煙草
待ち合わせはいつも同じ場所で、まともな挨拶もしないで即ホテルに向かう。もうホテルで待ち合わせた方がいいんじゃないかって思うくらい。
お互い、時間に余裕があればしばらく居座ったりするけど、どっちかに用事があるとか気が向かないときには、コトを終えればハイサヨナラ。
私たち、ただそれだけ。私はラダマンティスっていう、彼の名前しか知らない。本当の名前だって言ってた。だからというわけでもないけど、私もって本名を教えた。
こんな関係、楽でいい。
恋愛なんて面倒くさいだけだし、ちょっと誘いに乗ってやればもう恋人ヅラの、頭悪い男なんてウンザリ。
何よりラダマンティスの体とセックスを、私はすごく気に入っている。
「・・・何やってんだ」
「んー」
ラダマンティスの喋り方っていつもぶっきらぼうで、最初は怒っているのかと思った。これが普通なんだって分かってからは、もう気にしなくなったけど。
私はラダマンティスの上半身を遠慮なく触って遊んでいた。上腕とか胸とか首とか。すっごく格好良い。それに綺麗。男の人の体を「綺麗」なんて思ったのは初めてだけど、筋肉とかがホント綺麗なんだ。
背も高いし外見いいから、Hだけじゃなくて一緒に街を歩いたり食事をしたりして、デートのまねごとするのも楽しそうだけど、相手はそんなの望んでないみたいだし、そういう仲でもないし。だいたいラダマンティスはいつも不機嫌そうな顔をして、無口だった。沈黙が苦にならない相手だとは思っているけど、陽を浴びながら笑顔で歩くような健康的な行動は、この人とは出来ない。
昼間でも薄暗いこんなホテルで、じとじと重なってるのがお似合いだ、私たち。
「ベタベタ触って、面白いか」
「うん、面白い」
ラダマンティスは嫌がってはいないけど、楽しそうでもなかった。何だかいつも仕事が忙しくて疲れているみたいな人だ。こんなことしてるのは、きっとストレス解消なんだろう。私は、暇つぶしだけど。
「こんなに鍛えて、何やってる人なのラダマンティスって」
やっぱり相手は黙ったままだったけど、私は構わなかった。答えなんて期待してない。
どこで何してようと、お互い関係ないもの。
「おい、鳴ってるぞ」
言われてバッグに手を伸ばす。中で携帯がブルブルしてた。この震え方は、メールだ。
一応気を遣ってバイブにしてるんだけど、この人やたら鋭くて、すぐ気付いて教えてくれる。
何となく見てみると、男友達からだった。『最近連絡くれないけど男でもできた? 暇なら遊ぼう』みたいなメッセージが並んでいる。
なんだか妙に冷めた気分になって、そのまま携帯を折りたたむ。
確かに最近、私は誘いに乗らなくなった。
男友達と遊んでも、エッチしても、つまんないって思ってしまうから。
ベッドの方を振り向く。ラダマンティスは、じっと天井でも見つめているみたいだった。何の関心もない、当たり前のことだけど。ただのセックスフレンドのことなんて。
・・・他の男と遊べなくなったのは、この人のせいなんだ、多分。一人に偏りかけている気持ちというのが、自分で怖い。
本気で好きになったって、いいことないって分かっているのに。
携帯を放り込むついでに、煙草を取り出した。そしたらいきなりラダマンティスが起き上がって、私の煙草を取ってしまった。
「何よ」
一応腕を伸ばすけれど、取り返せるはずもない。むくれた顔で見上げるのが精一杯。
「こんなのやめろ」
「あんただって吸ってるじゃない」
それに、今までだって吸ってたけど、そんなこと言わなかった。
ラダマンティスは、少し困ったような顔をした。そんな表情は新鮮だったけど、それは一瞬だけで、すぐ元の仏頂面に戻ってしまう。
「俺もお前の前では吸わないから、お前もやめろ。女が煙草なんて吸うな」
「・・・いつの時代の人よあんた・・・」
なんか力が抜けてしまった。呆れたというか。
「将来、子供産む体だろ!」
ラダマンティスは、もうやけみたいに言った。
・・・だから女は煙草を吸うなって?
例えばお父さんとか、他の人に注意されたら笑い飛ばすか無視するか、ムカついちゃうか。
だけど何故だろう、私は、少し嬉しかった。
心配してもらったからかな。将来のことなんて口にされたからかな。
とにかく、ラダマンティスにそう言われて、口元がニヤついちゃうくらい嬉しかった。
「・・・ふん」
でもそれを表に出したくはなくて。うん、やめるよ、なんてもちろん言えなくて。
表面上、ふてくされたまま、ラダマンティスの体に飛びかかった。
「時間、いいんでしょ?」
第二ラウンド、いってみよー。
攻めたい気持ちだったから、そのまま乗っかって、あんなこととかこんなこととか。
でもいつのまにか、入れ替わって、主導権を渡している。
熱くなっちゃって、息が激しくなって、気持ちよくて。
セクシーな声出しちゃって、しがみついてみたり。
「ラダマンティス・・・」
それで、我慢できなくなるのは、いつも私の方。
ラダマンティスは余裕の顔して、準備してから欲しいのをくれる。準備っていうのは、避妊のこと。彼は絶対それを忘れない。
いつも体調とか気分を慮ってもくれるし、何と言うか、そういう意味では紳士的な男で、安全な相手だった。
そうじゃないと、安心して遊べないし、ねぇ。
「・・・んー−−」
入ってくれば、最高に良くて。ものすごい、やらしくなってしまう、私。
他の人とだと、つい演技しちゃったりとか頭の中では別のこと考えてたりとか、あるけど。ラダマンティス相手のときに限って、絶対それはない。掛け値なしにイイから、訳分かんなくなって乱れまくってる。
「」
「んんっ・・・」
目の焦点がラダマンティスの顔に合う。ちょっと我に返っちゃった。
「、俺とするの、好きか?」
最中に話し掛けてくるなんて、珍しい。しかも、何でこんなときにそんなこと。なんて疑問はこのときには思い浮かばなかった。
「うん、好き」
泣きたいような、じわじわくる気分を感じて。ただただ、繰り返す。
「好き。ラダマンティス」
抱きついた指先に、力込めて。
そのときラダマンティスは、微かにだけど確かに笑った。これも初めて見る顔だった。
「そうか」
突いて、何回も。もうダメってくらいまで。
建物を出ればあとくされも何もなく、まるで他人みたいに別れる。
「ラダマンティスってどこに住んでんの?」
いつもの軽さで聞いてみた。もちろん、答えなんてくれるわけないと思いながら。
だけど今日は、ラダマンティスはこんなふうに返事をした。
「地下の世界・・・、闇の中だ」
・・・珍しい。この人が冗談を言っている。
あんまり珍しかったから、悪いけど突っ込めなかった。
でもラダマンティスはそれ以上何も言わず、照れも笑いもしないで、背を向けて行ってしまった。
「闇の中、か」
あんまり似合わないけど。本当はどこなんだろ。
・・・知りたいって思っている? 私ったら。
相手のことを知りたいって思うことが、恋の始まりだなんて。どこかで誰かが言っていた、陳腐な決り文句。
(ま、いいや)
どうでもいいや。
今度はいつ、会うことになるかな。
私とラダマンティスの、体だけの関係は変わらず続いている。
でも、ラダマンティスが笑ってみせてくれることが、多くなってきたような気がする。
私は、とりあえず煙草はやめた。
−小さいけど認めたくない変化が起きていることに、気付かないわけにはいかないみたい。
春を待ちわびるみたいに、ウズウズしてるから−
・あとがき・
突発です。ちょーっとH系書きたいなーと。いわゆる「割り切ったお付き合い」「大人の関係」(←この言い方にはちょっと抵抗が。そういうののどこがオトナなんだろう)ってのを前々から書きたかったのもあって、ラダマンティスに白羽の矢が。
硬派な(?)ラダマンティスを今まで結構書いてきたけど、こんなのも似合う気がする。
二人、どんなふうに出会ったんだろう。逆ナンかな? 携帯の出会い系サイトだったら笑うなぁ。今はネットを介して簡単に出会えちゃうもんねー。そういう関係について、考え方は人それぞれだから自分で責任持てる範囲で好きにすればいいと思うけど。
人間は誘惑に弱いから、「私は絶対そんなことしません!」なんて心の清らかな人間のフリもしないけど。
私個人としては、本当に愛せる人と出会えれば最高だよね、って、これに尽きます。
ま、そういう人と出会うまで、こんなふうに遊ぶってのも、考え方としてはアリかな。
不倫は・・・いやー、これは語れば長くなりそう。またの機会に(笑)。書き始めたら一人称の方が似合いそうだったので、今回はヒロインの一人称にしました。
そのせいもあり、せっかくの名前変換なのにあまり名前が出てこなかった・・・。
一人称なので言葉を崩し、文章語は極力使わないようにしました。
ラダマンティス側の心理描写は一切ないけど、互いに想いが芽生え始めていることを感じてもらえれば幸いです。煙草は私は吸わないです。遊び程度にふかしたことしかない。
特に今は妊婦さんなので、敏感になっちゃって。人が吸っている近くにも寄りたくない。飲食店では絶対、禁煙席!
でもこの間、禁煙席って言って案内してもらったのに、隣の席の人がスパスパ吸い出して。どうやら混んでいたから喫煙席に座らされたらしい。ムカッ!!
H16.1.21
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