素朴な疑問
「ちゃん、僕、ちゃんのことが好きだっちゃ。だからあのー、僕と付き合ってくれんさるか?」
顔を真っ赤にしたトットリに、一生懸命告げられたときには、もちろん悪い気はしなかったけれど。
でもは、即答はできなかった。
トットリの全身を眺める。
忍者装束に身を固め、首元には真っ赤なスカーフ、きわめつけに、足もとはゲタだ。カランコロン音を立てて歩くのだ、忍者のクセに。
の知る限り、彼がこれ以外の格好をしていたことはない。
この童顔は結構好みだけれど、まさかデートにもこんなファッションで来るのかと思えば、とても彼女として付き合う勇気なんてなかった。ついでに言葉づかいもちょっと変わっているし。
なのでとりあえず、「まずは友達から」という常套句で逃げたのだが、トットリはそれでもとても嬉しそうな顔をしていたので、内心ちょっぴり、厄介だな、と思ったものである。
「ちゃん!」
待ち合わせ場所で大きく手を振るトットリに、街ゆく人たちの注目が集まっている。はもう近付きたくなかった。
服装自体は無難な私服だけれど、やっぱり首にスカーフ、履物ゲタ。
顔が可愛くて体格もちょうど均整が取れているだけに、そのギャップが更に好奇の目を誘っている。
「友達として」一緒に遊びに行こうと誘われて、試しにOKしたことをは後悔していた。
「ちゃん、こっちだっちゃ!」
どうしよう、今なら逃げられるだろうかと躊躇しているうちに、トットリが駆けてくる。カランコロン、軽快な音を立てて。
「も、もう来ていたのね、トットリくん」
「楽しみでしょうがなくて、つい早く着いちゃったわいや」
素直な言葉と表情に、はからずきゅんとした。素敵な人だということは分かっているのだ。ただ、服装や言葉に難があるというだけで。
「行くだらぁか」
ゲタを鳴らす。先に行こうとは決してせず、を待ってくれているので、仕方なく並んで歩き出した。
これははたから見たなら、立派なデートだろう。赤いスカーフのゲタばきが自分の彼氏なんて・・・そう思われているなんて耐えられない。
「・・・あの、素朴な疑問なんだけど」
「うん。何だらぁか、ちゃん」
話し掛けられて嬉しそうなトットリに、は控えめに聞いた。
「そのスカーフとゲタ、いつも身につけているけど、どうして?」
トットリは首のスカーフを誇らしげにつまんで見せる。
「これは、僕のお師匠さんにもらった大事なものだから、肌身離さないことに決めているっちゃ。それにゲタは、僕の武器だから」
「武器って・・・別にこんなときにまで武器はいらないんじゃ・・・」
トットリは確かにガンマ団の刺客だけれど、そのゲタ占いの術とかいう冗談みたいな技のためのゲタが、なにゆえのどかな日曜のお出かけに必需だというのだ。
見上げると、トットリは存外真剣な顔をして、
「ちゃんに何かあったら、守ってあげるのは僕の役目だからだっちゃ!」
きっぱりと、言い切った。
は、二の句が継げなかった。
二人は並んで、歩いてゆく。
カランコロンと、足音を残して、歩いてゆく。
「、昨日のデートはどうだったの?」
「詳しく教えてよ〜」
「だから別にデートなんかじゃ・・・」
が友達につつかれて返事に困っているところを、ミヤギと連れ立ったトットリが通りかかった。たちは彼らに気付かず、話を続けている。
「相変わらずあの赤いスカーフ首に巻いて、ゲタ履いてたから、私恥ずかしくて・・・」
「エーッ信じらんない!」
「ヤダ、一緒に歩けないよねえ」
「・・・・」
「あっおい、トットリ」
踵を返した親友を、ミヤギも追う。大騒ぎの女の子たちは、それにも気付いていなかった。
「もう誘われても行かないんでしょ?」
友達に聞かれて、は軽く首をかしげた。
「ん・・・でも、トットリくんって本当に優しいし、一緒にいて楽しいって昨日思ったんだ」
「モノズキねえ、は」
「確かに顔も悪くないしね。意外とお似合いかもよ?」
こんな会話は、当のトットリには届きはしなかった。
「よお、元気出すべ」
うなだれたままのトットリを、どういたわってあげたものか。
「見た目にばっかりこだわる奴に、ロクなのはいねえべ。おなごなんか、ごまんといるべさ」
慰めの言葉を尽くしているうちに、トットリはおもむろにスカーフを取り、ゲタも脱いでしまった。ミヤギは目を丸くする。
「おめ、おなごひとりのために、そこまでするか? 言われたからって何でもするようじゃ、ただの腑抜けだべな」
「何とでも言いなさるがいいっちゃ。女の子がごまんといたって、僕はちゃんがいいわいや」
きっぱりとした口調は意志の強さを物語っていて、ミヤギは腑抜けという言葉を取り消さざるを得なかった。
「・・・悪かったべ。オラも応援するかんな」
「ミヤギくん」
「何たってオラたち、ベストフレンドだべ!」
「ありがとう、ミヤギくん!」
がっちり固い握手を交わすベストフレンズを、陰からじ〜っと見ているのは、言う間でもなく、友達いない暦イコール年齢、のおたべ野郎だった。
「僕、ちゃんのところに行ってくるっちゃ」
「ああ、頑張れ」
手を振って見送るミヤギの背後から、そーっと出てくる。
「ミ、ミヤギはん」
「うわっ何だべアラシヤマ、いつからそこにいた!?」
ミヤギはものすごいリアクションで驚いた。
「いやっそのー、もしも一人残されて寂しいなら、わてと・・・」
もじもじしている間に、もうミヤギは遠くに去っていた。
「ああっまたわてロンリー」
相変わらずである。
も友達と別れて一人になったところに、トットリがやってきた。手にしているのは例のスカーフとゲタで、トットリはそれをに差し出したのだった。
「トットリくん?」
「ちゃん、これがイヤなら、ちゃんにあげるっちゃ。僕ぁ、もう身につけんから・・・だから」
お師匠さんからもらったものだと言っていたのに。大切な武器のはずなのに。
手放そうとしている、まるでこともなげに。
は泣きそうな気分になる。そんなことを求めたつもりじゃなかった。同時に、一番大切なことに、気付いたのだった。
そっと手を出して、触れる。
「これを私にくれたら、一体誰が私を守ってくれるの?」
「ちゃん」
「ごめんねトットリくん・・・好きよ」
ぐっと服を引き、前かがみにさせて素早くキスをした。大胆だとは思ったけれど、今どうしてもそうしたかったから。
カラリン、カラン。ゲタが転がり落ちる。驚いたトットリが手放したのだ。
辛うじて手に残ったスカーフを握り締め、今度は自分からを抱き寄せる。
「夢みたいだっちゃ」
「キスを、して」
小さく求められて口づける。想いを込め、優しく長く。
「・・・なんか寒くない?」
幸福感にどっぷり浸っているのに関わらず、リアルな冷たさに触れぶるっと震えた。ふと顔を上げると、何と白い雪がきらきらと舞っているではないか。
「あ、ゲタが」
トットリの声に今度は下を見る。さっき落としてしまったゲタが「雪」をさしていた。
「初雪にもまだまだ早いのにね」
「ゴメン、今直すっちゃ」
慌てるトットリをゆるやかにとどめる。
「いいよ。もうちょっとだけ、このまま」
とっても、きれいだから。
「じゃあ僕が、あたためてあげるわいや」
自然な気持ちを口に出してから、別の意味に気がついて赤くなる。
「いっいやそういうつもりやなくて・・・その」
「構わないわ」
くすっと笑うと、色々深読みをしているのか、トットリは黙ってしまった。
さっきよりも密着している。本当に、暖かい。
清らな雪が、二人を包むように降り続けていた。
「素朴な疑問だけどさー、、彼のどこがいいの?」
「それはもちろん・・・」
ふふふっ、と怪しい笑いをこぼす。
「全部よ!」
友人たちは「聞くんじゃなかった」「ごちそうさま」と席を立ってしまう。そこに、大好きな彼氏がやってきた。
「ちゃん!」
赤のスカーフをヒラヒラなびかせ、ゲタをカラコロいわせて。
満面の笑顔に誘われ、も笑い返す。
今日も賑やかな街の中を、一緒に歩こう。
・あとがき・
ミヤギのドリームを書いたら、トットリドリームも浮かんだので早速書いてみました。
今回はすらすら書けた。今日、日曜日だったんだけど、娘たちが昼寝しているときなど合間を見て、書き上げてしまいました。ミヤギなら服装や言葉のことを言われても、絶対直したりしないだろうけど、トットリは出来るだけ相手の望みに合わせようとしてくれるような気がします。
可愛くて優しいですよね。
しかし彼は、忍者の意味があるんだろうか・・・。思わずアラシヤマも出してしまいましたが、お約束ですよね。
私も東北人なので、ミヤギの言葉は身近に感じるのですが、トットリの言葉は難しいです。まぁミヤギの言葉も東北弁としてはおかしいところもあるから、そんなに気にしなくてもいいやって思っています。別に忠実じゃなくてもね。このタイトルは星矢のクィーンで使おうと思っていたの。「男なの? 女なの?」という素朴な疑問(笑)。
でもなかなか書けそうにないので、トットリくんに譲ってしまいました。
H17.10.23
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