手
「あー、いっぱい買ったねぇ」
「の服の方が多い気がするけど」
「気のせい、気のせい」
からから笑うの隣を、荷物持ちにされたアイオロスはそれでも微笑んで歩く。
今日は二人とも休みで、市街に買い物に出た。「アイオロスっていつも同じような服ばっかり着てる。ちょっとはおしゃれした方がいいよ。あたしが選んであげるから、買いに行こう」とが強く誘ったからこういうデートになったのだが、結局、彼女の服選びの方により時間がかかっていた。
二人でいればそれで楽しいから、アイオロスに不満はない。荷物を全て持っていても、足取りは軽かった。
「帰ったら早速ファッションショーだね!」
「その前に晩飯食おうよ。俺、腹ぺこだー」
夕闇の訪れが日に日に早くなる秋、もう二人は舗道に長い影を引きずっている。
「・・・寒くなってきたね」
陽が落ちると急激に冷え込んでくる。はぶるっと体を震わした。
アイオロスはそんな様子を見下ろしていたが、買い物袋を全部片手にまとめて持つと、空いた左手で彼女の右手を握った。
にっこりすると、も笑って見上げてくれた。
手ぶらのは、左手も伸ばして両手でアイオロスの手を挟むようにして歩く。
大きくて頼りになる手。彼の大らかで情熱的な性格がそのまま表れているような。
そしてアイオロスは風の聖闘士だから、顔を上げて背を伸ばして、真っ直ぐ風を受けている。・・・それが、どんなに強く、冷たい風だとしても。
「アイオロスの手って、あったかい」
「後でもっと、あっためてあげるよ」
何気なく囁かれたその意味を受け取って、赤面してしまう。
「・・・アイオロスったら」
人馬宮まで、ずっと、手を繋いで歩いていった。
「やっぱりこうするのが一番あったかいだろ?」
「ん・・・あったかいを通り越して、熱いよ・・・」
だるそうにとろけそうな言葉の下で、息を荒げている。そんな様子が愛しくて、アイオロスはの細やかな肌に唇で触れた。
二人で仲良くご飯を食べてから、新しい服の試着会もやってみたけれど、結局は全部脱ぎ捨てて、ベッドの中にもつれこんでいる。
「や・・・あん。アイオロス、早く・・・」
いたずらにじらされることに、抗議の声を上げた。
「欲しい? ガマンが足りないなぁは」
なんて笑いながらも、アイオロスにも余裕はない。息を整えることもせず、の中に入り込む。の柔らかい体は、抵抗もなく受け入れてくれた。
「・・・」
シーツの上で手に手を重ねて指をからめて、しっかりと握る。
体の末端ですら、こんなにも烈しい熱を発していた。
「やだぁ・・・あつい・・・」
身をよじるのを逃さず、ぐっと奥を探る。そうすると、切なげな声が漏れる。
もっともっと声を聞きたくて、アイオロスは夢中でそれを繰り返した。
「可愛いよ・・・。大好きだ・・・」
うっすら汗をまとった桃色の肌は、視覚からも官能を高めてくれる。
「うあ・・・アイオロス・・・」
やがて震える体の中に、止められない迸りを受け入れた。
同時に登りつめて、意識が白く遠のいた。
裸の身体を起こして、そっと、隣を見た。は可愛らしい寝息を立てている。
あどけない寝顔から自分の手に目を移した。大きな手を一度握ってまた開いてみる。
強大な拳を放つことも出来る手。
血にまみれていることも、また事実。
それでも・・・。この手は、愛する者を抱きしめ、あたためるためにあるのだと思う。
あのとき、赤ん坊だったアテナをしっかりと抱きしめたように−。
「アイオロス・・・」
ふっと目を開けて、闇を透かしこちらを見ている。
の可愛い頬を、優しく包み込んであげた。
「眠っていていいよ」
守ってあげる。抱いてあげる。
必要としてくれるなら、いつまでも。
この手で・・・。
・あとがき・
ここいらでひとつ、黄金の誰かのドリームを書こうかな、とぼんやり思って。
牡羊からそれぞれを思い浮かべてみたんだけど、やはり止まったのは射手でした。
100質でも答えてるんだけどね、私、アイオロスドリームが書きやすいの。
なんか裏表がなくてカラカラしててさっぱりしてて、こういう人ってホント書きやすいの。
アイオロスでベーシックな恋人ドリームを書こう、と。もっと前から「私的夢100題。」をやっていたら、シュラの「baby baby」には間違いなくこの「手」というお題を割り当ててましたね。
まぁ、内容は同じようなことなんだけど。
聖闘士って、少なからず手を汚しているでしょ。
その手で愛する人を抱きしめることについて、悩んでしまう人もいると思うけど、アイオロスはそんなことないんじゃないかな、と思ったの。
何も考えないんじゃなくて、全てを受け止めて、それでもこの手は愛する人を抱きしめるためにあるんだ、って思えるような・・・そんな人だと思います。
まぁ基本は楽天家だから、悩まずあっさりとしているだけかも知れないけど。女性には冷え性の人が多いと思うけど、私もそうです。冬は手足が冷えて大変!
そんなとき、手の温かい人に握ってもらうと、幸せ気分になります。男女に関わりなくね。
そういうところから思いついたおはなしです。「手」というタイトルはキャラに手をあたためてもらうネタに使おう、とは決めていましたが、そのお相手キャラまでは決まってなかった。ホントはベッドシーン入れるつもりじゃなかったんだけど、ほんのオマケ(笑)。
なんかアイオロスって、軽くエッチなこと言いそうで、しかもそれがいやらしくなく聞こえるような、そんな人のように思えます。
H15.10.16
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