うるさいな。
「はいシュラ、これ、チョコレート」
2月14日のデートでは、予測していたことである。けれど気持ちは気持ちだから、シュラは恋人の差し出した包みを丁寧に受け取った。
「ありがとう」
そのまま置いておこうとしたところが、軽く手首を押さえられる。
「ねっ開けてみて。これはミッシェル・ショーダンっていう、フランスの高級チョコレートなんだよ。カミュに教えてもらったんだ。すごいでしょ!」
他の男の名を出すなんて、故意か無意識か。どちらにしても、面白くはない。
「何がフランスだ。チョコレートがヨーロッパに広がったのはスペインからだぞ」
アステカからスペインに伝わって、しばらく門外不出の独占状態だったと聞いたことがある。
「そうなんだ、知らなかった」
は素直に感心していた。
「ねえ、チョコレートってスペイン語では何て言うの?」
「チョコラーテ。チョコレートは英語読みだ」
すっかり話がそれてしまうと、急に先ほどの嫉妬心が恥ずかしくなる。自分にこんな子供っぽい部分があったなんて、と付き合うまでは知らなかった。
ラッピングを解いて、箱を開けてみる。可愛い形の一口チョコレートが、二列に並べられていた。
「すごいでしょすごいでしょ! おいしそうだよね」
「ああ」
もらった人以上のはしゃぎように、どうやらシュラにもの魂胆が見え透いてきた。
「じゃあ早速食べてみるかな」
一粒を取り上げ、もったいぶりながらゆっくりと口に入れる。
「・・・どう? どう?」
「うん、うまい。これはうまい」
口の中でとろけるまろやかさと独特の風味が本当においしい。高級チョコレートというのも名ばかりではないらしい。
熱い眼差しを感じながらも、そ知らぬふりで次のチョコレートを選んでみる。視線は恋人たる自分に注がれているのではない。おそらく値もはったであろうバレンタインのプレゼントに集中しているのだ。
「なかなか買えないんだよね、それ」
「そうだろうな、おフランスものだからな。確かにうまいよ。ありがとう」
口だけは丁寧に礼を紡ぐが、顔を上げもしない。
「・・・ねえ、そんなにおいしい? 私も食べてみたい」
焦れて、近付く。
「うるさいな、人がせっかく味わって食べてるのに」
と、もう一つ口に入れた。
「ひ、ひどい、シュラったら」
絶対、分けてもらえると思っていたのに。甘いものが特に好きというわけではないシュラのこと、うまくいけば半分以上せしめることが出来るかも、などと勝手な計算までしていたのに。
要するに、普段なら滅多に手に入れられないチョコレートを、自分が食べてみたかったのに!
シュラにはとうにばれている。無論、知っていてからかったのだ。
「ちょうだい、食べたいよー」
「・・・うるさいな」
顔を上げざま、ぐいと肩を引き寄せる。の可愛い唇に、キスをした。
「・・・」
口移しで、チョコレートが転がり込む。溶けかかったそれは熱くて、とても甘くて、とてもとても美味しかった。
口の中は言うまでもなく。触れ合った唇も、心すらも、とろけそうに。
「うまいだろ?」
「・・・もっと」
お菓子をせがむ子供のように、抱きついた。
もう、シュラも「うるさいな」とは言わない。
二人はそのまま、甘いチョコレートを溶かし合って・・・。
・あとがき・
遅れたバレンタインデーネタを、もう一つ。
短くて甘い、ベーシックな恋人ドリームです。この間、本屋さんで「チョコレート事典」という本を買って。チョコレート命! のかづなにはとっても嬉しい本でした。チョコレートの歴史やらレシピやら有名なショップやらがたくさん載ってるのー。眺めているだけで幸せ。
それでちょっと、チョコレートについて書いてみようと思いつきました。
本文にもあるように、ヨーロッパには最初にスペインに伝わり、しばらくカカオの栽培法は門外不出だったそうなので、シュラお相手で。
シュラはそんなにチョコレートに興味なさそうだから、スペインとチョコレートの繋がりについて知っているのか謎だけど。バレンタインの時期にチョコレートを自分のために買うって、昔から私はやってました。普段はないようなチョコレートが売っているものね。
ちゃんは、表向きシュラにあげたけれど、きっと自分のものになるだろうと確信していたらしい。
それを見破ったシュラに、ちょっと意地悪されちゃったのね。口移しネタって好きなんですよ。甘いチョコレートがますます甘くなりますね♪
H16.2.19
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