テストの前に
期末テスト前の自習時間・・・どの教室も静まり返っているはずの時間。
一階の隅にひっそりと存在する進路指導室には、学校という聖域にはおよそ似つかわしくない声が響いている。
「はぁっ・・・」
荒い息遣いに、淫らな音が重なる。
女生徒の制服は乱され、男の大きな手が素肌に触れていた。
「カノンせんせ」
膝に抱きかかえられるような格好のは、両腕を相手の首に巻きつける。こんなとき意識せずとも甘い声が出るのは、最近知った不思議の一つ。
「先生じゃねぇよ」
からかうような目で、それでも熱っぽく見つめている年下の恋人に、キスをする。
は冗談で『先生』と呼ぶが、カノンは複雑な気分になるのだった。
「お前に教えられることなんて、こーゆーのしかないんだからな」
「ふふ・・・」
それだって、立派な先生でしょ。・・・口にする前に、新たな快感が襲いくる。
「今日はあまり時間がないから、そろそろいくか」
そっと床に寝かせ、準備を整えると、性急にと繋がる。
「ふあっ・・・!」
「いっちょ前の声出しやがって。最初は痛がって泣いてたクセに」
自分の下にいる少女を苛めたくて、わざと言葉で責めてしまう。
は、ゆると辺りを見回した。
「最初も、ここだったよね。ここでカノンがあたしをだまして、レイプしようとしたんだよね」
「変なこと言うな。結局合意の上だったろ」
軽く動作をしつつ、の髪をかきやってやる。
徐々に大きくなる声が愛しかった。
が恋をした相手は、数学担当の教師、サガだった。
積極的な性格のは、止められない恋心を手紙にしたためると、早速サガ先生に手渡した。
その日の放課後、進路指導室に呼ばれて行くと、大好きな先生が一人で待っていたのだった。
「君の気持ち、嬉しいよ」
そう言うサガに、ぎゅっと抱きしめられて。キスと服の上からのペッティングを、呆然としながらも受けていた。
(せっ先生、何をするつもりなの・・・まっまさか・・・)
未知の恐怖と期待に、くらくらする。そのまま壁沿いに共々座り込んだ。無防備にも背中を向ける格好で、抵抗も出来やしない。
(でもどーせ捨てなきゃいけないんだし。先生になら、いいわっ)
はサバサバと結論づけた。
何度めかのキスを受けて、目がとろんとしてくる。
「サガ先生・・・」
先生の表情が微妙に変化したのは、そのときだった。
サガ、と呼ばれて、カノンは何とも言えないいやな気持ちになった。
今日は兄の代わりに学校に出ていた。そうとも知らず(いや、入れ替わっていることを知っている者は一人としていないのだが)ノコノコと手紙など渡しに来た女生徒を、サガのふりをしたまま頂いちまおうと思った。いつも兄の影のようにして生きているのだ、たまにはこんな楽しみがあってもいいだろう、と。
だが、というこの娘を抱きしめていたら、もっと別の感情が湧いてきた。
「サガ先生」
そう呼ばれたことで、はっきり自覚した。
この娘を、独り占めしたい。
サガとしてではなく、カノンとして、抱きたいのだと。
「サガと呼ぶな。俺はサガじゃねえ」
「・・・えっ?」
唐突な言葉に、夢から醒めたように目をパチクリさせる。
「だって・・・」
「俺はカノンだ。サガの双子の弟だ」
後のことにまで気は回らない。ただ突発的な想いに突き動かされ口を開く。
カノンはを両腕に抱いたまま、耳元であらいざらいを話した。
兄のサガは俗に言う二重人格者で、時々外に出られないほどの症状を呈することがある。そんなとき、代わりに学校に来て授業をしているのだと。
「ウソ・・・全然気付かなかった」
「気付かれるくらいなら困る。俺も教師を目指していたけど、兄貴とは出来が違うからなりそこなってな」
「でも、授業だってちゃんと・・・」
「授業の下準備はサガがいつも完璧にやってるんだ。それを使えばお前にだって授業は出来る」
「信じられない・・・」
と言いながらも、はこの荒唐無稽な話を疑ってはいなかった。
この人は、サガ先生とは違う。言葉遣いや態度だけではなく、根本的なところで違う。
顔はそっくりだけれど、別の人間なのだ。そう直感的に理解した。
「なあ、」
声の調子を少し優しくして、首筋に指を滑らす。「くすぐったい」と首をすくめる幼さに、小さく笑った。
「サガじゃないと、ダメか?」
「?」
意味を掴み損ねて、振り向くようにカノンの顔を見る。その唇を逃さずもう一度口付けると、カノンはの髪に顔をうずめるようにして、強く抱き寄せた。
「俺と付き合わないか」
「え・・・」
空白の数秒間、たっぷり逡巡して。は少し緩んだ腕の中、身じろいで再び相手の顔を見上げる。
太陽は西に大きく傾き、窓から夕日が差し込んでいる。オレンジ色の陰影の中、カノンはなぜだかとても寂しそうに見えた。
「カノン・・・」
呼び方に迷い、結局呼び捨てにしてしまう。
元のように前を向き、は小さく頷いた。
「・・・いいよ」
寂しそうなこの人を、放っておけなかった。
抱きしめられているそのぬくもりから、離れ難かった。
「カノンと付き合う」
「本当か? いいんだな」
嬉しくて子供のように胸が躍る。こんな気分は本当に久しぶりだ。
10以上も年下の相手に、その気持ちを隠そうともせず、がばっと抱きしめた。
「は今日から俺のものだ」
「・・・うん」
モノ扱いなんて、普段だったら怒ってる。でも、なぜかカノンに言われると、こそばゆいけどじんとした。
この人のものになっても、いいなぁと思った。
「全部、もらうぞ。今ここで」
「カノン・・・」
とろけるようなキスに目を閉じる。ほどかれるリボン、上手に脱がされてゆく制服。
二人は、そこでそのまま体を重ねたのだった。
あのときの思い出は、の中ではいつもオレンジ色だった。
幸せで大切な、心の宝物だ。
「あ・・・っ、いい」
今はもう慣れた、というかカノンによって慣らされた、というか、体の快楽を感じることも出来るようになっている。
「どんどんインランになってくな。ガキのくせに」
なんてからかわれると、誰のせいだと言いたくなる。・・・波に流されてしまって言えないけれど。
放課後や休みの日など、普通のデートももちろんしている。でも、カノンがサガの代わりに学校に来ているときには、せっかくだからと校内での逢瀬を楽しむのだった。
も、今では見ただけでサガかカノンがすぐに区別がつく。他の人が全然気付かないのが不思議なくらいだ。
「バカもっと力抜けって」
「無理だよぉ」
互いの体がとても良くて、高まるのを止められない。
普通のときよりも、学校でする方が断然興奮する。いつもは真面目に過ごしている場所で、制服を乱しこんな淫らな行為にふけるという背徳感がそそるのだ。
だから今日も、テストの前だというのに、悪い遊びのように貪り合う二人なのだった。
「んんっ」
の身体を起こし、座って向き合う格好になる。制服の隙間を広げ、柔らかな胸を愛撫した。ブラジャーが上に押し上げられているのが、何ともいやらしい光景だ。
「胸、大きくなった気がするんだけど」
「そーか?」
気のない返事には尚も言い募る。
「カノンが揉んでばっかりだから大きくなったんだよーきっと!」
「じゃ、もっと大きくしてやるよ」
笑って、わざと強く揉んでやる。ピンク色の突起に吸い付くと、幼いながらになまめかしい声が上がった。
感じている顔もよく見える。だからカノンはこの体位を好んでいた。
「あぁ・・・」
しかしこのままだと思うようには動けない。そこそこ楽しむと、そろそろ限界が近いこともあり、またを床に横たえた。
「・・・」
動きが激しくなり、終わりが近いのだとも悟る。遠慮のない声を上げ、最大限の感覚でカノンを受け止めると、快さに体が痺れた。
「・・・カノン」
自分の上でじっとしているカノンの、長い髪を梳くように撫でる。
ずっと年上のカノンが、こんなときには危なっかしいほど無防備で、守ってあげたくなるのだ。
「・・・大好き」
抱きしめる。優しく抱きしめる。
ずっと離さない。
「テスト大丈夫か? 問題教えてやろうか。兄貴が作ってるの見てたから知ってるぞ」
最初の科目はちょうど数学だ。本気でそんなことを言うカノンを、は笑っていなす。
「そんなズルできないよ。大丈夫、ちゃんと勉強したんだから」
「ちっ、真面目だねぇは」
数学は得意科目だ。もともと、大好きなサガ先生に認めてもらいたい一心で頑張っていた教科だし、今もその気持ちは変わっていない。
そう、カノンには内緒だけれど、は変わらずサガ先生のことが好きだった。
といっても、カノンに対する気持ちとは全然違う。単なる憧れなのだと、も自覚していた。
サガに対するプラトニックな恋心と、カノンに対する肉欲も含めた深い愛情と。二つながらは心に抱えている。そこに矛盾はなく、ごく当たり前に両立させていた。
「カノンにも勉強聞いてたしね」
テスト前にはいつもカノンに見てもらっている。カノンは「誰にでも授業は出来る」なんて言っていたけれど、ちゃんと教える才能があることをは感じていた。
「カノンはあたしだけの先生だよ」
だからときどき、冗談で「カノン先生」と呼んでいるのだ。
は制服を、サガはスーツを。元のようにきちんと着て、ぱんぱん、と埃を払う。
「さて、行かなきゃ」
「テスト終わったら、またここで・・・な」
最後に軽いキスを交わし、辺りをうかがいながら二人は別れた。
「、どこ行ってたんだい?」
ギリギリの時間に教室へ戻ると、クラスメイトの魔鈴がこう聞いてきた。別に不審がっているふうではない、他にも席を外している生徒たちはいたはずだから。
「んーちょっと、ひとりで集中できるとこで勉強してたの」
「とか言ってサボってたんだろ?」
笑いながら口を出してきたのは、シャイナだ。
「は数学得意だからいいよねぇ」
「へへへ」
自分の席につき、筆記具を出す。
ともすれば放課後のことを考えてしまい、ニヤけそうになるほっぺを軽く叩いた。まずはテストに集中しなくては。
(でも・・・テストの前に、あんなことしちゃうなんて)
誰も知らない。クラスの中には、いや学校の中にはたくさんの人がいるのに。
誰一人として、さっきまでがしていたことを知らないのだ。
それを考えると、体の奥がまたじんとしてくる。
(続きは、テストの後でね・・・)
大好きなカノンの顔を思い浮かべ、は誰にも気付かれないように、クスッと笑った。
・あとがき・
前回(フェンスの向こう)、初めて学園ものパラレルドリームを書いて、かなり自分が楽しかったので、引き続き学園パラレルにしてみました。
「読みたいドリーム小説アンケート」では、パラレルドリームに一票も入ってないのですが、まぁ、自分の書きたいものを書くのが「かづなのシュミの小説」ですから。(じゃあアンケート取るなよ・・・)もうね、学園モノといえば、先生と生徒の禁断の恋! コレしかないでしょ! ということで、誰を先生にするか色々考えました。
やっぱり先生役は黄金聖闘士でしょー、意外にそういうのしなさそうな人だと面白いかな・・・とかあれこれ悩みましたが、ふとこんな話が浮かんで。サガに憧れ告白したけど実はカノンだった・・・という。
でもふたり、真面目に付き合っているので良いと思います。10才以上も離れてて、カノンほとんど犯罪ですけど!(笑)
それでもカノンを守ってあげたい、と思うちゃん。カノンって母性本能くすぐるタイプかも。実は当初、カノンと黒サガと3P、というネタだったのですが、やめときました。そしたら純愛ドリームになりましたね。
先生と生徒でもなくなっている(笑)。次こそは本当に先生と生徒にしたいです。(まだやる気?)
先生役のリクエスト大募集☆サガを数学の先生にしたのには深い意味はありません。
私にとっては数学は天敵でしたけどね・・・。いつも赤点だった哀しい思い出。
サガみたいな先生だったらなぁ。しかしカノンドリームは結構書いている気がしますが、サガの単独ドリームを書いたことがありませんね。
私がカノン好きだし、割と書きやすいキャラだからなぁ。
でもサガのドリームも書いてみたいです。
H15.11.18
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