唄
竜魔は、近付きがたい雰囲気を持っている。今日のような、任務を終えて帰ってきた日には、特に。
だからたいてい、彼は一人でいた。
「竜魔」
縁側で木刀の手入れをしている兄弟に、はあえて声をかけた。拒まれはしないことは分かっている。いらえどころか、身じろぎすらしないけれど。
それでも、竜魔は、そばにいることを許してくれる。
「お疲れさん」
「・・・ああ」
隣にすとんと座り込んだ。こちらを一瞥もせず、竜魔は黙々と作業を続けている。は、その手もとを眺めていた。
血に塗れた手−。
恐怖や嫌悪などではなく。単に事実としてそう感じた。
風魔一族の忍として、使命を果たしただけ。いつものように淡々と仕事をこなしてきたのだろう。竜魔らしく、完璧に。
勝利のためには敵の命を奪うことも辞さない。無論、こちらが討たれることも覚悟の上だ。
里の娘であるにとっても、それらはありふれた出来事に過ぎなかった。
でも・・・。
こんなときの竜魔を見ていると、何故だか胸が痛くなる。
横顔の、傷を見ていると。
「唄、唄ってあげる」
唐突な言葉に、竜魔は初めて顔を上げた。それだけで、は微笑むことができる。
「あたし、何もしてあげられないから」
せめて唄ってあげる。幼い頃、一緒に聴いた歌を。
竜魔が望んでいる物など、何もないことは分かっている。だけどは、何かをせずにはいられなかった。名前をつけられない自身の気持ちのためにも。
「唄が、上手くなったな」
期せず褒められ、面映くも嬉しくなる。
「いつでも、唄ってあげる」
戦い続ける貴方のために。
竜魔は何も言わなかったけれど、その表情がほころんでいることには気付いていた。それが、自分といるときにしか表さない、優しい顔であることも。
他の兄弟とは明らかに違う。にとって、竜魔は特別だった。
そして、竜魔にとっても自分がそういう存在であることを、確信していた。
の口元から再びこぼれだした旋律に、黙って耳を傾ける。
透明な声が、耳なじみのある唄を紡いでゆく。それは竜魔を昔の風景にそっと引き戻してくれるのだった。
色ははっきりとしないけれど、懐かしくて温かく・・・そしてそばにはいつも、この娘がいた。
は、何もしてあげられない、と言うけれど。
ここにいてくれるだけで、十分だ。
自分の手と、しっかり握った木刀とに、竜魔はそっとため息を落とした。
の唄う声が、ほんの僅か揺れた。
決して、触れられはしないけれど。
気持ちを言葉にして伝えることすら出来ないけれど。
二人だけで共有する時間は、至上の安らぎに満ちていた。
・あとがき・
「唄」というお題を見たときに、ああこれは風魔だな、と思いました。結構前に思いついていたけれど、今まで寝かせていたネタです。
「歌」ではなく「唄」だから、和風なんだなぁと思って。それで風小次。
オリキャラ交じりの風小次小説「手のひら」と同じ感じで書きました。使った歌は、これまたオリキャラ混合風小次小説「野の花」と同じ歌を。
龍騎(項羽と小龍の父)が歌い、そして白羽(項羽と小龍の母)に歌い継がれた歌だから、きっとちゃんも歌えるんじゃないかな? と思って。やっぱり風小次ってドリームに向いてないかも・・・と書きながら思った。本当はもっと哀しげな感じになっていたんだけど、出来るだけ甘めになるように修正しました。でもこれくらいが限界。
なぜかといいますと。
風小次は、星矢と違って、「全員生き返りました設定」に出来ないんですよ。
そういう設定にしてしまえばいいだろ、と言われるかも知れませんが、少なくとも私は出来ない。だって原作でも誰一人として生き返ってないし。
救いのないマンガですよお。でも大好き。
もう一つ、登場人物の年齢が低めだからというのもあります。
本編で年齢までは明らかにされてませんが、おそらく星矢たちと同じくらいでしょう。きっと小次郎は13才。
ローティーンでスィートドリームは難しいモノがある・・・。
同じ理由で、もし私が青銅たちのドリームを書くとしても、ほのぼの止まりです。風小次、来月からREDで新連載のニュースを聞き、書きたい熱がじわじわと・・・それでばーっと書いた短編です。
竜魔って好きキャラ。カッコいいよなぁ。アニメでは声が一輝兄さんだしなぁ。ドリーム化が難しい風小次ですが、また書けたらいいなと思います。
今度は是非、羽使いの双子を書きたいですね!
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