵意がこもっていることに、は驚いた。
 二人の顔を順に見ていると、バードにぐいっと肩を抱き寄せられ、再びびっくりする。
をたぶらかしたな、こんな遅くまで連れ回しやがって」
「えっ、違うバード、あのねっ」
 助けてくれたの。お喋りしていただけなの!
 がそう伝える前に、リキッドはガッと地を蹴り宙に飛んだ。
「ケッ、何がたぶらかしただ。これだから地上の奴ァいけ好かねえ!!」
 言い捨てると、光の軌跡を残して去って行ってしまった。
「何だアイツ・・・、おい
 見下ろしたの頬に、光るものがある。バードは慌てふためいてハンカチで押さえてやった。
「どーしたんだ、アイツに何かされたのか!?」
 バードの必死の声も、今のには届かない。
(地上の私たちこと・・・嫌いなんだ、リキッド・・・)
 涙はとめどなく、こぼれ落ちた。

 それから数日間、リキッドは自分の部屋をほとんど出ず、ふさぎこんでいた。
 あのときのあれは、鳥人界の英雄・・・。かばい方や言動からすると、おそらく・・・いやきっと、二人は付き合っているのだろう。
(彼氏持ちかよォ・・・)
 楽しく過ごして、仲良くなれたと思っていたのに。またこの次会えたら、って、期待したのも、全部独りよがりの空回りだったんだ・・・。
「オーイリキッド、8×6は?」
「48・・・」
 上の空での答えに、背後で兄たちは目を丸くした。
「ヤベエ8の段当てたぞ!」
「はじめてだね・・・」
 ため息ばかりの弟の両肩に、ぽんと手を置く。
「何でェリキッド、オメエらしくねーじゃねえか。悩んでないで、当たって砕けろ!」
「・・・砕けたらおしまいだよ、兄者・・・」
「・・・っせーな! 付き合ってる男がいるんだから仕方ねーだろォ!!」
 思わず振り向くが、すぐにムッと顔をそらす。
「・・・本人がそう言ったのか?」
「いや・・・そうじゃねえけど」
「じゃオメエの勘違いかも知れねーだろ。も一度会って、ちゃんと確かめて来い!」
 殴りつけつつ、半ば無理矢理追い出した。
 忍はといえば、コックリさんで呼び出した動物霊に、弟の恋のゆくえを尋ねている最中だった。

「確かめて来いっつっても・・・」
 はあッ、とため息をつく。兄に殴られた箇所が痛い。
 それはもちろん、分かっている。このままだと、ずっと悶々としたままだってことくらい。
 気持ちにケリをつける勇気、なんて大げさなものではなくても・・・そうだ。
 ただ、もう一度逢いたい。
 の小鳥、笑顔の可愛い女の子に。
 ばさり、翼を広げ、リキッドは想いに突き動かされるように、飛び立った。

 逢いたい−。

 この数日間、考えることといえばリキッドのことばかり。
 リキッドは、地上人のことは嫌いと言っていたけれど、あのときあんなに楽しかったこと、嘘だったはずはないから。
 もう一度会って、話をしたい。
 ヒーローを訪ね、こっそり、天上界に行く方法を聞き出した。小さなの翼をはばたかせて、飛び立ってゆく。
!」
 聞き慣れた声に、ドキンとした。
「・・・・バード」
 後から追ってきて、バードは空中で人の姿になる。
「どこ行くんだよ」
 も女の子に変身した。
「・・・お願いバード、何も言わないで行かせて!」
・・・」
 まさか、の思いが、やっぱり、に変わる。
「天上界に・・・あいつのとこに、行くつもりか・・・?」
 黙って男に会いに行こうとしているのが、バードにはショックだった。いつも何でも相談してくれていたのに。
「・・・ごめんね・・・」
 澄んだ空の中で、はきらきらしている。まるで太陽の祝福を一身に受けているかのように。
 リリカル星☆羅の少女マンガを愛読しているバードにはピンときた。
 これは恋する乙女の瞳だと。
 いつの間にかきれいになって、秘密も持つようになって。
 どこへ行くにも後をついてきた子供じゃ、なくなっていた−。
「・・・ちゃんと自分で責任持つんだぞ。オレは知らないからな」
 ぶっきらぼうにしか、言えなかった。
 それでも嬉しそうに微笑んで、は再び鳥の姿を取った。
「ありがと、バード!」
 ぱたぱたと、北を目指して飛び去る小鳥を見つめ、バードは眩しそうに顔をしかめる。
「あー、オレも本気で恋したい・・・」

 ずい分寒くなってきた。それもそのはず、雪が降っている。
 ヒーローから聞いた、天上界への道。それがこの氷雪山にあるはずだ。
 氷上に降り立つと同時、少女になる。その肩に、背後からふわりとストールがかけられた。
「・・・?」
 振り向くと、夢幻か、今逢いたいと思っていた人が立っているではないか。寒さに鼻を赤くして。
「リキッド!」
「よ、よお、・・・」
 顔も冷え切っているのか、笑顔がぎこちない。
 は白い息を弾ませた。
「どうして・・・?」
「話は空でな」
 体に腕を回されて、とっさに鳥へと変身する。リキッドはそのまま宙へと翔けた。
「寒さに弱いんだろ、鳥なんだから」
「うん。南へ越冬しちゃうからね。そう言うリキッドも、寒いのは苦手みたいね」
「まァなー」
 ホントは寒さよりオバケやかけ算の方が苦手だけれど、カッコ悪いから黙っておく。
 リキッドの懐の中はぬくぬくで、それにリキッドの男の子っぽい匂いにドキドキで、は羽をたたんでじっと丸くなっていた。
「リキッド、どうしてあそこにいたの? あたしが行こうとしてたの、知ってた?」
 さえずりだけは止まらない。
 リキッドは上着の上からそっと大事に手を添えた。
「バードが、教えてくれたんだヨ」
「バードが!?」
 驚きの声を上げるに、リキッドは話して聞かせた。
 に会いに地上へ下りたら、バードがいて、はここにはいない、天上界へ行くと言って、氷雪山へひとりで向かったと、不機嫌そうにだがちゃんと教えてくれたことを。
 そのとき、バードはの彼氏なんかじゃなくて、兄のような存在なのだということを知って、リキッドは小躍りしたのだった。
「リキッド・・・、あたしに会うために地上に・・・? 地上が嫌いなのに・・・」
 明らかにトーンが変わったことに、リキッドはハッとする。
 地上が嫌い・・・そういえばあのとき、思わずそんなことを吐き捨ててしまったのを思い出した。
 それがを傷つけていたことにようやく思い至ったとき、天上界の自分たちが住む浮遊島に到着した。
 着地すると、の小鳥が懐から飛び出して、ぽんっ。背に翼を持つ女の子に変わる。肩にはちゃんとストールをかけていた。
 温度差のせいか高低差のせいか、頬に赤みがさしていて、それがリキッドの目には可愛らしいものとして映ったが、表情にはやはり屈託が見て取れる。
「あ、あのさ、
 何と言えばいいのだろう。頭をフル回転させてもうまい言葉は浮かばないから、リキッドは頭を下げた。
「ごめん! オレ、あのときとバードが付き合っているのかと思って、ヒドイこと言っちまって・・・。前は確かに地上人のこと良くは思ってなかったけど、弟もいることだし、今は違うから・・・」
 結局、ありていに伝えるしかなくて。だけれどの表情はみるみる氷解し、ついには笑顔になっていた。
「やだ・・・、あたしとバードが付き合っているなんて、まさかそんな、ありえないよ」
 照れながら、バードが可哀想になるくらい思い切り否定している。
「あたし、彼氏なんていないのに」
「えっホント、じゃあさ・・・」
 今がチャンスだ。神の采配かと思うほどのタイミングだ。
 リキッドは思い切って両手をのべ、の小さな手を取った。
「オレなんかどう? ・・・彼氏に」
 緊張しながら、じっ、と反応をうかがっていると、は真っ赤になって、こくこくと二度も頷いてくれた。
「−やった!」
 リキッドはこぶしを突き上げ、ジャンプした。天にも昇る気持ちとはこのことだろう(ここはすでに天の上だが)。
 それから一歩近付いてきたリキッドを、思わず見上げたの瞳が、彼には期待しているように見えたらしい。
 いつの間にか、目を閉じた顔がすっごく近い。
(えーっ、早すぎない!?)
 キスなんてキスなんて、したことないのに。心の準備も何もないのに!
(でも・・・リキッドなら、いいかな・・・)
 静かに呼吸をして、も目を閉じる。ウエストに手を回されても、今度は変身もせず、身を委ねて。
「オーイおふたりさん」
「−−−!?」
 リキッドとは、弾かれたように離れた。は思わず小鳥になってしまう。
 リキッドは顔をしかめ、声の方を向いた。
「・・・乱世アニキ・・・」
 その眼には殺意すら宿っている。
「そんなトコに突っ立ってないで、早く来い!」
 乱世は委細構わず、片手に小鳥を乗せ、空いた手で三男の襟首をむんずと掴むと、家の中へと引きずっていった。

 家の中はきれいに片付けられ、赤い細長い絨毯が敷かれてあった。忍がラジカセのスイッチを入れると、流れてきたのは結婚行進曲。
「オイちょっと待てアニキたち」
「さァ〜、今日はめでてえ結婚式だ!」
 乱世はカゴを持って、そこらじゅうに花を撒き散らし始める。それにしても花の似合わない男だとリキッドは思った。
 その隣で、小さな男の子も花をまいていた。
「おめでとーリキッド!」
「ヒーローまで・・・」
 わざわざ末弟を連れてきたのか・・・。
「やっぱり兄弟全員で祝わねーとな!」
「友達もたくさん呼ぶよ・・・」
「見えねー友達は呼ぶなーッ、忍にーちゃん!」
 縁起でもない。
ちゃん、こっちおいでー」
 撒く花もなくなったところで、乱世はを手招きすると、ガバッと肩に手を回した。
「オレ、ちゃんみたいな可愛い妹が欲しかったんだよなー」
 それが乱世の本音だった。だから弟をたきつけたり、即結婚させようとしたりしていたのだ。
「わーいヒーローにもネーネができたぞー」
「お前らいい加減にしろよーッ!」
 リキッドがいくら怒鳴ってみても、この騒ぎの中かき消されてしまう。
 諦めてを目で追う。彼女は乱世に頭を撫でられ、ヒーローにじゃれつかれながら、笑っていた。
 ふと目を上げて、リキッドと視線がぶつかると、ちょっとはにかむようにしてから、にっこり笑みを深くした。
「宴会始めっぞー!!」
 乱世が音頭を取る。
「ワーイ!!」
「じゃあ祝辞として、拙者のポエムを・・・」
「読むなー!!」
 もう、大騒ぎ。

「悪ィな、ホント・・・アニキたちが・・・」
 あんな兄たちがいては、しっとりと二人きりなんて、とてもじゃないが望めない。リキッドはガックリ肩を落としていた。
 向こうでは、まだ飲めや歌えと賑やかにしている。いつの間にか英雄たちだのミイちゃんだのガマ仙人だの、客が増えていた。
「兄弟がいっぱいできたみたいで、私は嬉しいよ」
「・・・そうか・・・」
 それでも浮かない顔したリキッドの、手をそっと握る。
「でも、彼氏が出来たのが、一番嬉しい・・・」
・・・」
 思わず両手を伸ばして、ぎゅっと抱きしめようとする。
 は軽く避け、小鳥になって飛んだ。
「恥ずかしいからダメっ」
「・・・チェッ・・・」
 二人きりになりたい・・・。
! リキッドも、こっち来いよー」
 バードが呼んでいる。何か吹っ切れたような笑顔で。
「はーい」
 は鳥の姿のままで喜んで飛んでいった。
「・・・ま、いっか・・・」
 リキッドもついには苦笑いで、の後を追い、皆の輪の中に入っていった。

 自分たちまだ、始まったばかりだから−。











                                                             END



       ・あとがき・

アーミンドリームサーチさんのリクエスト企画で、リキッド夢のリクエストがあったので書いてみました。
乱世、忍と書いたから、いい流れだったと思います。
リクエストではリキッド×ヒロイン←バードということでしたが、私は一人がフラれるというドリームはあまり得意ではないので、バードは兄のような存在ということにしてみました。
私が乱世びいきなので、にーちゃんたち出ばってます。

パラレルのような感じですが、皆で仲良くしているこんな設定が、一番いいなー。





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