知らないよ。
イタリアのシチリア島で、は聖闘士になるべく訓練を積んでいた。
師は輝かしい黄金の聖衣の所有者、蟹座のデスマスク。兄弟子として、日本から来た盟がいる。
エトナ山のふもとで、日中は過酷ともいえる訓練メニューをこなした。
そして、夜は。
「先生・・・」
簡素なベッドが、二人分の体重にきしむ。
のまだ幼い身体は、聖闘士としても男としてもすでに完成された肉体の下に組み敷かれていた。
「もっと色気ある声出せよ、おまえは」
軽くからかって、デスマスクはすべらな肌に指をはわす。
は少しふくれてみせた。といっても、仮面の下では相手に見えるはずもない。
「先生がいつも夜遊びするときのお相手と、同じにはできません」
「違いねえ、こんな貧相なカラダじゃなあ」
ククッと笑って、発育途上の胸を弄ぶ。
「その貧相なカラダを抱いて楽しいですか?」
の口調に非難めいたものはない。純粋な疑問といった調子だ。
聖闘士の世界に身を置く女にとって、純潔など何の意味もない。むしろ邪魔だと思っていた。だからは、一年ほど前、初めてこのベッドに横たえられたとき、一切逆らわず身を任せた。
デスマスクのことを師として尊敬してはいるが、今もって恋愛感情のかけらもわいてはこない。師匠とてそれは同じことで、だからは仮面をつけたままベッドでの時間を過ごした。
「楽しいかって、まあそれなりだな。キスの味を教えてやれねえのが残念だ」
「別に、仮面取ってもいいですよ」
デスマスクは大げさに渋面を作ってみせる。
「おまえなんかに愛されても困ンだよ」
真面目なんだか、何なんだか。はつい笑ってしまい、抑えない声が仮面から漏れた。
「何だ、何笑ってやがんだコラ」
軽々脚を持ち上げて、体を進める。そこは甘く滴って、迎え入れる準備はとうに整っていた。
「・・・ぁ」
「声くらい出せって。顔見えねえんだから」
言ってはみるが、ピンクに染まる肌をあられもなくよじる姿は、それだけでデスマスクの情欲を煽り立てる。
知らず激しく、少女の狭い体の中に圧迫を与え続けていた。
「あ・・・あぁ」
ようやく嬌声らしきものを聞いたときには、デスマスクはもう行きつくばかり。
「出すぞ、」
小さくうめき、動きを止めると、昂ぶった精をそのまま放ち、同時に脱力した。
「よかったろ」
「気持ちよかったけど、それだけです」
服を身につけながら淡々と答える弟子に、可愛くないヤツだとつぶやきかけ、煙草に火をつける。
「明日も早いからな、さっさと寝ろよ」
「はい、おやすみなさい。明日もご指導お願いします」
礼儀正しく頭を下げ、さっと部屋を辞する。
まだ大して吸ってもいない煙草を灰皿に押し付けると、デスマスクはゴロリ横になった。
「やっぱり普通の女じゃねえよなあ」
聖闘士という特殊な宿命を受けているためか、単に子供なだけか、それとも生来の性質に過ぎないのか。
分からないから、興味をひかれる。
何度も床に誘うのは、そういう理由もあってのことだった。
ある日、師はシチリアを留守にした。聖域の召集に応じたもので、このところこうした呼び出しが多い。
「聖域で何かあったのかしらね」
「さあな。どっちにしろ、俺たちにゃ知らされることもねぇ」
兄弟子の盟がぞんざいに答える。いつもこんな感じだが、軽口や冗談もよく口に乗せる盟のことを、は嫌いではなかった。二人きりでの留守番も、ちっとも苦ではない。
だが今日は様子が違った。
二人で技の練習をするため、外に出ようとしたときのこと。
「」
突然、盟が後ろから抱きついてきた。
試合を開始したわけでも、ましてふざけているわけでもない。その場が凍りつくような緊張が一瞬走り、の心臓も跳ね上がる。
「何するの盟」
「先生と、夜何をしているか、俺が気付かないとでも思っていたか」
耳にじかに囁きかけてくる。背の高い盟は、少しかがんでいた。
「何よ、同じことしたいの?」
「別にいいだろ?」
は平静を取り戻したし、盟も悪びれない。
弟子たちは師の不在をいいことに、盟の部屋で行為にふけることにした。
「やだもっとやさしくしてよ」
「先生は優しいのか?」
「少なくとも、盟よりは体のこと分かってくれているわ」
まだ発育段階にある身体は、デリケートなのだ。
「そりゃそうだろうな。俺はこういうの、初めてだし」
との小さな乳房にむしゃぶりついて、また「痛い!」と声をあげさせた。
「・・・とか言いながら、こんななってる」
初めてさぐる場所に指を潜らせ、湿っていることに満足する。
「もうっ・・・」
自身信じたくはなかったが、いつもとは違う部屋で、今までそんな目で見たこともなかった兄弟子にぎこちなくも乱暴な扱いをされるということが、甘美な刺激となっていたのだった。
「仮面、取っていいか」
覗き込んで盟が言ってきたことには、特に驚きもしなかった。
「好きにすれば。あたし、盟より強くなって、盟を殺すかもよ」
「そりゃ楽しみだ」
躊躇なく手を伸ばし、今までずっと素顔を覆っていた冷たい仮面を取り外す。
気の強そうな、それでいて許してくれている視線を見すえて、相好を崩した。
「可愛いよ。俺の嫁さんになるか?」
殺されるより、断然愛される方がいい。なんて、女子の掟を軽視するかのような不遜な考えを浮かべてしまう。
「バッカじゃないの」
女聖闘士が、お嫁さんだなんて。
「ねぇ、それより、キスしてよ」
意識したしなを作って、盟の首に腕を回す。長くしている後ろ髪に触れ、はそれを指にからめた。
盟は黙って身を低くし、唇を触れる。
互いにとってのファーストキスは、心を震わせとろかした。
「もっと」
求められるままにキスを重ねる。夢中になって、何度も何度も。
「な、俺と結婚しよう」
「知らないよ」
冗談と本気が混じってくる。
「来て、盟」
自分から体を開き、導いて、ゆっくりひとつになった。荒くなる息をからめて、いつもとは別の体を味わってゆく。
「ああんっ」
遮る仮面も何もない。知らず声は大きくなる。
「盟・・・っ、いい・・・」
盟も本能のまま体を動かし続ける。
「・・・俺、もう・・・」
「やだぁまだダメ」
そう言われても、若すぎる勢いは止められない。
「あー・・・っ」
すぐに注ぎ入れられ、それでもは満足を覚えて、ベッドにくったりした。
「もう一回、いいだろ」
解放された男の欲は、とどまることなく求め続ける。
しばし目を閉じていたに早くもまたがって、盟はキスを浴びせ始めた。
口づけには免疫がなく、それだけに弱い。また、とろかされてしまう。
「ん・・・して・・・」
思うままに、何度でも。
と盟は、文字通り一日中、交わり続けた。
「おまえ、盟とヤッただろ」
夜に戻ってきた師匠は、を呼びつけると、開口一番こう言った。
仮面の下の動揺を見透かしたように、鷹揚に笑う。
「責めやしねーよ、俺の知ったこっちゃねえ。ただ、訓練サボったのはいただけないな。明日は二倍シゴいてやるから、覚悟しとけ」
「・・・先生」
自分から近寄り、ベッドに腰掛けているデスマスクの膝に、ちょこんと座る。
「何だよ。今日は俺疲れてるから、寝てえんだ。おまえも明日に備えてさっさと休め」
は師の言葉など聞こえていないかのように、両手で抱きつき身体を密着させた。
「うざってえ。ガキかおまえは」
乱暴な口調とはうらはらに、拒みもせず、デスマスクはの背に大きな手を添えてやる。
その温かさに、ほっと息をついた。
「女を捨てるために仮面をつけなきゃいけないって・・・素顔を見られたら、殺すか愛するかしかないなんて。そんな掟、形だけのものだって思ってたのに」
だから、盟にも抵抗しなかった。
だけれど実際は、仮面を取られて顔を晒したことで、何かが変わったような気がしてならない。
いや、それともそれは気のせいだろうか。体で触れ合った盟を、特別な存在だと勘違いしているだけ・・・?
「・・・分からなくなった」
混乱している。
「俺も知らねーよ」
全く突き放しているわけではない。いくぶん困惑している。デスマスクは弟子のぱさついた髪に片頬をうずめた。太陽と安シャンプーの素朴な匂いがする。
「顔を見られたヤツを殺すとか愛するとかじゃなくて、本当に好きな相手ができたら、そのとき顔を見せりゃいいだろが」
師匠としてあるまじきことをしていながら、と我ながら白々しくて、鼻の辺りをかく。
「・・・はい」
一番、大切なのは、気持ち。
はこっくり頷いた。すっきりしたわけではないけれど、なぜだかとても嬉しかった。
「私、先生の弟子で良かった」
「そう思うようじゃおしまいだ」
その夜、はそのまま師の隣で眠りについた。デスマスクは、の体に触れることもなく、それを許したのだった。
この部屋で朝を迎えるのも、初めてのことだった。
「おはよう」
「おはよ」
朝、盟と顔を合わせても、いつも通り。今日課せられるであろう普段以上の特訓に、共通の思いで身を震わせるくらいのものだ。
「よーしてめえら、始めるぞ。まずは準備運動がわりに、山ン中走ってこい!」
「は、はい・・・」
「返事やり直ーし!」
「はいっ!」
盟とは、せっせと走り始める。
デスマスクは、その様を見送ると、岩に腰掛け煙草に火をつけた。
「あー弟子育てるのも疲れるな。早くいっちょ前になって俺の手を離れてくれ」
こうして、シチリア島での日常が再開される。
・あとがき・
遅まきながら、「ギガントマキア」を読みまして。といっても、まだ前半の「盟の章」だけですが。
そうかー、彼がデスマスクの弟子という盟かー。ということで、読み終わった直後にすぐネタが浮かびました。
前々から、星矢ドリーム書くからにはやはり師弟ドリーム外せないよね! と思っていました。投票所でアンケートまで取っていて、今のところ1位サガ・2位ミロ・3位シュラ。デスマスクは6位なんですけどね。
盟という兄弟子がいる、という設定を加えたらなんだか楽しくなっちゃってばーっと書きました。
どうしてデスマスクがちゃんに手を出したのか、その理由は明らかにされていないけれど、やっぱり悪人で通っている男なので、悪い心でやっちゃったのかも。「知らないよ。」というお題では、最初はカノンとシュラ、その次の考えではデスマスクとシュラのダブルキャラドリームを書こうと思っていました。実際、冒頭を書きかけたんだけど、うまくいかなくて。
もういいやって、新しくスラスラ浮かんだ話に譲ってしまいました。
H16.4.3
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||